人生に甘いものは?

By: Kazusei Akiyama, MD


2016年01月

今月のひとりごと:『人生に甘いものは?』

謹賀新年。今年もよろしくお願いいたします。この原稿を書いている日は今期の夏が始まった日ですが、いきなり豪雨で2年前までの水不足は一体何であったのか?という勢いです。去年の終盤ではなんといっても米国大統領選でのトランプ氏の勝利(註1)でしたね。あまりにも衝撃が多く、同時に報道された米国各地での「ソーダ税」なるものの可決はチョコッと出ただけで、このコラムの24人の読者様は気付かれたでしょうか?

  • 註1:というか、ヒラリーの敗北と観るか…年始のひとりごとは定期的に米国大統領選がかかりになるものがありますね。

ソーダ税とは、糖類の多い飲料を課税するもので、税金の分類では「Sin Tax」つまり「罪に対する税」というものになり、タバコや酒類にかかる税金と同じ性質のものです。米国ではコーラなどのソフトドリンクをSodaと呼ぶのでソーダ税との名称ですが、導入を検討中の英国などでは砂糖税とも呼ばれます。砂糖に対する課税(註2)ではなく、砂糖含量が多い清涼飲料水に対する税金です。タバコ税が良い例ですが、この手の税金は販売価格を高くし、購入を躊躇させる目的があります。

  • 註2:日本では明治時代から1989年まで「砂糖消費税」が存在しましたが、これは砂糖が贅沢品との位置づけで性質が違います。

なぜ今砂糖税なのかというと、今世界で一番公衆衛生的に恐れられているのは「肥満」です。肥満と合併する疾病は多岐にわたります。簡単にいうと、肥満対策の一環です。わかりやすい例で、「メタボリックシンドローム」があります。メタボは肥満プラス高血圧、高脂血または糖尿病を合併した状況ですね。日本での研究では、45歳時にメタボになっていると、なっていない同世代と比較して30年後の75歳時で医療費が10倍強かかるとの試算があります(註3)。現時点で世界保健機構(WHO)は砂糖(註4)をタバコやアルコールと同様な健康上の危険因子と位置づけてます。日本の厚労省でも「社会環境における健康の決定因子」との認識です。

  • 註3:これが「メタボ健診」の発動の理論的根拠の一つになったようです。
  • 註4:この場合、砂糖とは二糖のショ糖、ブドウ糖、果糖などの単純糖のことです。

ソフトドリンクなど、糖の多い飲料(註5)の大量摂取は肥満や糖尿病、心臓病などと関係があるのは医学界ではすでに常識になっていると思います。ガス入りのソーダ類のみではなく、ジュース類も同じくらい入ってます(註6)ので注意が必要です。もちろんこの措置には是非があり、製造業界は「砂糖のために肥満がおこるのではなく、食べ過ぎと運動不足である」との姿勢で大反対です(註7)。業界でなくても、ソフトドリンクのみ課税して、仮に消費者価格が高くなっても、他の糖入り飲料に移行してしまえば意味がないなどの意見があります。実際この税を導入した米バークレー市では、他市で買う動きが見られ、行政単位で課税しても効果は限られています(註8)。

  • 註5:WHOが推奨する砂糖の摂取量は1日の全カロリーの5%であり、砂糖重量に換算すると大人で約25gです。コーラなどソフトドリンクには10%前後の砂糖が入ってます。350ml入り缶で約35g!一缶で1日摂取量を大幅に上回ることになりますね。
  • 註6:ブラジルの法律では、果実5%以上あればNectar de frutaと表示ができ、健康的な果物ジュースを飲んでいる錯覚になりますが、ソフトドリンクと同じく砂糖含有が多いです。甘いお茶飲料なども同格ですね。
  • 註7:あと、常套句の「売れなくなったら飲食業界の労働者が失業する」もありますな。
  • 註8:医学的な文献を展開した冷静なHP:http://trendy.nikkeibp.co.jp/atcl/column/15/1054402/112700002/?rt=nocnt

もちろん肥満はソフトドリンクのみのためではないでしょう。現在のとんでもない食生活や運動不足も関連するのは素人でも判りますね。しかし、日本を含め、糖入り飲料の消費は年々増え続けている事実もありますし、肥満が増えているため、それに連動した医療費の高騰も事実ですよね。また、子供の肥満が増えているため医療政策として何か措置をしないといけないのも現状です(註9)。ソフトドリンク規制より、「甘い物の摂り過ぎ」に警鐘がなっている事に意味があると考えます。甘い物を好むのは哺乳類の遺伝子に組み込まれてます(註10)。哺乳類の黎明期には重要であったその好みは砂糖が溢れている現在ではデメリットにしかならないと思います。健康にとって何が良いのかを考える良い機会ですね。

  • 註9:英国のデータで、ティーンエイジャー(11歳~18歳)の40%はソフトドリンク経由で砂糖摂取している事実もあります。
  • 註10:2010年5月のひとりごと、”我々人類の病気も進化のたまものなのだな”をご参照ください。

『肥満以前にも砂糖には問題がある:「虫歯」になるぞ。』