生みにくい、生まれにくい…

By: Kazusei Akiyama, MD


2015年11月

今月のひとりごと:『生みにくい、生まれにくい…』

先月は診療所の引っ越しがありました。2000年より先の診療所で開業してましたが、ほぼ16年同じ場所にいてると、モノが溜まりますね。移転先は前の3割程度の広さなので、単純に備品の移動だけでは済まなく処分するモノが大量に出ました。医業の場合、医学系の出版物や論文など、紙が多かったです。また、当地では工事(新診療所の工事)をするのが大変で、本当に疲れました…

今年の9月より診療所の開業20周年ですが、色々新しい事が起こってます。移転もしかり、また、「妊娠前・出生前遺伝カウンセリング外来」の設置もそうです。臨床遺伝科は医学の比較的新しい専門分野です(註1)。元々先天性異常児の研究から始まった医学ですが、異常が発生してからの診断のみではなく、この方面の知識を利用して、異常になるリスクの同定や如何にならない様にするかが最近のトレンド分野です(註2)。で、なぜこのような分野が必要になってくるかをひとりごとすると、ずばり、先天性異常児の出生が増えている、または、出生可能な状況が増えている所にあると思います。

『先天性異常が起こりやすい状態の原因は多岐にわたるが、秋山説の一番の原因は出産の高齢化にあると考える。医学では女性35歳以上の妊娠・出産を高齢妊娠・出産と定義する(註3)。女性の卵子のモトは原始卵胞と呼ばれる細胞であり、これは出生時から存在する。この細胞が約375日かけて熟成し、卵子となり、排卵される。この為、女性が高齢になるほど、原始卵胞も高齢になっていることを示し、期間が長いほど遺伝子異常が起こる原因(註4)にさらされる時間が長いことを意味しているのだな。また、卵子の老化以外に、女体そのものの加齢による変化もあり(註5)妊娠しにくくなっていく。これらの状況は出生率の低下に直結するのだな。』

出生率の低下はさらに「少子化」につながります。近頃、少子化問題は先進国の課題です。日本では深刻な問題であるのは異論がないでしょう。少子化の要因は単純ではありませんが、問題化している社会に共通するのが社会が発展している事でしょう。社会が発展することによって産業も高度化し、それにしたがい技術の高い人材が必要にあり、それに対応するために高学歴化が出現し、高学歴化は子供の教育費の増大と社会的自立できる年齢を遅らせます。子供の教育費が高いと親の負担が増え、子供の数が減ります。また、高学歴化による社会的自立可能年齢の上昇は晩婚化、または非婚化につながり、少子化に拍車がかかります(註6)。

『医学的にいうと、理想的な妊娠年齢は女性20歳±2歳なのだな。つまり、大学の就学期間。でも現実はそうはいかない。この社会的要望(高学歴化)(註7)と、社会的現実(晩婚化・高齢出産)(註8)(註9)のギャップを埋めているのが、現下発展が著しい「不妊治療」である。妊娠困難な晩婚夫婦の強い手助けになるのは間違いないが、いくら技術的に発達しても、卵子や精子の老化は防げないので、限界があるだろう。先進国になると、生みにくい、生まれにくい、状態になっていくのは仕方無いのだろうか?』


