はたして医者は…

By: Kazusei Akiyama, M.D.

Alcatrazes Archipelago. São Sebastião. Caju©2022


2022年3月

はたして医者は…

まだまだコロナ禍が続く世の中です。このコラムの24人の読者様は皆お元気でいらっしゃいますか。オミクロン株の感染力から考えると、このうち何人かは罹患されているのではないかと思いますので、お見舞い申し上げます。去る1月は当地サンパウロではコロナ感染とインフルエンザ感染が爆発的に増え、PCR検査すらするのが困難でしたが、この原稿を書いている2月ではコロナ感染の後遺症を沢山診るようになってきました。ブラジルではワクチン接種の追加3回目も一通り終わり、子供の接種も随分進んでいる状態です。しかし日本をみていると、緊急事態宣言が延長されるわ、発熱患者は増えるわ、国から個別接種しろと言われるわ、でコロナ禍の医療従事者が大変忙しいようです。まあこれは一種の人災だと思います。

『こういったコロナ禍をブラジルでは「puta pandemia」と言うのだ。』

このputaという言葉(ポル語の発音では「プッタ」)は当地に住んでいるとよく聞く言葉だと思います。直訳すると「売春婦」という意味なので、一応お下品な言葉遣いをしてはダメなテレビなどでは使われませんが、日常的に使用されているスラングとしての意味は「凄い」になります。この「スゴい」は必ずしも悪い状況をいってる訳ではなく、良い驚愕を示す事もありますので(例:puta carrão、スゴい高級車)、発言の前後から判断するしかないですね。しかし良いも悪いもどちらの方向にもいけますので、なかなか判断に苦しむ場合もあります。この「プッタ・パンデミア」は「スゴい流行性感染症」という事なので、良いという事ではなく、「ああ、酷い流行と言ってるんだ」とくみ取る訳です。女性を示してプッタと呼ぶ場合は、売春的職業の従事者ではなく、どちらかというと「尻の軽い女」と言った意味合いになりますので、使用する際、注意が必要ですね。

このような混同があるので、最近は職業を示す場合、garota de programa(ガロッタ・デ・プログラマ)を使う事が多いです。売春婦のポルトガル語の正式名称はprostitutaなのですが、最近では公式文章などにしかみられなくなってます。公文書と言えば、ブラジルは日本と比べて人権的な権利が発達していますが(註1)、その一つが、売春婦を労働者と認める法律があることです。当地では2002年より売春行為を労働と認めており、連邦政府労働省の職業分類(CBO, Classificação Brasileira de Ocupaçãoブラジル職業分類)にも「trabalhador do sexo 性に関する労働者、分類番号5198」と記載されてます。

  • 註1:これはブラジルの社会のほうが新しく、昔からのしがらみや利権が少ないからできるのであると思います。

Putaはポルトガル語の女性名詞ですが、男性名詞のputoも存在します。ブラジルではほとんど使用されませんが、ポルトガルでは日常的に使用され、「男子、男の子、子供」と言う意味です。売春的な意味合いはまったくなく、「os putos lá de casa 家の子供達」といったような活用です。じゃあ、子供達が女の子なので、as putasと女性名詞に変化できるかというと、そうすると、前出の売春婦になりますので、ややこしいと言えばややこしいですね。

いずれにせよ、女性名詞としてのputaは蔑む言葉であるのは間違いないでしょう。職業として認定されているブラジルでも売春婦は卑しい人種であるといった社会的位置づけだと思います。しかし、ブラジルの20世紀の大作家の一人、Érico Veríssimoが1938年に出版した小説「Olhai os lírios do campo」(註2)では反対にブラジルでも社会的地位が高いとされる医者が結局はプッタと同じである(註3)という内容でもあるのが面白いので今回紹介させていただきます。

  • 註2:現在も販売されてます:ISBN-10=8535906096。邦訳は「野の百合を見よ(地湧社)」
  • 註3:小説は苦学して医者になった主人公が逆玉の輿にのり、社会階層を登り詰めていく過程で、自身の信念や情愛、医師としての倫理を失っていくという話。

Érico Veríssimoの作品と関連する、医者とプッタの比較。ポルトガル語の本文(一部加筆部分は作家不明)

  • Você trabalha em horários estranhos.
  • Que nem as putas!
  • Pagam pra você fazer o cliente feliz.
  • Que nem as putas!
  • Seu trabalho sempre vai além do expediente.
  • Que nem as putas!
  • Seus amigos se distanciam de você, e você só anda com outros iguais a você.
  • Que nem as putas!
  • Quando vai ao encontro do cliente, você tem de estar sempre apresentável.
  • Que nem as putas!
  • Mas quando você volta, parece saído do inferno.
  • Que nem as putas!
  • O cliente quer sempre pagar menos e que você faça maravilhas.
  • Que nem as putas!
  • Todo dia, ao acordar, você diz: “Não vou passar o resto da vida fazendo isso!”
  • Que nem as putas!
  • Se as coisas dão errado, é sempre culpa sua.
  • Que nem as putas!
  • Você sempre acaba fazendo serviços de graça para o chefe, os amigos etc.
  • Que nem as putas!
  • Apesar de tudo isso, você trabalha com prazer.
  • Que nem as putas!
これより加筆部分
  • Porém, na verdade, médico tem uma vida pior do que puta!
  • Puta não atende convênio.
  • Puta recebe na hora.
  • Puta não dá recibo nem nota fiscal.
  • Puta não declara seus clientes para o Imposto de Renda.
  • Puta não preenche guias e papeladas.
  • Puta não precisa ter contador.
  • Puta não paga sindicato, associações nem Conselho Regional.
  • Puta não segue código de ética.
  • Puta não precisa ir a congressos e cursos.
  • Puta não precisa revalidar título de especialista.
  • E tem muita puta por aí ganhando mais do que médico!

 

開業医の和訳

  • 医者は
  • いつも変な時間帯で仕事してるね。
  • プッタと同じだ。
  • 顧客を満足させるために報酬もらうね。
  • プッタと同じだ。
  • 仕事は定時で終わる事などないね。
  • プッタと同じだ。
  • 昔の友人はみんな離れて行き、今は同業者の付き合いしかないね。
  • プッタと同じだ。
  • ボスは素敵な車を所有してるね。
  • プッタと同じだ。
  • 顧客に会うときは、チャンとした服装が要求されるね。
  • プッタと同じだ。
  • でも、帰って来た時は、地獄から生還したようになってるね。
  • プッタと同じだ。
  • 顧客はいつも報酬が高すぎると文句を言い、けど仕事はしっかり要求されるね。
  • プッタと同じだ。
  • 毎日起きた時、「こんな仕事を一生続けないぞ」と言うね。
  • プッタと同じだ。
  • 何かヘマがあったら、いつもあんたのせいにされるね。
  • プッタと同じだ。
  • なんだかんだでボスや家族や友達にタダで仕事することになるね。
  • プッタと同じだ。
  • それでも、喜んで仕事してるね。
  • プッタと同じだ。
  • でもね、本当は医者はプッタより酷い生活してるんだ。
  • プッタは安モンの健康保険を扱わない。
  • プッタの仕事は現金決済。
  • プッタは領収書を発行しなくてもよい。
  • プッタは確定申告に顧客申請しなくてもよい(註4)。
  • プッタは用紙の記入など書類仕事する必要がない。
  • プッタには税理士の出費がない。
  • プッタには組合費や会費などの出費がない。
  • プッタには電子署名の維持費が必要ない(註5)。
  • プッタの仕事は倫理憲章や法律に縛られない。
  • プッタは学会や研修会に出なくてよい。
  • プッタは認定医制度の更新を気にしなくてもよい。
  • しかも、医者より収入の多いプッタも結構いるぞ!
  • 註4:ブラジルでは確定申告の医療費控除があるため、医師側は顧客申請する義務がある、つまり脱税できない。
  • 註5:電子署名はオンライン診察やオンライン処方箋を発行する際必要。

 

キツネの噺ですよ、キツネ。

By: Kazusei Akiyama, M.D.

