サプリ大好きな日本人へ

By: Kazusei Akiyama, M.D.

Brazil’s autumn leaves. Guaeca. Caju©2024


2024年5月

サプリ大好きな日本人へ

3月より日本でニュースになっているのが「紅麹サプリ事件」であることは広く知られてます。事件を要約すると、K製薬が製造販売する紅麹由来のサプリを摂取した人  に健康障害(主に腎疾患)がでて、4月中旬時点で5名死亡、240名入院;サプリそのものの商品回収や該当会社製の紅麹関連製品を使用している他社製品を自主回収する騒ぎに至っています。問題のサプリは服用すると悪玉コレステロール値を下げる効果があるとのうたいで、近年増えている高脂血症の世の中にドンピシャリ、的に当たった感がある商品です。日本人は先進国の内、一番「健康補助食品」いわゆるサプリメントが好きな民族なのでこの手のモノは人気があるのですね。

今回の事件を見て、「ふーん、麹菌でコレステロールが下がるんだ、下げる薬があるのに」と思った方はこのコラムの24人の読者様に何人かはおられると思います。ありません?下げる薬とはリピトール®やクレストール®など、スタチン剤(註1)と呼ばれる薬品の事だと思いますが、こういった薬を処方されている人が中年以降大変多いからだと考えます。しかし、元々スタチン剤そのものの始まりが1970年代に日本人研究者によって紅麹が産生する物質の一種「モナコリンK」である事を発見したのは広く知られてないのではないでしょうか?遠藤章先生が発見した物質はロバスタチンlovastatin)と命名され、始め米国で認可販売になり、それ以降製薬会社各社が派生品を開発したのが現在脂質異常症治療に一番沢山使用されてます(註2)。なので、ある意味では紅麹菌サプリを服用している人は実は原点にかえっているとも言えます。

  • 1:スタチン剤の正式名称は「HMGCoA還元酵素阻害薬」。名前のとおり、人体内で脂質を合成する酵素を拮抗的に阻害するため、血中コレステロール値が低下する。
  • 2使用数一位が「ロスバスタチン」、二位が「アトルバスタチン」、三位が「プラバスタチン」。蛇足ですが、脂質異常治療薬は現在世界で一番売れている薬と言うことなので、かの遠藤章先生はノーベル賞ものではないですかね?

今回事件になった紅麹はモナスカス属のカビ、糸状菌の一種Monascus pilosusを発酵させたもので、中国、台湾、沖縄で昔から紅酒や豆腐ようなどの発酵食品として消費されてきました。また、紅麹は綺麗な赤色に発色するため、これも昔から着色料として利用されてきてますが、1970年代に標準的に使用されていた石油由来の赤色2号に発がん性がある事が判明し、天然由来の「ベニコウジ色素」が爆発的に需要が増えたようです。実はこの「ベニコウジ色素」はサプリを作っている方法とは異なる製法(註3)からくるので色素のみを使っている製品は今回の問題と関係ないはずですが、事件で一躍紅麹が有名になってしまったので、巻き添えを食らっている訳です。

  • 3:紅麹菌を発酵させたものを「紅麹」と言い、食材あつかい。固体培養にあたる。菌を液体培養し、色素のみを抽出したものを「ベニコウジ色素」と言い、食品添加剤あつかい。

今回の紅麹も酒や味噌、鰹節に利用されるいわゆる麹の一種と思われがちですが、別物です。紅は前述のとおり、モナスカス属のカビですが、黒・白・黄麹はアスペルギルス属のカビです。紅麹菌の特徴は成長速度が遅く、培養が難しいといった所です。また、モナスカス属では一部毒性の物質「シトリニン」を産生する事が判明しており、昔から使用経験がある中華圏や韓国、日本以外では紅麹サプリは利用制限や禁止されている国がほとんどです。しかし、今回の事件ではこの物質は検出されてなく、青カビから産生される「プベルル酸」が健康被害の原因であるようです。紅麹菌は培養速度が遅いため、培養中に他の菌に汚染(コンタミネーション)されてしまう確立が高くなる欠点があります。この欠点が的中した事件であると筆者は愚考してます。

これはどのような天然物質にも言える事ですが、この場合従来の発酵食品として消費するには微量に毒性があっても健康被害にならなくても、薬効を求めて濃縮しり、薬効成分分離したり、製品に加工すると毒性が発揮される事が多々あります。このため、紅麹に関しては「医薬品」としての規制がかけられたり、使用禁止されたりする訳ですね。経口服用する事で人体に良い影響を及ぼす物質は「医薬品」と「保健機能食品」(いわゆる健康補助食品)に大きく分類できます。何が違うかというと、前者は単一の成分が効果を証明する治験があり、当局に認可許可されたモノでそのため「効果を表示する事」ができます(註4)。後者は関与成分を含む食用品であり、「保健の目的が期待できる保健効能成分を含む事が表示できる」のが一般食品と異なる所です。当局の審査と許可がある「特定保健用食品、特保」と特保でない「栄養機能食品」と「機能性表示食品」があります。「栄養機能食品」はビタミンやミネラルなど既に科学的根拠がある栄養成分を含んだ食品ですが、「機能性表示食品」は有効性や安全性の根拠に関する情報等を当局へ届出ることで、事業者の責任で機能性の表示をする食品です。

  • 4:「医薬部外品」もありますが、今回は割愛します。

『今回の事件になったK製薬のサプリは機能性表示食品であり、単に届出で健康を左右する製品を販売しても良いのかとの議論の元になっているぞ。特保は許可を得るのに時間と費用がかかるので、迅速に製品化できるように法改正をしたのが裏目にでた例であろう。』

身体に良いと考えて健康補助食品を摂取する訳ですよね。なので、何らかの効果を期待するわけですが、反対に効果のあるものは副作用があったり、飲み合わせの問題があったりします。服用してもまったく問題がないモノはたぶん薬効がないのでお金を捨てているようなものでないですか?正直なサプリメントが大半と思われますが、医薬品や特保の規制にかからないように効能をぼかして販売している製品もよく見ます。サプリといえど、健康に関するモノの摂取は医師に相談してから使用したほうがよろしいかと思われる事件だとおもいます。


幸せなとしよりになるための25条。

By: Kazusei Akiyama, M.D.

Outside’s Light. Oxford. Caju©2023


2024年03月

幸せなとしよりになるための25条。

今年の1月は日本に滞在してました。元旦は能登半島地震で初まり、筆者も少し怖い思いをしました。亡くなられた方や被災された方達に心よりお悔やみとお見舞い申し上げます。震災の世の中です。現在は能登地方では支援活動がおこなわれていますが、雲の上の世界でも大震災が起こり、政治家が倒壊した家屋(註1)から這い出そうと必死の様です。

  • 註1:去年末から自民党の各派閥のパーティー券裏金問題で今月に入り、刑事告発や逮捕者が出ている。結局派閥の解散にまで発展してさらに政治倫理審査会開催に至っている問題

ややこしくなっている自民党の関係者や地震の被災者が報道されてますが、目につくのは「としより」です。高齢者が多数でてきます。現実世界でも日本の何処へ行っても老人がいっぱいで、バスなんかに乗ると「優先座席」などいったい誰が優先的に座るのか「年寄りの判別基準」が必要なくらい多い印象です。

筆者も還暦を過ぎているので、しっかり高齢者の仲間入りをしている訳で、老人老人と偉そうに言えません。ハタから見るとそこらに歩いているとしよりとなんら変わらないのでしょう。結局自分の仲間も同じ世代なので、最近SNSとかで回って来る話がとしよりの話題が多いです。その内、「幸せなとしよりになるための25条」といったのが多分お笑い系なのだと思われますが中々的を射たモノだったのでコメント入りで紹介します。ブラジル人の感性・感覚である部分を加味して参考にしていただけたら幸いです。開業医のコメント部分が(コ)になります。

幸せなとしよりになるための25条。

第1条:息子や娘の生活に口出してはダメです。(コ)言わずもがな、もめ事の種の最たるものでしょう。意見して効果ありますか?