  • 註1:秋山が診療するわけではない。専門医の菅山医師が担当です。詳細は診療所HPをご覧ください。
  • 註2:これが妊娠前・出生前遺伝カウンセリングです。
  • 註3:35歳が高齢かどうかの議論はこの際関係ありません。単なる定義の為の線引きです。但し、自然な女性の妊娠可能期間、約15歳から約55歳を考えると、後半の35~55は高齢で妥当ではないかと思いますが。
  • 註4:卵子側の遺伝子異常がおこる原因:加齢そのもの、環境汚染(放射能汚染、電波汚染、環境ホルモンなど)、過度なストレス、適当でない生活習慣(喫煙、大量飲酒、偏食、など)など。
  • 註5:女体の加齢による生殖機能への影響:卵子の老化そのもの、生殖器の病変(筋腫、卵管異常、感染症、子宮内膜症など)、性交の減少のため精子や胎児に対するアレルギー反応、など。男性側の問題もあります。
  • 註6:先進国の少子化傾向は共通するものですが、国によりこれに対する政策が異なる。後進国は少子化問題はなく、反対に人口増大問題がある。
  • 註7:高学歴化のみではなく、自由に生きるなど人生の価値観の変化で、家庭ももつ人が減っているのも要因の一つだろう。
  • 註8:さらなる社会的要因として、日本の場合、女性にとってキャリアと育児が両立できる環境が整ってない(託児施設が少ない、産休をとりにくい、職場復帰が困難、など)、社会人になっても親と同居している、婚外子に対する社会的サポートが悪いなども挙げられるだろう。
  • 註9:後進国のブラジルでも、社会の上層階級では同じ事が起こってます。

アルコール。薬にしますか?毒にしますか?

By: Kazusei Akiyama, MD


Trip to Scotland. UK. Caju©2015

2015年10月

今月のひとりごと:『アルコール。薬にしますか?毒にしますか?』

このコラムの22人の読者様、先月も休稿してしまって申し訳ありませんでした。今年は調子良くないですね。さて、今回もアルコールに関するのひとりごとです。前回は精神疾患である依存症についてでしたが、続きは「アルコール関連問題」についてです。何度もいいますが、筆者は禁酒を啓蒙しているのではありません。東洋では中国発の諺、「酒は百薬の長」(註1)というのがあります。先人達が、アルコールを適度に利用すると、どの「薬=治療」よりも健康に良い効果が認められる事実を経験的に知っていたからでしょう。西洋社会でウェイトが大きい新約聖書にも健康のため少量の飲酒を薦めるくだりがあります(註2)。定期的(毎日の事です)かつ少量の飲酒は血流を良くし、新陳代謝を促進させ、それが健康につながるのだと考えます(註3)。滋養強壮系の飲み物にはアルコールが入っている事が多いですし(註4)、漢方医学ではナヨッとした冷え性の女性に出す代表的処方、当帰芍薬散の本来の使い方は「粉末を酒に混和して服用する」とあります。

  • 註1:漢の時代の「漢書・食貨志下」に出典。「夫れ塩は食肴の将、酒は百薬の長、嘉会の好、鉄は田農の本」とある。
  • 註2:新約聖書第1テモテ5章23節。反面、聖書に多い飲酒のくだりは、そのほとんどが大量飲酒や酔っ払う事を警告しているものである。
  • 註3:秋山説ですが、これについてはまたひとりごとします。
  • 註4:例:「薬用養命酒®」。

『人間の体内に入ったエタノール(註5)が及ぼす薬理的作用は1期から4期まである(註6)。循環器への影響は1期に末梢循環の拡張があり、2期より収縮が起こる。だから呑み始めには顔が赤くなり、酒が大変すすむと真っ青になるのだな。血管の収縮イコール血流が悪くなるのは誰にでも解ると思う。この「ほんのり赤く」なるくらいにしておくと薬で、それを過ぎると毒になっているのだ。』

  • 註5:酒類に入っているアルコールの正式名称ですな。
  • 註6:4期はアルコール性昏睡です。

次の表に本人へのアルコール関連の問題を示します。もちろん飲酒者本人に損傷以外に、まわりの家族や社会にも影響を及ぼします。アルコールの問題は死にまで至らしめる事ができる物質である事実でしょう。日本の厚労省の研究では、2008年の日本人の総死亡数の3.1%がアルコールが関与している推計があります。

表:アルコールが飲酒者本人に及ぼす影響。

分類

細分類

臓器障害

肝臓疾患(アルコール性肝炎、脂肪肝、肝硬変)

膵臓疾患(急性膵炎、慢性膵炎)

消化器疾患(胃炎、十二指腸炎、大腸炎、胃食道逆流症、マロリーワイス症候群、食道動脈瘤、慢性下痢、痔核)

循環器疾患(不整脈、脳出血)