Sake. Osaka. Caju©2019


2022年1月

キツネの噺ですよ、キツネ。

謹賀新年。オミクロン株の騒ぎで始まった2022年、ウィズコロナの今年もどうかよろしくお願いいたします。早いもので、新型コロナウイルス感染症で振り回される我々の生活も2年になりました。このコラムの24人の読者様にとってはどのような2年だったでしょうか?年末年始になると、今年の総括や今年の抱負などが例年の行事になりますね。ここでも年末の新語大賞のひとりごとを以前にしてますが(2019年1月号2021年1月号)、今年は日本の某外食系サイトの「今年の一皿」なるものに焦点を当ててみます。「今年の一皿とはその年の日本の世相を反映した食を指します」そうです。それで、今年の”大賞”として「アルコールテイスト飲料」が選ばれました。この賞が発表されているサイトによると、「アルコール度数が1%未満で、味わいが酒類に類似している飲料を指す」、選定理由を引用(註1)すると次のようになるとの事です:
・酒類提供制限の要請を受け多くの飲食店でアルコール代わりとして提供され経営の救世主となった
・製造方法が進化し一段とアルコールに近い味わいになり、料理を引き立たせる飲料として飲食店や消費者から支持された
・アルコールを好む人、好まない人どちらにとっても新たな選択肢として加わり、今後の日本の食文化として定着する可能性がある
この第一の理由に出ているように、もちろんコロナ禍と密接に関連している現象であるのがわかります(註2)。ここでも何回も取り上げましたが、コロナ感染の対策のなかでも「飲酒を伴う複数人の会食」が一番重要です。少しおさらいすると、コロナウィルスは接触感染以外は飛沫感染しますので、飛沫を飛ばす、飛沫を吸い込む、といった行為は「マスクを外し、しゃべりまくる、飲食する」と起こりますので「飲酒を伴う飲食店」が目の敵にされた訳でしたね(註3、註4)。ということで、酒を出してはいけないのであれば、酒のようだけど酒でないものであれば良いのだ!が今年の注目になったのですね。

  • 註1:https://gri.gnavi.co.jp/dishoftheyear/2021/
  • 註2:因みに、去年の一皿もコロナ禍関連で「デリバリーグルメ」であった。
  • 註3:飲酒すると、エタノールの作用で抑制が効かなくなり、大抵大騒ぎになるのは東西昨今、日本でもブラジルでも同じ。居酒屋やバールに行ったらすぐにわかります。
  • 註4:当初、人が密集するのが一番危ないとされていたが、みんながマスクをし、喋らないで密集している通勤電車内などは結果としてあまり感染機会が無いことが判明している。

『アルコールテイスト飲料はコロナ禍以前から流通していて、酒を飲みたいけど、体質的に弱かったり、時間的にダメであったり、する方やための消費や、健康的であるからといったウリの商品であったな。酒に弱い人が酒を飲まないといけない場面は日本の乾杯文化のせいだな。みんな酒で乾杯しているのにジュースでは盛り下がると。仕事中に飲酒したい人はもう完璧アル中としか言いようがないのでは?筆者にはメーカーが言う「健康的」な所が理解できない。休肝日に利用したり、カロリーを気にする方むけ(註5)なんだそうだが、前者はアル中だし(註6)、後者はそもそも量の問題であったりしませんか?ここまでして「酒」を飲まんといけないのか?東洋医学では「酒は百薬の長」と言って、使い方では薬になるけど、「薬にも毒にもなる」モノですな。』

  • 註5:アルコールテイストでかつゼロカロリーのタイプもあるぞ。
  • 註6:アルコール中毒の医学的な定義は「アルコール依存症=エタノールによって得られる精神的、肉体的な薬理作用に強く囚われ、自らの意思で飲酒行動をコントロールできなくなり、強迫的に飲酒行為を繰り返す精神障害」であり、社会に忖度してあまり言われないのだが、「反復的そして定期的にエタノールを6ヶ月以上接種する状態」でもある。アル中は問題を起こすと問題であると思われがちであるが、そうではない。2015年8月号2015年10月号にアルコール依存症のひとりごとに詳しく書いてます。

ここで注目したいのは、選定理由に書いてある「類似する」です。今の世の中、類似するモノだらけですよね。甘いけど、砂糖でないとか、肉みたいけど、肉ではないとか、女(男)みたいけど女(男)ではないとか。口から入るモノは大概「健康的である」というのがその存在価値ですが、どうでしょう?人工甘味料は砂糖よりカロリーは少ないけど、健康的なんですかね?人工肉は動物性蛋白が入ってないけど、製造過程や構成物質をみると健康的なんですかね?良いも悪いもお酒の一番の特徴はエタノールの薬理作用であり、それが人類文明の発展や衰退、社会の潤滑に役立ってきたと思います。そこからエタノールを抜くと同じ効果を発揮できるのでしょうか?人間、その気になれば、その気になって、問題なし!なんですかね?酒を飲んだ気分になる…まあ、プラシーボ効果(註7)というのもあるし。自分を化かすというのですか?「化かす」のは昔から日本の文化では人間がキツネに化かされたのだったけど、この類似品を喜んでいる人達は近しいキツネが不要なのでは。大きなキツネの仕業ですかね。

  • 註7:プラシーボ効果とは「薬理学的にまったく不活性な薬物(プラシーボ=偽薬)を薬と思わせて被験者に与え、有効な作用が現れる現象」つまり、偽薬を飲んで効果がある。

『「キツネの化かし」や「酒」は落語の定番ですな。今回ひとりごとしているアルコールテイスト飲料の話を見たとき、一番始めに思ったのが、ああとうとう酒もここまできたか、と、二番目が落語の「煮売屋の場面」が改定できるなだった。曰く、次のようになります:

喜六と清八のコンビが、伊勢参りの途中でとある煮売屋に立ち寄った。
「おいおやじ、酒はあるか? 何々、地酒で良いのがあるって?『村さめ』と『庭さめ』と『じきさめ』?」
「へえ、『村さめ』は村を出た辺りですぐ醒めますねん、『庭さめ』は店を出た途端にすぐ醒めますねん、ほいで、『じきさめ』は飲んだ傍からすぐ醒めますんや。」
「呑まん方がましや、そんな酒。ぎょ~さん酒ん中へ水回すんやろ?(註8)」
「そんなことはしまへんで、水ん中へ酒回します。そやけど最近はもっと良い酒が出てますんや。」
「なんちゅう酒や?」
「へえ、『さめない』ですねん。」
「お、そらええな。呑んでもさめへんのか?」
「へえ、化かされて、元から酔わへんし、醒めへんのですわ。」』

今年もどうかよろしくご購読をお願いいたします。

  • 註8:江戸時代は酒造に関する税金は量に課せられ、エタノール含有量とは関係なかったので、製造元はできるだけ濃度の高い酒を出荷し、卸や酒屋で水で希釈した小売りしていた。

 

文化の移植でしょ?残念な。

By: Kazusei Akiyama, M.D.

