錯覚してますよね:新型タバコ編

By: Kazusei Akiyama, M.D.

Medetai. Year of Rat. Caju©2020


2020年02月

錯覚してますよね:新型タバコ編

このコラムの24人の読者様、どの様に初めての令和の新年を迎えられたのでしょうか(註1)?今月は「錯覚してますよね」シリーズの第5弾として最近ユーザーの増えている「新型タバコ」(電子タバコ、非燃焼・加熱式タバコ)に焦点を当ててみます。ユーザーが増えるとともに、最近話題に上がる事が多い新型タバコですが、まず定義から始めます。現在では「健康に悪い」と広く認知されているタバコ(註2)は大抵大量生産されている「紙巻きタバコ」(註3)の事を指します。また、消費の多い紙巻きタバコがタバコ製品では最も有害と推定されてます(註4)。この様な現状から特に先進国では紙巻きタバコの市場の減少が顕著であり(註5)、それにとって変わるビジネスを模索する動きが2000年代より見られてます。タバコ製品世界的大手のP社においては、「紙巻きタバコから撤退する(註6)」と逆手にとったPRまで打ち出してます(註7)。紙巻きタバコは健康に悪いんだ、ならばその代わりにReduced Risk Product(RRP、リスク低減製品)でニコチン依存ビジネスを継続すれば依存症になっているかわいそうな人達を救う事ができる!(註8)と閃いた訳ですね。

  • 註1:ある読者様に「新年号は明るく、めでたい話にしろ」と要望があったのですが、どうしてもネタが思いつかないので悩んでるうちに締め切りになってしまい新年号は休稿してしまいました…
  • 註2:健康に悪いという認知も広く浸透したのは結構最近だと思う。1980年代には健康被害に対する否定的な論調がかなり強かった。現在では避ける事のできる死因の3位とされる。
  • 註3:刻んだタバコ葉を紙で巻いてある、使い捨てのタバコ製品。
  • 註4:匂いや燃焼速度を調整するために「紙」が加工されている、香りを良くするための香料や依存性を高めるためや、煙を見えにくくするためや、刺激を低減するため等、いろんな添加物が加えられそれらが燃焼するため、単にタバコ葉の燃焼以上に健康被害がでると考えられる。
  • 註5:先進国ではないが、ブラジルは喫煙規制が大変上手くいった例であり、規制開始25年で喫煙率が男性が29%から12%、女性が19%から8%に低減した。
  • 註6:We’re Trying to Give Up Cigarettes(我々は紙巻きタバコを諦めようとしている)
  • 註7:前回ひとりごとした「広告は本当ではない」の例ではないか?紙巻きタバコを止めると言ってるけど、ニコチン供給デバイスビジネスを止めるとは言ってないからウソでは無いけど…
  • 註8:”Quitting smoking – or never starting – is always best. For those who would not otherwise stop, there are better alternatives than continuing to smoke.” (喫煙を止めるーまたは始めないーのが一番良い事です。しかしそれができない人達には喫煙を続けるより良い他の方法があります。筆者訳)といった部分も広告に見当たります。そんなに悪いモノだったら初めから売るなよ!

こんな世の中なので先進諸国で二種類のRRPが開発されました。その1:電子タバコ。英語ではelectonic cigarette (e-cigarette)、ポル語ではcigarro eletrônico (保健当局の正式名称はdispositivo eletrônico para fumar喫煙用電子装置)。その2:加熱式タバコ。または非燃焼タバコ。英語では、heated tobacco products, heat-not burn-tobacco ポル語では tabaco aquecido。この二種類を新型タバコと呼びますが、その使用方法や作用機序が異なります。

電子タバコはニコチンを含む液体(註9)を本体にセットし、液体を電熱で気化させ、蒸気を吸入します。マイクロプロセッサで電熱を制御するため、「電子」の名称が付きます。蒸気vaporからくるvapeヴェイプと呼ばれます。また、派生で動詞がvapingヴェイピングになります。加熱式タバコはタバコ葉を加熱し、ニコチンを含むエアゾル(分散粒子)(註10)を生成しそれを吸入します。普通のタバコのように燃焼しないので、煙が出なく、ニコチン含有の空気を吸ってる感じになります。メーカーは蒸気と言ってますね。

  • 註9:ニコチン以外には大麻の有効成分の一つであるTHCやメントール、果物の香料などが多い。
  • 註10:エアロゾルを簡単に言うと、気体あるいは固体の「空気中に漂う粒子状物質」。「霧」は気体のエアロゾル、「煙」は固体のエアロゾル。

 

『要するにどちらも「電熱式蒸気タバコ」だな。違いは「電子」が液体、「加熱」がタバコ葉を「熱して」いるところという事か。』

この新型タバコを喜んで使っている方達が挙げるメリットを次に示します:

  • 嗅覚や味覚を低減させない。
  • 口臭がタバコ臭くならない。
  • 歯の黒ずみがない。
  • 吸った場所がタバコ臭くならない。
  • 息切れがない。
  • タバコが原因の咳がない。
  • 火災の危険がない。
  • 吸い殻で環境汚染しない。
  • 受動喫煙がない。
  • タバコ喫煙と関連される疾患(肺炎、癌、心筋梗塞、慢性気管支炎、肺気腫、脳血管発作、血栓症、胃潰瘍、インポテンツ、その他)にならない。
  • 紙巻きタバコより安価(電子タバコの場合)。

 

『なんか良い事だらけの新型タバコ、に感じますよね。ネットを覧てると、”メリットしかない電子タバコの爆誕!”のような記事まであるな。煙出ないし、匂いしないので、堂々と喫煙できるぞ〜みたいな… それで、実際室内喫煙する、あ、じゃない蒸気吸入か、人が増えているらしい。”受動喫煙がない”という理由で。受動喫煙がないという考え方や広告はウソでしょ。煙が見えないだけで、大量にエアロゾルを排出しているのは既に証明されてるぞ。世界保健機関WHOは「受動喫煙者の健康を脅かす可能性があると考えることが合理的である」 との見解です。』

上記メリットは有害と広く認知されている喫煙をしたい人達が「そうであって欲しい」といった希望だと思います。事実タールは出ないので、臭いとか歯が黒ずむとかは削減しますが、疾患にならない?(なります(註11)、火災がない?(リチウムバッテリは火災になりますけど)、環境汚染しない?(吸い殻は無くてもカセットがでるでしょう)とクエスチョンマークがいっぱいの新型タバコです。メーカー自体、「有害性物質が少ない」といっているだけで、「リスクが低減された製品である」とは言ってないのです。「あくまで、健康懸念物質が低減されている…」と言った内容の説明です。Stephensが行った研究では(註12)有害性物質の低減が認められてますが、健康被害の低減につながる曝露量なのか科学的根拠はありません。また、ニッケルやクロムなど重金属濃度が紙巻きタバコより高い事が判明してます(電子タバコのデバイスが金属で構成されているから?)。医学界は新型タバコの使用は従来の喫煙と同じような危険性があり、推奨できないものとしてます(註13)。

『健康によさそうだと思って、新型タバコに替えたそこの貴方!従来のタバコと同じくらいニコチン出るようにできているので、満足感ありますよね。でもそれって、ブラジルで言う「6を半ダースと交換する」事になってませんか?特に日本では加熱式タバコが流行っているようですが、日本の規制は甘いですよ。公衆衛生に関する予防原則では「安全性が確認されるまで販売を認めない」のだが、日本のやり方を覧ていると「健康被害が確認されるまでは販売してもよい」だな(註14)。そして、今までの歴史からみると、「タバコ会社が真実を発信する」ということは信じられますか?』