生活習慣病

メタボリックシンドローム(特に中性脂肪の増加と関連)

高血圧症

糖尿病(低血糖発作も有りうる)

高脂血症

痛風

癌

肝臓ガン

食道ガン

咽頭ガン

口腔ガン

大腸ガン

乳ガン

急性アルコール中毒

直接的毒性(アルコールそのものの作用)

間接的毒性(酩酊のため、事故に巻き込まれる)

外傷や事故

吐物吸引(窒息死や肺炎)

転倒や転落

交通事故

溺水

凍死

『これら以外にも、本人のメンタルへの影響(依存症そのもの、うつ病、睡眠障害、自殺、認知症など)、家族への影響(家庭崩壊、家庭内暴力・虐待、女性の飲酒の場合胎児への影響、要介護、世代連鎖など)や社会への影響(飲酒運転、生産性の低下、失業、貧困、犯罪、未成年飲酒、アルコールハラスメント、医療費の増大など)もあるぞ。これらの問題は飲酒の仕方を変えない限り、周囲を巻き込みながら複合し、増大し、下手をすると死に至る。』

アルコール関連問題は急性アルコール中毒以外は、ジワジワと時間をかけて起こっていきます。エタノールの向精神作用として一番の特徴が「脱抑制」(註7)です。このため、乱用されやすい物質です。急激に病気になるものではないので、問題が起きた時は既に後遺症が残るほど自身や周りに影響をあたえる事が多いので、医学的な意味では現在入手できるドラッグ(向精神薬)(註8)では一番「悪い」ものであると思います。薬な呑み方をしたらとても良いものなのですが…

  • 註7:神経には活動が暴走しないように必ず抑制機能がある(行動でも感情でも)。脱抑制とはこの抑制機能が抑制される状態だな。例えば、社会的な礼節が失われる。「酔っ払い」を見たことをある人は言ってること判るでしょう?
  • 註8:医学的には合法・違法はこの場合関係がない。

自分は大丈夫と思っているのが、アル中のはじまりだぞ

By: Kazusei Akiyama, MD


Different shapes. London. Caju©2015

2015年08月

今月のひとりごと:『自分は大丈夫と思っているのが、アル中のはじまりだぞ』

今年のサンパウロの冬は全然寒くありませんが、このコラムの22人の読者様はお元気にされているのでしょうか?今月のひとりごとはサンパウロとも冬とも寒さとも関係ありません。先日、診察中に「アル中になると暴れて周りが大変」だという内容の話しが出て、もう少し突っ込むと、「暴れたりしないとアル中で無い」という見解の患者さんが来られました。おっと、ちょっと待った!暴れる前からアル中はあるぞ、といったことで、今月は「アルコール依存症」についてひとりごとをします。2014年2月号で薬物依存症についてひとりごとをする約束をしたので良い機会です。

『薬物は摂取することにより、人体に効果が現る物質である。この効果は有害でない事を大前提として開発されているのだが(註1)、使い方によっては有害な物が結構ある(註2)。有害な使い方は「乱用」あるいは「誤用」(註3)があり、乱用が薬物依存症(substance dependance)に移行する。依存症の定義には3点の診断基準を満たす必要がある。然り、①薬物耐性(持続的に使用することで、同量の薬物の摂取しても効果が薄れる)、②強迫的使用(薬物に対する渇望がある、悪いと解っていても使用してしまう、精神的依存)と③離脱症状(薬物使用が減った場合に身体的症状が現れる)が認められないと薬物依存症とは定義できない(註4)(註5)。』

