たかがマスク、されどマスク

By: Kazusei Akiyama, M.D.

Clerodendrum thomsoniae. Genpeikusagi in Japanese. ©Caju 2020


2020年3月

たかがマスク、されどマスク

このところ、新型コロナウィルス(註1)で大打撃を受けている世界です。このコラムの24人の読者様は周りのご親族を含め、大丈夫ですか?このウイルスによる肺炎など病状や予防方法などは2月の始めより大量に報道されてますのでそれらについてではなく、予防に良いの不要だの世間を騒がせている「マスク」についてひとりごとします。

マスクとは人体の顔を覆うモノの事です。日本語では鼻や口を衛生または防御目的で覆うものを指し、仮装や芸術、儀式などで使用されるモノは「仮面」と呼ばれますが西洋の言葉では(英語maskポル語máscara)区別はありません(註2)。ウイルス感染を防ぐ為に有効であるとかないとか議論にあがっているのが衛生マスクの一種、サージカルマスクです。元々医療用に使用されていたのですが、日本では花粉症が増えるにつれ粒子吸入予防用として流通するようになり、SARSや新型インフルエンザの流行時に圧倒的に普及しました。日本では元から社会人のマナーとして風邪など上部呼吸器の病気になっているときに「他人に移さないように」マスクを使用する文化があります。昔からある「ガーゼマスク」ですね。木綿など(註3)の布でできており、肌触りがよく、内側にガーゼを重ねて利用し、洗って再利用できるのが特徴です。この日本人の風邪の時のマスク使用は世界中の人達から称賛され、日本文化の紹介などでよく挙がります。他人を思う心ですね。咳やくしゃみでバイ菌が入った飛沫を防いだり、本人の粘膜の保湿をしたりするには適してますが、布の目が粗いので外部からの物質をブロックするには向いてません。そこで花粉やバイ菌などを吸入しない為に「細菌濾過効率、BFE Bacterial Filtration Efficiency)」が高いサージカルマスクが普及したのですね(註4)。この「手術用マスク」は元は使用している人が唾液などを患者側へ飛散させない目的で開発されているものです(註5)。サージカルマスクのBFEは95%以上となってますので、内から外へ出ないのであれば反対も然りであろうという理屈で異物ブロックに有効と思ってみんな使ってる訳です。そこで今回のようなSARS-CoV-2の感染拡大でみんなマスクに走り、サンパウロまで売り切れ状態が続いてますがアメリカの当局や偉いお医者様などが「防御効果無し!不要!」と言ってるのでどうしたものか?迷う人達が多いのではないかと思います。

  • 註1:新型コロナウィルスはWHOによる命名で「2019-nCOV」(2019年発生のNovel Corona Virus)でしたが、2月11日に国際学会(International Committee on Taxonomy of Viruses – ICTV)によりSARS-CoV-2(SARSに関連するウイルスタイプ2) と正式名称がつきました。このウイルスによる疾病が「COVID-19」(Corona Virus Disease、2019年からの)です。報道をみていると名称が混在してますし、ウイルスを指す場合どちらかというと後者の名称を使ってるようです(が厳密には間違いですね)。
  • 註2:どのように区別するかというと、説明をつけます:「カーニバル用マスク」「儀式用マスク」「手術用マスク」など。
  • 註3:麻布や竹布もバージョンもある。麻は通気性にすぐれている。竹は消臭性や抗菌性がある。
  • 註4:布の様に糸を織ったモノだと目が粗くなるので、不織布と呼ばれるシート状の布でできている。
  • 註5:手術用マスクはいわゆる花粉対策用のと構造や素材が同じでも、長期間使用できるように輪ゴムではなく紐で結ぶようになっている。実際使って見ると装着感が全然違う。

『結論からいうと、「使用するに値する」と考える。確かにサージカルマスクは「防塵マスク」(註6)と比べると吸入防止の機能は劣る。元々装着者を守るために作られたのではないから。どれだけ粒子をカットするかという除去率はマスクの不織布の成績だけを見ると95%以上99%とかいった数字がでるが、人間の顔は凹凸があるのでぴったりといかない。なので実質の除去率は20%以下だな。しかし、これはゼロより大きい。また、元々装着している人が他人に飛沫を飛散させないためのマスクなので、「自分が感染源になるのを防ぐ」目的で使用するのに感染症拡大の場合意義がある。また、喉や鼻の粘膜を加湿するのでウイルスが付着しにくくなる効果も期待できる。従って、現在の日本の様にウイルス感染の市中感染がおこっているときは、外出する全員がマスクをすると「マスクの効果」が現れることになる。』

ただし、漫然とマスクをしておれば大丈夫という事ではありません。良い例が横浜に係留しているクルーズ船で感染した検疫官です。船内で作業するのに手袋とマスクを着用していたそうですが、同じマスクを繰り返し使ってました。外部からの物質をブロックするためのマスクですから、外側の表面にはウイルスが付着しているわけです。適切な扱い方をしないとマスク自体が感染源になりかねません。正しいマスクの扱い方をおさらいしてみます。今回のSARS-CoV-2だけではなく、感染症対策のため(例えばインフルエンザの流行時)にマスクを使う場合、やり方は同じなので是非この機会に知らない方は習得をお願いします。外出毎(註7)に新しく取り替えるのが理想的です。

  • サージカルマスクには表裏上下がある。耳かけが接着してある部分が裏(顔側)。針金が入っている部分が上。
  • 装着
    • *先ず、針金の中心を90度くらいに曲げる。
    • *曲げた部分を鼻に当てる。
    • *鼻に当てた状態で耳かけを引っ張って装着する。
    • *針金部分が鼻と顔に沿って密着するように形成する。
    • *鼻の部分を持って、下側を顎の下に引っ張り込む。
    • *装着中はマスクの表面を触らないようにする。
  • 脱着
    • *耳かけを持ち、片耳を外し、そのまま耳かけを持ちながら反対側も外す。
    • *耳かけを持ったまま、マスク本体は触らずにゴミ箱にすてる。

『2020年3月3日現在、日本では「屋内の閉鎖的な空間で、人と人とが至近距離で、一定時間以上交わる状況・場所を避ける」事が要請されてます。その他、うるさくいわれている「手洗い」「うがい」が重要です。「家に帰ったらする」のではなく、外出先でも機会があればいくらでも手洗い(註8)とうがいをしましょう。』

熱や風邪の症状のある方は、仕事休んで外出を控え、自宅療養をお願いします(註9)。新型コロナウィルス感染のため受診する目安は次のとおり(2020-3-3現在):

  • すぐに受診
    • 強いだるさ
    • 息苦しさ
  • 2日程度続く:高齢者、持病のある人、妊婦が
    • 37.5度以上の発熱
    • せきなどの風邪症状
  • 4日以上続く:上記以外の人、子供含むが
    • 37.5度以上の発熱
    • せきなどの風邪症状

 

  • 註6:N95マスクと呼ばれるカップの様なマスク等。これは粒子状物質の吸入防止に作られたものなので、モノを吸い込むのを避けるに関してはこちらの方がすぐれている。
  • 註7:外出時、人混みにいるときのみ必要。人が居ない場所を移動する時は不要。
  • 註8:手洗いで留意しないといけないのが、洗いのあとの手拭き。ペーパータオルを使用しましょう。タオルなどは(特に外出先)はできれば使わないほうが良いです。
  • 註9:COVID-19でないのに下手に救急外来行って、そこで移される可能性がある。あるいは感染していても軽症な場合は治るので下手に救急外来へ行き、感染源になるのを避ける。