接触しないとできない事もあるでしょ。

By: Kazusei Akiyama, M.D.

Miedou. Koya Town. Caju©2020


2020年7月

接触しないとできない事もあるでしょ。

ここのところ連続で恐縮ですが、またコロナ渦関連のひとりごとです。百年に一度の危機と広く認識される世の中ですので、話題には事欠きません。この原稿を書いている時、ブラジルでは新型コロナウイルス感染症死者数が5万5千人を超したところでした。1ヶ月前の2.5倍です。当地ではコロナ感染対策が明らかに迷走してますので、なかなか終息に向かう光景が見えないです。現在サンパウロ市では”感染率”Rt(註1)が約1なので、「増えないけれど減らない」状態です。今回は感染症予防対策として発出された「オンライン診察」に焦点をあてていきます。

『今更何故新型コロナウイルス感染症拡大の予防に「人と人が接触しない」のが重要か説明しなくても良いかと思うが、その不接触の方法の一つとしてパンデミックの初期から推奨されるようになった「遠隔医療」は初めは外出規制の緩和策の意味が強かった。接触云々より、外出規制のため出かけられない、出かけたくない、または感染を恐れるので医療機関を受診したくない人が目当ての応急措置、そして医療機関での院内感染予防や外来の待合等で人が密集するのを避けるための方策だったのだな。』

一時的な措置であることは、日本でもブラジルでもオンライン診察は「コロナウィルスパンデミック中の期間限定解禁」とされたことが一番の証拠です。この「解禁」という言葉がひとりごとのポイントになります。解禁と言うのは、「禁止されていたものを解くこと」なので、元々オンライン診察は医療行為としては禁止されていた訳です。今回のコロナ禍で人との接触を7〜8割削減するのも予防対策の一つで、テレワークやオンライン授業などの世の中になり、わざわざ出向かなくでもできる仕事がいろいろ判明しましたが(註2)、反面、現場に人がいないとできない事はなにかも判明したと考えます。医業は人間を診て、訴えは何か判断し(診断ですね)、処置する流れに完結します。いうまでも無く対面の対応が必要です。

  • 註1:正確にいうと「実効再生算数」または Rt(アールティー、Effective Reproduction Number)。感染者が平均して何人に感染させるかという人数。1以下でないと感染拡大が終息しない
  • 註2:現場に人がいないと成り立たない業種にまで8割削減とか要求し、その現場が疲弊したアホな国もありましたな。

しかし特に米国発信の遠隔医療推奨が最近10年ほどで強くなってきてます。遠隔医療(英語:telemedicine)とは情報通信機器を活用した医療に関する行為と定義されます。情報通信機器は簡単にいうと、スマホ、タブレットやパソコンなどの事です。医療行為は原則的に対面で行われます。医療行為の対象となる人間は各自心身の状態が異なり、話からだけでは診断は困難です。処置で例をあげると、オンライン手術って無理ですよね(註3)(註4)。この様な事情から、遠隔医療の進歩は正に言葉の狭義のとおり、距離的に遠い、僻地に医療行為をもたらす方法が勘案されてきました。一番良い例は、遠隔地で撮影した医療画像を専門医に送り、診断の助言を仰ぐ方法です。ブラジルでは医業を取り締まる連邦医師評議会(CFM、Conselho Federal de Medicina)が一旦2018年12月にオンライン初診を含む遠隔医療を認可しましたが、医療現場からの大反対で3ヶ月後に認可取消に至った経緯があります(註5)。日本では、医師法に「無診察治療の禁止」という項目があり、対面診察でないとこれに該当するとされてきました。しかし、5年ほど前から”事実上解禁”といった解釈の上、「スマホ診療」と呼ばれるITを駆使した医療サービスが出現するようになってきてました(註6)。

  • 註3:遠隔手術ではない。遠隔手術とは遠隔操作で行われる手術の事。
  • 註4:米国で近年発達しているtelemedicineは、対面診察をオンライン診察に変えるものです。彼の地では元々触診などあまりしなく、検査ベースの医療文化のため問診をビデオ通話で行うのに変更したと考えてもよいです
  • 註5:この認可には大きな経済的利権が動いたとされてます。
  • 註6:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO97275590V10C16A2000000/

『問題は「オンライン初診」だな。』

遠隔医療は次のように分類されます:

  • 1.遠隔健康医療相談:一般的な情報提供による医学的助言;相談者の個別な状態を踏まえた具体的診断は伴わない。
  • 2.オンライン受診勧奨:受診不要の指示や助言。診断や医薬品の処方等は行わない。
  • 3.オンライン診察:患者の診察及び診断を行い、処方箋発行などの診療行為を行う。

既に診察している患者さんはともかく、初めて見る人物をビデオ通話を利用しても初診する事は大変困難です。責任のある医師であれば、この3分類の内、相談と受診勧奨しかできないです。医師の診断手順には単なる話を聞くだけではなく、その話し方やちょっとした身体の動作・仕草、同席した家族の言動、あるいは患者の匂い等対面でないと不可能な感度が必要なのです(註7)。今回の「期間限定の解禁」はこの様な制約がある行為なので規制があったのが、政治的な判断で解禁された事実をこのコラムの24人の読者様によくご理解いただく必要があると思います。

『但し、オンライン診察全体を否定するものではない。筆者の診療所ではオンライン診察は医療の利便性を高めるものと位置づけ、数年前より「感染症患者が通院しなくても済む」ために実施している。初診で感染症の診断をした場合、罹病期間中はオンラインでフォローする運用方法だな。移動や待合の時間節約になるし、それ以上に治療が継続しやすくなる。体調不良や付き添いがない時でも受診できるので、頻繁なフォローが可能になり、経過を把握しやすいので病気の悪化を予防できる。さらに、外出しない事で周囲を感染させない、本人は他の病気の院内感染を防げる。(註8)』

感染症に対する運用以外では、慢性疾患で症状が安定している患者さんのフォローもオンライン診察でできると考えます。今回のコロナ禍で世の中のいろんなモノ・コトが確実に変革します。医療の仕方もその一つでしょう。限定期間が終わってもオンライン診察は無くならないと予想してます。医師側、患者側、どちらも賢く利用すればとても有用と考えます。医者に行かんでも薬がでると喜んでる方もおられるようですが、大変危険ですよ。オンライン診察ができるかどうかを先ず相談してみてください!

  • 註7:結構匂いで細菌性感染症の診断がつくのです。バカになりません。
  • 註8:オンライン診療は対面診療を補完するものと考えてます。急性疾患であれば初診と治癒確認の最終再診は必ず対面で行う必要があります。慢性疾患であっても、定期的に対面診察が必須です。
この原稿は2020年6月26日に執筆されたものです。