  • 註1:場合によってはその薬物の目標である有益な作用以外に有害な作用があり、これは副作用と呼ばれる。
  • 註2:反対にこの特徴が「薬物」を定義するものではないだろか?
  • 註3:一般的に乱用(substance abuse)は精神障害が関連している。誤用(substance misuse)は精神的作用が関連しない物質の使用を指す。前者は「依存」を形成する潜在性効果があり、後者な形成しないとされているが、線引きが難しい。
  • 註4:精神疾患の分類でDSMと呼ばれるのがあるが、最新版では乱用と依存症を廃止し、新しく「物質使用障害」が分類されたが、是非がある。例えば、一時的な乱用者と依存症が進んだ患者では予後や治療方法が異なり、臨床上区別が必要であるからである。
  • 註5:誤用される物質では緩下剤、鎮痛剤、制酸剤、ビタミン剤、ステロイド、ホルモン剤、栄養剤、民間治療薬、など、が挙げられる。

依存症を発現させる薬物はなにも違法なものばかりではありません。違法薬物は入手が困難で、そう誰でもが使用できるものではありません。鎮静剤など、処方箋が必要な医薬品はまだ規制があるので簡単に手に入りませんが、怖いのは市販薬や薬物として販売されていないものではないでしょうか?次の表に薬物依存症を引き起こすことが認知されている物質を表します:

表:薬物依存症を引き起こすことが認知されている物質(註6)。

分類

物質

依存度

覚醒剤

アンフェタミン

メタンフェタミン

コカイン

ニコチン

カフェイン

精神的依存が強い。

身体的依存は軽度。

鎮静剤と睡眠薬

アルコール

バルビツール酸

ベンゾジアゼピン

メタカロン関連

軽度から重度の精神的依存。

重度の身体的依存。

急な離脱は致命的になりうる。

アヘン剤とオピオイド鎮痛剤

アヘン

モルヒネ・コデイン

半合成アヘン(ヘロイン、オキシコドンなど)

全合成オピオイド(メタドンなど)

軽度から重度の精神的依存。

軽度から重度の身体的依存。

急な離脱は致命的ではない。

  • 註6:大麻、LSD、エクスタシーなどは「幻覚剤系」に分類され、「離脱」がないので薬物依存症に定義できない。

『そうなのだ、この表に堂々とアルコールが出てきたのだ。普通にあるニコチンやカフェインもあるぞ。でもアルコールの依存症は重度の身体的依存があるのだな。入手が容易でもあるし、さらに悪い事に飲酒は魅力的である(glamourization of drinking)といった社会的現象も問題の発見を遅くさせているのではないかと思う(註7)。アルコールは鎮静剤系に分類されるように、薬理的作用の主なるものは、神経の抑制、つまり鎮静にあるが、その抑制の特徴が「抑制神経の抑制作用」である。だからアルコールを摂取すると歯止めが効かなくなる(註8)。そのため、乱用されやすい物質といえるぞ。』

  • 註7:この現象のため、酒類メーカー自体が「適正飲酒のすすめ」といった類いの宣伝をするようになったのでは?「飲酒は美質」の類いが圧倒的に多いけど…
  • 註8::この効果をもって「腹を割った商談」などに使用されるが。

アルコール依存症は以前は「慢性アルコール中毒、アル中」と呼ばれており、どちらかというとなる人の意志が弱いとか、道徳観念の欠陥があるからなど、人間性の問題だと考えられてました。現在は精神疾患であると認知されてます。社会的に推奨されている晩酌などから習慣飲酒が始まり、精神的依存、身体的依存を経てトラブルな人生を送ることになります(註9)。診断は医師がする必要がありますが、現在使用さている診断基準は次のとおりです(註10)。過去12ヶ月の期間に下記6項目の3つ以上が同時に起こっていると、アルコール依存症と診断されます。

  1. アルコールを飲みたいという強い欲求がある。また、飲んではいけないと思いながらつい飲んでしまう。
  2. 飲酒の時間や量をコントロールすることができない。
  3. 飲むの止めたり量を減らすと離脱症状が現れる。
  4. 酔うために必要なアルコールの量が増えてきている。
  5. 飲酒に関することに多大な時間、お金、労力を使い、それ以外のことをおろそかにする。
  6. 飲酒によって問題(健康上、家族内、仕事、学業、などに)が起きているのが明らかであるにもかかわらず、飲み続けている。
  • 註9::ASK(特定NPOアルコール薬物問題全国市民協会)のHPにとてもよく解るアルコール依存症の進行プロセスが記載されてますので、ぜひご覧ください:http://www.ask.or.jp/shinkoprocess.html
  • 註10:国際疾病分類第10版、ICD-10の診断基準、その他にDSM-4の基準も使用される。