第2条:孫の教育方針に干渉してはダメです。(コ)これも第1と同じ系統ですな。

第3条:婿や嫁を愛しなさい。まあ、許容くらいはしてもよいでしょ。自分の娘や息子が選んだ人だと言うことを忘れてはいけません。(コ)そうなのです、結局自身の子経由でおこった選択なのだと言う事を自覚する必要がありますな。好みでない嫁や婿も実は自分の家族の感性や自分に対する当てこすりである可能性が大なのです。

第4条:息子や娘の結婚生活に意見したりどちらかの側につくのはいけません。(コ)これも第1や第2と関連するものですな。しつこく。それと、老後だれが介護してくれるのかといった問題もあるので、誰とでも仲良くしておいた方が良いぞという警告ですね。第1〜4を深読みすると、嫁や娘を大事にしろと言う事ですか?としよりの介護には結局女性が深く関わる現状がブラジルでも日本でもありますね。

第5条:ブチブチ文句を言うとしよりにならないようにしましょう。(コ)第1〜4を実行しないと、そうなります。うるさいだけ。よほど資産を持っていないとだれも寄りつかなくなりますよ。資産持ってるから寄りついてくるのも悲しいですけどね。

第6条:自分を気の毒に思うようなとしよりになってはダメです。(コ)これはさらに性格が悪い。自身の境遇を他人のためと思っているからそうなりますな。反面、その他人の慈悲を請う行為に出てしまう。なりより後ろ向きの生活をしている証拠なのです。

第7条:「俺の時とか自分の時代は」と言った発言は止めましょう。その時代は既に過ぎ去っているのです。(コ)わかりやすい項目。世の中は進歩してます。こういった発言は時代について行けてない事を告知しているのです。取り残され感満載。

第8条:将来の計画を持ちましょう。(コ)現在の世の中の事柄が分かってこそ将来の見通しができます。第7の反対・反省・対策ですな。

第9条:病気の話は止めましょう。誰も病気の話などしたくないのです。(コ)高齢になると誰しもどこか身体の不調や治療経験があり、話題になりやすい。でも鬱陶しいのです。同世代で情報交換程度にするのであればまだしも、若い人にこれをやると相当嫌がられます。顔に出さない場合は単に社交辞令なのです。

第10条:収入の如何に関わらず、毎月いくらか貯金をしましょう。(コ)歳いってからの不安の原因の一番は金銭的な不安である事は東西どこでも同じです。第8と同じく前向きに人生をみる行為ですな。この場合、貯金する行為が重要と思います。

第11条:分割払いは止めましょう。としよりが月賦払いなどとんでもないです。(コ)第14と関連です。明日がないかも、借金が子孫に残るとよくないでしょ?

第12条:医療保険に入るか、医療費が必要な時に備えて貯金しましょう。(コ)高齢になると医療費がかかります。日本の厚労省のデータによると、75歳以上の医療費は44歳以下の7.5倍です。身体がポンコツになってくると、あちこち故障するのは誰にでも起こりうる現象で、違うのは「故障の度合い」だけ。

第13条:自分の葬式の資金を残しておきましょう。(コ)日本ではよく言われる終活ですな。ブラジルと日本では温度差がありますね。これは死の観念の違いから来るのではないかと筆者は思います。キリスト教のブラジルでは死は終焉とみてますから、誰も終わってなにも無くなってしまいたくない。ので、そんな用意はしたくない。

第14条:子孫に自分の「問題」を残さないでおきましょう。(コ)まあ、この場合、一番の問題は借金の事でしょうな。死んでから現れる親類とか。

第15条:時事問題や政治報道に関心を持っても無駄です。それらを解決する能力はもう持ち合わせてないのです。(コ)そうです。何もできません。ブラジルは選挙義務があるけど、高齢者はそれすら免除されますからね。一般のとしよりは大抵相手にすらしてもらえないので、害がないと言えばないけど。問題は経営や政治に関わって居座っているとしより。「老害」と言う言葉もありますな。

第16条:テレビ鑑賞は楽しむためにしましょう。イライラするためではありません。(コ)これは第15の派生だな。イライラしてもどうしようもありません。損するだけ。

第17条:動物が好きであれば、ペットを飼いましょう。(コ)最近は高齢者施設で動物を導入する事が普通になったくらい、良い事が多いです。癒しというヤツですな。ペットと生活する事で生活の質や日常生活動作が向上し、ペットを介して他の人と接する機会がふえ、全体的にとしよりの社会性が増します。スエーデンで実施された研究によると、犬を飼っている一人暮らしの死亡リスクが33%減少する結果があります。また、犬を飼っている人の平均寿命が伸びる効果も認められてます。ただ最近はペット自体も高齢になり、介護が必要になってくる現象もありますね。また、高齢オーナーが死去してペットが孤立してしまう問題なんかもありますから、そのあたりもちゃんと終活しておく必要があると思われます。

第18条:毎日起きたら、散歩や料理や裁縫や家庭菜園など何か活動をしましょう。ジッと死ぬのを待っていてはいけません。(コ)身体を動かすのは長寿の条件です。血行が宜しくないと、身体の細胞が死にます。そうなると長生きできません。同時に頭を使う活動をして脳が老化するのを防ぐのですな。自分が興味がある活動を把握しておかないと、としよりになってドテッとソファに座ってテレビ視て死ぬのを待つ毎日になりますよ。

第19条:綺麗で良い匂いがするとしよりを目指しましょう。歳いってるので臭いのはダメです。(コ)加齢臭というのがありますね。これは皮脂が変質し、ノネナールやペラルゴン酸といった物質になりこれが悪臭になるのですな。男性の方がホルモンの加減で皮脂が多く生成されるので臭いがキツくなる傾向があるのでじじいは要注意です。歳いってしょうがないと、清潔にしてないとさらにとしより臭くなりますよ。

第20条:としよりになっている事実を素直に喜びましょう。としよりになれなかった人もいっぱいいるのです。(コ)ある意味としよりは生き残りですからね。そのためわざわざ本条があるのだと思います。でもそのうち回りには誰もいなくなっていくのも悲しいです。

第21条:皆が来たがるお家を作りましょう。人が来るか避けるかは自身によります。(コ)これは前述の20カ条の行為によるものですな。宜しくないと、結果として自分の子孫も寄りつかなくなってしまう。そんな例をたくさんみてます…寂しいです。本人は孤独です。悲しいです。そしてもっと悲しいのが本人のせいでそうなっている事をまったく自覚していない。

第22条:重ねた歳を未来への橋として活用しましょう。過去への下り階段ではダメです。(コ)第8、第10と関連するモノですな。としよりであっても、過去に縛られないで前進してこそ人生を楽しめると言っているのです。最近のSDGな言い方をすると「としよりであってこそ」ですかな。

第23条:良い思い出を残す方が安堵を残す方よりいいです。(コ)これはポルトガル語の原文ではなかなかカッコ良いです:“é melhor ir deixando saudades do que deixando alívio”。要するに逝って安堵されるより逝って良い思い出をされる人物のほうが良いという事ですね。あーやっと亡くなってくれたなんて思われる人生、悲しい人生じゃあないですか。

第24条:残りの人生を楽しみましょう。自身で笑い、人を笑わせましょう。(コ)笑顔は社会性を増幅するモノです。これは世界共通の価値観でしょう。ただし、としよりになると気をつけないといけないのが、「ヘラヘラ笑ってる老人」と「バカにしているのが明らかなお世辞笑いする老人」。笑ってる本人は以外とよろしく思ってますが、ハタから見ると嫌みなとしよりにしか見えません。

第25条:とっておきのワインや明日まで置いておいたらもっと冷えるであろうビールは今日中に消費しましょう。明日はないかもしれません。(コ)軽そうで実はとても深い最後の本条。自然の摂理からいうといつ死んでもよい事態が毎日迫っているので、その日その時を大事に生きろという事ですな。

このコラムの24人の読者様、当たり前の25条ですか?意外とやらない、やってない、できない行為じゃあないでしょうか?だから悲しいとしよりが多いのでは?としよりは悲しいモノだとか言ってないで加齢する事実を見直してみたいと考える筆者でした。


 

アレはアレだけど、アレでないかもしれない。

By: Kazusei Akiyama, M.D.