New houses are black. Izumi. Caju©2021


2021年12月

文化の移植でしょ?残念な。

さてまた今年もやって来ました、年末です。当地ブラジルで年末と言えば、クリスマス一色になり、カトリックが主流の国なので当たり前といえば当たり前なのです。クリスマスはキリスト教の中心人物、イエスキリストの誕生を祝う祭典です。いうまでも無く、元々キリスト教徒が行っていたモノですが、近年ではまったく関係のない日本などでもクリスマスを有り難がってお祝い事と考えている人が増えているのではないかと思います。まあこれは宗教的内容はともあれ、親しい人達が集まって、普段からかけ離れたご馳走を食べ、懇親するのが主な目的だと思われますので、それはそれで良い事だと言えますね。

『元々この12月25日前後は欧州の古代文化では冬至を祝う時期であったのが、キリスト教が普及するにつれ、そのお祝い事をイエスキリストの誕生祝いに置き換えたとされている。なので、ある意味原点に還っていると言えるのかもしれない。』

そこで、クリスマスの食事を日伯の違いでみてみると面白いです。元からキリスト教と関係のない日本(註1)のクリスマスメニューをみてると、なんか訳のわからない折衷メニューや「子どもが喜ぶメニュー」など、元の文化となんら関連性がない事がわかります。ネットで調べると、クリスマスの食事のメニューランキングがあり、次の内容がよく登場するそうです:

日本のクリスマスディナーのメニュー

メニュー

開業医のコメント

生ケーキ

例のショートケーキタイプのクリスマスケーキだな。これはケーキ店を展開している不二家の販促の賜物であると言うのが通説。今ではクリスマス前に何処にでも山積みにして売ってるから、入手しやすいし、なんとなく購入しないといけない気になる?

ローストチキン

米国でクリスマスに七面鳥を食べた流れ。日本では七面鳥いないし、あっても一般家庭ではあんなでかいモノが焼けるオーブンもないし…チキンで代用ね。

フライドチキン

これはローストチキンの派生だな。

ピザ

欧米からみたら、なんで?だな。子どものメニューか?

スパークリングワイン・シャンパン

お祝い事だからだな。

炭酸飲料

子ども用ね。

ワイン

こちらもお祝い事ね。

ポテトサラダ

チキンに併せるのに最適だから?

フライドポテト

ポテト料理の派生?子ども用?

コーンスープ

どうしてかわかる人は教えてください。

これら以外に寿司(にぎりや手巻き)、パエリアなども人気があるみたいです。ピザやフライドチキンなど、ご馳走であるとは言えないですが、多人数で集まって食事するのが目的なのでしょう。寿司もその延長ですね。

反面、ブラジルのクリスマスメニューは伝統的で一貫性があります。

ブラジルの典型的なクリスマスディナーのメニュー

メニュー

開業医のコメント

leitão 豚肉ロースやポークシャンクの焼いた物

欧州風メインディッシュだな。大きな塊の焼き物料理、食べる時に切り分ける。

peru 七面鳥、丸焼き

米国で広まり、ブラジルにもその影響が。元々豚肉料理の代わりとして始まったとされる。でも高価なので、代用として、胸肉が異常発達したchesterと呼ばれるチキンがこの時期流通する。ここでもチキンで代用ね。

bacalhau ポルトガル風塩鱈料理

何故かクリスマスメニューに現れる。肉を食べない人のため。

arroz natalino クリスマス風ライス

色んなパターンがあるが、いわゆるピラフ、一般的なのがレーズンピラフ。

farofa カッサバ粉の料理

これも色んなパターンがあり、各家庭や料理人のレシピあり。七面鳥の詰め物として出てくる事が多い。

nozes e castanhas クルミと栗

ブラジルにはないので、輸入品。

salpicão ブラジル風セロリサラダ

これは当地発祥のもの。色んなパターンがあるが、基本はセロリとチキンのマヨネーズサラダ。

panetone イタリア原産のパン

ドライフルーツ入りの甘いパン。ブラジル版は欧州で流通するのより生地がしっとりしている。

rabanada フレンチトースト

クリスマスにワインと併せて食べるのはスペインの伝統と言われる。

frutas 果物

トロピカルな国にいるのに、クリスマスに限っては温帯系の果物が出される。桃、苺、イチジク、プルーン、サクランボなど。

vinho ワイン

食事の内容からは赤ワインだな。シャンパンやウイスキーなどもじゃんじゃん出ます。

bolo natalino クリスマスケーキ

ドイツのショートレンやフランスのブッシュ・ド・ノエルが伝統的なケーキ。最近は作れる人が少なくなってきた感じがする。

このメニューの伝統性・一貫性は、すべて「ヨーロッパの冬のご馳走」である事だと言えます。それもそのはず、正に冬至の食事なのです。日本にいると、その時期雪が降ったりもするのでそんなに違和感がないと思いますが、ブラジルでは反対の夏至なので雪景色のクリスマスデコレーションや防寒服着たサンタさんはいかがなものでしょうか?これらを見てると、明らかに植民地に輸入された文化であり、当地の事情・気候・旬とはまったく関係のない祭典である事がわかります。

『食事の内容は、カロリーの高い、寒さが厳しい冬の食べ物だな。当地では夏の始まりで、暑くって、海にでも行こうといった時期にどうしてこんな暑苦しい食事をしないといけないのだ?宗教がらみなの縁起物なので、そんなものだと言ってしまえば終わりだけど…』

日本でも「土用のうなぎ」といって、極暑にスタミナがつくものを食べるといった習慣もありますが、それにしてもこのメニューではカロリーオーバーでしょ。若干ブラジルで発展した内容もありますが、それもヘビーなサラダですね。このコラムの24人の読者様もブラジルのクリスマスの食事の経験がある方も多いと思いますが、翌日胸焼けしませんか?東洋医学の考え方で、食事で最も重要なのは「旬の物を楽しむ事」ですが、このメニューはそれを完璧に無視した「とんでも料理」だとこの筆者は思います。

『当地でも日本でも、クリスマスの輸入文化だけでは事足らず、最近は「ハロウィーン」が輸入されている。人が集まって楽しんだり、食事で懇談するのは良いことだと思うけど、特定の民族・宗教団体・文化などのイベントを単なる商業的目的で普及させるのはどうか。それにのせられているのはもっと残念で悲しいぞ。』

今年の年末はコロナ禍も落ち着いているので、例年の様にみんな沢山集まるのでしょうね。25日の朝にはあちこちで大破した車を見かけます。大量に飲酒するので、24日の深夜の運転は飲酒運転ばっかりで非常に危険です。ご注意ください。


註1:日本には昔は切支丹、現在はキリスト教徒がおられますが、日本人の主流ではないのでこの様な表現とします。


 

日本帰国に必要な検査証明書を発行してます。

CKA’s certificate for covid testing Japan model.

By: Helpdesk CKA

厚生労働省所定コロナ検査証明書の発行業務

現在、コロナ禍のための水際対策が政府により実施されおり、日本へ入国するためには上陸拒否や査証停止などいろんな制限があります。邦人は帰国できますが、水際対策の内の「検疫の強化」が適応されております。令和3年3月19日以降、全ての入国者(日本人を含む)は、出国前72時間以内の検査証明書を提出しなければなりません。外務省や厚生労働省は「入国時の検疫における出国前検査証明の確認を厳格化するにあたり、検査証明の有効性をめ ぐり様々なトラブルや混乱を避けるためにも、入国者には厚生労働省が指定するフォーマッ トを利用して検査証明を取得」するようにといった内容の注意喚起してます。

当地で行われる検査自体は日本国が有効と認める検体および検査方法であっても、証明書の文面が厚生労働省所定のフォーマットでなければ入国(帰国)が認められないおそれがあります。

秋山一誠診療所では当地で実施された検査結果を元に日本国所定の検査証明書を発行する業務を行ってます。ぜひご利用ください。なお、この書類の発行には出発前72時間以内に検体採取し、その後結果が出るといった時間的制限がありますので、ご利用の際は事前にご予約いただく事が必須です。


証明書のみならず、邦人が日本帰国時に対象となる水際対策に係る措置についての解説や当地での検査手段などの相談も受けております。こちらもぜひご利用ください。

その体調不良、悩んでないで相談しましょう。

By: Kazusei Akiyama, M.D.

