特効薬は「外出しない事」!

By: Kazusei Akiyama, M.D.

Komainu. Hatsukaichi. ©Caju 2020


2020年4月

特効薬は「外出しない事」!

またまた新型コロナウイルスのひとりごとです。人類が今まで見たことのない状況に陥った張本人なのでお許しいただき、ひとりごとを展開したいと思います。この文章を読まれている時はサンパウロ州全体で外出や開店など禁止を含む都市封鎖中ですね。ブラジルでは感染者数と死亡者数がうなぎ登りで増加パターンが現在一番死者が多いイタリアと同じなので、流石のブラジル人もビビってます。アジアで発症して大騒ぎになっている間はブラジルも対岸の火事風に眺めていた感が強かったのが、欧米で大流行してしまい、欧州から感染者が入るようになるとようやく他人事でないと感じたようです。2月にはいろいろ新型コロナに関する情報、SNSやSMSに毎日いっぱい出てましたが7割方冗談やフェイクニュースでした。「こいつら全然危機感ないなあ」とみてましたが、ブラジルの行政、そこは自国、自州、自市の市民をよくわかってるのか、あっという間にイベントや外出自粛であるような当地ではヌルい措置から非常事態宣言で都市封鎖にもっていきました。ウイルスは世界中何処も同じなので、当地でも次の三つの対策が世界各国共通の感染拡大抑制の根幹です:①人の往来を制限する、②手洗いの徹底、③クラスター(感染者の集団)を避ける。耳にタコができるほどこの3点についてこのコラムの24人の読者様も聞かれていると思いますが、以外と「理由」がちゃんと理解されていないように感じますので、おさらいしてみましょう。

入国拒否や強制隔離、都市封鎖など新感染に対する措置が執られてます。これらの措置で共通するのが、「人と人の接触を途絶えさせる」方法で、社会活動を止める都市封鎖のはその最もたるやり方ですね。ウイルス性の感染症を克服するには一番確実なのが、ヒト(人間)全員がそのウイルスに対する抗体を持つことです。これにはやり方が二通りあります。一つが自然に感染して身体が抗体を産生する。もう一つがワクチンを接種し、抗体の産生を促すやり方ですね。コロナウィルスは哺乳類や鳥類に病気を引き起こすウイルスで、ヒトには感冒やSARS(註1)、MERS(註2)を起こしたりしますが、今回の騒ぎは名前のとおり、「新型」、新しく現れたタイプです。何を意味するかというと、「人類の誰もが免疫を持ってない」。なので、この感染症を克服するには免疫ができる事ですが、ワクチンはまだありません。自然感染すれば免疫ができるのですが、問題は感染した一部の患者は公衆衛生上無視できない位多く重篤化し、死亡する事です(註3)。人間、普通一定の程度で病気になり死亡しますが、これが今回の様に誰も免疫を持っていなく、簡単に感染が広がるとその重篤化する患者が一度に出ますので既存の医療システムが扱いきれなく医療崩壊といった状態がおこります(註4)。最終的には自然感染が広がり、ウイルスに対する抗体が一般化するのですが、ヒトの往来を制限する事で、この「自然感染をゆっくりおこさせる」のがこの手の政策の目的です。これにより、医療体制が重篤化する患者を救済できる余裕をもたす訳ですね。

  • 註1:SARS:Severe Acute Respiratory Syndrome、重症急性呼吸器症候群。
  • 註2:MERS:Middle East Respiratory Syndrome、中東呼吸器症候群。
  • 註3:地域により差があるが、80歳代以上が罹患した場合、5〜6人に1人が死亡する。
  • 註4:新感染症関連の患者が殺到し、既存の疾患も対応できなくなり、医療崩壊がおこる。

手洗いまたはアルコール消毒(ブラジルの場合はアルコールジェルが一般的)の理由は、ウイルスを手から洗浄する事にあるのは当たり前ですね。でも「こんな怖いウイルス」、石鹸で手洗いしただけで不活性化するのか?といった質問も診療所でありました。答えは「します」です。ウイルスはいわゆる「生物」ではなく(註5)、遺伝子情報の超微小な構造体です。簡単にいうと、カプシドと呼ばれるタンパク質の「殻」の中に遺伝子情報のウイルス核酸が入っているだけの構造です。この殻をエンベロープと呼ばれる「膜」を持つウイルスもあります(註6)。エンベロープは大部分が脂質でできているため、脂質を「溶かす」有機溶媒(エタノール=アルコール)や石けんで簡単に破壊できます。石けんは合成洗剤でも純石鹸でもどちらでも効果があります。

まだまだわからない事が多い新型コロナですが、感染は「飛沫感染」と「接触感染」が認められてます。前者は咳やくしゃみなどや会話の唾で口から細かい水滴(これが飛沫)が飛び散り、それを吸い込む事で感染します。後者は飛沫経由でどこかの表面に付着したウイルスを口、鼻、目の粘膜に接触させる事で感染する訳ですね。接触感染を避けるため、手に付着したウイルスを”死滅”させる行為が手洗いになります。クラスターと呼ばれる集団感染は飛沫ができやすい状況にヒトが沢山いるとおこります。つまり、「換気が悪い閉鎖された空間」の中に、「手が届く距離にヒトが沢山いて」、「会話は発声がある」のが感染しやすい状況といわれ、それを避ける訳です。

『人類の歴史は「なんでも特効薬を探す」歴史でもあるので、今回もいろいろ特効薬がないかと模索がおこってる。しかし、特効薬はないのだな。現時点では世界中で行われている今回のひとりごとの3点の措置しかないので、各自しっかり実行してこの危機を乗り越えたいものだと考えるが、都市封鎖が長く続くと精神状態が悪化するのでとても心配なのだ。』

  • 註5:自己繁殖できないので、非生物、非細胞性生物、生物学的存在などと呼ばれる。
  • 註6:インフルエンザウイルス、単純ヘルペスウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、コロナウィルスなど。

ブラジル・サンパウロでの新型コロナウィルス感染の情報はこちらで更新してます。