Osechi Food. Japan. Caju©2023


2024年01月

アレはアレだけど、アレでないかもしれない。

明けましておめでとうございます。今年はこのコラムの15周年です。筆者も自分でよくこんなに長く続けているのだと改めて感心する2024年の新年です。世の中はコロナ禍が一段落したと思いきや、侵略だの、分断だの、恐怖だの、新年の話に全然合わない話題が満載の去年でした。枡ゴミはこれとばかりに不安を煽る報道ばっかりしてるので、気分がすぐれない人達が大量生産されてますね。このコラムの24人の読者様はどうなってますか?

そこでこのような時の反応はまあ大きく分けて二通りあるでしょう。いや、二通りしかないでしょ。一つは煽られたとおりに不安神経症になる。もう一つは逃避行にたよる。当地ブラジルでは2023年1月に始まった政権の選挙で社会がパックリ分断してしまったので、分断に関しては日本より顕著に見られます。反面、日本ではいつキタのミサイルが飛んでくるかもしれないので、恐怖のほうが顕著なのではないかと思います。

『キタ、去年は打ちまくりましたからねえ。』

こんな世の中なので、「明るい話題」があれば、皆飛びつきたくなります。2023年の圧倒的に明るかったのはなんといっても「アレ」で「盛り上がった」ところでしょう。アレがA.R.E.にまでなって新語・流行語大賞まで取りましたからね。アレって、意味が決まっていると思われがちですが、辞書で調べてみると意外と沢山の状況や事柄を示す言葉なのです。広辞苑によると、アレの発音で次の6っの漢字が載ってます:村、荒、阿礼、吾・我、彼、感。大賞になったアレは「彼」の意で「②今の話題とは離れているが、その名を示さずとも相手にもそれと通ずる人・物事を指示する語。」でしょう。でも「我」と「彼」で広義では「こちら」と「そちら」で相反する意味なのに音が同じなのが面白いと思ったのは単なる筆者の脱線です。大賞のアレは優勝の事を示し、日本のプロ野球の2023年のリーグ優勝した阪神タイガースの監督が使って広まった言葉です。優勝する可能性が高かったチームのメンバーに「優勝」という言葉のプレッシャーをかけないため、「アレ」と言い換えたのは周知のとおりですね。

写真:タイガースの応援はトコトンやらせてもらいます。

物事を直接的に示さないように使うアレは日常でも良く使用されます。医療の現場でも患者さんの話によく出てきます。不都合だとか、恥ずかしいとか、公言したくないとかの場面ですね。アレがないとか、アレをしたとか、アレは良かったとかダメだったとか。会話の流れで何の事か分かっている場合は良いのですが、分からん事もありますから、「ソレ」で聞き返す事になります。つまり、相手に通じていればとても便利なアレですが、通じていなければ誤解を招く危険がある言葉でもあるのです。そして、最近の社会と文化はこの「相手に通じる」あたりに問題があると愚考します。明言しなくてもお互いに分かる事柄は、社会の通念や価値観が一貫していないと上手くいきません。日本の昔からある「アウン」ですね。しかし、今の時代、「多様性」そしてそれを尊重するのが最優先事項ですから、ややこしくなってきました。悲しいかな、「物事の通念」が無くなってきた。現在はチ○ポがついていても自身が女であると自認すれば、女であるという時代です。アレがついていても、男では必ずしもない。で、そういった事を尊重し、共生していくのが正しい生き方だそうです。気をつけないと、アレが見えているけど、アレでないので、アレだと思っている自分が悪い事になります。(註1)

  • 註1:医療の現場でもややこしくなってきてます。去年母校で開催された婦人科の学会で「前立腺をもった女性」といったテーマもあった。

『誤解のないように明言しておくが、多様性を否定している訳ではない。ブラジルでは少数民族である筆者は人種差別も受けた事もあるので、多様性の尊重は重要だと思う。ここでは物事に一貫性がないとアレは何か分からなくなる場合がある話。』

要するに、訳のわからん世の中になってきてると言う事ですかね。今回の阪神のアレはA.R.E.に発展し、来シーズン向けのチームのスローガンなんだそうです。Aは目標を意味する「Aim」、Rは敬意を意味する「Respect」、Eは力をつけることを意味する「Empower」の3つの英単語の頭文字を合わせたものだそうです。深読みをすると、これらの意味は最近流行のSDG(持続可能な開発目標)そのものではないですか。Aはその意味のとおり、「リスペクト」は敬意以外に尊重の意味もありますし、エンパワーは自認、変革の意味もあり、自身や社会の新規開発と関連します。元々チーム監督が使った「アレ」は単純にプレッシャーにならないようにするためだったと考えられますが、ここまで発展するのか!と感心してます。

『ちょっとゴリ押しの感じがするのですけどね。時代の波に乗ってると言うんですか。』

開業医の立場から意見すると、現在の多種多様の価値観の中で生活していると、精神が病む確立が多くなるのではと思われます。今は何をしても容認されますからね。それ以上に今までにない事に挑戦して勝ち取るこそが人生の勝者とされてますから、これから人生を築く若い人達にとってはものすごいプレッシャーなのです。特に学校に上がる前からこのような状況に曝されている子供達がかわいそうです。ハタから見てると、「何して良いのかわからない」けど「どうしろ、こうしろ」と誰も言わない、言えないので、戸惑いと尻込みをする子供が多い。だって子供だから、こんなややこしい時代を世渡りするだけの能力があるわけないでしょ。この様な話をすると、人権侵害だとか、共生を否定しているとかギャーギャー言われかねないので、元々の意味とは違った使い方で「アレ」が便利になってきました。つまり、攻撃対象にならないようにするため、はっきりしない、ぼやかした運用で「アレ」が利用できると思います。「アレってどう思う?」みたいな。

『パッと相手に通じる状況ではないので、何の事言ってるのかわからん場面が増えたのでは?自分のアレと相手のアレはアレだと思っていると、アレになります。またはアレになりません。はっきり発言するのが益々大事だと思う新年です。今年もよろしくご愛読をお願いします。』

糖尿病治療で医術を考える(V):どうして生活習慣が影響するの?

By: Kazusei Akiyama, M.D.

Wine Glass. São Paulo. Caju©2017


2023年12月

糖尿病治療で医術を考える(V):どうして生活習慣が影響するの?

