アルコール。薬にしますか?毒にしますか?

By: Kazusei Akiyama, MD


Trip to Scotland. UK. Caju©2015

2015年10月

今月のひとりごと:『アルコール。薬にしますか?毒にしますか?』

このコラムの22人の読者様、先月も休稿してしまって申し訳ありませんでした。今年は調子良くないですね。さて、今回もアルコールに関するのひとりごとです。前回は精神疾患である依存症についてでしたが、続きは「アルコール関連問題」についてです。何度もいいますが、筆者は禁酒を啓蒙しているのではありません。東洋では中国発の諺、「酒は百薬の長」(註1)というのがあります。先人達が、アルコールを適度に利用すると、どの「薬=治療」よりも健康に良い効果が認められる事実を経験的に知っていたからでしょう。西洋社会でウェイトが大きい新約聖書にも健康のため少量の飲酒を薦めるくだりがあります(註2)。定期的(毎日の事です)かつ少量の飲酒は血流を良くし、新陳代謝を促進させ、それが健康につながるのだと考えます(註3)。滋養強壮系の飲み物にはアルコールが入っている事が多いですし(註4)、漢方医学ではナヨッとした冷え性の女性に出す代表的処方、当帰芍薬散の本来の使い方は「粉末を酒に混和して服用する」とあります。

  • 註1:漢の時代の「漢書・食貨志下」に出典。「夫れ塩は食肴の将、酒は百薬の長、嘉会の好、鉄は田農の本」とある。
  • 註2:新約聖書第1テモテ5章23節。反面、聖書に多い飲酒のくだりは、そのほとんどが大量飲酒や酔っ払う事を警告しているものである。
  • 註3:秋山説ですが、これについてはまたひとりごとします。
  • 註4:例:「薬用養命酒®」。

『人間の体内に入ったエタノール(註5)が及ぼす薬理的作用は1期から4期まである(註6)。循環器への影響は1期に末梢循環の拡張があり、2期より収縮が起こる。だから呑み始めには顔が赤くなり、酒が大変すすむと真っ青になるのだな。血管の収縮イコール血流が悪くなるのは誰にでも解ると思う。この「ほんのり赤く」なるくらいにしておくと薬で、それを過ぎると毒になっているのだ。』

  • 註5:酒類に入っているアルコールの正式名称ですな。
  • 註6:4期はアルコール性昏睡です。

次の表に本人へのアルコール関連の問題を示します。もちろん飲酒者本人に損傷以外に、まわりの家族や社会にも影響を及ぼします。アルコールの問題は死にまで至らしめる事ができる物質である事実でしょう。日本の厚労省の研究では、2008年の日本人の総死亡数の3.1%がアルコールが関与している推計があります。

表:アルコールが飲酒者本人に及ぼす影響。

分類

細分類

臓器障害

肝臓疾患(アルコール性肝炎、脂肪肝、肝硬変)

膵臓疾患(急性膵炎、慢性膵炎)

消化器疾患(胃炎、十二指腸炎、大腸炎、胃食道逆流症、マロリーワイス症候群、食道動脈瘤、慢性下痢、痔核)

循環器疾患(不整脈、脳出血)

生活習慣病

メタボリックシンドローム(特に中性脂肪の増加と関連)

高血圧症

糖尿病(低血糖発作も有りうる)

高脂血症

痛風

肝臓ガン

食道ガン

咽頭ガン

口腔ガン

大腸ガン

乳ガン

急性アルコール中毒

直接的毒性(アルコールそのものの作用)

間接的毒性(酩酊のため、事故に巻き込まれる)

外傷や事故

吐物吸引(窒息死や肺炎)

転倒や転落

交通事故

溺水

凍死

『これら以外にも、本人のメンタルへの影響(依存症そのもの、うつ病、睡眠障害、自殺、認知症など)、家族への影響(家庭崩壊、家庭内暴力・虐待、女性の飲酒の場合胎児への影響、要介護、世代連鎖など)や社会への影響(飲酒運転、生産性の低下、失業、貧困、犯罪、未成年飲酒、アルコールハラスメント、医療費の増大など)もあるぞ。これらの問題は飲酒の仕方を変えない限り、周囲を巻き込みながら複合し、増大し、下手をすると死に至る。』

アルコール関連問題は急性アルコール中毒以外は、ジワジワと時間をかけて起こっていきます。エタノールの向精神作用として一番の特徴が「脱抑制」(註7)です。このため、乱用されやすい物質です。急激に病気になるものではないので、問題が起きた時は既に後遺症が残るほど自身や周りに影響をあたえる事が多いので、医学的な意味では現在入手できるドラッグ(向精神薬)(註8)では一番「悪い」ものであると思います。薬な呑み方をしたらとても良いものなのですが…

  • 註7:神経には活動が暴走しないように必ず抑制機能がある(行動でも感情でも)。脱抑制とはこの抑制機能が抑制される状態だな。例えば、社会的な礼節が失われる。「酔っ払い」を見たことをある人は言ってること判るでしょう?
  • 註8:医学的には合法・違法はこの場合関係がない。