梅毒が流行中です!でも他人事だと思うでしょ?

By: Kazusei Akiyama, MD


Neko. Osaka. ©Caju 2012

2016年11月

今月のひとりごと:『梅毒が流行中です!でも他人事だと思うでしょ?』

今月はいきなり質問です。梅毒が性的な接触によってうつる感染症であることはこのコラムの24人の読者様、皆さんご存じですよね?で、性感染って、関係ないと思われてませんか?正式な医学用語は「性行為感染症」(英語:STD sexually transmitted disease、ポル語 DST doença sexualmente transmissível)です(註1)。STDが完全に伝播しない方法は「禁欲」ですが、それでは人間の生活、総じて人類の存続にも関わりますので、絶対になくならない疾病の一つと言えます。感染症と名前がつく疾病全般のとおり、1940年代に抗生物質が開発されてから随分と症例が減りましたが(註2)このところ世界的にSTDの増加傾向が認められます。特に「梅毒」の増加が著しい(註3)。今月、ブラジルの保健省は現在梅毒の流行を認可しました。2010年6月より2016年6月の6年間の間に23万件の新規患者が報告されてます。梅毒の増加傾向はブラジルだけではなく、世界規模です。日本も例外でなく、厚労省の統計によると2010年から2015年の間に約4.3倍増加し、特に女性20代前半の感染者が多くなっていること(この年齢帯で13倍強の増加)が政府や医学会で問題になってます。

  • 註1:ここではSTDとします。少し古い名称でVD venereal disease(性病)がありますが、最近は使われません。
  • 註2:細菌性の感染症は間違いなく減ったが、生物はなかなか「うまく」できており、その”穴”を埋める様に抗生剤が効かないウイルス感染が増えた、または現れた(例:AIDSのHIV)。
  • 註3:感染をおこす細菌は梅毒トリポネーマ、Treponema pallidum、宿主はヒト。感染経路は生殖器、口、肛門から感染、皮膚や粘膜の微細な傷口から侵入し、血液内に進み、体内のいろんな臓器に達する。輸血など血液製剤からの感染も可能であるが、一般的に検査が行われるため、リスクは低い。この細菌は体外では急速に死ぬため、物を介した感染は皆無。

『なぜ問題になるかというと、妊婦の感染が増えているからだな。日本での研究では、妊婦が感染している場合、ほぼ100%胎児に伝播し、子宮内死亡または周産期死亡しなかった場合(註4)「先天性梅毒」になる(註5)。さらに問題が、STDで例えば淋病の様にかなりの確率で症状が出る感染症にくらべ、特に早期では症状がわかりにくい(註6)ことや自然によくなってしまうので感染したことが気付かないこともこのSTDの特徴だな。また、長い時間をかけて症状が形成されるので、長期にわたり伝染する。さらに、多彩な症例を起こし、梅毒は医学界では「偽装の達人」(註7)つまり、医者患者ともに「見逃し」することが多い感染症なのだな。』

  • 註4:感染した胎児の40%が死亡する。
  • 註5:先天性梅毒は生まれた時症状があるのは1/3に過ぎなく、生後数年で症状が現れる(肝臓・脾臓の肥大、発疹・発熱、神経梅毒、肺炎など)。
  • 註6:痛みや痒みをともわないことが多い。
  • 註7:”the great imitator” by Dr. William Osler。

症状は次の4段階で観察されます。医学の進歩で後期梅毒はよほど医療の無い所にいかないかぎり最近はみなくなりました。早期が一番治療しやすいのですが、自然に消滅する場合が多いので、見落とす可能性が高い疾病です。感染後早くて1週間、遅くて3ヶ月で発症します。

早期梅毒第1期:感染した部位にしこり(初期硬結)や潰瘍ができます。この時期の2/3前半は抗体検査は陰性です。

早期梅毒第2期:感染後3ヶ月~3年くらい。全身のリンパ節が腫れる、発疹、発熱、倦怠感、関節痛などの症状。掌、足裏に小さい紅斑が多発し皮がめくれた場合は特徴的。1ヶ月くらいで自然に消滅する。

潜伏梅毒:感染後3年~10年くらい。無症状の場合も多い。症状は皮膚や筋肉、骨に「ゴム種」が発生する。

後期梅毒:10年以降。心臓や血管、眼や臓器に腫瘍が発生、脳や神経を侵され、麻痺性痴呆(脳梅毒)を起こす。

このように、診断が難しい感染症です。検査もいろいろあり、VDRL、RPR、FTA-Abs、TPHAなどを2種類以上組み合わせて判定します(註8)。怖い疾病ですが、抗生物質の耐性は認められなく、以外と簡単に治療できます。早期の場合、ペニシリン注射1回で済みます。しかし、ウイルス疾患のように一度感染すると抗体ができて二度と感染しない訳ではありませんので、再感染が可能です(註9)。

  • 註8:これは結構難しい話しなので、割愛します。
  • 註9:麻痺性痴呆の治療でノーベル生理学・医学賞が出てます。1927年度受賞したユリウス・ワーグナー=ヤウレック医師は高熱発熱した麻痺性痴呆の患者が症状が改善する事に着目した。マラリア寄生虫を接種し、マラリアをおこし、梅毒菌を殺す。その後でマラリアを治療する。その名も「マラリア療法」。すごい。他にも抗生剤以前の治療がここに載ってます(食事中には覧ないほうがよいと思います):http://psychodoc.eek.jp/abare/paresis.html

『梅毒は元々アメリカ大陸にあり、大航海時代にコロンブスがヨーロッパに持ち帰り、1493年にスペインで大流行し、そこから世界中に伝播したとの説が一番有力である。日本語ではじめて記録があるのが1512年で、「唐瘡(からがさ)」と言われたように、中国経由で伝来したのだな。初めて南蛮人が日本に到達したのが1543年だから、30年も先にバイ菌が先に来たことになるな。江戸時代には江戸の人口の1割が梅毒患者であった試算もあるぞ。梅毒の流行は歴史でいくつかあり、最近の流行は男性同士の性行為感染が主であったが、若い女性に増えているのが特徴で、諸説ある。例えば、スマホの普及でSNSなどで出会いが増え、不特定の相手との性交渉が増えた;日本の場合、結婚できない30代40代の女子が多々いるため、「20代女子は早くいい男をゲットする必要があり、セックスを武器に数をこなす」といった説まで出現!筆者が思うに、さらに、怖い感染症であったAIDSが薬物治療で克服されたので、感染予防のコンドームを使った交渉が減った、オーラルやアナルなど性行為の方法が多様化してきたのも関連しているのであろう。大変感染力の強い病原菌なので、「たった1回の過ち」でも感染する可能性があるぞ。ウチは大丈夫とか、ウチの子に限ってとか思っている読者様、とにかくきっちり話し合いする事と予防が大切です。』


 