さて4月に開始した「我々人類の将来を脅かす糖尿病」のひとりごと第5弾です。途中医療の危険性について道草しましたが、今回は糖尿病治療の原則である生活習慣の改善について考えていきます。1回目は「糖尿病とは」2回目は「高血糖値の問題」3回目は「糖尿病のなり方」4回目は「治療薬」を展開してきました。3回目ではインスリンが不足したり細胞が糖を取り込む能力が低下する2型が生活習慣や食生活と関係がある事を考察しました。

『3回目で考察したのになんでもう一度この話になるんや?』

はい、前回はどのような生活が血糖値を上げたり、インスリン抵抗性を生んでしまうのかを書きましたが、今回はどうしてその良くない生活習慣になってしまっているのかを考えてみます。暴飲や暴食、ストレスの多い生活がよろしくない事はこのコラムの24人の患者様も耳にタコができるほど聞いた話ですよね。炭水化物の過剰摂取とかも。糖尿病は現在大変有病率が高い疾患なので、行政・企業・医療従事者が注意しろ!予防しろ!とギャーギャー言ってますが、それでも全然減る傾向にありません。例えば子宮頸がんはギャーギャー言われて減少しています(註1)。これは特にWHOが力を入れ、子宮頸癌検診が普及してこの種の癌の予防が進んだからです。日本では血糖値異常を含むメタボ健診と呼ばれる医療政策まで法制化されましたが、糖尿病減りませんね…

  • 註1:先進国の例外で日本では増えている。国の医療政策の失敗例。

糖尿病と食事の「内容」「食べ方」「順番」「適量」等の情報は書籍やサイトが山のように出てます。本にもなるくらいですから、この話はいくらでも書けますが簡潔にまとめると次のようになります:

内容炭水化物は少なく;食物繊維をたくさん;タンパク質も必要、でも油脂が少ないもの。食品の種類は多く、バランスよく。果物は注意。

食べ方1日3食決まった時間に食べる。食事を抜かない。良く咬んで、ゆっくり食べる。

順番食物繊維とタンパク質を先に食べ(註2)、炭水化物は最後。

適量腹8分目。ドカ食いダメ。アルコールは可、でも微量。(註3)

  • 註2:高齢者(65歳以上の方)はタンパク質・脂質を先に食べる、次に食物繊維。高齢者でない場合は先に食物繊維、次にタンパク質・脂質。
  • 註3:各自必要カロリーは年齢や性別、体格や身体活動量などによって変わる。計算できるアプリやサイトは多数あり。「糖尿病カロリー計算」で検索。

また、糖尿病治療の基本は食事療法と運動療法が医療の常識となってますね。毎日の定期的な運動、最低30分の早歩き散歩が理想的と言う事になります。この運動も、食後直後にできたら最高によろしい。筋トレとかではなく、有酸素運動。血行が良くなり、体内で溜まった老廃物の排出を促進し、骨密度をキープするし、良い事ばっかりです。まあ、サンパウロ市などでは下手に普通の道路などで散歩していると歩道の段差で足を捻挫したり、車やバイク便に引かれたり、犬のウンコを踏んだりと色々危ない事も多々あるので良く考えて実行に移さないといけないですけど。

『早い話、前述のような食事をして、運動もした生活をしていると2型糖尿病にはまずならんぞ、と言うことですな。』

反対に考えると、これらができない生活をしているから、我々は糖尿病を含む、ちょっと前までは「生活習慣病」と呼ばれる状況に至っている訳です。現実的には現在これを読んでいる読者様は今の生活、前述のようになるように改善できますか?このような生活をしている人はいないとはいいませんが、ごくごく少数でしょう。大多数ができない。したくてもできない。わかっていてもできない。わかっているけどしない。わかっていないからしない。このような世の中なので生活習慣病は減らないのだと、この筆者は愚考します。当たり前ですかね?

どのように血糖値が上がるとか下がらないとかインスリンが分泌されるとかされないとか、食事の仕方の解明、治療薬の開発などは「科学としての医学」です。このような科学の進歩はめまぐるしいですが、糖尿病が増え続けているのが現状です。元々このシリーズは「医術を考える」がテーマで始めました。医術は英語でmedical artと言います。アート。つまり芸術。医学は英語でmedical science。つまり科学。科学と芸術の違いは前者は「だれがおこなっても同じ結果がでるモノ」、後者は「各個人の感性により同一性が無いモノ」といえます。医術の場合は医学の知識を施術者(医者)の感性によりそれぞれ違う患者さんに使用する事であると思います。糖尿病の場合、それぞれの患者さんに合った治療方法を探るのもひとつ、生活習慣がよろしくないからこそ糖尿病になっている方のどのあたりを変えられるかを探るのもひとつ。それ以上に医術であるのは、すでに発症している患者さんや予備軍の患者さんを糖尿病になる(が悪化する)状態から「遠ざかる生活習慣を取り入れる気にさせる」手腕こそが医術ではないかと思います。

『医科学があっても糖尿病が減らない。今でこそ医術が必要なのでは。』


ブラジルの医療って危険なの?(後編)

By: Kazusei Akiyama, M.D.

Sunset at Guaecá. São Sebastião. Caju©2023


2023年11月

ブラジルの医療って危険なの?(後編)

前回に引き続き当地ブラジルの医療に関する疑問について真偽型の設問でひとりごとしてみます。

疑問:ブラジルで流通している薬は危険である

回答:「真」一般的に市販されている医薬品は当局の認可を受けたものであるので、例えば中国で流通しているような訳のわからない薬ではありません。しかし、用量が日本とは異なる事が多く、そのような場合は日本で使用する量の2倍またはそれ以上です。日本人種は欧米人種と比べて体格や代謝が異なるのでブラジルで使われる量は過剰になりやすいので注意が必要です。特に日本人種の女性(註1)は明らかに体格が異なるのでトラブルになりやすいです。このような事情があるので、「ブラジルで使用される薬は強い」といった話になるのです。

  • 註1:ここは「人」ではなく「人種」がポイント。つまり混血していない日系も同じ条件である。

対策:これは日本人種の特徴を理解している医療従事者にかかるしか対策のしようがないと思います。

 

『日本人種は薬の用量の違いだけではなく、ブラジルで実施された検査の基準値の相違もあるぞ。正常範囲と安心していたら、日本人種の基準値では異常値である事も臨床現場でよくみるぞ。』

 

疑問:ブラジルでは日本で使用されない薬を出される

回答:「真」最近日米では使用禁止になっている解熱鎮痛剤の一種のジピロン( 英語dipyrone,  ポル語dipirona, 商品名 Novalgina®) の副作用、無顆粒球症が広範囲に報道され、医療に関する不安材料になってます。認可制度などの違いからブラジルと日本で流通している医薬品は100%同じではありません。日本は1991年まで外資系の製薬会社の活動を制限していた歴史(註2)があるので、日本の製薬会社が開発した独自の医薬品が沢山あり、日本国内でしか使用されない薬が多い。ので、当地の医者側からしたら反対に日本では海外で使用されない薬を出されている事になります。

  • 註2:日本の薬事法により、1991年までは外資系は自由に日本市場で治療薬の販売ができなかった。日本の製薬業界のために市場閉鎖していたのだな。

対策:①日本で流通している治療薬を把握している医療従事者にかかり、投薬の調整をしてもらう。②前述のジピロンのように日本で使用されない薬を日本人種に投薬経験が豊富にある医療従事者にかかる。

 

疑問:ブラジルでは処方箋無しで薬が購入できる

回答:「真」これはブラジルの薬局が商売として倫理が甘いだけで処方箋薬を必要書類(処方箋)無しで販売しているからです。このような事情があるため、販売したら当局に処方箋を提出しないといけない治療薬の分類があります。そのため当地では処方箋は四段階に分かれ、使い分ける必要があります。詳しくは2022年9月のひとりごと(ブラジルには4種類も医療用処方箋があるのだ)をご覧ください。

