自分は大丈夫と思っているのが、アル中のはじまりだぞ

By: Kazusei Akiyama, MD


Different shapes. London. Caju©2015

2015年08月

今月のひとりごと:『自分は大丈夫と思っているのが、アル中のはじまりだぞ』

今年のサンパウロの冬は全然寒くありませんが、このコラムの22人の読者様はお元気にされているのでしょうか?今月のひとりごとはサンパウロとも冬とも寒さとも関係ありません。先日、診察中に「アル中になると暴れて周りが大変」だという内容の話しが出て、もう少し突っ込むと、「暴れたりしないとアル中で無い」という見解の患者さんが来られました。おっと、ちょっと待った!暴れる前からアル中はあるぞ、といったことで、今月は「アルコール依存症」についてひとりごとをします。2014年2月号で薬物依存症についてひとりごとをする約束をしたので良い機会です。

『薬物は摂取することにより、人体に効果が現る物質である。この効果は有害でない事を大前提として開発されているのだが(註1)、使い方によっては有害な物が結構ある(註2)。有害な使い方は「乱用」あるいは「誤用」(註3)があり、乱用が薬物依存症(substance dependance)に移行する。依存症の定義には3点の診断基準を満たす必要がある。然り、①薬物耐性(持続的に使用することで、同量の薬物の摂取しても効果が薄れる)、②強迫的使用(薬物に対する渇望がある、悪いと解っていても使用してしまう、精神的依存)と③離脱症状(薬物使用が減った場合に身体的症状が現れる)が認められないと薬物依存症とは定義できない(註4)(註5)。』

  • 註1:場合によってはその薬物の目標である有益な作用以外に有害な作用があり、これは副作用と呼ばれる。
  • 註2:反対にこの特徴が「薬物」を定義するものではないだろか?
  • 註3:一般的に乱用(substance abuse)は精神障害が関連している。誤用(substance misuse)は精神的作用が関連しない物質の使用を指す。前者は「依存」を形成する潜在性効果があり、後者な形成しないとされているが、線引きが難しい。
  • 註4:精神疾患の分類でDSMと呼ばれるのがあるが、最新版では乱用と依存症を廃止し、新しく「物質使用障害」が分類されたが、是非がある。例えば、一時的な乱用者と依存症が進んだ患者では予後や治療方法が異なり、臨床上区別が必要であるからである。
  • 註5:誤用される物質では緩下剤、鎮痛剤、制酸剤、ビタミン剤、ステロイド、ホルモン剤、栄養剤、民間治療薬、など、が挙げられる。

依存症を発現させる薬物はなにも違法なものばかりではありません。違法薬物は入手が困難で、そう誰でもが使用できるものではありません。鎮静剤など、処方箋が必要な医薬品はまだ規制があるので簡単に手に入りませんが、怖いのは市販薬や薬物として販売されていないものではないでしょうか?次の表に薬物依存症を引き起こすことが認知されている物質を表します:

表:薬物依存症を引き起こすことが認知されている物質(註6)。

分類

物質

依存度

覚醒剤

アンフェタミン

メタンフェタミン

コカイン

ニコチン

カフェイン

精神的依存が強い。

身体的依存は軽度。

鎮静剤と睡眠薬

アルコール

バルビツール酸

ベンゾジアゼピン

メタカロン関連

軽度から重度の精神的依存。

重度の身体的依存。

急な離脱は致命的になりうる。

アヘン剤とオピオイド鎮痛剤

アヘン

モルヒネ・コデイン

半合成アヘン(ヘロイン、オキシコドンなど)

全合成オピオイド(メタドンなど)

軽度から重度の精神的依存。

軽度から重度の身体的依存。

急な離脱は致命的ではない。

  • 註6:大麻、LSD、エクスタシーなどは「幻覚剤系」に分類され、「離脱」がないので薬物依存症に定義できない。

『そうなのだ、この表に堂々とアルコールが出てきたのだ。普通にあるニコチンやカフェインもあるぞ。でもアルコールの依存症は重度の身体的依存があるのだな。入手が容易でもあるし、さらに悪い事に飲酒は魅力的である(glamourization of drinking)といった社会的現象も問題の発見を遅くさせているのではないかと思う(註7)。アルコールは鎮静剤系に分類されるように、薬理的作用の主なるものは、神経の抑制、つまり鎮静にあるが、その抑制の特徴が「抑制神経の抑制作用」である。だからアルコールを摂取すると歯止めが効かなくなる(註8)。そのため、乱用されやすい物質といえるぞ。』

  • 註7:この現象のため、酒類メーカー自体が「適正飲酒のすすめ」といった類いの宣伝をするようになったのでは?「飲酒は美質」の類いが圧倒的に多いけど…
  • 註8::この効果をもって「腹を割った商談」などに使用されるが。

アルコール依存症は以前は「慢性アルコール中毒、アル中」と呼ばれており、どちらかというとなる人の意志が弱いとか、道徳観念の欠陥があるからなど、人間性の問題だと考えられてました。現在は精神疾患であると認知されてます。社会的に推奨されている晩酌などから習慣飲酒が始まり、精神的依存、身体的依存を経てトラブルな人生を送ることになります(註9)。診断は医師がする必要がありますが、現在使用さている診断基準は次のとおりです(註10)。過去12ヶ月の期間に下記6項目の3つ以上が同時に起こっていると、アルコール依存症と診断されます。

  1. アルコールを飲みたいという強い欲求がある。また、飲んではいけないと思いながらつい飲んでしまう。
  2. 飲酒の時間や量をコントロールすることができない。
  3. 飲むの止めたり量を減らすと離脱症状が現れる。
  4. 酔うために必要なアルコールの量が増えてきている。
  5. 飲酒に関することに多大な時間、お金、労力を使い、それ以外のことをおろそかにする。
  6. 飲酒によって問題(健康上、家族内、仕事、学業、などに)が起きているのが明らかであるにもかかわらず、飲み続けている。
  • 註9::ASK(特定NPOアルコール薬物問題全国市民協会)のHPにとてもよく解るアルコール依存症の進行プロセスが記載されてますので、ぜひご覧ください:http://www.ask.or.jp/shinkoprocess.html
  • 註10:国際疾病分類第10版、ICD-10の診断基準、その他にDSM-4の基準も使用される。

『1項目のみで「安心した」方は、乱用している可能性大で、依存症予備軍だぞ!』

アルコールに関する医学的な話しは、あと健康上の「アルコール関連問題」があり大変重要ですが、紙面の都合で来月ひとりごとをします。続けてご覧いただければ幸いです。