ブラジルに塩辛持って来られます(かな?)。

By: Kazusei Akiyama, MD


2016年10月

今月のひとりごと:『ブラジルに塩辛持って来られます(かな?)。』

サンパウロは春になりました。まだ寒かったり暑かったりで体調がおかしくなりそうですが、このコラムの24人の読者様(註1)はお元気でしょうか?当地は日本の四季のようにはっきりしてないのでどちらかというと、「気がついたら暑くって雨が増えたので夏だった」感じですね。メリハリがない(註2)。

今月は気がついたらそうなっていた事のひとりごとです。今年の5月10日に発令されたブラジル国農務省(註3)の省令第11号(註4)の農務省規則についてです。これは旅行者がブラジルへ入国する際、動物性食品の持ち込みを解禁したのですが、やれ大統領弾劾だ、五輪だ、ジカ熱だ、ISISテロだ、でニュースの中に埋もれてしまった感じです。調べてみたのですが、どこにも載ってない…

『これまでは肉製品、卵製品、乳製品、魚介製品は持込禁制品だったのだ。日本からこちらへ来る時、税関で食料品を没収された経験のある方は多いではないかな?一時帰国なり、旅行なり、日本に行って何を持って帰るかと言うと、まず食品ですよね。インスタント物は当地でも売ってるから、無いもの、マルの鰹節、干物、蒲焼き、佃煮等々や賞味期限の短いスイーツなどでしょう。「楽しみにまっている孫に」と遊びに来た爺婆が泣いても没収!え~どーして?と言っても、国の規則だったので(註5)仕方がない…なかったのだな。

では件の規則の紹介です:

旅行者の手荷物で人間の食用あるいは家畜の食用であれば、次の製品を解禁:

①人間用肉製品:一人10㎏まで。商業的に滅菌された加工品。煮物や干物。エキス。サラミ、ハムやベーコンなど。鶏ガラ出汁粉末など。

②人間用乳製品:一人5㎏あるいは5リットルまで。チーズ、バター、ヨーグルトなど。粉ミルク、ロングライフミルク。エキス。

③人間用卵製品:一人5㎏まで。液体卵や粉末卵など。卵ジャム。

④人間用加工魚介類:一人5㎏まで。干物。塩漬け。燻製品。

⑤人間用乳製品、卵製品、肉製品を含む製菓:一人5㎏まで。クッキーなど。

⑥家畜用食用動物製品:一頭5kgまで。エサやおやつ。

⑦観賞用動物製品:一人5個まで。(註6)

入国の際、これら製品は商業用のパッケージに梱包されており、かつ、未開封であることが必須です。また、持ち込んだものはブラジル国内で販売禁止されてます(註7)。用心深い方は規則を印刷して、通関時に持っておくのも良いでしょう(註8)。

『商業用パッケージ云々は「そのラベルにより、内容を識別できるように」となってるが、日本語での標記で大丈夫かなと考えてしまった。ま~でも、税関が明らかにユルくなったのは間違いないと思う。これで堂々とうなぎの蒲焼きを持ち帰れるぞ!』


註1:そうなのです、読者様がお二人増えたのです。深謝!

註2:ま~なんでも比較の問題ですが。同じブラジルでもアマゾンにいくと熱帯気候で現地のひと曰く、四季ではなく二季しかないそうです:「暑い」と「くそ暑い」。

註3:Ministério da Agricultura, Pecuária e Abastecimento、直訳すると農牧業と供給省、日本の農林水産省にあたるが、ブラジルの場合、水産業はMinistério da Pesca、漁業省なるものが存在し、別扱い。弾劾裁判を経て8月に罷免されたルセフ政権では39省あったのだ!政権交代で24省”まで”減った。

註4:ポル語ではInstrução Normativa Nº 11 de 10 de maio de 2016。

註5:特にブラジルが鬼のように厳しい訳でもない。このようは措置は農牧業に関連する疫病検疫と関係があるのだな。だから、生の肉類は解禁されていない。日本でも家畜伝染病予防法と植物防疫法で持込規制があるぞ。

註6:これがよく分からない。毛皮の敷物とか?

註7:あくまで旅行者の手荷物に関する省令で、商業用の輸入業務とは異なります。また、郵送品には適応されませんのでご注意を。

註8:規則が載っている官報のリンク:http://pesquisa.in.gov.br/imprensa/jsp/visualiza/index.jsp?data=11/05/2016&jornal=1&pagina=18&totalArquivos=184


サンパウロではハーメンがブーム!

By: Kazusei Akiyama, MD


Following the turtle. Praia do Sancho. Caju©2014

2016年09月

今月のひとりごと:『サンパウロではハーメンがブーム!』

今月の表題はカタカナばっかりですね。ブラジル人が「ハーメン、ハーメン」といってるのでなにかと思ったらramen、ラーメンのことでした(註1)。このコラムの22人の読者様もご存じのとおり、サンパウロは今ラーメンブームです。ラーメン元年とも言える勢ではないでしょうか(註2)。ラーメンは元々日本食屋さんのメニューに載ってました。10数年ほど前より専門店ができてそれなりの人気がありましたが(註3)、このブームは米国の流行が移ってきたものだと思われます。また、最近積極的に日本の文化を輸入しようといった運動の結果でしょう(註4)。筆者もラーメンは好きなので、専門店が増えてくれるのは嬉しいです。でも診療所の近所にあるJ店などは連日1時間待ちの大繁盛で多いに結構なのですが、結局行けてません(涙)(註5)。

  • 註1:日本で使用している日本語のヘボン式ローマ字表記では正しいのですが、ポルトガル語では「R」が語頭にあると「ハ行」の発音になります。「ラ行」の発音であれば、「L」なのですが、同じ「R」でも言葉の途中でかつ母音に挟まれていると「ラ行」の発音になりややこしいです。ラの発音も微妙に違います… 因みに、言葉の途中にある「R」も前が子音だと、「ハ行」の発音になります。で、「L」も語尾にくると、「ウ」の発音になります。例:Raul(人名)英語読みだと「ラウル」ですが、ポル語読みだと「ハウウ」になります。あ~ややこしい。
  • 註2:恒例のFestival do Japãoも今年は焼きそばの屋台が減り、ラーメンとサンマ焼きが増えてましたよ。
  • 註3:始めは日系人や訪日経験のあるブラジル人が多かったな。
  • 註4:その証拠に、市内のP地区で繁盛しているT店のオーナーシェフは来日した事がなく、ニューヨークのラーメン店がモデルと新聞記事に載ってました。
  • 註5:たかがラーメン、されどラーメン。1時間待ちますか?