対策:薬局で「自由に購入できる市販薬」ではない処方薬(正式名:医療用医薬品、ブラジルでは薬の外箱に赤、または黒い帯が印刷されており、”venda sob prescrição médica”と記載がある)は効き目が強かったり、副作用が強かったりなどで医療従事者(この場合は医師、歯科医師、獣医師)の判断が必須であるからこそ処方薬なのである。慢性の疾患なので服薬の継続が必要と、勝手に医薬品を購入し漫然と服用して治療になっていると思っている患者さんはいっぱいいます。『自己投薬行為(auto-medication)というヤツだな。註3』後進国によくみられる現象です。しかし実は病態が進行している場合も多くみられる。副作用で命に関わる場合もある。伊達に処方薬として流通しているわけではないので、ちゃんと医療従事者の判断(診察)を受ける事が大切と考えます。

  • 註3:英語でself-medicationとも言われる。一般的には「市販薬」で行われるが(日本の例:薬局で売ってる風邪薬を飲む)、「処方薬」で行うのが危険(日本の例:以前医院で出た抗生剤が残っているのを飲む)。ブラジルの場合、勝手に入手できる処方薬が多数あるので、自分で勝手に治療しているケースが大変多い。

 

疑問:ブラジルでは日本語が通じる医療機関が多くて助かる

回答:「真」と「偽」の両方です。真の部分は「多くて」で、偽の部分は「助かる」です。当地は日本以外では一番たくさん日系が住んでいる国です。医療従事者ともなると日本の色んな奨学金制度で日本へ留学している方も多いです。なので、他の国と比べて圧倒的に日本語が通じます。日本の政府系の給付金や企業の助成金が出ている医療機関もあります。しかしこの筆者はこのような環境のため「助かる」部分が「偽」と考えます。日本語ができるイコール日本人種の特徴や日本人特有の文化や価値が理解できている訳ではないのが現状としか言いようがありません。前述の問題点に展開したとおり、医療の場合、「日本語が通じるだけ」 では不十分なのです。

対策:医療従事者や医療機関を選ぶ時にはまず技術的な熟練度や設備の内容などを最重視し、その上言語的なコミュニケーションがスムーズにいけば言う事なしといった手順こそがよろしいのではないでしょうか?


ブラジルの医療って危険なの?(前編)

By: Kazusei Akiyama, M.D.

Watching waves. Fernando de Noronha. Caju©2009


2023年10月

ブラジルの医療って危険なの?(前編)

今月は4月に開始した「我々人類の将来を脅かす糖尿病」のひとりごとは一休みです。最近当地の駐在員社会の中で「医療事故で死亡した件」の噂が出回っている事、コロナ禍が一段落したためサンパウロにも新規の赴任邦人が増えてきている事、等を踏まえて今回は当地ブラジルの医療に関する疑問について真偽型の設問でひとりごとしてみます。

まず、次の表に日本とブラジルの医療の違いを示します。これらの差異をふまえた上で、設問の回答をご覧ください。

疑問:ブラジルの医療は危険である

回答:「真」まず、医療自体が危険です。医療は元々病気を治したり、病気にならないような措置をしたりして人間の役立つのが存在意義です。しかし命を扱う業務なので、一番命に関わる仕事なのです。なので、措置を失敗すると医療事故という事態になり、その内最悪が「医療事故による死亡」です。米国の統計では年間44000人〜94000人の医療事故による死亡があると試算されてます。日本では年間100〜150人といった数字があります。この数字の開きは法律的な「医療事故・医療事故による死亡」の定義の違いや医療制度の違いによるもの(註1)ですが、確実に医療事故といった事故はありますし、それによる死亡も存在します。ブラジルの場合、さらに危険です。当地の社会のすべてにおいてピンとキリの間がとてつもない距離があるのはこのコラムの24人の読者様もよく承知されておられるとおもいますが医療に関しても同じです。医師・医院・病院を標榜していても最低限のサービスすら保証がありません。ブラジルでは医師国家試験がないので、医学部を卒業したら医師を標榜できます。また、2013年に労働者党政権下で始まったPrograma Mais Médicosという「ブラジルの医療が行き渡らないのは医師不足である」と言う誤った見解(註2)を元にした政策があり、”医師不足を補う”ため、医師免許すら持っていない外国人や海外の医学部に通学したブラジル人が医業をしている状態です。

対策:①医療従事者の出身校、専攻など学歴をチェックするのは必須。医療機関に関しては、どこの学派であるかや雇用規準を把握する事は必須。②一番の宣伝は口コミといいます。回りの人達の評価は非常に重要です。

  • 註1:米国は多すぎて日本は少なすぎると考える。定義や制度の違いもあるが、それ以前に訴訟文化の違いがあるのでは?
  • 註2:ブラジルの人口に対して医師の絶対数が不足している訳ではない。都会では医師が溢れ(サンパウロ市だけで在住医師が4万人強いる)地方では過疎地が多い。また、意外と大都会の郊外にも医師過疎地が存在する。これは主に治安が悪いため、医師が定着しないのが一番の原因とされている。地方の医師過疎地は医師(とその家族)が安定して定着できる政策が無いため。

 

疑問:ブラジルの医療の手技は低度である

回答:「真」全体的にはレベルは高いとは言えないと思います。特に都会と地方の差は大きく、なかなか差が埋まりません。ラテンアメリカ最大級のサンパウロ大学医学部付属病院の周辺には地方から来た救急車や自治体の車両が何十台も見かけますがこれらは田舎から高度医療を受診に来る患者さんの搬送なのですね。また、サンパウロ市のような大都会でも地域差が大変大きい。加入している医療保険の善し悪し(高額・低額)で使用できる医療機関の差が顕著にあります。一般的に公共医療のほうがレベルが低いと思われがちですが、これらに採用されるには一応公務員試験があるので一定レベルの担保はあると思います。かえって安い医療保険で利用できる医療機関こそがレベルが低いです。理由はそのような所に採用されるには試験はなく、雇用側が提示する報酬(低いのが普通)を承諾する者が採用されます。この状態はさらに酷くなるのは間違いありません。前問で出ている医者を増やす政策で無尽蔵に医学学校の設立が2002年以降行われたため、2022年時点ではブラジル全体に334校あります(註3)。医学教育に必須の病院が無い市町村にも医学校があります。最近では入学試験すらない学校も出てきてます。ろくな教育を受けていない”医師”が溢れるのは特殊な計算をしなくてもわかりますね。しかし、ピンキリの上の方は日本でも一般的でない高度な施設や教育・訓練を受けているので良い所さえ選択すれば世界的にみても何処にも引けを取らない環境です。

対策:前問と同じ。

  • 註3:ブラジルの医学校数:2002年頃に約120校、2012年頃に約140校、2022年に334校。ちなみに現在、日本82校、米国184校、インド348校。ブラジルより医学校が多いのは世界でもインドのみであるが、人口は約7倍の国であるのでブラジルが異常に多いのがわかる。

 

疑問:ブラジルの医療報酬は高すぎる

回答:「偽」表でも示しているとおり、医療のやり方が異なるので一概に日本と比較できません。まず3分診察でないので時間をとった診療である事。自由診療で受診すると10割請求されますので1割請求とは額が一桁違う事。日本では診察費以外に管理料、電話相談料、基本料、時間外料、文書作成費など色々加算がありますが当地の場合の医療費はコミコミが普通といった点が違います。また、医療機関により報酬額が自由に設定できるのもブラジルの特徴です。

対策:良質な医療保険を利用できるようにする。


糖尿病治療で医術を考える(IV):どんな薬で糖尿病を治療するの?

