見えるって、大事なんですね。

By: Kazusei Akiyama, M.D.

Ajisai. Osaka. Caju©2019


2019年11月

見えるって、大事なんですね。

最近米国のサンフランシスコ・エグザミナー紙に載った記事によると、米国下院議長のナンシー・ペロシ氏がスタンフォード大学病院を相手取り裁判所に訴えを提起しました。争いの理由は「この病院で夫が出術を受けた後、完全にセックスに関心を無くした」です。これを受け、病院側の広報のコメントは「彼女の夫は白内障手術のため入院しました。当院でした事は彼の視力を直す事だけでした。」

このコラムの24人の読者様も既にお気づきを思いますが、これはフェイクニュースですね。当地ブラジルにも流通する、「失明(または視力が低下)していた人が視力を回復したら配偶者に対する性欲が消滅した」という内容のジョークを元にしたモノでしょうね。当地のSMSのグループで拡散してました。現在ペロシ議長は政敵であるトランプ大統領の弾劾手続きを進めているので、政権側から出た誹謗中傷であろうと察します。要するに「貴女は醜い」といってる訳ですが、それの真偽はともかく「失明」に今月は焦点をあててみます。

先天性の盲目は「先天盲」と呼ばれ、「失明」は通常後天性の「中途失明」の意味で用いられます。言葉のとおり、元々有った視力を失う事で、外傷などの急性失明を除き、次の三つの原因がほとんど(65%)です:白内障、緑内障、加齢黄斑変性(AMD, Age-related Macular Degeneration)。人種的な要因のため割合は国々で異なりますが、一位は日本では緑内障、欧米ではAMD、世界では白内障です。図はヒトの眼球を表します。緑内障は視神経、AMDは網膜、白内障は水晶体と病変する部位が異なります。

白内障では水晶体が濁り、光を通さなくなる病気です。いわゆる黒目の中が白濁するのでこの名称になっています。日本語での他の呼び方は「しろそこひ」があります。単一の疾患ではなく、分類がありますが原因として多いのが加齢によるもので、皮質(水晶体が入ってる膜)の混濁や核(レンズとしての水晶体)の硬化がおこり、80歳代では大部分の人に白内障が認められます。加齢以外の原因は外傷、アトピー、薬剤(特にステロイド剤)、放射線(特に紫外線)、目の炎症などが挙げられます。治療は濁った水晶体を手術で取り除き、眼内レンズを挿入する方法が確定してます。加齢は仕方ないにしても、普通にできる予防が紫外線をカットする事だと考えます。野外に出るときには紫外線をカットするメガネを使うのが効果的です。この場合、ポイントはしっかりカットするレンズが重要で、色が着いているサングラスである必要はありません(註1)。

  • 註1:濃い色のサングラスは特に注意が必要。色が濃いと暗くなるので瞳孔が開き、かえって多くの紫外線を目に取り込んでしまう。従って、色付きサングラスほど紫外線カットが重要で、安価なサングラスは絶対に薦められない。特に子供用のおもちゃサングラスが要注意。

緑内障(註2)は日本人の20人に1人の割合の有病率ですが、実際に診断がついているのはその一割程度とされてます。この疾患では視神経が障害され、視野と視力が低下します。典型的な原因は眼圧の上昇により、眼球の”出口”にある視神経に圧力がかかり、神経が障害されます。しかし、アジア系人種では「正常眼圧緑内障」が多くみられ、日本人の場合過半数に達しますます。症状は視野が悪くなる、狭くなるです。加齢、近視、外傷、糖尿病などが原因とされます。視神経が冒されますので、一度失った視野は元に戻りませんので、発病させない、進行させないが大事ですが、初期ではほとんど自覚症状がないので症状が出たときはかなり悪くなっている事が多い疾患です。治療は正常眼圧緑内障も含め、眼圧を下げる薬物療法(点眼薬)が主に行われます(註3)。場合により、レーザー療法や手術する方法が使われます。緑内障は急性発作を起こす場合も有りますが、これは劇的な症状(眼痛、頭痛)が出ますので救急行きになり、診断がつきます(註4)。

  • 註2:緑内障のため失明すると、眼球が緑色になるためこの名称がある。日本名「あおそひこ」。
  • 註3:正常眼圧タイプでも眼圧を下げると緑内障の進行を遅らせられる事が判明しているため。
  • 註4:頭痛の鑑別診断の一つです。2016年3月のひとりごとをご覧ください。

加齢黄斑変性は名前のとおり、加齢に伴い網膜の黄斑部が変性をおこす疾患です。変視症を呼ばれる症状(モノが歪んで見える)のため受診し、発見される事が多くあります。典型的なパターンは発生要因のため網膜に脆弱な新生血管(註5)が生じ、出血などを起こし黄斑部の機能障害に至るものです。また新生血管が認められない非滲出型と呼ばれるタイプもあり、これには治療方法がありません。滲出型は薬物や光線、レーザーなどを用いて新生血管を阻害、退縮、凝固、抜去します。発生要因は加齢以外には喫煙、高血圧、酸化ストレス、紫外線、遺伝子などがあげられてます。

  • 註5:正式名称:脈絡膜新生血管。

『結局、「加齢」がこの失明三大原因に共通するものなのだな。いずれも徐々に進行し、自覚症状が現れたときには病気が大分進んでいる。予防が大切であるのは疑いようがない。40歳を過ぎると、眼科で定期検診する事!早期発見、早期治療が失明に至らない方法ですな。』

『また、「紫外線」が白内障とAMDに関係がある。ブラジルのように日差しが強い所で生活していると、紫外線対策は大変重要と考える。外出するときはしっかり紫外線カット(UVカット)できるメガネを使用しましょう!』