『このラーメン、「体に悪い」と言われる事が多々あり、それと今回のブームのためか最近よく診察時に話題にあがる。実際、体に悪いのか?「カロリーが高い」、「塩分が多い」「炭水化物が多い」、「プリン体が多い」など悪いイメージでありますな。ラーメンの問題は、カレーライスと並び日本の国民食とまでなった、つまり、「頻繁に食べられるから」ではないかとこの筆者は考える。当地では解らないけど、日本では毎日食べてる人もいてますよね。パスタあるいは寿司を毎日食べてれば同じように体に悪いだろう。カロリーの件はどうですかね?一般的な1食は500kcal前後なのでとてつもない高カロリー食とは言えないと思う(註6)。塩分に関しては確かに多い、1食で1日の推奨摂取量が入っていることもある(註7)。麺類なので、炭水化物メインの食べ物であるのは仕方がないか(註8)。プリン体が多いのも事実ですな。プリン体は高尿酸値症と直接関連があり、痛風の原因の一つとされている(註9)。プリン体そのものは毒ではなく、体の細胞の生活に必要な物質なのだな(註10)。実はプリン体の80%程度が体内で産生され残りが食べ物から摂取される(註11)。口から入るプリン体は「うま味成分」の一種であり、つまり含有量が多いものは美味いと言う事なのだな。だからラーメンは美味い!』

  • 註6:同じ麺であればカロリーは、醤油味<塩味<味噌味、鶏ガラスープ<豚骨スープ。
  • 註7:これがインスタントラーメンになると2倍などもあるぞ!
  • 註8:そのため、こんにゃく麺を使ったラーメンもあるらしい。食べたことないけど。そこまでしてラーメン食うか?
  • 註9:尿酸値が高いと、尿酸が結晶化し関節にたまり、結晶が剥がれおちたら白血球がそれを食べ、炎症反応を起こした状態を「痛風」と呼ぶ。高尿酸値イコール痛風ではない。
  • 註10:細胞分裂の際、必要;また、細胞のエネルギー源の一つ。
  • 註11:一応適正な一日の摂取量というのがあり、400mg/日。食品のプリン体含有量はネットでいくらでも載ってますので関心のある方は検索してみてください。

また、普通のラーメンの場合栄養学的に問題とされるのは、ビタミン類、ミネラル類、植物繊維が少ない事です。これはモヤシなどのトッピングを増やせばある程度解消できますね(註12)。結局、どの食べ物にも共通する事ですが、食べ過ぎ、偏食、早食い、などが問題なのではないかと思います。ラーメンの場合、酒席のあとのシメで食される事も多いので、そのあたりにも注意が必要でしょう(註13)。当地ではインスタントラーメンの代名詞はMiojo(明星ラーメン®)であるほど、実はブラジル人の生活に密着してます(註14)。なので、ハーメンは何かと聞かれた時は、「ミオジョのインスタントでないやつ」で結構一発でピンと来てくれます。ラーメンはしっかりした味付けなので、ブラジル人好みであるのは間違いないのでこれからもドンドン浸透していくといいですね(註15)。

  • 註12:このため、日本ではサイドメニューでサラダを出すラーメン店もあるとか。
  • 註13:カロリーの高いアルコールやうま味成分の多いアテの後、さらに追い打ちをかける。また、夜遅くスープ系の食事をして寝ると胃食道逆流症の原因ともなりうる。
  • 註14:麺類をスープに浸して食べる文化がないので、スープを捨ててから食べる事が多い。
  • 註15:その内、「スシー」(寿司)のようにブラジル化するのだろうけど… ま、ラーメンも元は中華料理だったものを和風化したものだから、別に文句いえんか。

スローな医療はおすすめですか?

By: Kazusei Akiyama, MD


2016年08月

今月のひとりごと:『スローな医療はおすすめですか?』

このコラムの22人の読者様、大変ご無沙汰してます。連載が始まって一番長い休稿で大変ご心配とご迷惑をおかけしました。実はこのところ、新しい仕事の立ち上げに時間をとられてました(註1)。約10年ほど前より世界的にSlow Medicineと呼ばれる医学的哲学が提唱されるようになってます。トロい医学の事ではありませんよ。直訳すると「ゆっくりな医学」ですが、「急がない医学」の意訳のほうが正しいと考えます。スローでまず一番有名なのはスローフードですね。1986年にイタリアで提唱された運動で、アメリカ系が代表するファストフードに対するもので、その土地の伝統的な食文化や食材を見直す運動で始まり、さらに、持続可能な食文化(註2)、地産地消のように小規模事業や農業を支える考えや、生活習慣病になりにくい食生活や食品へと展開してます。これがスローライフ運動(英語ではスロー運動、Slow Movement)へと発展しスローシティーなど、世界的な理念になる勢いです。「スローなんとか」を検索すると、色々でてきます。ざっと見ると、住居や環境に関する、スローシティー、スローリビング、スローアーキテクチャー。生活に関する、スローカロリー、スローフィットネス、スロージョギングや筋トレ、体操、スローセックス。医療に関するslow medicine、スローエージング。最近の概念のスローサイエンス、slow kids、slow education。現在のトレンドの一部であることは間違いないでしょう。

ではスローメディシンとはなにか?2002年にイタリア人のDolara医師が初めて論文でSlow Medicineという言葉が使われましたが、2008年に米国でMcCullough医師による老齢医学に対する有用性の提言で一躍有名になりました(註3)。スロー運動は簡単にいうと「高速処理・生産を重点にすると結果として物事の質が低下する」状態を考える運動です。これを医療の場合は急性期集中治療を重点とした医療現場、患者をろくに検査しない(できない)3分診察、それを補う検査の数々、即効性の薬物使用(副作用も速効)、などを考える運動・哲学になります。日本語で検索するとほとんどなにも出てきませんね。日本ではなじみの無い考え方ではないと思いますが(註4)、現実に実施されている保険診療はfast medicineそのものですし、医療制度を改革しない限りこのような行動は普及しないことは素人でも解りますよね。次にSlow Medicineの10原則を示します。

1. 時間:時間を執った医療。聴く、理解する、思案する、精査する、判断する、決断する。時間があったほうが、より良い医療を提供できる。

2. 個人化:一般論より、各個人の個性や視点、価値観を重要視。患者個人の利益になる医療を提供する。

3. 自立とセルフケア:医師と患者で決断をシェア。患者自身やその家族でできることを明確にし、実行に移す。

4. 肯定的な健康概念:現行の「健康の定義」は「完全な 肉体的、精神的及び社会的福祉の状態であり、単に疾病又は病弱の存在しないことではない。」と否定的は概念であるが、「病気でない」のではなく、予防、医療の質を高度に維持、医療システムへのアクセスなどにより「健康である」ことを重点においた概念。

5. 予防:健康的な食生活、定期的な運動、ポジティブな思考、により健康を維持する。

6. 生活の質(Quality of Life):量より質!