『1項目のみで「安心した」方は、乱用している可能性大で、依存症予備軍だぞ!』

アルコールに関する医学的な話しは、あと健康上の「アルコール関連問題」があり大変重要ですが、紙面の都合で来月ひとりごとをします。続けてご覧いただければ幸いです。


不眠は増えていると思うぞ

By: Kazusei Akiyama, MD


2015年07月

今月のひとりごと:『不眠は増えていると思うぞ』

このコラムの22人の読者様、大変ご無沙汰をしてしまいました。2ヶ月連続で休稿したのは滅多にありません。実はこのところ、身内で不幸が重なり、色々メンタル面や体調面で調子がよく無く、その内、今月のひとりごとで取り上げたい「不眠」があったのです。不眠とは、言葉のとおりで、睡眠の障害がでる状態です。これが1ヶ月以上続くと、「不眠症」と呼ばれる病名がつきます。(註0)

睡眠はヒトに限るものではなく、動物はすべて生理現象として眠る事が必要です。違いがあるのは時間の長短や周期、夢の有無です。睡眠は心身を休めるためであるのは簡単に解りますね。医学的にいうと、細胞の修復、免疫力の再生、脳内の記憶の再構築、各種ホルモンの産生調整などが挙げられます。したがって睡眠が不足すると、これらの機能が阻害され(註1)、新陳代謝の低下(註2)、精神に関する疾患(註3)などが現れます。

不眠症は他の疾患と違い、数値の増減や病理的変化の有無(註4)で定義されません。つまり、「一日何時間以下の睡眠」、「入眠に何分以上かかる」「何回以上目覚める」といったような線引きがなく(註5)、「各個人が正常に眠れない状態が続き、日中に体調が悪くなる」ことと言えます。日本人では現在人口の20%が不眠に関する不満があるデータが存在します。加齢とともに増加が認められ、60歳以上では3人に1人が不眠に悩まされてます。

この疾患を分類すると4つに分けられます:寝始めの寝つきが悪い「入眠障害」、途中で何度も目が覚める「中途覚醒」、早朝に目が覚めてしまう「早朝覚醒」、十分な睡眠時間があったにもかかわらず、ぐっすり眠れたと感じない「熟眠障害」です。原因は原発性、つまり、特に不眠となる原因の疾患や条件がないケースと、二次性、つまり、睡眠を妨げる原因がはっきりする場合に分類できます。後者は原因を治療・改善することで不眠症は消失します。不眠を起こす原因や条件を表にしました。

表1:不眠の原因

生理的原因

時差ぼけや交替制勤務

悩みごと

わくわくするような事

環境要因

騒音

寝室の環境( 暑すぎる、寒すぎる、明るすぎる、枕など寝具が普段と違うなど)

器質的疾患

高血圧症や心臓病(胸苦しさ)、呼吸器疾患(咳、息苦しさ)、腎臓病や前立腺肥大(夜間の頻尿)、アレルギー疾患(痒み)、関節リュウマチ(痛み)。

脳血管発作、糖尿病、甲状腺機能亢進症。

睡眠時無呼吸症候群。ムズムズ脚症候群、周期性四肢運動障害。

精神疾患

ストレス関連障害。うつ病。

薬物など

カフェイン、ニコチンなど嗜好品含有。

ステロイド剤、降圧剤、抗がん剤、甲状腺製剤など治療薬。

『興味深いのが、「睡眠状態誤認」と呼ばれる診断名で、主観的な睡眠時間と客観的(註6)なデータが離れている状態だな。一種の時間認知障害なのだが、原因不明。客観的に観ると、相当な時間睡眠しているのだが、本人はそう感じない。ので、この場合はいくら睡眠薬を投与しても改善しない。不眠症治療の挑戦の一つだな。あと、現在バカにならないのが「ジャンクスリープ」といった状態で、テレビや音楽、照明などをつけっぱなしで寝ることだな。睡眠中に外部から音や光などの刺激が脳に伝わり、脳が休息しない。最近はスマホが普及しているので、スマホ由来のジャンクスリープが多くなっていると思うぞ。夜中にピーンとかポロロンとか各種着信音が鳴るからな(註7)。』

