我々人類の病気も進化のたまものなのだな

By: Kazusei Akiyama, MD


Summer cloud. São Paulo. Caju©2009

2010年05月

今月のひとりごと:『我々人類の病気も進化のたまものなのだな』

病気の原因や成り立ち、それらが起こる本質を人類の進化の上で考える「進化医学」があります。1990年代の初頭より提唱され、去年のWHOのサミット会議で視点が当てられ注目を浴びました。仮説ですが、病気の治療もさることながら、健康を保つ生活をする上でいろんなヒントを与えてくれる考え方なので筆者はとても好きです(註1)。

  • 1:色々書籍が出てます。興味のあるかたは「進化医学」で検索してみてください。

150年前にダーウィンが発表した進化論を簡単にいうと生物は生存と繁殖の成功をめざし、自然選択による進化として知られる過程の結果であるのだな。病気に対する体の反応はこれの一環であるし、この観点で考えると病気になりやすい状況を回避できるのでは?一番簡単な例は「腰痛」だな。人類は二足歩行するようになり、両手が空き複雑な仕事ができるようになったが、脊椎に垂直の力がかかるようになったため起きる腰痛も同時に手に入れた。つまり生物のなかでは一番高等な仕事ができる代価なのだな。これは普段の生活の中で常に腰痛になる要因が存在していることを示す。現在のように運動不足になると(椅子に座ることが多い=運動している時間が少ない)脊髄を支える筋力が低下することを示し、腰痛になる確率が高まる。もう一つ好きな例が「人類の祖先を生存させた能力が現在の環境では病気の要因になる」だな。ほ乳類の黎明期で死に至らす原因で主なものは:①餓死、つまりカロリー補給問題;②感染症、つまり寄生虫や細菌などの侵入;③捕獲される、つまり当時支配者の恐竜などに食べられてしまった;がある。う~ん。ひとりごとだぞ。仮説。それで、我々はこれらの問題をうまくクリアした個体の子孫であるわけだが、今の生活習慣病に関連しているのだな。食べられるものであることを認識する能力は人類の甘い物に対する愛が説明できる。甘いものほどブドウ糖が多く含まれており、大変効率の良いカロリーだから甘い物を好む選択が起こったのだな。摂取したものを蓄積する能力は食べ物にありつけない時期をやり過ごす能力に直結する。これはコレステロールを含む食事を好む説明(コレステロールは蓄積されやすい)や現在の飽食=カロリー余剰の状況では必要エネルギーの何倍もの食糧が、効率よく吸収され、排出されにくく、蓄積される。これで肥満になるわけだな。だから予防するには反対方向に動く必要がある、つまりカロリー効率の低い食事をすることや摂取量を減らすべきことを示す。感染症は免疫などの能力が優れていた個体が生き残ったわけだが、現社会では先進国になるほどアレルギーや自己免疫疾患などの免疫系の病気が現出したのだな。その証拠に貧困国にいくほど寄生虫や細菌感染が多く、このような病気が少ない事実がある。免疫系が手持ちぶさたになるわけだな。あまりきれいにするとアレルギーになるぞ、ということですな。捕獲されなかった先祖は危険に対する察知能力や回避能力が優れていたわけだな。後者がストレス反応と関連し、その時代では逃げるためや戦うために筋力や集中力が増加したのだ。これが現代になると捕獲対象になるような生きるか死ぬかのような大きなストレス要因はなくなったが、永遠とつづく毎日の小さなストレスにさらされるように変化したのだな。元々瞬発力がでるようにする反応なので、長期にわたると故障してくるのだ。だから、ストレス要因に過剰反応していると故障を早めることになるのだな(言うのは易し)。ストレスは感受性を弱める、ため込んだものは放出する、のが大事ですな。この理論からいくと、現代病の予防には「食べたい衝動を抑え」「ちょっと汚い(細菌学的視点)生活をし」「ストレスをため込まない」ことになりますな。皆さんいかがでしょうか?』

号外:「今年のインフルエンザウイルス予防接種は保健所でしたほうがよいと思う」

去年から大騒ぎになっている新型インフルは疫学政策やワクチン疑惑などいろいろありますのでまたの機会にひとりごとしますが、「ブラジルでは新型インフルのワクチンが足りなくなる可能性が高い」ので「現在行政が実施している予防接種を受けた方が良い」と考えられます。4月下旬の時点でメーカー在庫がありません。また仮に入荷するであろうと言われている5月下旬では、シーズンに間に合わないかもしれません。したがって現時点では保健所などで「妊婦」「6ヶ月~2歳児」「2029才の健常成人」「年齢を問わない慢性病罹患者」を対象に接種が実施されてます(5/7まで)。5/10以降は3039才の健常成人が対象です。実施場所などの詳細は情報公開されてます(註2)。