By: Kazusei Akiyama, M.D.

Coccinellidae. São Paulo. Caju©2021


2023年9月

糖尿病治療で医術を考える-IV:どんな薬で糖尿病を治療するの?

さて4月に開始した「我々人類の将来を脅かす糖尿病」のひとりごと第4弾です。今回は治療薬について考えていきます。1回目の「糖尿病とは」で書いたとおり、この疾患そのものは紀元前の文献に記載があるようにかなり昔から存在を知られてました。しかし、糖尿病の病理機序の確定は約100年前と比較的最近です。1921年にBantingとBestによるインスリンの発見により、どの物質がこの疾患と関係しているかが判明し、薬物的な治療方法の方向性ができたと言えます。

そこで、インスリンを投与する治療方法が始まった訳ですが、いくつか大きな問題がありました。インスリンは生体内で作られるホルモンです。まずどのようにしてその生体物質を確保するのかでした。100年前はこのホルモンを合成する技術はなく、哺乳類の膵臓から抽出するしかなく、1922年に牛から抽出されたものが初めて人に投与され、以降、豚、牛、鯨等のインスリンが製品化され、1型糖尿病患者が生存できるようになりました。しかし、動物由来の製品はアレルギー反応や作用面で問題点が多々ありました。1980年代にインスリンを合成できるようになり、先ず豚インスリンから人インスリンを合成する技術、そして大腸菌や酵母などに遺伝子組み換えをしてヒトインスリンを大量生産できるようになりました。

ヒトインスリンが使用できるようになってアレルギー反応は激減したのですが、インスリン特有の作用面の問題点は解決しません。インスリンは体内で持続的に分泌されて、生理的な状況では空腹時や食間で肝臓で糖新生やグリコーゲン分解を調節するための「基礎分泌」と食後糖代謝する「追加分泌」の2パターンになります(図)。

図:インスリン分泌パターン

『インスリンを投与すると即効で作用するので、このような生理的な状況を再現することは困難なのだ。』

さらに、インスリンを投与するには注射が必要で、昔は使い切りの注射器+注射針がなく、滅菌消毒したものを繰り返し使用してました。インスリンは瓶に入っており、それを注射器に吸い取り、投与する単位を合わせ、空気を抜き、注射針を交換してようやく打てるといった面倒な作業を1日に何回もする時代でした。また、だれが注射するか法律的に制限があり(注射業務は医療行為である故)、自己注射が認められたのは1980年代に入ってからです。

これらの問題点から、「簡単に自己注射でき」、「生理的な作用をするインスリン」、さらに元々注射をしないといけない治療方法ではなく、「経口投与できる治療法」が開発のテーマとなりました。最近は簡単に自己注射できるペン型の糖尿病治療薬、持続効果がある持効型溶解インスリン、即効性の超速効型インスリン、経口血糖降下薬、インスリン以外の注射薬が薬物療法を支えています。未来に目を向けると、血糖値の状態で自動的にインスリンを投与するシステムや膵臓の細胞を修復する幹細胞治療や細胞増殖、移植などの再生医療が有望です。

『それでも、「糖尿病はならないのが一番」であることは変わりないぞ。』

糖尿病の治療原則は「食事療法」、「運動療法」、「睡眠、休養、ストレス管理」などの生活習慣改善にプラス薬物療法を必要に応じて投与する、です。今回は先に薬物療法の薬を羅列します。

インスリンは1型糖尿病患者では必須の治療薬ですが、2型でもインスリン分泌低下例には経口血糖降下薬に持効型インスリンを追加して基礎インスリンを補充する治療法(BOT、Basal supported Oral Therapy)もあります。インスリンの種類は”効果の速度”により分類され、名称のとおりで5種類あります:超速効型、速効型、混合型、中間型、持効型。インスリンの副作用はアレルギー以外は基本的に低血糖であり、そういった点ではわかりやすい(副作用を警戒しやすい)薬剤と言えます。

経口血糖降下薬は特に2型糖尿病に有用で、基本的には先ずこの種類の投薬から始めるのが原則です。2型糖尿病の病態は「インスリン分泌機能低下」と「インスリン抵抗性増大」のいずれかあるいは両方によって「インスリン作用不足」がおこり、食後高血糖、空腹時高血糖が現れます。高血糖が持続する事により、「糖毒性」状態がさらに病態を進行と悪化させる悪循環がおこります。したがって、治療薬はどのような病態があるのかを把握し、それら病態によって投薬を選択します。経口血糖降下薬は現在7系統あり、それぞれ作用機序が異なります。

表:経口血糖降下薬の作用機序と副作用

分類

作用機序

副作用

ビグアナイド薬

インスリン抵抗性改善、肝臓での糖新生抑制

腎機能低下、胃腸障害

チアゾリジン薬

インスリン感受性改善

浮腫

DPP-4阻害薬

インスリン分泌促進、グルカゴン分泌抑制。インクレチン関連作用

便秘

SU(スルホニル尿素)薬

インスリン分泌促進

遷延性低血糖(註1)

速効型インスリン分泌促進薬

インスリン分泌促進速効型

低血糖

αグルコシダーゼ阻害薬

炭水化物の吸収遅延

腹部膨満、放屁

SGLT2阻害薬

腎臓でブドウ糖の再吸収抑制

脱水、ケトーシス、尿路・性器感染症、皮疹

インクレチン関連注射薬はインスリン以外の注射薬です。GLP-1受容体作動薬やGLP-1アナログと呼ばれます。食物摂取すると小腸でGLP-1が分泌され、そのホルモンが膵臓に作用しインスリン分泌を促進し、グルカゴン分泌を抑制します。この点はDPP-4阻害薬に似てます。その他中枢神経系を介する食欲抑制、胃排泄遅延、心保護など膵臓以外にも作用があります(註2)。副作用は悪心、胃食道逆流、便秘など消化機能の遅延と関連するものや体重減少があげられます。

  • 註1:糖質摂取により血糖値がいったん上昇しても30 分ほどでふたたび低血糖が生じる。
  • 註2:体重減少もあり得るので、ブラジルではオフラベル(適応外使用)であるがやせ薬として乱用されている。非常に高価なので、金持ちしか使えないが。

『経口血糖降下薬は3剤まで併用できる。各薬剤の作用機序は医科学的に判明しているが、どの組み合わせが個々の患者さんに有用なのかを判別し、処方するのが医術であろう。』

次回は糖尿病の治療原則である生活習慣改善について考えてみます。


糖尿病治療で医術を考える(III):どうして人類は糖尿病になるの?

By: Kazusei Akiyama, M.D.

Full of Arts and Thoughts. São Paulo. Caju©2018


2023年7月

糖尿病治療で医術を考える(III):どうして人類は糖尿病になるの?