Full of Colour. Japan Food. Caju©2021


2021年11月

その体調不良、悩んでないで相談しましょう。

またコロナの話です…ずっとコロナに関する話題をほとんど毎月提供してきました。今月は新型コロナウイルス感染症の後遺症や感染症に関連する疾病についてひとりごとさせていただきます。もうコロナ禍は飽き飽きですね。現時点でまだまだ世界的にワクチンが行き届いたとは言えませんが、我々の生活圏ではワクチン接種政策が功を奏してきてます。外出制限やマスク使用などが解除された国も多くあり、当地サンパウロや日本でもいろんな規制が緩和され、「さあ出かけるぞお、飲み屋行くぞお」状態になってます。

『この原稿を執筆している直前の土曜日の夜、サンパウロ市内を車で移動していたのだが、飲み屋、クラブなどが大繁盛していた。スゴイ人出!まあこの飲み屋行くぞおもコロナ関連の疾病とも言えるのでは?ワクチンの接種率が増えた、コロナ死者が減ったとは言え、サンパウロ市ではまだ自宅内以外ではマスク使用義務が適用されているし、飲み屋やイベント規制を解除した場所(国)では感染者が増えている事実があるのだが、「自分は大丈夫、もう大丈夫」と判断して出かけているのだな。これは「確証バイアス(註1)のコロナ拡大版」と言えるだろう。一種の精神疾患?』

  • 註1:確証バイアスとは自分が信じている事を裏付ける情報だけを探し、自分に不都合な情報を無視する傾向の事を表す心理学で使用される用語。

コロナ禍も間もなく2年になろうとしており、最近は各所で「新型コロナウイルス感染症後遺症外来」が設置されてます。この後遺症はまだ確定した定義が認知されていないのですが、概ねコロナ感染から4週間以上経過しても次のような症状が続く場合、後遺症と考えられます:

表1:新型コロナウイルス感染症の後遺症で現れる症状

倦怠感 味覚嗅覚異常 脱毛
睡眠障害 動悸 関節痛・筋肉痛 食欲不振
呼吸困難 思考力・集中力の低下 下痢 頭痛
発熱 立ちくらみ うつ・不安 胸焼け

これらは、コロナ関連の報道でもよく取り上げられているので、このコラムの24人の読者様も周知されていると思います。新型コロナウイルス感染症は基本的には「免疫系統かつ、循環器系統を侵す疾患」なので、全身のどこにでも症状が出てもおかしくない訳です。上の表をみてみると、器質的疾患(身体の不調、例:下痢、発熱)と心理的疾患(心の不調、例:思考力の低下、不安)に分類する事ができます。これらは実際感染症を発症して人の経過です。だから「後遺症」なのです。ブラジルだけで、COVID-19と認可された人口は現時点で2千2百万人弱、全人口の約一割です。つまり、後遺症そのものは当国の場合、この一割に起こりうる状況です。残り九割は感染が確認されていない訳です。しかし、発症した人と同じようにコロナ禍に曝されているので、いろんな体調不良が認知されるようになってます。ストレスのたまる外出規制、人との接触制限、慣れないリモートワーク、ステイホームに伴う家族のありかたやもめ事、不安が積もり続ける経済状態、見通しが不透明な仕事や学業などなど、健康を脅かす状況がてんこ盛りです。

さらに最近、「新現代病」と呼ばれる身体の不調もでてきてます。長引くコロナ禍によるもので、誰にでも現れてもおかしくない状況です。次の表に”病名”と”筆者のコメント”を表します。後遺症の他にもよく取り上げられるのがコロナ禍による「健康二次被害」です。これはステイホーム(外出控えや医療受診控え)や人との関わりが減ることで引き起こされます。この状況は免疫機能が低下させる事が判っており、免疫が関連する疾病の発症や悪化が考えられます。社会生活の減少の一番怖いのは特に高齢者の筋力低下や認知機能の低下です。さらに一番多いのは間違いなくストレスによるこころの不調でしょう(註2)。ステイホームでは飲酒の増加や運動不足のため肥満や生活習慣病の悪化が関係してます。ということで、「ステイホーム(家にいろ)」と共に、「ステイアクティブ(活動しろ)」と「ステイヘルシー(健康でいろ)」の二つのステイも提言されてます。

表2:新現代病の病名と秋山医師のコメント。

病名

秋山医師のコメント・ひとりごと

マスク皮膚炎

これは説明不要でしょ。マスク使用しなかったらおこらない。

マスク依存症

マスクが無いと落ち着かない、他人がマスクしてないと不安といった状態。

スマホ肘

肘をついてスマホを長時間使用してるからだな。

手洗い強迫性障害

手洗いに過度に過敏になり、元々強迫性障害の傾向があったら、強度に発症するのでは。

ふれあい拒否症候群

コロナの為、他人との接触恐怖だな。

デジタル時差ボケ

これもスマホなどデジタル環境と関連。深夜にスマホやパソコンをいじり、朝時差ボケする。

デジタル認知症

世の中デジタル化が進み、自身の思考力が低下するのだ。以前からあったが、コロナ禍で顕著に?

子ども腰痛

コロナ禍のための運動不足が主な原因。

ドケルバン病(註3)

スマホの使いすぎだな。註3:狭窄性腱鞘炎。手の親指を外側に動かす腱の腱鞘炎。

急性内斜視

これもスマホの使いすぎ、パソコンなどの画面を見る時間が長いなどが原因。

ドライアイ

急性内斜視と同じ原因。

近視

急性内斜視と同じ原因。

突発性難聴

ストレスで緊張し、歯ぎしりや食いしばりが原因となる事が多いようだな。

歯痛

歯ぎしりや食いしばりのため。

頭痛

マスクを使用する事で引き起こされるマスク頭痛と呼ばれるモノもある。一番危ないのはマスクのため酸素不足になる事態。よくあるのはマスクの紐がきついためおこるモノ。マスク頭痛以外では緊張で肩や側頭筋がこる事態がほとんど。

このような症状がコロナ禍と関係してる可能性があります。居酒屋に行けるまで社会活動が回復してきてますので、医療機関へも行けます。体調不良の方は悩んでいないで受診しましょう。

『ちなみに、秋山一誠診療所ではスタッフ全員(といっても3人だけですが)コロナワクチン2回接種済です。安心してご来院いただけます。』


若い人の順番がきました。

By: Kazusei Akiyama, M.D.

Watching A-Bomb Dome. Hiroshima. Caju©2020


2021年9月

若い人の順番がきました。

去年の8月に執筆したひとりごとには、「もう5ヶ月連続でコロナの話なのだが、またコロナの話である」事を謝ってました。で、それ以降止めたかというと、ずっとコロナに関する話題を毎月提供してきました(註1)。このコラムの24人の読者様も飽きてきたのではないかと心配してます。実際、この筆者は大分飽きてきます。診療所のホームページのコロナ現状のページも4月を最後に更新できてませんね。しかしコロナ禍は我々人生に多大な影響を起こし、実際の生活にも毎日何かおこり、ニュースが絶えません。この所、ワクチン接種が当地でも日本でも進み、現時点では18歳以下のワクチン接種が焦点になってます。この件で診療所でも問い合わせがあるので、若い世代のワクチン接種について今月は考えていきます。

  • 註1:今年の4月だけ例外、物事の選択の話でした。

サンパウロ州ではコロナワクチン接種事業が進んでおり、18歳以上人口の約98%、全人口の約75%が1回以上接種を済ませてます(2021/8/25現在)。8月中旬より18歳以下が接種対象(註2)となりました。日本と同様に、「子供には接種させない」といった発言は散見しますが、例外的と言えるほど少ないのではないかと思われます。成人以下のコロナワクチン接種はワクチン開発時期より課題に挙がっていました。今年に入りインドで初めて確認されたデルタ株が世界中で猛威を振るうようになりました。この変異株は去年出回っていたコロナウイルスとは違い、若齢層が感染・重症化しやすい。その為、できるだけ低年齢層にワクチン接種を広めるのが急務になっている訳です。

