広告とは半信半疑で接しましょう。

By: Kazusei Akiyama, M.D.

Like a metal zipper. Osaka. Caju©2019


2019年12月

広告とは半信半疑で接しましょう。

このコラムの24人の読者様はフェルナンド・デ・ノロンニャ諸島(Arquipélago de Fernando de Noronha)はご存じですか?ブラジル東北地方のナタル市より360km東北東の大西洋沖合にある火山島郡です。世界で最も美しいとされるビーチ(Praia do Sancho)があったり、波が穏やかな時期はダイビング、反対の時期はサーフィンに適しており、2001年に世界遺産登録された、大変美しい島々です。観光するには入島税があり、少しハードルが高い観光地です。何故ノロンニャの話をしているかというと、自動車メーカーのR社がこの島の環境保護に参加しているとの広告を見たからです。「ノロンニャは世界でも類を見ない自然の聖域。何世代にもわたって保存するに値する所。環境保護は専門家だけではなく、我々も同調する義務がある。そのためR社はカーボン・ゼロ・プログラムに参加し、電気自動車を島に導入した。島で汚染物質がゼロになるために。云々…」といった内容の企業広告です。金をかけた画像にホロッとくるナレーションと楽曲、なんと素晴らしい企業の取り組み!と思いますよね。

『確かに、電気自動車は走行中に排気ガスを排出しない(註1)ので、CO₂排出がゼロであることは正しい。バッテリーに蓄えた電気でモーターを動かしているからだな。R社が設置した「充電スタンド」でバッテリーを充電するわけだ。しかし注意してみると、実はノロンニャで供給される電気の殆ど(92%)がディーゼル油を燃やした火力発電由来なのだな(註2)。従って、ノロンニャで電気自動車を走らせると動力源の電気を作るのに化石燃料が必要になるので結局CO₂排出ゼロでは無い。なので、「島で電気自動車を走らせると汚染物質がゼロになる」のははっきり言って「ウソ」です。元々CO₂排出ゼロ由来の電力供給が殆どの場所(例:水力発電=ノルウェー)や(例:原子力発電=フランス)で内燃式エンジンの車をやめ、電気モーターにすると確かにCO₂排出が激減する。しかし、石炭、石油、天然ガスなど化石燃料で発電している場所ではCO₂削減効果が期待できない(註3)。要するに、世の中エコロジーを謳うと先進的とか社会に貢献しているとかの流れになるからこの様なデタラメな広告を打つのだな。』

  • 註1:電気自動車を製造するにはCO₂排出がある。
  • 註2:一ヶ月約45万リットル使用。残り8%程度は太陽光発電。
  • 註3:日本では政府はガソリン車に代わりに全部電気自動車にすると約半分削減できると宣伝してるが、80%以上化石燃料、特に石炭を使用する発電方法のため、結局トントン、効果ゼロといった試算も存在する。

広告とは「商品・サービス・意見などの情報伝播活動」と定義されます。いろんな分類方法がありますが、商品やサービスなどの販促のための「商品広告」、企業や団体のイメージアップを図る「企業広告」、商業目的でなく個人や法人が政治問題や社会問題について主張する「意見広告」、健康や安全など社会啓発を目的とした「公共広告」に大別できると考えます。広告の根底にあるのは、各種広告の広告主の商品の販売促進や考え方に対する好意を獲得する目的ですね。消費者にとって魅力的に見せたり(商品・サービス、またはそれを提供する事業者)、発信者の意見が正当である事をアピールするため、ウソまでいかなくても「誇大広告」に至りやすいと思います。また、フェイクニュースのように始めから騙す意図の広告が多いのも最近の特徴ですが、これは今回取り上げません。

『ウソ(嘘)は真実に反する事柄の表明だな。ヨーロッパの古典的定義では「欺こうとする意図をもって行われる虚偽の陳述」(註4)で、一般的に悪い事とされるが、日本で存在する「嘘も方便」といった使い方もある。まあでも判断を誤らせる嘘は良くない。広告になると、フェイクニュースのようなもので無い限り、そこまでおおっぴらに嘘はつかない。しかし、本当でない事が結構ある。例えば、赤い色のモノを「青色です」とはやらないが、「青色ではないです」とやるわけだな。赤は青ではないので、嘘ではないが、赤ですと正確な事をいってるわけでもない。世の中を見回すと意外とこの手の広告が多いのだ。』

  • 註4:4世紀の思想者アウグスティヌスの定義。

医者として注意してもらいたいのが、健康に影響を及ぼすモノやコトを扱った広告です。最近なんと無責任な広告だと憤慨したのが当地で展開しているチョコレート店C社の”feliz hoje”「今日幸福」キャンペーンです。家族の絆や成功した喜びなど、色々幸福の元を提言するのですが、要するに「チョコ食べると多幸感が得られる、今すぐ(毎日)食べよう」といってる広告です。そんな食生活してると糖尿病になりますよ。また、子供に毎日チョコ食べるような食育してると大人になった時ろくな事になりませんね。食品に関する「嘘では無いけど広告」の代表的なのが、シリアルなどで「ビタミンや栄養素が強化のため添加されてます!」というタイプです。強化添加されてると、なんかされてないモノより良さそうに見えますよね。で、実際添加されてるので、嘘ではないのですが、実はシリアルを製造する加工によって「元々原料にあったビタミンや栄養素」が失われてしまうので、後から添加するのです。誇大広告に至りやすいのが最近流行の「特定保健用食品(特保)(註5)」や「機能性表示食品(註6)」などです(註7)。こう言った食品は健康に敏感な人が関心を示すので、その心を刺激する様な広告になりやすいのだと考えます。ネットで「特保 誇大広告」で検索してみると実物例などが記載されていて勉強になります。

『食品や健康食品の広告には「トク(ホ)に注意が必要」です!(笑え、シャレです)』

『食品や健康食品の広告は内容を鵜呑みにしないようにお願いしたいですね。』

  • 註5:生理学的機能などに影響をあたえる成分を含む食品。
  • 註6:特保と同じく保健機能成分を含むが、消費者庁の許可ではなく単なる届出がされたもの。
  • 註7:特保について詳しくはこちら厚生労働省の情報をご覧ください:https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/food/e-01-001.html