7. 補完代替医療:恒常的な西洋医学に東洋医学などの非恒常的医療をプラスすると、より多いアプローチが可能になる。

8. 安全が一番:医師になる時、ヒポクラテスの誓いを宣誓するが、その内「Primum non nocere et in dubio abstine」「害と知る治療法を決して選択しない」とある。患者の害になると思えば、医療的介入を止める。

9. 情熱と慈悲:医療の人間化(humanization)を奪還する。

10. 遠慮のあるハイテク使用:ハイテクは人類の為にあり、医療の場合患者の為にならないといけない。使い方を間違わないければ、よりよい医療やセルフケアに貢献できる。

『この運動は現時点の診察を直ぐに変える云々ではなく、医療政策、医療教育、医療方法などを考えるのに適しているのだな。意外なのが、医療がハイテクになるほど、病気の治癒率が上がり、人類が健康になると思われているが、そうではないのだな。確かに一部の治癒率の成績は良くなっているが、発病率などはあまり変化しないのだ。また、ボックスで書いたように、検査依存の診療になると、余計なものが見つかり、そのためまた検査する事になり、しまいに(不要な)治療をする事になってしまう事が多い。このような現実は医療費用を上昇させている事は明確で、経済的な方面から提唱が増える可能性があるぞ。今年日本の厚生省が2020年までに抗生剤使用を1/3減らす対策決定や「地域医療構想」もそのうちであろう。いずれにせよ、もっと患者さんの利益を考えた医療が必要とされているのは間違いないと思う。』


註1:www.slowmedicine.com.brです。ポル語。www.slowmed.infoも参照ください。英語。

註2:例えば食用の牛肉の大量生産。商品としての牛肉1キロを生産するのに水15400リットル必要とするが、世界的に深刻な水不足が予想されている現在、これは持続可能であろうか?

註3:Slow Medicine運動の歴史についてはwww.slowmedicine.infoに詳しく記載されてます。

註4:実際こういった問題点をあげる医師や医療従事者は見当たる。


童話:隠れる王様

By: Kazusei Akiyama, MD


Chevron Nozzle. Somewhere. Caju©2015.

2016年04月

本コラムは雑誌ピンドラーマの趣旨に反するとの事で、雑誌には記載されてません。

今月のひとりごと:『童話:隠れる王様』

むかし、むかし、ある所に王国がありました。王様はとても貧しい出身で、初めから王者であったわけではありません。まず、こういんの仕事に就きました。でも、王様はとても政治演説が上手で、こういんのみんなを代表してほしいと頼まれました。そのうち働き者のみんなを代表する会を作るまで至りました。まだ王様でない王様は、何を言ってもまわりのみんながチヤホヤするのをみて、自分の演説の力を確信します。

「汗水たらして働くより、喋りまくったほうが楽だな。」

それで、どうしたらこれで生活していけるか考えました。

「そうだ、自分が王様になったら、一生メシに心配しないでもいいぞ。」

そこで、働き者の会や共産圏がなくなって落胆していたインテリ層や社会正義をさけぶ人達やカトリック教会を巻き込んで選挙にでる事にしました。そうです、この王国では王様を選ぶのに選挙があったのです。「この国にあるすべての悪い事を撲滅する!」と声を大小にし、泡を飛ばしてました。初めは国全体のみんなはあまり耳を傾けなかったのですがその内、「貧乏な人を救済するぞ!」と言いだし、共感を得ました。さすがにカトリックの王国です。貧乏人の救済はカトリックの王道です。大義名分十分です。

選挙で当選して新しい王様になったのは良かったけど、今まで口先で生活してきたからどうやって王国を運営したらわかりません。

「とりあえず、前の王様がやってたとおりにするか?でもそれだと前例を撲滅する公約に反対するな~。よしわかった、やることは前のとおりで、口では前のやり方を批判しよう。」

これでやって見ると、上手くいくではありませんか!世論調査では好成績がはじき出され、みんなニコニコ、チヤホヤ。毎日のごはんは美味しいし、居心地のよいことといったらありません。本営にはどんどん廷臣が増え、参列を望む者が後を絶ちません。貢ぎ物もジャンジャン入ってきます。近習の専横などもそこは太っ腹、自分だけ旨い蜜をすってたらみんな可哀想じゃないですか。そのうち、そんなみんなで悪い事をしている所を見つかり、国民のみんなからお叱りがありました。でも、裏切られた、全然知らなかった、でなんとか逃げ切り、話しは落ち着きました。

「みんな以外とバカなんだな。そうか、被害者のふりをしたらいいのか。」

どうしたらこの豪奢な天国が永遠に続くかしか考えられなくなってきました。

「なるほど、わかったぞ。この王国は選挙があるから、選挙に勝ち続けばいいのだ。」

そのためには投票してくれる人と選挙資金が要ります。それで国政を三つ作りました。働き者の会の人達を官僚にして、その給料の一部を献上させるのです。さらに、王国が発注する工事などを水増し入札させて、差額を政治献金にするのです。選挙には多数の支持を集めたほうが勝つので、貧乏な人が多い王国では、貧乏人の味方である王様に分があります。そのため、三つめの国政は貧乏な人達をずっとそのままにおしておく事です。毎月配る少しの生活保護に依存させる方法です。これで再選も果たしました。国政は順調に稼働してます。そうこうしているうちに、みんなのものと個人の持ち物の区別がつかなくなってきました。

「こんだけ貧乏人に貢献してるのだから、ちょっとくらい懐に入れてもいいだろう…」

寵臣だけではなく、王国の在り方があまりにもひどいので、それを指摘する人などもいましたが、貧乏人の生活が良くなっていくのが羨ましいのだとか、貧乏人の生活を良くしている王様の政治を妨げる悪人めと糾弾するとかで退けました。

「これはわかりやすいぞ。悪い事はすべてあちら側、良い事はすべてこちら側。使える!」問題は定期的に選挙があり、1回しか再選できません。もう1回してるので、何回でもできるようにルールを変えようとしました。でも失敗しました。天国が終わるか?

「つなぎに代理人を入れておけばいいのだ。操縦できるやつにしよう。」という事で、その次の選挙で女王が誕生しました。王様は影の王様です。これで次の次の選挙で帰り咲こうとの魂胆です。しかし、女王様もいざ王座に座ってみるとなんと居心地の良いこと。私も当分ここがいいわと再選を果たします。これで王座4期目です。5期目には王様が戻り、天国が永遠に続くように見えました。

でも、単に生活に困らないためになった王様とそのつなぎの女王様です。まともな国務はできません。ばらまきくらいしか思いつきません。丁度女王様の2期目の時に今までのしわ寄せがきました。経済は崩壊。倫理は皆無。政治も浸水、朝臣達は沈む船のネズミのごとく、遁走。王国民全体の懐具合が悪くなり、民衆の機嫌が悪くなっていきます。 王様は無政府状態に至った女王様にもお手上げ状態で泣きつかれます。女王様は全部ムチャクチャにしてくれたのですごく腹が立ちますが、自分が植え付けた事実があります。共倒れしては元も子もありません。 困っているところのある日、王様とその一族、寵臣などの私利私欲や国政としての資金調達方法が明らかになります。芋づる方式にドンドン寵臣が拘置所行きになります。外では「女王辞めろ!」「王様は逮捕されろ!」などと叫ぶ民衆ばかりです。どうする王様?ここで女王様と二人して考えたのが、王様を再び宮廷にかくまえば、民衆の声など届かないし、捕縛の手に及びません。なんと妙案なのでしょう。それで、王様は「さかぐらだいじん」に任命され、宮廷内で万事無事に過ごす事ができましたとさ。めでたし、めでたし。