さて4月に開始した「我々人類の将来を脅かす糖尿病」のひとりごと第三弾です。三回目は人類を脅かす糖尿病にどうしてその人類は罹患してしまうのかについて考えていきます。前回のまとめは血糖値が高い状態が継続すると身体全体に色々な合併症に発展するでした。この状態のため、結果として後戻りできない病気になってしまいます。病気になった本人の生活の質を下げるのはもちろん、とてつもなく医療資源を消耗する「だれも得しない人間」になってしまいます。

第1回目で展開したように、糖尿病はインスリンの扱いが故障した状態が引き起こす病気で、インスリンが「絶対的」に不足している場合と「相対的」に不足している場合に大きく分けられます。この絶対的不足というのが1型糖尿病と分類され、国や人種によりますが糖尿病の5〜10%をしめます。日本では人口の約0.1%がこれにあたり、有病率は11万人くらいで、10万人に10〜15人程度と計算されてます。これらは自己免疫疾患であったり、原因不明の突発性であったりするので、「なるような生活をしてる」や「なりたくてなる」ものではないのでなかなか予防する事が困難です。なので、理論的には予防できる糖尿病の90%以上である2型糖尿病にどうしてなるのかを考えていきます。

以前にもここでひとりごとしたとおり、我々人類は哺乳類としての進化の結果です(註1)。地球上で存在する生物のうち「支配する存在」になったのは色んな能力を得た成果であることは間違いないでしょう。かくいう能力の一番の進化は文字で自身の感覚や経験・体験を表現できるようになり、その積み重ねで知識そして知恵、文化と文明を作った事でしょう。進化とはもちろん如何に生き残り、子孫を残すことができるかに要約できるのではないでしょうか?つまり如何に死滅しないか。これにかかっていると思います。人類を含む哺乳類が昔から死滅する原因は「餓える」、「感染症にかかる」、「事故にあう」、「殺される」です。我々は上手いこと餓えをしのぎ、感染症をのりこえ、事故に遭わないようにする、または外傷から快復する、そして捕食・殺されないようにしてきて子孫を残してきた先祖の子孫です。

餓えないようにするには、如何に食用になる物を認知でき、それを入手し、そして食べた物を栄養やカロリーとして体内にため込む事ができるかにかかっています。なので、カロリー効率の良い甘い物、つまり糖が多い物を好み、摂取した物を蓄積できる能力、そして、蓄積しやすい脂質を好むように遺伝子レベルでなっている訳です。

外傷からの快復には簡単な例では止血能力のような有能な生体修復機能が必要であるし、感染症を乗り越えた個体は、優秀な免疫機能をもっており、外部からの病原体の攻撃を上手くコントロールできたからでしょう。これらの機能は外部からの脅威のみならず、生体内で起こる細胞や組織の変成にも対応(註2)できるまで進化してます。しかしこれらが作動不全になると、自己免疫疾患やアレルギー等が現れる反面をもっているのです。

  • 註2:例えばこの機能が正常に働かないのが癌の原因。

事故や捕食を避けるには危険察知能力や危険に対応できる生体反応が秀逸であった事が生死の分かれ目になると考えられます。これらの反応はストレス反応であり、筋力や集中力が増加する事で、逃げたり戦ったりして危険を回避できたのです。ただし、これらはどちらかというと瞬発的な反応で、長期にわたる状況では害になるのです(註3)。現在は恐竜に捕食されるようなストレスは少なくなりましたが、反対に毎日ちょびちょび身も心も蝕む小出し恐竜に曝されるようになりました。

『なんの話や?全然糖尿病と関係ないやん、と思われるかも。しかし大ありなのですな。』

自己免疫疾患でもある1型糖尿病はインスリンが分泌されない故障ですが、インスリンが不足したり、細胞が糖を取り込む能力が低下したりする2型糖尿病とは関係あるのです。甘い物を取り過ぎる、または最終的に糖になる炭水化物を沢山摂取すると、相対的にそれらを代謝するインスリンが不足するのは簡単にわかりますね。脂質が多い食事を続けると、体内に蓄積され、脂肪細胞になります。これもわかりやすいですね。さらに、消化しきれなかった余計な炭水化物も最終的には脂肪に変換され、蓄積されます。これが脂肪細胞肥大化という状態を引き起こし、細胞のインスリン感受性と関係のあるアディポネクチンと呼ばれる物質が低下し、インスリン抵抗性が出現するのです。暴食には暴飲もつきものですが、酒の主成分のエタノールもインスリン抵抗性に直接関係があることも判明してます。過度のエタノール摂取は脳にあるホルモン分泌を司る視床下部にも炎症を起こし、血糖値センサーとして働くプロスタグランジンと呼ばれる物質の分泌が妨げられ、血糖値が下がらない状態になります。また、脂肪細胞からレプチンと呼ばれる食欲を抑制するホルモンがでますが、エタノールはこのホルモンを減少させる効果があるので、暴食に至るわけです。

さらにストレスも血糖値を上げる効果が満載です。ストレス反応の最もたるものが、危険を回避するため身体を鼓舞する機序です。アドレナリンなどは心機能を増強し、コルチゾールやグルカゴンが血糖を増やし、 人体の力や認知の可用性を高めます。第二回目で見たように、血糖値が一時的に上がるのは問題ないですが、ストレスが続くと高血糖が持続するのですね。

『2型糖尿病には「過ぎる」からなると言えます。飲み食いしすぎる。太りすぎる。心を病みすぎる。そして、口に入れる物を気にしなさすぎる。流行り物に流されすぎる。世の中は「消費者が喜ぶ物」をこの手あの手でどんどん出してきます。喜ぶものとは「甘くて、脂っぽくて、心が安らぐ」モノです。宣伝します。流行にします。この点は進化の最たるもの、「知識の伝達」が悪用されているのではないでしょうかね?』

次回は糖尿病の治療について考えてみます。


糖尿病治療で医術を考える(II):血糖値が高いとダメなの?

By: Kazusei Akiyama, M.D.

Sunrise. Oita. Caju©2023


2023年5月

糖尿病治療で医術を考える(II):血糖値が高いとダメなの?

さて先月開始した「我々人類の将来を脅かす糖尿病」のひとりごと第二弾です。二回目は糖尿病の特徴であり診断基準である高血糖とは何かについて考えていきます。前回のまとめは糖尿病とは体内でインスリンの扱いが故障した状態でした。この状態のため、結果として体内のブドウ糖の血中濃度が上がる、それが「高血糖」と呼ばれる状態になるわけですね。血中のブドウ糖が「余っている」ので、それが溢れて尿に出てくるのがこの疾患の名前の由来ですが、余っているのは不足していないから良いのではないか?といった質問もでます。確かに、不足している状態は低血糖と呼ばれ、命に関わる危険な状況ではあります。低血糖はいわゆるガス切れの一種ですから、生命を維持する事ができません。しかしどちらも人体にとってよろしくありません。わかりやすく言うと、ブドウ糖が不足すると「すぐに」死に至り、余ると「時間をかけて」死にます。

では高血糖がどのくらい続くと身体に良くないのかといった質問になります。もともと食事をする事により、炭水化物が消化・代謝され、血中のブドウ糖濃度が高くなるのは我々生体としては想定内なので、健康であり普通に食事していればまったく問題がありません。インスリンの扱いが故障しているため、高い状況がずうっと継続するのが問題を引き起こすのですが、これは二つの結果をもたらします。ここで思い出さないといけないのが糖尿病の高血糖は糖分の取り過ぎで糖が多いのではなく、糖を消費できていないからです。つまり、糖尿病に罹患している人は身体の細胞内に糖が取り込めていないので、「細胞が餓えている」わけです。食べ物がいっぱい並んでいるショーケースをお腹を空かせて外から眺めている通行人みたいなものです。これが一つ目の問題。

『フードロスで食べ物がいっぱい放棄されるのを空腹で見ているような状況ですな。』

二つ目が糖尿病の結果としてブドウ糖の濃度が高い状態が続くと引き起こされる問題です。前出で一時的に高くなっても問題ないと書きましたが、反対にずっと高いとその負荷に耐えきらなくなります。例えば輪ゴムを引っ張ると、元に戻りますが、ずっと引っ張っているとしまいに収縮能力がなくなってしまいますね。また、ブドウ糖が「ずっとその辺に居てる」事で普段長い時間それらと接触するのが慣れてない、設計されていない細胞や組織に損傷が現れるようになります。

