またデング熱の話しなのだ。

By: Kazusei Akiyama, MD


Land of Whisky. Edinburgh. Caju©2015

2015年05月

今月のひとりごと:『またデング熱の話しなのだ。』

当地ではデング熱が流行してます。デング熱の話しは4年前に黄熱と共にひとりごとしてます。さらに、本誌上では過去に5回取り上げてますが、現在邦人が多く住むサンパウロ州でも大変な状態になってますので、公共性が高いとのことでこのコラムの22人の読者様にはお許しをいただいて再度デング熱について見直してみたいと思います。

疫学的に「流行性疾患」とは発症率が人口10万人に対し、300例以上起こっている状況をしめします(註0)。今年ブラジルで「流行状態」の州が2州、サンパウロ州が「流行に近づいている」ので、アメリカ疾病予防管理センター(CDC、Centers for Disease Control and Prevention)のブラジルへの渡航勧告の危険度上昇を4月20日に発行しました。CDCの勧告は世界的に影響力があり、これによって、邦人の渡伯にも影響がでると思われます。

  • 註0:エピデミック、英語でepidemic。ある一定の期待値以上の罹患率、いままで流行がなかった地域での予期せぬ感染症の出現。

『デング熱、またはデング出血熱はネッタイシマカやヒトスジシマカによって媒介されるデングウイルスの感染症である。このウイルスは1型から4型まで4種存在し、1度感染すると、終生免疫ができるが、交差免疫はできない(註1)。異なる型のデングに再感染した場合、重症化しやすいのもこの感染症の特徴の一つ。1970年くらいまでは、世界で7カ国・地域くらいしかなかったが、現在は全世界の熱帯、亜熱帯地域にみられる。日本では去年までは輸入例しかなかったが(註2)、8月から10月の間に160人感染者が出た。ブラジルでは2015年元旦より3月07日までに224.101例確認されており、その内、52人が死亡している。流行状態の州はAcreとGoiasで、サンパウロ州が281/10万人でほぼ流行、続いてMato Grosso do SulとTocantinsで、それ以外は100未満/10万人の常在的状況である。今年の流行はいつも多いリオ州が入ってないのが特徴かな?』

  • 註1:交差免疫とは、同じウイルスの異なる株や種でできた免疫がそのウイルスの別の株や種に対して免疫ができる事。例:インフルエンザウイルス。
  • 註2:1950年代に太平洋戦争からの帰還兵が持ち帰ったとされるウイルスで西日本で20万人規模の流行があったが、その後は年間100例程度の輸入例のみであった。

デング熱は一過性の熱性疾患です。潜伏期間は4~7日が多いですが、2週間程度もみられます。突然の高熱の発熱で発症し、頭痛、筋肉痛、関節痛、眼窩痛を伴います。発熱後、数日で解熱しますが、再度高熱が出ます(註3)。発熱期後半に体に発疹が現れます。熱、痛み、発疹などの急性症状は約一週間で軽快しますが、倦怠感が数ヶ月続く例もあります。しかし、後遺症はほとんどありません。ブラジルでの致死率は0.04%程度ですが、重症例(Severe dengue)になると8.7%に激増しますので、観察が重要ですね。重症化した例は出血性のデングがほとんどです。解熱し始めた頃から、腹痛、嘔吐、低体温、皮下の点状出血や鼻血、下血などが現れます。重症例はすべて入院が必要になります。

  • 註3:二峰性発熱と呼ばれる。

『特効薬、特異的な抗菌剤はないので、治療は対処療法のみになる。熱と痛みが強いので、解熱鎮痛剤を使う事になるが、その際、アスピリン系は禁忌である。出血が悪化する可能性があるので絶対にだめ。また、同じ理由で抗炎症剤もさける必要がある。あとは十分は休養と補液だな。』

解熱鎮痛剤はアセタミノフェンとジピロン(註4)のみ使用できます。また、日本から来られている方は、ロキソニンなど、消炎剤を常備されておられるのを多々観ますが、それら消炎鎮痛剤は使ってはいけません。サンパウロの現状ですと、デング熱は「罹る可能性がある」のではなく、「いつ感染するか」になっているので、発熱した際は気軽に風邪薬や日本で処方された消炎鎮痛剤などを使わないほうがよいと考えます。個々の薬品の製品情報をチェックした上、疑問があれば受診したほうが安全ですね。

  • 註4:ブラジルとヨーロッパで発売の解熱鎮痛剤。ブラジルでの商品名:Novalgina。

『因みに、2014年12月号でひとりごとした「チクングニア熱」は今年にはいり、2103例報告のみで、流行には至ってない。これは、同じ蚊を媒介するので、競合しているのだろな。』