頭があるから、そこが痛むのだな

By: Kazusei Akiyama, MD


2016年03月

今月のひとりごと:『頭があるから、そこが痛むのだな』

このコラムの22人の読者様、蚊の対策はできてますか?ここでも予想したとおり、ジカ熱で大変な騒ぎになってますね。海外では特に日本の感心が高いと思います。今年、リオでオリンピックが開催され、次回が東京に決定しているので、日本人が多数視察に来伯するであろうからです。ジカウイルスの伝播速度を考えると(註1)筆者は心配してます。冬期に蚊はいなくなるのですが、それは北半球の寒い冬にいえる事であって、五輪開催中のリオの冬は30℃になる事などザラだし、丁度夏期の日本に持ち帰り、「ジカウイルス日本上陸」もありうるのでは?感染したかも判らない(註2)、感染症としては軽い症状のジカ熱は本当に不気味です。

ジカ熱やデング熱の主要症状の一つとして(註3)、頭痛があります。このコラムは2009年から担当させていただいてますが、振り返ると一度も頭痛についてひとりごとしたことがありません。頭痛は実は一番医療需要が起こる症状です。世界人口の3~4人に1人が頭痛持ちともされていますし、一生の内人口の40%以上が生活に支障が出る頭痛を経験するとも言われてます。分類ですが、まず一次性と二次性に分けられます。後者はジカ熱の様に、器質的・解剖学的な異常など、明らかに原因があるもので、前者はこれらがありません。

『頭痛で生命の危機につながる事があるぞ。というか、生命の危機につながる疾患・状況のため頭痛が起こるといったほうが正しいな。読者様に忘れないでもらいたいのが次の三つの状況である:①突然の頭痛、②経験した事が無い頭痛(註4)そして③悪化傾向の頭痛。これらの3状況のどれでもあると必ず診察を受けるように!』

頭痛の分類と細分類を表に示します。

分類

細分類

特徴

一次性頭痛

緊張型頭痛

(tension type headache)

一番多いタイプ。肩こりなど筋肉の緊張とストレスが関連。身体的ストレス:無理な姿勢。枕など寝具の不具合。目の酷使。など。精神的ストレス:心配事、不安、悩み、失望や不満などを抱えることなど。

片頭痛

(migraine)(註5)

名称のとおり、頭の片側が痛む。光で誘発・悪化。運動後や緊張が解けた休日などに起こりやすい。一部に前兆がある(註6)。拍動性の痛み。若い女性に多い。睡眠で軽快する事が多いが、起床(光に当たる)で始まる事も多い。原因はセロトニン説と三叉神経血管説がある。

群発頭痛

(cluster headache)

原因不明。何らかの原因で頭部の血管の拡張が関わっている。ずっと頭痛がするのではなく、多い時で1年、大概数年に数回程度、1~3ヶ月のある時期にかたまって毎日のように起きる。痛み方は一次性頭痛では最悪(註7)。

二次性頭痛

頭部頸部血管障害

脳出血。くも膜下出血。髄膜炎。硬膜動静脈瘤。巨細胞性動脈炎。

非血管性頭蓋内疾患

脳髄液圧の変化。SLEやサルコイドーシスなど抗原病性非感染症性炎症疾患。頭蓋内腫瘍。髄腔内投与に関する医原性。

感染性

全身性感染症:風邪、感冒、デングやジカ熱、伝染性単核球症など。頭蓋内感染:髄膜炎、脳炎、脳膿瘍など。

物質の添加あるいは離脱

食品(註8):アルコール。グルタミン酸。亜硝酸塩。グルテン。アスパルテーム。チラミン含有物(赤ワイン、チーズ、チョコレート、柑橘類など)。など。

毒素:一酸化炭素、鉛、硝酸塩。

その他:ステロイド剤、香水、強い光。空腹。頭痛薬のエルゴタミン製剤からの離脱(註9)など。

恒常的な障害

低酸素血症。高二酸化炭素血症。低血糖。透析。月経。経口避妊薬。

頭蓋以外の頭部疾患

緑内障。中耳炎。副鼻腔炎。強度の近視。歯科疾患。脊椎症。など。

精神科領域の頭痛

不眠症。うつ病。双極性障害。

頭部外傷

機械的損傷。

原因はこのように様々ですが、どれも血管の拡張と血中物質による炎症が頭痛を起こすと考えれてます。治療は外科的アプローチできる疾患以外は対症療法と生活習慣の改善になります。とてもありふれた疾患なので、処方箋無しで購入できる市販薬が多々販売されてますが、一般的な頭痛薬を服用したり、生活環境を変えても症状が緩和しない場合は必ず医師の診察を受ける事が大事です(註10)。前出の命に関わるような頭痛でない一過性の頭痛はともかく、「悪化傾向になくても恒常的な頭痛」は診断と治療が必要です。また、食品、薬品、物質などの制限をする方法が片頭痛に効果があるとはすべて科学的に証明されていませんが、これらを制限する事で頭痛が寛解する事が多いので(あるいはこれらを摂取する事で頭痛が誘発されることも多いので)あながち意味のないものとは断言できないでしょう。


註1:現時点の実績:ジカウイルスの伝播速度はデングウイルスの5倍。

註2:感染しても症状がでるのは5人に1人と考えられている。また、症状は軽いデング熱様がほとんど。

註3:もう一つが「全身性発疹」。

註4:first =こんな頭痛は初めて、worst=今までの頭痛で最悪。

註5:片頭痛、偏頭痛とどちらの漢字も正しい。読みは「へんずつう」または「へんとうつう」。

註6:片頭痛の前兆:視覚の変化(視覚暗点、閃輝暗点、一過性半盲)、片麻痺や言語障害など。

註7:死ぬほど痛いと言われ、特に目の奥ががえぐられるように痛い。

註8:科学的解明されてないものもあるが、事例証拠が多数あるものを挙げた。

註9:最近は鎮痛剤も頭痛誘発因子ではないかと考えられてきている。「薬物乱用性頭痛」もそのひとつ。

註10:仮に市販の頭痛薬で症状が緩和されるとしても、それが毎日何年も続くとその薬物のため、他の臓器(腎臓や肝臓)がダメージをうける。


また蚊の話しです:蚊を防ぐしかない

By: Kazusei Akiyama, MD


2016年02月

また蚊の話しです:蚊を防ぐしかない

このところ連続で蚊に媒介される感染症についてひとりごとしてますね。デング熱だけでも大変なところに、2014年よりチクングニア熱、そして去年よりジカ熱が出現し、先月書いた「世界最強のヤブカ」に変身していっている蚊が身近にいることがその理由です。現時点での統計では、2015年にはブラジル全土で158万件のデング熱が報告され(註1)、そのうち、839件の死亡がありました。チクングニア熱に関しては、2014年のブラジル上陸以来、17531件報告があったのですが、先月12月時点で3ヶ月前の9月の件数の34%増ということで、急速に件数が増えているのがわかります。これらもさることながら、今年の夏のトレンドはなんといってもジカ熱、そしてジカウイルス関連の小頭症出産でしょう。去年8月より12月末の統計では3893件小頭症出産(註2)が報告されており、ブラジルの20州、764市町村であったので全国的と言えますが、これらの1/3がペルナンブッコ州で起こってます。

