動物実験は悪なのだろうか?

By: Kazusei Akiyama, MD


2013年12月

今月のひとりごと:『動物実験は悪なのだろうか?』

筆者宅には16歳になる老犬が居ります。上の写真の犬ですね。プードルの雑種(メス)です。もう15年以上一緒に住んでるのですが、これだけ生活すると、犬の方もすっかり「自宅の習慣」がわかってます。筆者が着替えをしていると、服装で自分もお出かけするか判るのですな(註1)。初めの頃は靴を履いた時点で判明していたのですが、いつの頃か、服装で判るようになりました。犬の知能は人間の3歳から4歳の子供と同等と言われます。ということで、芸を仕込んでみましたら(もちろん若い時の話しです)、色々出来るようになりました。一番感心できる芸は外出から帰った時に足を拭く「アシ」コマンドです(註2)。とても重宝しているのが自宅や診療所の従業員の雇用面接です。本犬が嫌った人は仕事が続かない事実があり、最近は面接の必須要員になってます(註3)。筆者の犬の場合はこの様な生活に組み込まれてますが、一般的にペットは家族の中で役割があり(註4)、情が移りますよね。ここまで書いたのは、今回のひとりごとは動物実験と動物愛護運動について少し考えてみたいからです。

  • 註1:犬を飼っている22人の読者様は珍しくもないでしょうけど。
  • 註2: まず前を向き、ハーネスを外し、顔を拭く;次に「オテ」、「オカワリ」で前足を拭き、「アンヨ」で左後ろ足を上げ、「ハンタイ」で反転してから右後ろ足を上げるコマンドです。
  • 註3: 犬は人間が捉えられないエネルギーが判るそうだが…
  • 註4: 一番多いのが「単にカワイイだけ」かな?

『実はウチの犬は幼少の時に殺処分になることろを引き取ったのだな。なので、赤ちゃんの時に家に来たのではなく、何時生まれたのかもはっきりしない。当初は怯えたり、言うことを聞かなかったりで大変だったが、元々頭は悪くない個体なので、その内、筆者宅は安住の地であることが判ったようだ。殺処分は当地では市役所の役目であるが、すぐに処分される訳ではなく、一応里親を募集する。それでも貰い手がつかない場合、処分になる、あるいは医学部や獣医学部の実験に廻される。そう、医学部の教育に犬は重要なのだな。外科の基本手技の習得には生体が必要で、こればかりは試験管だの実験モデルだのシミュレーションだのは役にたたない。 ブラジルの医学部は患者さんが豊富で外科などは手術実習がたくさんできるが、いきなり人間を開腹したりするわけではない。 ラットやカエルでは個体が小さいためこれも役にたたない。サルやブタなどが一番いいのだが、飼育が大変だし、学生レベルの腕では手術から回復するような事もしないし、犬が丁度よいのだな。結局手技実習のあと殺処分になる。(註5)。このような状況とは別に、薬剤などの開発に動物実験があります。この場合は実験の性質上、均質な個体が必要で、そのために飼育された動物が用意される(註6)。』

  • 註5: 筆者も四回生の時に単位(必須)を取ったぞ
  • 註6:「 ラット、マウス、ウサギ、犬(犬の場合はビーグル犬)、サル、ブタなど。

動物愛護団体などの運動では「動物実験は悪、即廃止」を訴えていますが、「すべて悪」なのでしょうかね?10月にサンパウロ州サンホッケ市にある動物実験施設が動物愛護者により実力行使のうえ侵入され、実験用のビーグル犬178匹が誘拐されました。この事件のため、この施設は閉鎖に追い込まれ、抗がん剤など開発中の新薬の研究10年分がパーになりました(註7)。動物愛護は必要だと思います。毛皮の問題、肉食になる畜産の問題、サーカスの動物問題、ペットの虐待や使い捨てなどより高度な人間社会を目指すには重要な議論点があるのは十分理解できます。しかし、医学や医療に関した動物実験はどうでしょう?愛護団体がいうように100%代替できるのか、筆者は疑問に思いますが。(註8)

  • 註7:ブラジルでは一番レベルの高い実験が可能な施設であったので筆者は残念に思う。
  • 註8:前出の事件ではラットは残されました。同じ実験動物なのに。愛護団体の理屈からいくと、保護の対象でしょうが。カワイイわんちゃんは「保護」され、可愛くないネズミはほっておく。この行為を偽善的であると思ったのは筆者だけでしょうかね?