  • 註2:8月29日までは有既往歴および妊婦、30日より一般の18歳以下。

『コロナワクチン接種事業は各地で行われ、半年以上の実績が積み上げられてきた。ここまでで判明しているのは、色んな変異株がある中、各社より販売されているワクチンは感染や死亡を100%防ぐ事はできないが、明らかに重症化を防ぐ効果はあると言う事実だな。いわゆる防御率はワクチンの銘柄、人種、接種事業方法などの要因で変化があるので一律の成績ではないが、この事実は反論のしようがないでしょ。コロナ禍を終息するには大変有用な手立てである事を実証したと言える。』

ここでも以前ひとりごとしたとおり、コロナワクチンは市販までのプロセス、つまり開発や認可などは通常の方法ではおこなわれなかったため、スタート時点から疑問点が多い物でした。医学的に考察すると一番の問題点は長期的な安全性の検証が出来てない所です。それには時間がかかりますがその時間が無かったという非常に単純な理由からですね。今回初めて使用されているmRNAワクチン(ファイザー製とモデルナ製)を含め、理論的には問題無いであろうと考えられますが、理論と現実は異なる事があったりするわけです。既に一般的に流通し、有用性と安全性が検証されているワクチン(例:麻疹ワクチン)にでも疑問を唱えるワクチン反対派がいますが、それこそ検証が不十分なコロナワクチンの場合はデマやフェイクニュースの最適の標的になります。コロナ禍の場合、始まった当初より政治的、権力的、経済的、価値観的な抗争に利用されたというか、巻き込まれましたので、正しい情報を選択するのがとても難しいと思います。日本の若者の間で流通している反ワクチンの情報は次のような物があるようです(若者であるHYさんの調査です、ありがとう!):

  • 接種したら妊娠できなくなる、流産する、妊娠できにくくなる
  • 発熱が怖い、大きく腫れる、注射が痛い
  • 注射が嫌い
  • データが少なすぎる、いろいろ怪しすぎる、短時間でできたワクチンなんか信用できない
  • 遺伝子が組変わるらしい
  • 人体実験に使われている
  • 接種したら生命保険が無効になるらしい
  • アレルギーとかある人は大丈夫かわからない
  • 打っても感染したり、死亡したりする人もいる、ワクチンで死にたくない
  • 接種して死亡した人が100人以上いるらしい
  • コロナ感染してないのにワクチン打つ意味がわからない
  • 自己責任で接種を決めるのは無理

ブラジルでの反ワクチンの情報はこのような理由ではなく、どちらかと言うと、日本よりもう少し哲学的、価値観的であるように見受けられます:

  • 宗教的な理由でワクチンはなにであっても打たない
  • 人工的な物質は自分の体内には入れない
  • ワクチンは(どれでも)自閉症をおこす
  • 自己決定権があり、政府が言ってるとおりにはしない

『サンパウロ州の大人人口の殆どが(1回は)接種しているように、反対派は極少数だな。なんか日本とは対照的だなあ。ワクチン接種に対する市民の意識は社会学や公衆衛生学の研究対象になるほど、単純ではない。理由だけみると、ブラジルの方が意識高い目に見えるけど、数からいくとブラジルの場合はあまり考えないで打ってると言えるかも。ブラジル人がコロナワクチン接種する理由は冗談のような次の3っつがあるそうだ:

  1. ①ブラジル人はタダの物が好き;
  2. ②ブラジル人は他の人がやっている事が気になり、自分もしたがる;
  3. ③ブラジル人は(接種した)写真をSNSに投稿して”いいね”をもらう機会は逃さない。

これ結構本当だと思うぞ。日本人は不安ばかりが目立つなあ。』

宗教的や哲学的な理由でどうしても接種したくない方や、既往歴のため摂取できない方はともかく、ほとんどの反対理由は「説明不足」だと思います。なにが足りないかというと、

  1. ①コロナワクチンとはどういった物か、どのような工程で製造され、どのように認可されたのか
  2. ②ワクチンの利点と問題点の詳しい説明
  3. ③個人の判断で接種する場合と社会状態の判断で接種する場合の違い

ブラジルの方がこれらの説明が丁寧にされているようです。しかし、一般市民のリテラシーはあまり高くないので、これだけほとんどの人が接種しているのは、なんといってもコロナ死亡者が圧倒的に多く、必ず自分のまわりにコロナで死亡して人がいる為だと思ってます。反面、日本では副反応の怖さばかりを報道して不安をあおり、それを受けるかどうかは個人の判断であると政府は突き放すのが、これだけワクチンを受けたくないニュースが出る理由だと考えます。日本の場合は結局同調圧力で接種しているように見えます。

『「みんなが正常な生活に戻るために(ある程度リスクがあるにしても)各自ができる措置である」という説明が足りない。また、コロナ禍であるにもかかわらず、Gotoや五輪のようなイベントをして矛盾する情報を発信するからさらに判断が混乱する。医師として現時点でいえる事は、「人と接触しない」方法(密を避けるですな)が上手くいかなかった(唯一その方法が上手くいった(と言ってる)所は中国、ほんまかいな)ので、ワクチンでコロナ禍を終息するしか方法がないのでは?』

18歳以下の方の保護者は悩む所が多いと思います。確かに不安要素の多いワクチン接種かもしれませんが、一つ判明しているのは、「無症状感染でも後遺症がでる事が多い」事実です。痛いだの、熱がでるだの、といったような理由で接種しない方向の保護者はこの事実を是非考慮していただきたいです。あるいは既往歴などの考察もあると思いますので、疑問がある方はかかりつけ医に相談する事が大事です。

『人間はまだおこってない事(コロナ感染、後遺症)より、やっておこる事(痛い、発熱する)を重要視するものだ。コロナワクチンの晩期副反応のリスクがコロナ感染症のリスクより大きく見えるのだな…』


コロナ禍で頭の中がグチャグチャです。

By: Kazusei Akiyama, M.D.

New Corona Virus of 2019’s Pandemia. Guaeca. Caju©2021


2021年8月

コロナ禍で頭の中がグチャグチャです。

コロナ禍も1年半を過ぎ、ワクチン接種事業もすすんで来ましたが、まだまだ終息に向かう気配はありません。当地サンパウロ市では成人の8割方が予防接種を1回以上済ませた状況のため、1年以上前より続いていた規制がかなり緩和されましたが、依然新規感染者数が減りません(註1)。ワクチン接種が成功している国や地域をみると、新規感染者は減るどころか増加が認められるが、入院数や死者数が減ってはいるので、これがワクチン接種の効果と言えるでしょう。つまり、コロナワクチンは感染を防ぐのが主作用ではなく、重症化を防ぐ効果があると言えます。接種先進国の英国は6月下旬にコロナ禍の規制を全て解除しましたが、新規感染者数は爆発的とも言えるスピードで増加してます。これをみると、新型コロナウイルス感染症をワクチン接種によっていわゆる「普通の風邪」程度に変化させる政策である事がわかります。普通の風邪だと通常の医療サービスが扱えるで医療逼迫しないというわけですね。