  • 註1:この場合の報告とは感染症法に基づく「届出」の件数です。
  • 註2:小頭症の定義を変更(頭囲34cmから33cm以下に変更)した後の統計なので、前の定義であれば、もっと件数が多いです。

『小頭症はさらに増え、2016年末には1万6千件の予想が政府機関で出されているぞ。これは今後、公衆衛生上大問題になることは専門家でなくても分かる。合併症などの治療や対策で医療費がかなり必要になるだろう。また、80%以上の確立で知的障害者として成長、成人するので、特別支援学校や学級などの整備も必須だな(註3)。12月初頭にWHOが世界的にジカ熱に関する注意喚起を出したのは良いが、昨日、「ジカ熱に対して特に対策がない」と表明した。また、サンパウロ大学の研究でジカウイルスが胎盤を通過することが発見され、小頭症は直接胎児への作用のためである可能性が大になった。』

  • 註3:この体制は現時点では「ありません」。普通の学校もロクにできないのに、特別支援学校なぞ、あるわけないですな。

これら3種類のウイルス感染は現時点で治療方法がありません。感染して、症状があれば対処療法のみです。しかし、蚊の対処はでき、効果があります。今回は蚊とはどういう動物かを考え、それを元に防除を考察します。蚊は昆虫の一種で、35属約2500種おり、地球上に1億5千年以上前から存在してます。これらの一部が吸血し、病気を媒介します。媒介する主な病気は前出の3種類以外に、黄熱、西ナイル熱、日本脳炎、マラリアなどが重要です。マラリアと日本脳炎以外はシマカではない蚊が媒介しますが、今回はシマカの生態と対策についてひとりごとします。

『蚊のエネルギー源は花の蜜など、糖分で血ではないのだな。血はメスが卵の熟成に必要、ので、メスしか吸血しない。シマカが属するヤブカ類は日中、特に午後から夕方にかけて吸血する(註4)。蚊は高い温度、皮膚のにおい、汗(に含まれる乳酸?)、二酸化炭素を感知し、ヒトによってくるのだ。体重は2~3ミリグラムくらい、飛行速度は時速二キロくらいで、あまり早くない。このため、扇風機程度の風で飛行に支障がでるので風は防御の一つですな。一生は卵→幼虫(ボウフラ)→蛹(オニボウフラ)→成虫になり、気温25℃くらいで10日で卵から成虫まで変化する。ボウフラは止まった水のあるところで孵るので、最近うるさく古タイヤ、空き缶空き瓶、植木鉢の受け皿、など、小さな水たまり対策を言われているのだな。池などの大きな水たまりは肉食系の魚(註5)を入れると効果的。魚のいない池や湿地帯では、水面に油膜をつくるのが一番効果的な防除だな。化学的排除、つまり殺虫剤も効くが、これは人間にも害があるので防御したほうがよいと思う。虫除けとして皮膚に塗布するものはDEETが一番効果的だが、これは殺虫効果が無く、厳密には忌避剤である。他の忌避剤としてブラジルで入手しやすいのがシトロネラオイルだな。ろうそくやアロマ、スプレーなど多数市販されている。前出の感知事項から考えると、運動後に刺されやすい。また、身体の代謝が激しいヒトは刺されやすい。飲酒後も二酸化炭素が増えるのと、体温が上がるので、注意が必要だな。黒い色を好むので、黒い服などは避けた方がよい。』

  • 註4:イエカ類は夜吸血するので、寝ている時に飛んでいるのはまずヤブカではないと考えてもよいかも。
  • 註5:特に怖い魚ではないです、金魚でも可。

簡単にいうと、ボウフラを孵させない、ヤブカが吸血する時間帯は特に虫除け対策をする、家の中では忌避剤を使う、だと考えます。



人生に甘いものは?

By: Kazusei Akiyama, MD


2016年01月

今月のひとりごと:『人生に甘いものは?』

謹賀新年。今年もよろしくお願いいたします。この原稿を書いている日は今期の夏が始まった日ですが、いきなり豪雨で2年前までの水不足は一体何であったのか?という勢いです。去年の終盤ではなんといっても米国大統領選でのトランプ氏の勝利(註1)でしたね。あまりにも衝撃が多く、同時に報道された米国各地での「ソーダ税」なるものの可決はチョコッと出ただけで、このコラムの24人の読者様は気付かれたでしょうか?

  • 註1:というか、ヒラリーの敗北と観るか…年始のひとりごとは定期的に米国大統領選がかかりになるものがありますね。

ソーダ税とは、糖類の多い飲料を課税するもので、税金の分類では「Sin Tax」つまり「罪に対する税」というものになり、タバコや酒類にかかる税金と同じ性質のものです。米国ではコーラなどのソフトドリンクをSodaと呼ぶのでソーダ税との名称ですが、導入を検討中の英国などでは砂糖税とも呼ばれます。砂糖に対する課税(註2)ではなく、砂糖含量が多い清涼飲料水に対する税金です。タバコ税が良い例ですが、この手の税金は販売価格を高くし、購入を躊躇させる目的があります。

  • 註2:日本では明治時代から1989年まで「砂糖消費税」が存在しましたが、これは砂糖が贅沢品との位置づけで性質が違います。

なぜ今砂糖税なのかというと、今世界で一番公衆衛生的に恐れられているのは「肥満」です。肥満と合併する疾病は多岐にわたります。簡単にいうと、肥満対策の一環です。わかりやすい例で、「メタボリックシンドローム」があります。メタボは肥満プラス高血圧、高脂血または糖尿病を合併した状況ですね。日本での研究では、45歳時にメタボになっていると、なっていない同世代と比較して30年後の75歳時で医療費が10倍強かかるとの試算があります(註3)。現時点で世界保健機構(WHO)は砂糖(註4)をタバコやアルコールと同様な健康上の危険因子と位置づけてます。日本の厚労省でも「社会環境における健康の決定因子」との認識です。

  • 註3:これが「メタボ健診」の発動の理論的根拠の一つになったようです。
  • 註4:この場合、砂糖とは二糖のショ糖、ブドウ糖、果糖などの単純糖のことです。

ソフトドリンクなど、糖の多い飲料(註5)の大量摂取は肥満や糖尿病、心臓病などと関係があるのは医学界ではすでに常識になっていると思います。ガス入りのソーダ類のみではなく、ジュース類も同じくらい入ってます(註6)ので注意が必要です。もちろんこの措置には是非があり、製造業界は「砂糖のために肥満がおこるのではなく、食べ過ぎと運動不足である」との姿勢で大反対です(註7)。業界でなくても、ソフトドリンクのみ課税して、仮に消費者価格が高くなっても、他の糖入り飲料に移行してしまえば意味がないなどの意見があります。実際この税を導入した米バークレー市では、他市で買う動きが見られ、行政単位で課税しても効果は限られています(註8)。