『配偶者実家に時々行くのは問題ないけど、同居になるともめるのと同じですな。』

このコラムの24人の読者様もご存じのように、食べ物の腐敗を防ぐ手立ての一つはシロップ漬けなど、砂糖を大量に入れる方法です。これは高濃度の砂糖液を使う事で、浸透圧の高い環境をつくり腐敗の原因となるカビや細菌が生存できないようにするのですね。高浸透圧は細胞膜を持っている生物にとって大変な脅威なわけです。糖尿病では早い段階では身体が高浸透圧にさらされ、時間が経つにつれていろんな細胞の変性や代謝の故障が起こっていき、しまいに「糖尿病合併症」になっていきます。

合併症は複数の場所や臓器に現れますが、主にに血管性の病態であり、微小血管性と大血管性に大別されます。血管障害は次のような発生機序が関連します:

  • タンパク質の糖付加による変性
  • 超酸化物の産生
  • 血管の内皮機能障害が現れ、もろくなる
  • 組織の炭水化物代謝異常がおこり、ソルビトール蓄積がおこる
  • 血管に炎症誘発や血栓誘発がおこり、動脈微小血栓などが現れる
  • 大血管に動脈硬化が現れる
  • 高血圧および脂質異常

糖尿病合併症は多岐にわたりますが、三大合併症と呼ばれるのが「糖尿病網膜症」「糖尿病性腎症」「糖尿病性神経障害」です。これらは基本的に微小血管性の合併症です。大血管性では「虚血性心疾患(狭心症や心筋梗塞など)」、「脳虚血性発作、脳卒中」、「末梢動脈疾患」を引き起こします。また、免疫機能不全も主要合併症といえ、これは高血糖が細胞性免疫に影響し、白血球の機能に悪影響を及ぼすためです。

糖尿病網膜症は網膜毛細血管が損傷する(註1)のと黄斑浮腫による視力障害で、最終的には失明に至る可能性があります。日本人の統計では糖尿病患者の約15%がこの合併症の診断があり、日本では約140万人です。50歳代以上の糖尿病患者では約30%にのぼり、年間3000人が失明し、先進国では失明の原因の一位か一位に迫っているです。

  • 註1:初期は単純網膜症(微小動脈瘤)、後期は増殖性網膜症(血管新生)。

糖尿病性腎症は先進国で慢性腎臓病の第一の原因です。腎臓の毛細血管の損傷のため、腎不全に至り、最終的には人工透析が必要になります。日本では人工透析を受けている患者の4割が糖尿病性腎症が原疾患です(図1)。人工透析が定着したため、糖尿病患者の生存率が改善しました。しかしこの措置は顕著に生活の質を低下させる他、国家予算としての医療費を圧迫します(註2)。腎不全やネフローゼ症候群が生じるまで無症状なので、現在国を挙げて糖尿病性腎症の重症化予防のプログラムが方々で行われてます。最近の血液検査では、クレアチニンという腎機能の検査項目を採った場合、eGFR(estimated glomerular filtration rate推算糸球体濾過量)といった腎機能の数字が提示されるようになったものその一環です(註3)。

  • 註2:日本では人工透析に係る医療費は1人月額40万円の試算。
  • 註3:eGFRは「推算」であり、計算値である。ブラジルで使用されている計算方法は日本で使用されているものとは違い、あっていない。日本式より高くでる(低いほど腎不全)。したがって、ブラジルの数値で正常範囲でも日本人種には異常値域である可能性があるので注意が必要。

図1:日本における透析導入患者の動態。

日本透析医学会の「わが国の慢性透析療法の現況(2021年現在」より転載。

糖尿病性神経障害は血管障害による神経組織の虚血、高血糖が神経細胞に及ぼす直接的な影響や神経機能を障害する細胞内代謝変化が複雑に絡み合った結果です。日本の統計では糖尿病が10年経った時点の発症頻度は30〜40%と頻発し、現時点で日本人の350万人程度が罹患している計算になります。神経障害で一番多いのは「対称性多発神経障害」で手足の末端に障害がおこります。痺れたり、異常感覚であったり、知覚の麻痺があったりします。これら以外の神経障害は、自律神経、脳神経、単神経、神経根などにあらわれます。

『合併症は一種類あれば、その他にはならないと言うわけではない。糖尿病合併症は症状が現れた時点では損傷の起こった組織や臓器は後戻りができない。糖尿病で一番重要なのは「予防」!合併症の予防もさることながら、ならないようにする予防、これが一番大事である。』

次回はどうして人類は糖尿病になるのかを考えてみます。


ブラジル医療事情:電子処方箋の扱い方

Sailor. São Paulo. Caju©2015

By: Kazusei Akiyama, MD


ブラジルの医療事情(8)ー 「電子処方箋の扱い方」

当地では以前より遠隔医療の整備が議論されてきてました。コロナ禍がこの整備を一気に加速させ、その一環として電子処方箋が普及してます。電子処方箋には医師の電子署名が付与されますので、法的に直筆署名の処方箋と同じ法的効力があります。ブラジルには四種類も医療用処方箋がありますので、その特徴などはこちらをご覧ください。

現在、CFM(Conselho Federal de Medicina, 連邦医師評議会)のアプリを始め、memed、eleve、HiDoctor、Receita Digital、Doutor Prescreve等、色んな企業が参入してます。当院でもオンライン診察などで使用しているmemedを例に電子処方箋の利用方法を説明します。

電子処方箋の名称:ポルトガル語では「Receita Digital」、発音は「ヘセイタ・ジジタウ」、または、「Prescrição Eletrônica」、発音は「プレスクリソン・エレトロニカ」。

電子処方箋は携帯電話(スマホ)に送信されます。ご利用いただくには、お名前以外に、

  • 「SMS受診可能なブラジルの携帯電話(スマートフォン)番号」
  • 「CPF、ブラジル納税者番号」
  • 「住所(2毎綴りのReceita Controle Especialを発行の場合必須)」

のご用意が必要です。パソコンに電子メールとして受信する事も可能ですが、どのみち携帯電話番号は必須です。パソコンで受信した場合、処方箋を印刷する必要があります。

以下の図が携帯電話画面です。

 

医師が処方箋を発行すると、患者さんの携帯電話SMSアプリに次のメッセージが入ります(図1、図2)。

図1

図2

 

初めて使用する場合、承認確認画面があります。Aceitar e continuarをクリックして続けます(図3)。

図3

 

無料アプリのため、広告が出てきます。この画面は右上ペケで閉めます(図4)。

図4

 

処方が出てきます。ここでは医師や患者の名前が保護され表示されません(図5)。

図5

 

画面の「Desbloquear dados」をクリックすると、ユーザー確認画面が出てきます。ここで、現在使用している携帯電話番号の下4桁の数字を入力し、「Autenticar」をクリックします(図6)。

図6

 

医師と患者の名前が出てきます(図7)。

図7

 

画面を下にスクロールすると、QRコードが出てきます。これを薬局に提示する方法もあります(図8)。

図8

 

携帯電話を薬局に持参したくない場合は、処方箋を印刷して提出する事もできます。図8の「Baixar receita」をクリックすると印刷用処方箋が出てきます(図9)。

図9

 

抗生剤や抗うつ剤など2通のContole Especial処方箋の場合はこの印刷用が出てきます(図10)。

図10

 

以上が秋山一誠診療所発行の電子処方箋の扱い方です。不明な点はお問い合わせください。(電子処方箋発行アプリmemedの画面は2022年8月現在のものです)