特に原因がなくても現社会は睡眠を妨げる方向に行っていると思います。ので、不眠症でなくても快眠のコツは有用だと考えます。表2に示します。

表2:快眠のコツ。

就寝・起床時間を規則正しく

体内時計を乱さないため。寝だめや夜更かしはだめ。

睡眠時間そのものにこだわらない

熟眠すればそれでいいのです。

太陽の光を浴びる

朝の光が大切です。光に当たると14時間目以降に眠くなります。

適度の運動

ほどよい運動ですね。やり過ぎは逆効果。

就寝前のリラックス

副交感神経を活発にさせると、寝やすくなります。ベッドでスマホはいじらない!

寝室は暗くする

暗くすることによって、睡眠ホルモンのメラトニンが放出されます。

快適な寝室をつくる

寝具、温度、湿度、同伴者の有無など。

焦らない

不眠恐怖の悪循環を断つ努力をする。

昼寝をする

13時から15時の間に20分程度の昼寝をすると快眠になる研究があります。30分以上は逆効果なので注意!

勿論、原因を診断するのが不眠症治療の第一歩です。このコラムの読者様は時差ぼけによる不眠などはよくあると思いますが、1ヶ月以上睡眠障害が続く場合は必ず医師の診断が必要と考えます。今回筆者の場合は「精神疾患」が原因の不眠だったわけですね。


  • 註0:睡眠障害はその他、寝過ぎる過眠やリズムの異常や夢遊病がありますが、今回は「寝られない」状態を取り上げます。
  • 註1:よく研究されているのが睡眠中の成長ホルモンの分泌であり、小児時に睡眠時間が少ないとこのホルモンが少なく、身長が伸びにくくなる。
  • 註2:顔色が悪くなる、食欲の低下、皮膚が荒れるなど。
  • 註3:集中力の低下、ストレスやうつなどのリスクの増加など。
  • 註4:例えば、血糖値N以上で糖尿病が定義されたり、食道にびらんがあるので食道炎が診断されたり、といったことですな。
  • 註5:これは睡眠時間は非常に個人差があるからだな。
  • 註6:ポリソノグラフと呼ばれる検査(別名睡眠ポリグラフ検査)で睡眠の長さや深さを測定できる。
  • 註7:消音しておいても、ブルブル振動してたら意味ないぞ。音を夜間設定にしておくとスマホの電源を切らなくても鳴りません。ぜひご利用ください。

またデング熱の話しなのだ。

By: Kazusei Akiyama, MD


Land of Whisky. Edinburgh. Caju©2015

2015年05月

今月のひとりごと:『またデング熱の話しなのだ。』

当地ではデング熱が流行してます。デング熱の話しは4年前に黄熱と共にひとりごとしてます。さらに、本誌上では過去に5回取り上げてますが、現在邦人が多く住むサンパウロ州でも大変な状態になってますので、公共性が高いとのことでこのコラムの22人の読者様にはお許しをいただいて再度デング熱について見直してみたいと思います。

疫学的に「流行性疾患」とは発症率が人口10万人に対し、300例以上起こっている状況をしめします(註0)。今年ブラジルで「流行状態」の州が2州、サンパウロ州が「流行に近づいている」ので、アメリカ疾病予防管理センター(CDC、Centers for Disease Control and Prevention)のブラジルへの渡航勧告の危険度上昇を4月20日に発行しました。CDCの勧告は世界的に影響力があり、これによって、邦人の渡伯にも影響がでると思われます。