  • 註5:WHOが推奨する砂糖の摂取量は1日の全カロリーの5%であり、砂糖重量に換算すると大人で約25gです。コーラなどソフトドリンクには10%前後の砂糖が入ってます。350ml入り缶で約35g!一缶で1日摂取量を大幅に上回ることになりますね。
  • 註6:ブラジルの法律では、果実5%以上あればNectar de frutaと表示ができ、健康的な果物ジュースを飲んでいる錯覚になりますが、ソフトドリンクと同じく砂糖含有が多いです。甘いお茶飲料なども同格ですね。
  • 註7:あと、常套句の「売れなくなったら飲食業界の労働者が失業する」もありますな。
  • 註8:医学的な文献を展開した冷静なHP:http://trendy.nikkeibp.co.jp/atcl/column/15/1054402/112700002/?rt=nocnt

もちろん肥満はソフトドリンクのみのためではないでしょう。現在のとんでもない食生活や運動不足も関連するのは素人でも判りますね。しかし、日本を含め、糖入り飲料の消費は年々増え続けている事実もありますし、肥満が増えているため、それに連動した医療費の高騰も事実ですよね。また、子供の肥満が増えているため医療政策として何か措置をしないといけないのも現状です(註9)。ソフトドリンク規制より、「甘い物の摂り過ぎ」に警鐘がなっている事に意味があると考えます。甘い物を好むのは哺乳類の遺伝子に組み込まれてます(註10)。哺乳類の黎明期には重要であったその好みは砂糖が溢れている現在ではデメリットにしかならないと思います。健康にとって何が良いのかを考える良い機会ですね。

  • 註9:英国のデータで、ティーンエイジャー(11歳~18歳)の40%はソフトドリンク経由で砂糖摂取している事実もあります。
  • 註10:2010年5月のひとりごと、”我々人類の病気も進化のたまものなのだな”をご参照ください。

『肥満以前にも砂糖には問題がある:「虫歯」になるぞ。』


世界最強のヤブカ誕生だな

By: Kazusei Akiyama, MD


2016年01月

今月のひとりごと:『世界最強のヤブカ誕生だな』

謹賀新年。22人の読者様、いつものご愛読、深謝です!今年もよろしくお願いいたします。今年はさらに暑くなるそうで、原因はエルニーニョ現象だと説明が出てます。10月に診療所を移転したのですが、当地ではよくある、工事が納期に終わらなく、エアコンなしの状態で業務開始しました。それで、一番暑い日に診察室内が35℃になり、仕事になりませんでした(註0)。さて、今月もヤブカの話しです。毎年、年末年始に感染症の話しが多いですが、これは暑さと関係があるのですね。通常、1月によく見る疾患は下痢で、これは暑さで食べ物が傷んだり、海に行って汚染された水などで感染をおこしたりが原因でした(註1)。これらの危険性は変わってないのですが、最近はヤブカに媒介される感染症がこの時期警戒しなければならない疾患の一番になった感じです。

『つまり、「デング熱」だな。ところが、ブラジルでは同じ蚊が「チクングニア熱」を媒介し、2014年より警戒対象になった(註2)。それだけでも十分と思えるのに、今年から「ジカ熱」も媒介するようになった(註3)。これは3つとも同じフラビウイルス属であるから同じ媒介方法になるのだな。この3種類のウイルスが同時に伝染するのは世界で初めてらしい。世界最強のヤブカだな(註4)。日本でも去年デング熱が出現したが、世界中でこの手のウイルスは猛威を振るっているのは間違いないだろう。原因の一つに挙げられるのが、地球温暖化だな。蚊は暑い時に繁殖する(註5)。また、関係するのが、都市の巨大化で周りの森林が伐採され、蚊が街に住むようになったり(註6)、街が大きくなり、周りの森林に迫り、森のサルに感染をおこしていたウイルスが、ヒトと接触するようになったこともあげられるだろう(註7)。』

  • 註2:2014年12月でチクングニア熱についてひとりごとしてます。
  • 註3:先月2015年12月のひとりごとをご覧ください。
  • 註4:蚊の名称はすでにメディアでおなじみの「Aedes aegypti」和名ネッタイシマカ。
  • 註5:だから日本の夏の風物詩は「風鈴、うちわ、スイカ、蚊取り線香」でしょう?
  • 註6:デング熱のパターンとされてます。元々ネッタイシマカは黄熱ウイルスを媒介するもので有ったが(今でもします)、熱帯雨林と密接する黄熱ウイルスは森林伐採のため都市部では減ったものの、残った蚊がデングウイルスを媒介するようになった説がある。
  • 註7:これがジカウイルスのパターンです。街が野生に迫る現象ですな。北米で街に熊が出没するのもこれが主な原因とされている。

原因はともあれ、実際ジカ熱が増えていることは間違いないですし(註8)、先月のひとりごとで緊急テーマで扱った「小頭症出産」と関連が除外できないので警戒が必要と考えます。12月12日までのブラジル保健省の統計では20州、549市で2401件小頭症出産があり、そのうち134件でジカウイルス感染が確認されてます。但し、12月4日より小頭症の定義が頭囲33cm以下であったのが、頭囲32cmに変更されてます。ので、前の定義だともっと件数が多いでしょうね。この騒ぎで「妊娠延期勧告」が出てます。まだご覧になってない方はぜひ先月のひとりごとを見てください!

『この最強のヤブカの出現は14年前から続く現在の連邦政府が蚊の駆除を怠ったとの一説がある。実際そうだろう、12月5日に13年ぶりにヤブカ撲滅キャンペーンをルセフ大統領が打ち出した。その時のスピーチで大統領がジカ熱に付言し、こう仰った:「蚊が卵を産みます。その卵の中にウイルスがいて、その卵がウイルスを伝染するのです(註9)」。蚊の卵が飛ぶのだろか?この政府、大丈夫じゃないよな。当てにしないほうがいいです。自分の健康や安全は自分で守りましょう。』

  • 註8:ジカ熱はあまり症状がでません。感染しても2割程度しか症状がでないうえ、症状も強くでない。この6ヶ月でブラジル全国で50万人乃至130万人感染と推定されている。
  • 註9:うそです。蚊の唾液腺にいるウイルスが吸血時に体内に入るのです。

非常に重要ですので、再度妊娠延期勧告の件を記載します。

❶既に妊娠している女性:ノルデスチ地方、特にペルナンブッコ州に旅行しない。また、蚊に刺されないようにする(方法はデング熱と同じです、2010年4月号、2014年12月号、2015年5月号のひとりごとをご参照ください)。

❷近々妊娠を考えている女性:蚊が媒介するため、蚊の多い夏以降(当地来年の3月以降)の妊娠を勧告。これにより、胎児に影響が出やすい始めの3ヶ月を避けられる。もちろんノルデスチ地方は避ける。