  • 註1:サンパウロ市に限っては入院数は減少してます

ワクチン接種が進んでないのに、とんでもない事を実施している所はこのコラムの24人の読者様も良くご存じです。先月の23日より東京五輪を開催している日本です。はっきり言って、利権・商権・政治的操作の権化と化してしまった五輪には筆者は関心がないのですが(註2)、今回は流石にコロナの為延期されてから膨大なニュースになっているので嫌でも耳に入ります。現時点での関心は緊急事態宣言下で行われているこの「ゴリ(ん)押し東京大会」がどの様に感染を拡大させるかといった疫学的・医学的なところですが、今までの経緯を見ていて連想するのが、精神科領域の「統合失調症(2002年まで精神分裂病と呼ばれていた)」です。統合失調症は深刻な精神病の一つであり、幻覚や妄想、まとまりのない思考や行動、意欲の欠如などの症状を示す精神疾患と定義されてます。政府や組織委員会の行いは正にこの定義に当てはまるのではないでしょうか?外出規制や飲食の規制などを呼びかける反面、五輪は全て例外で大量の人流を起こす。出来るわけのない五輪関係者に対する規制(プレーブックとかいうやつです)を発行して「安心安全」と言っている辺りは医者からみると幻覚や妄想でないの?と言わざるをえませんねえ(註3)。

  • 註2:北京大会から観てません。都合良く利用されている選手やボランティア、子供達がかわいそうです。
  • 註3:ゴリ押したIOCは反面、ブレないですね。最後まで利権を守った。分裂症状はないです。

『開催前は批判的だったマスコミもいざ始まるとなるとコロッと論調を変える辺りや「ここまで来たので応援する」と言ってる人なども分裂症状でしょ。』

もちろん組織や官公庁、マスコミなど法人の統合失調症は存在しません。しかし相反する行動をみたり要求されたり、そのような情報に曝される側にとってはストレスになります。一般的な日本人は五輪を楽しみたい反面、五輪のため感染者が増えるのが怖いといった精神状況であると思います。コロナ禍でみんな大変な思いをしているところにこのストレスの負荷です。医学的には決してよろしくないとしか言えないです。コロナ禍は人類が経験した事のない抑制的な生活、将来の不安、死への恐怖など、巨大な心理的圧力をかけてきました。そのため、次の二つの精神的障害が去年より多々診られるようになってます:①不安障害と②プロカスティネイション(procastination、和名なし)。前者は不安神経症とも呼ばれ名称のとおり、心配や恐怖を普段以上に抱いてしまい、生活に支障を起こす状態です。後者は日本語では「延期、引き延ばし、ぐずぐずする事」などと呼ばれ、「しなければならない事を翌日に延ばす(それで翌日にはまたその翌日に延ばす)」状態です。

プロカスティネイションの例をあげると、「試験勉強をしないといけないのに先延ばしにして、勉強しない」があります。「やらないといけない事」がストレスになり、ストレスを避けるためにしないのがその場では精神的防御になりますが、結局やらない事によって結果が宜しくないので、さらにストレスが増えるといった心理的な罠であると説明されます。コロナ禍の場合、自宅待機になったり、テレワークになったり、失業したりなど、思ってもいない時間ができたので、「その時間を有効利用してさらにレベルアップや今まで時間がなくて出来なかった事をする」などがコロナ禍を上手に過ごす方法だと言われました。でも、結果としては「やらないといけない事」が増えてさらにストレスが増大した訳です。それで、これらのストレスがさらに不安障害の糧となり、今度はうつ状態になったりするのです。コロナ禍では「できない」のは単に怠けているのではなく、「引き延ばし」が起こっているかもしれないし、さらに状況が悪化して「うつ状態」になっている可能性が大です。2012年4月にひとりごとしたようにうつ状態の原因は器質的疾患もありうるので、それらを判別する必要がありますが、コロナ禍で受診控えがおこり診断がついていない事も考えないといけません。

『日本では「安心安全」と言われば言われるほど、ストレスが増える。現状がそうではない事を示しているから。ブラジルでは「もう大丈夫だから規制緩和!」と言われてもまだ毎日1000人以上コロナ死亡している現状ではストレスにしかならん。』

不安障害は精神科領域ではminor disorder(軽度な障害)に分類されますが(註4)普段の生活に支障をきたします。次の表ような状況や症状がある場合は受診控えしないで医師の診断を受ける事をお薦めします。

  • 註4:因みにmajor disorder(重度な障害)は大うつ性障害、双極性感情障害、統合失調症、薬物依存症、認知症、人格障害、発達障害、等。
表:不安障害と関連や可能性がある状況や症状、受診が必要。

状況

  • 人間関係や場所や状況を避ける、注目を浴びないようにする
  • 電話に出たり、人前にでたり、他人と話しや食事したりする事ができない
  • 毎日のように不安、緊張、心配、恐怖を感じる

症状

  • 漠然とした不安や恐怖
  • イライラしたり、ちょっとした事に敏感になっている
  • 集中できない、落ち着きがない
  • 同じ事を何度も考えてしまう、同じ行為を繰り返す
  • 動悸がしたり、胸に違和感や不快感がある
  • 肩こりや頭痛がある
  • 腹部に違和感や不快感がある
  • 吐き気があったり、喉が詰まったような感じがする
  • 息切れや息苦しさがある
  • 眩暈やふらつきがある
  • 突然汗がでたり、身体の震えがでる
秋山一誠診療所©2021

 


実録会話:コロナ禍なにわ親娘

By: Kazusei Akiyama, M.D.

Shouyu desu. São Paulo. Caju©2021


2021年7月

実録会話:コロナ禍なにわ親娘

 

その一 出かける

母:

コロナと言うようになっても娘は学校やお友達とのお出かけになり、毎日、毎日

マスクしてる?予備の持ってるのん?

手にはバイキンマンがいるからアルコールで消毒してから口鼻目をさわらないようにするようにしいや、

密をさけてね、

人が触ったものにはバイキンマンだからね、

アルコール持参やで、

ほら、持たされた石けんで手を洗って、

トイレもたくさんの人が使ってるから、先に手を洗ってね、トイレ済んでからもちゃんと手を洗うんやで。

自分のハンカチで手え拭きや、

外食する時もそこらを拭くんや、持ってるアルコールタオルで。

お願いやで。」

とママは言いました。

娘:

「毎日同じことを言ってるけどそんなに細かな事を言うママは世の中いてないねん!!”あんたのママ過保護やと思うんやー!”って友達からバカにされてるんやけど我慢して出かけてるんやけど毎回そんなに言ってたら念仏を唱えてるような人と同じって思わへんのかいなあ!」

と言って娘は出かけていきます。

 

その二 帰ってくる

母:

お嬢が帰って来たら

「玄関でアルコール消毒して、

マスクは玄関に置いてあるゴミ箱に捨てて、

入り口で洗濯する服を脱いで、

服を洗濯機に入れて、

洗面所で手洗いうがいして、

お風呂に入るんやで。」

「その間にもね、この家にいる人の事を考えるの。どうしたらコロナうつさんか。」

それで、お風呂あがったら

「毎日の行動を報告して、

買って来たモンには消毒するんや。」

寝る前には

「うがい歯磨きをして、

漢方薬飲んで

体調が少しおかしいと思ったらすぐに熱を測るんやからねえ。」

とママは言いました。

娘:

「帰って来てもやらなあかんことだらけやし、おまけに、行動を報告するのどこに行った、誰と一緒やったってママに報告するの面倒くさいし。言いたい事と言いたくない事とあるんや。そんなん聞いてどうにかなるんかなあ。”お土産はコロナちゃうんやでって”言うけど、持って帰りたくないんや。そんなもん気をつけてるんやけど。フェイスマスクまでママに持たされて、電車でしてたら”ハアー?”って目で見られてるんやしい。このおかん何考えたらこんな風になるんや…」

と毎回娘はこういうふうに言います。

 

その三 ステイホーム

母:

家にいる時は今度は

「換気してや、

掃除もしてや。

タオルなどは自分だけで使用やで。

トイレは2階のを使ってねえ。」

「学校はリモートでも行ってもどっちでも良いって言うからリモートにしようね。」

「食事はバランスの良い食事を摂るように考えて

ご飯は朝作っておいたのにしてや。

フルーツヨーグルトにしといたから、ちゃんと腸に良いヨーグルトとるんやで。

家でいる時は少しでも気分転換するのが大事だから、夕方に散歩したり、買い物に行ったり、自分で楽しみを考えてや。」

「一番大事な事は免疫力つけとく事だから

睡眠時間をきっちりとんの、

なんでも無理しないようにねえ。」

「それから、おじいおばあのお家行く時は2週間考えてね、絶対に守ってや。」

と娘に言い聞かせました。

娘:

「ママ仕事に行ってるから、いない時は自由にさせてもらってるんやけど。ママ帰ってくる時間に掃除とかしてたら今頃してるうって、時間いっぱいあるんちゃうの?って目で見るやん。やってくれてありがとうちゃうの?コロナになって納得できる所あるけどママの性格直していった方が今後の為やと思う所があるねええ。気をつけて生きていかなあかんでえー。」

と娘はコロナ禍で母の人生方向を見いだすのでした。

 

『コロナ禍も1年半経過し、ワクチン接種が始まったものの、全人類に到達するのはほど遠いです。この実録会話はまだまだ続きそうです。このコラムの24人の読者様はワクチン接種済まされている方もおられると思いますが、現時点ではそれで以前の生活に戻る訳ではありません。引き続き注意深く生きてくださるようお願いします。(註1)』

  • 註1:実話と全然関係ないですが、このコラムを執筆中に東京の上野動物園でパンダが2頭生まれました。筆者からの赤ちゃんパンダの名前の提案:アンシン(安心)とアンゼン(安全)。

 

漢方薬が新型コロナウイルス感染症の治療に使えます。

By: Kazusei Akiyama, M.D.

Castle under Pandemia. Osaka. Caju©2021


2021年6月

漢方薬が新型コロナウイルス感染症の治療に使えます。

サンパウロではコロナ感染者が減少傾向にあるようで、このコラムの24人の読者様は若干精神的なプレッシャーが低減した生活ができているのでしょうか?まあ、減少といっても、ブラジルでの1日の死者が4000人から2000人程度になっているので、半減といえば間違ってませんが、それでもブラジル型変異株が蔓延しだした1月頃の倍です。全然油断はできません。

何回もひとりごとしているように、遺伝子情報というのは複製する度に変質する可能性があります。正に遺伝子情報そのものでしかないウイルスも(註1)増殖する過程この状態がおこり、いわゆる変異株という元から変化したモノができてくる訳です(註2)。今世界中でコロナウイルスが爆発的に増殖してますので、変異する機会も爆発的に増えてます。このため、次々と変異株が現れ、それは感染者数が多い場所でおこるのですね。この状況は増殖の回数が減らないと終息しません。

ブラジルは意外にも世界的にみてワクチン接種が進んでるので、世の中は「自分はワクチン受けたからもう普通の生活になるんだ」みたいな雰囲気も見られる。でも、2回接種が済んだのは人口の1割強程度ではまだまだウイルスが蔓延した状態でしょ。また、世界で流通しているコロナワクチン総量の75%がたった10ヶ国に集中している現状をみると、コロナ禍はまだまだ続くと考えるのが妥当ではないですかね?(註3)』

従って、コロナ感染症(COVID-19)の対応はこれからも必要です。先月から治療薬についてのひとりごとをしており、今月は「既に承認されているがあまり話題に話題に上がらない治療薬」、漢方薬に焦点をあててみます。なぜ既に承認されているか簡単に説明すると、COVID-19の症状の一つである発熱は「急性の熱性の疾患」にあたり、適用になるからです。感染症の対策や治療は人類史においていつも重要な事項であった事は疑いがないでしょう。医療の発展の過程で感染症は常に大きな存在であり、これは西洋医学でも東洋医学でも同じだと言えます。東洋医学の場合、2000年前に書かれ現在でも東洋医学を理解するのに重要な「黄帝内径」に疫病に対する対策が記載されてます。一つは身体の気を充実させ、外因性の病原体の侵入に対抗する、もう一つが感染源を回避する、です。

『後者は正に現在のコロナ感染防疫の三つの柱、密を避ける・手洗いと消毒・マスク使用、じゃあないですか!2000年前にはもう書いてあったのだ。』

「気の充実」または「気を増す」事は現代語で言うと生体防御機能を増す事を示します。言うまでも無く、十分な睡眠と休息、正しい食事、適度な運動、ストレスの少ない生活により、各自が持っている防御機能を維持する事から始まります(註4)。この防御機能とは免疫機能とも言い換えられます。既に科学的な研究で判明している漢方薬の作用機序の一つに免疫活性化物質であるサイトカインの一種のインターフェロンαが漢方補剤を摂取することによって産生しやすくなる結果があります。補剤と分類される漢方薬を使用する事で、免疫機能を高める事ができる訳です。このタイプの漢方薬はまだ感染がおこっていない状況、つまり予防に役立ちます。

  • 註4:意外とこれらが忘れがちで、薬やサプリを外部から取り入れて防御機能を維持しようとする事が多いのでは?例えば、正しい食事をしていれば、青汁ドリンクなど購入して摂らなくても良いでしょ?

一端感染症が発症して症状がでると治療用の漢方薬が有用です。COVID-19は重症化しないのが最重要事項なので、感染徴候を見逃さないのが大事です。漢方医学ではいわゆる正常から外れたら治療可能なので、ちょっとした自覚症状でもアプローチできます(註5)。広義でいえば、COVID-19は風邪の一種なので(註6、7)、一般的に風邪の治療に使用される漢方薬が有効です。

  • 註5:反面、西洋医学では検査などで数値や画像の異常がないと診断がつかない。
  • 註6:風邪の正式名称は「風邪症候群かぜしょうこうぐん」であり、上気道(鼻腔、咽頭)におこる感染症で原因微生物の9割方はウイルスです。ライノウイルス、コロナウイルス、RSウイルス、パラインフルエンザウイルス、アデノウイルスなどが主ですが、200種類以上あるので、あるウイルスに感染し免疫ができても何回も風邪をひくのです。インフルエンザウイルス感染症も厳密に言えば風邪の一種ですが、症状が強いのと致死率が高いので”流行性感冒”と呼ばれ、別扱いされます。
  • 註7:ヒトに風邪をおこすコロナウイルスが既に存在するので、「COVID-19はただの風邪だ」といった発言が出るのですな。

『感染症の臨床経過は体内に入ったウイルスの増殖スピードと生体防御機能の競争でどちらが優位になるかに左右される。重篤化すると圧倒的に致死率が高くなるCOVID-19はとにかく軽症患者を重症化させない事に尽きる。』

漢方薬の処方は先月のひとりごとで示した、西洋医学の「診断名と治療薬の縛りがない」かわり、個々の体質、状態、状況により判断されるので、ここでは「なになに湯」や「なんたら散」を服用したらコロナ対策に良いとは書きません(註8)。つまり、個別の診断が重要です。診察を受けてください。

  • 註8:いろんなメディアに登場して有名な「清肺排毒湯」がありますが、感染症初期の漢方薬ではありませんのでご注意ください。

『予防や治療以外にCOVID-19関連疾患では、「COVID-19後遺症」や「コロナ禍の生活の不安や恐怖」の診療にも有用です。』


どうして新型コロナウイルス感染症の治療薬って無いの?

By: Kazusei Akiyama, M.D.

Black wall and exaust. Osaka. Caju©2019.


2021年5月

どうして新型コロナウイルス感染症の治療薬って無いの?