❸妊娠を考えているが、急いでいない(急がなくてもよい)女性:状況がはっきりするまで、避妊を勧告。


でも、死ななくてもよかったのでは?と 今妊娠しないほうがよい。

By: Kazusei Akiyama, MD


2015年12月

今月のひとりごと:『でも、死ななくてもよかったのでは?』と『今妊娠しないほうがよい。』

先月、毎年恒例の「なにわ会健康座談会」なるもので講演をしたのですが、その時、22人の読者様のうち、お二人が筆者を直接見たいとわざわざお越しいただきました。この場を借りてお礼申し上げます。有意義な講演であったでしょうか?これで、あと20人お近づきいただけたら読者様全員顔見知りといった計算になりますね。

さて、先日、元横綱の北の湖親方が62歳で急死されました。現行していた九州場所途中の訃報です。謹んでお悔やみ申し上げます。3年前に直腸癌を手術、その後、腎臓を悪くするなど健康上の問題が色々あったようですが、死ぬ前日まで仕事をこなされたそうです。北の湖親方は日本相撲協会の理事長を務められ、相撲業界で続いた八百長問題や麻薬疑惑などの不祥事の粛正に尽力された事は周知のとおりです。

『この話しを聞いてまず思ったのが、「日本的美」の一種の死に方だな。なんと我慢強いのだろう。色んな記事を読むと、ここ数年体調が悪かったそうだが、毎日協会の仕事をし、死ぬ前日も観戦されたそうだ。人間、普通外傷事故でもないかぎり、コロッと死にません(註1)。苦痛を我慢する、人に泣き言を言わない、最後まで責任を全うするなど、日本の文化満載の死に方だと思った。しかし次に頭をよぎったのは、「でも死ななくても済んだのでは?」だな。もちろん親方を診察した訳ではないので、正確な情報ではなく、この話しをネタにした医学的仮定だけど、60歳前で直腸癌(註2)が発見され、3年後にその併発症で死亡に至るのは、発見時点でガンが進んだ状態であった事を示すだろう。この60歳前後での大腸癌発症というのは、昔からあるパターンである。30年ほど前は直腸癌で肛門切除をし、人工肛門の造設が普通であった。そのため人工肛門用装具の開発が盛んであったぞ。この状況が急変したのは、大腸カメラが普及し(註3)、大腸癌の早期発見や予防的措置が可能になったからだな。大腸癌はゆっくり10年ほど時間をかけて悪性化するのがほとんどで、その初期は大概ポリープであるのだ。だから、60歳から10年前、つまり50歳前後で内視鏡検査をしてポリープがあれば、それを切除する事によって、将来のガンを無くす事ができる。ガンに伴う苦痛や入院や治療の費用は多々あるし、仮に手術で命が助かっても、その後の生活の質は明らかに低下するのだ。これを考えると、大腸カメラのコストパフォーマンスはとても高い(註4)。ちゃんとした健康診断メニューには50歳時点で大腸カメラ入ってるぞ!現在、このような医療環境にあるので、なんか納得できない訃報だった。死に様は鏡かもしれないけど、死因は反面教師ではないだろうか?』(註5)

  • 註1:狭義でいうと、外傷でない突然死や重度の心臓麻痺(英語でmassive heart attack)でコロッと逝きますが。この場合はそうでないでしょう。
  • 註2:直腸癌は大腸癌の一種です。
  • 註3:1980年代の話しです。
  • 註4:そのため、大腸カメラ検査は「life saving, cost saving(命を助け、費用を削減)」と言われる。
  • 註5:消化器内視鏡の話しは2015年1月号のひとりごともご参照ください。

今月はもう一つ緊急テーマがあります。ブラジル東北部でZika熱によると思われる小頭症胎児の急増が当地メディアで多数報道されてます。ジカ熱は元々アフリカで発見された(註6)ウイルス性の感染症でかの大陸以外での流行はあまりなかったし(註7)、症状も軽いデング熱程度であまり注目されていなかったのです。しかし、今年の8月頃からブラジル東北地方(ノルデスチ地方)で大量の小頭症出産が報告され(註8)、この現象がジカ熱と関連していると考えられてます(註9)。小頭症は脳の発育が阻害され、赤ちゃんが生まれたとき、頭が通常よりも小さい状態である疾患です(註10、註11)。治療はなく、ほとんどが精神遅滞になります。原因は先天性(遺伝子疾患、註12)と後天性に分かれ、後者の原因は次のようなものがあります:妊娠中の:被爆、水銀など有害化学物質への曝露、薬やアルコールの大量消費、栄養失調、感染症(風疹、水痘、サイトメガロウイルス、など)(註13)。この感染症の内、ジカ熱が初めて報告された訳ですが、今回のような場合、「予防原則」に基づき(註14)、「妊娠延期」勧告がブラジル国保健省より出されました。主にノルデスチ地方の女性に対するものですが、なにせ感染症ですので、サンパウロにも現れる可能性があります。したがって、次の措置が考えられます:

❶既に妊娠している女性:ノルデスチ地方、特にペルナンブッコ州に旅行しない。また、蚊に刺されないようにする(方法はデング熱と同じです、2010年4月号、2014年12月号、2015年5月号のひとりごとをご参照ください)。

❷近々妊娠を考えておられる女性:蚊が媒介するため、蚊の多い夏以降(当地来年の3月以降)の妊娠を勧告。これにより、胎児に影響が出やすい始めの3ヶ月を避けられる。もちろんノルデスチ地方は避ける。

❸妊娠を考えているが、急いでいない(急がなくてもよい)女性:状況がはっきりするまで、避妊を勧告。

『妊婦が蚊に刺されると、赤ちゃんが確実に小頭症になる訳ではないが、いったんなってしまうと一生ついてまわるので(註15)、予防するにこした事はないぞ。』

  • 註6:1947年にウガンダのZikaと呼ばれる熱帯雨林で発見された。正確には黄熱ウイルスやデングウイルスと同じフラビウイルスであり、同じ蚊(Aedes属和名ヤブカ属)を媒介して感染する。
  • 註7:1978年にインドネシアで小流行が報告されており、2007年に太平洋ミクロネシア、2013年にタヒチで大流行があった。
  • 註8:2015/11/17まで、399件。ノルデスチ地方のPernambuco、Sergipe、Rio Grande do Norte、Paraiba、Piaui、Ceara、Bahiaの7州で報告、その内268件がペルナンブッコ州。
  • 註9:出産前のエコー検査で小頭症が確定した2例の羊水からジカウイルスが検出されたため。
  • 註10:通常頭囲は、ブラジルで34cm~37cm。日本人の場合、31cm~35cm。
  • 註11:頭蓋骨の縫合が早期に完成するため頭が小さい疾患も小頭症の一種ではあるが、この場合はそれを指さない。
  • 註12:これは当院で開設した「妊娠前・出生前遺伝カウンセリング」の対象ですな。
  • 註13:問題の妊娠期間は始めの6ヶ月とされている。
  • 註14:英語でPrecautionary Principle。予防措置原則とも呼ばれる。重大かつ不可逆的影響を及ぼす仮説上の恐れがある場合、科学的に因果関係が十分証明されない状態でも規制措置を可能にする考え方。
  • 註15:親が先に死ぬのが自然の摂理です。もし成人した場合、後はだれが面倒みるのですか?