ブラジルでは新型コロナウイルス感染症の第二波の真っ只中ですが、このコラムの24人の読者様、皆さんお揃いですか?昨今の感染症で亡くなった方はおられないことを祈ってます。今月も去年から続いているコロナのひとりごとです。当地の第二波は感染者・死亡者ともに去年より多く、あまり見られなかった若齢層の発症と重症化が特徴です。この原稿を書いている4月下旬では一日の死者が3100人強で推移しており、その数字は「若干減少してきているのでよかった」と言った論調です。まあ、先月(2021年4月)は4000人死亡までいったので、減った事は減ったのですけどね。数ヶ月前までは「死者また1000人を超えた!」で騒いでいたので、人間、慣れって怖いです。1年前と今との違いは、ワクチン接種が行われているのとウイルスが変異株に置き換わっているところですが、変わらないのが決定的な治療薬がない感染症だと言えるのではないでしょうか?

『実際の生活をしていると、軽症の場合コロナにかかっても効く治療薬はないので、対処療法になるか、放置されるかになる事が多いのではないのか?後者は日本の場合だな、診てくれるとされているお役所(保健所)がパンク状態だから。でも実は”コロナ治療薬”はあるのだな、大きく分けて、三種類。まず、現時点で承認されている物がある。デキサメタゾンやレムデシビルなどでこれらは入院患者の重篤化に使用される治療薬なので、ほとんどが軽症の実状の生活にはあまり関係がない。次に承認されていないが治療薬として使える物、例えば最近日本のメディアでもよく載るイベルメクチンがこの分類に入る。そして実は既に承認されているが、あまり話題にあがらない物、日本では正規の医療に使用される漢方製剤があるのだ。』

何故新型の疾病に対して治療薬がない、あるいは少ないのは現在主流のいわゆる西洋医学の一番大きな特徴の為です。曰く、西洋医学の治療は次の様に決まります:

ヒトが発熱とか痛みとかの症状がある→診察と検査をする→診断が確定(推定)する→確定または推定された疾患名と関連する薬物(あるいは外科措置)などで治療方針を決定→治療をする

つまり、疾患名を確定しないと、その疾患に効果がある治療ができません。あるいは、疾患名が確定しても、その疾患に効果がある薬物や措置が存在しないと治療ができないといった制限があるわけです。診断が確定しない時や効果のあるモノが無い時はこの流れが最後の治療まで行き着かないので、そういった場合は対処療法しかできません。診断が確定しないのはそれまで未知の疾患であるか、検査方法が確立してないかのどちらかです。では確定した場合のそれに効果がある薬物(外科的や理学的な措置もありますが、ここでは薬物として考えます)はどの様に検証するかというと、コロナ禍で一躍有名になっている「治験」によって行われます。基礎研究や動物実験を経てヒトに”薬の候補”を使用して効果や安全性、投与量や投与方法などを確認する作業が「治療の臨床試験」略して治験と呼ばれます。この確認作業はいろんな方法があるのですが、医学の世界で一番良しとされているのが「double blind radomized (clinical) trial 二重盲検無作為比較試験」という試験のやり方です。

『いろいろ条件などもあるのだがすごく簡単に言うと、試験に参加する患者を抽選で二つのグループに分け、投与する医師も服用する患者もどんな薬(試験薬か偽薬)を投与/服用するのか一切知らずにすすめる方法だな。つまり、最後にならないと、誰が何を服用して効果があったかわからないので、”治療薬を使用して良くなった”といったような暗示、つまり主観的な判定を減らす方法とされている。二重盲検無作為比較試験は是非があるのだが、できるだけ万人に効果がある薬を求める西洋医学の考え方に沿っているので、この方法以外では治療薬の評価が有効でないと考える医者がほとんどである。モノによってはこの試験方法が一番よい訳ではないけど、一種の宗教的盲信だな。』

治験の結果は統計学的に解析されます。それで、統計学的に有意な結果がでるには検定力という概念、簡単にいうとある程度の数が必要です。例えば、「効果が半数にある」という結果があるとします。2人に試験して、1人に効果が現れるのと、1万人に試験して5000人に効果が現れるのでは同じ半数ですが後者の方が信憑性がありますね。つまり検定力がないと、「統計学的に有意差が認められない」といった状況になり、治験が成立しません。まさにこの状態に陥っているのが、日本の抗ウイルス剤アビガン(ファビピラビル)です。日本ではコロナ患者が欧米やインド、ブラジルなどと比べ少ないので”数”が足りないので評価できないという事になってます。

『しかし、現在のコロナ禍は衛生上の緊急事態なのだな。なので、悠長に普段のとおりの事前審査や治験申請をある程度割愛し、「緊急使用許可」といった方法をとらないとコロナの治療薬やワクチン等の開発には5年10年かかる。実は今ブラジルやヨーロッパで使用されているワクチンはファイザー製を除き、どれも緊急使用許可薬なのだな。つまり、「緊急事態だから使えますが、恒久的承認ではないですよ」といったものなのだ。日本は折角アビガンや大阪大のDNAワクチンなどがあるのに普段のとおりの審査をやっているからそれらは世に出ないのだ。』

“折角日本の”といえば、コロナ治療薬として非常に高い可能性をもっている薬物がイベルメクチンです。寄生虫の駆虫剤であり、この薬品の開発で日本の研究者大村智先生がノーベル賞を受賞されてますね。イベルメクチンはウイルスの増殖を阻害する効果があるのが知られており、ブラジルを含め、去年より世界各地で試験されて(27カ国で44研究)有効性がある事が示されている。予防、早期治療、死亡率の低下に効果が認められてます。しかし、疑問が多い研究結果が有力医学誌に発表され、それを元に否定的な意見をする医師や団体が多く、何よりも開発した製薬会社が否定的であるのが目を引きます。製造元のメルクによると新型コロナに対してイベルメクチンは安全性と有効性がないと言っているのです。この薬は主に中南米やアフリカで河川盲目症と呼ばれる寄生虫症やシラミの治療に億単位の数の錠剤が使用された実績があり、さほど副作用が出ない安全な薬と位置つけられていたのが、コロナには安全ではない事になったのですかね?

大村先生の話によると、コロナ禍が始まり、製造元のメルクにイベルメクチンをコロナ治療薬に承認させようと持ちかけたところ断られたそうだ。メルクを含め、各製薬会社は治療薬の開発に躍起になっているが、どれも抗ウイルス剤や抗体医薬などの方向だ(註1)。イベルメクチンは安い薬だな。1回の治療が20〜30万円する抗ウイルス剤や抗体医薬を開発している製薬会社はイベルメクチンでコロナが治ってしまったら困る訳だ。どうやらその辺りの経済的理由でイベルメクチンやコルヒチン、ヒドロキシクロロキンなど安価な薬品をつぶしにかかっている、そのように思う。』

  • 註1:2021年4月時点で新型コロナウイルス感染症治療薬として承認されている薬物:デキサメタゾン(ステロイド系消炎剤、免疫抑制剤)、レムデジビル(抗ウイルス剤)、バリシチニブ(抗体医薬)、Regn-Cov2(カシリビマブ+イムデビマブ)(抗体医薬)、ケブラザ(抗体医薬)。

ブラジルでは医師の自主性を医業の基本と位置つけるので、患者の利益になるのであれば、医師が責任をとり患者の同意があれば非承認の薬でも使用できます(自費診療の場合)。そういった意味では、日本でコロナに罹患するより、当地でしたほうが治療の範囲が大きいと言えます。但し、当地の巷で流通しているkit covidキッチ・コビージなるものは絶対に勝手に服用しないでください。コロナに効くだろうとイベルメクチンを含め色んな薬で構成されたキットで、それぞれは危険な薬ではないのですが、大量かつ併用するため下手すると重篤な肝障害を起こします。素人がコロナパニックで手当たり次第服用し、良からぬ副反応が現出し折角の有用な薬物を否定的な効果にもっていて大変残念です。そして実は既に承認されているが、あまり話題にあがらない物、日本では正規の医療に使用される漢方製剤は来月のひとりごとで展開しますのでまたお付き合いいただけたら幸いです。