  • 註0:エピデミック、英語でepidemic。ある一定の期待値以上の罹患率、いままで流行がなかった地域での予期せぬ感染症の出現。

『デング熱、またはデング出血熱はネッタイシマカやヒトスジシマカによって媒介されるデングウイルスの感染症である。このウイルスは1型から4型まで4種存在し、1度感染すると、終生免疫ができるが、交差免疫はできない(註1)。異なる型のデングに再感染した場合、重症化しやすいのもこの感染症の特徴の一つ。1970年くらいまでは、世界で7カ国・地域くらいしかなかったが、現在は全世界の熱帯、亜熱帯地域にみられる。日本では去年までは輸入例しかなかったが(註2)、8月から10月の間に160人感染者が出た。ブラジルでは2015年元旦より3月07日までに224.101例確認されており、その内、52人が死亡している。流行状態の州はAcreとGoiasで、サンパウロ州が281/10万人でほぼ流行、続いてMato Grosso do SulとTocantinsで、それ以外は100未満/10万人の常在的状況である。今年の流行はいつも多いリオ州が入ってないのが特徴かな?』

  • 註1:交差免疫とは、同じウイルスの異なる株や種でできた免疫がそのウイルスの別の株や種に対して免疫ができる事。例:インフルエンザウイルス。
  • 註2:1950年代に太平洋戦争からの帰還兵が持ち帰ったとされるウイルスで西日本で20万人規模の流行があったが、その後は年間100例程度の輸入例のみであった。

デング熱は一過性の熱性疾患です。潜伏期間は4~7日が多いですが、2週間程度もみられます。突然の高熱の発熱で発症し、頭痛、筋肉痛、関節痛、眼窩痛を伴います。発熱後、数日で解熱しますが、再度高熱が出ます(註3)。発熱期後半に体に発疹が現れます。熱、痛み、発疹などの急性症状は約一週間で軽快しますが、倦怠感が数ヶ月続く例もあります。しかし、後遺症はほとんどありません。ブラジルでの致死率は0.04%程度ですが、重症例(Severe dengue)になると8.7%に激増しますので、観察が重要ですね。重症化した例は出血性のデングがほとんどです。解熱し始めた頃から、腹痛、嘔吐、低体温、皮下の点状出血や鼻血、下血などが現れます。重症例はすべて入院が必要になります。

  • 註3:二峰性発熱と呼ばれる。

『特効薬、特異的な抗菌剤はないので、治療は対処療法のみになる。熱と痛みが強いので、解熱鎮痛剤を使う事になるが、その際、アスピリン系は禁忌である。出血が悪化する可能性があるので絶対にだめ。また、同じ理由で抗炎症剤もさける必要がある。あとは十分は休養と補液だな。』

解熱鎮痛剤はアセタミノフェンとジピロン(註4)のみ使用できます。また、日本から来られている方は、ロキソニンなど、消炎剤を常備されておられるのを多々観ますが、それら消炎鎮痛剤は使ってはいけません。サンパウロの現状ですと、デング熱は「罹る可能性がある」のではなく、「いつ感染するか」になっているので、発熱した際は気軽に風邪薬や日本で処方された消炎鎮痛剤などを使わないほうがよいと考えます。個々の薬品の製品情報をチェックした上、疑問があれば受診したほうが安全ですね。

  • 註4:ブラジルとヨーロッパで発売の解熱鎮痛剤。ブラジルでの商品名:Novalgina。

『因みに、2014年12月号でひとりごとした「チクングニア熱」は今年にはいり、2103例報告のみで、流行には至ってない。これは、同じ蚊を媒介するので、競合しているのだろな。』


子宮筋腫も欧米化の影響だろう。

By: Kazusei Akiyama, MD


2015年04月

今月のひとりごと:『子宮筋腫も欧米化の影響だろう。』

先日ブラジル全国で大規模反政府デモがあり、サンパウロでは100万人以上が集まりました。このコラムの22人の読者様も出席されたのでしょうか?汚職反対、騙すのを止めろ、ちゃんと仕事をしろ、といった内容のデモだったのですが、これってデモして言わないといけない事項なんですかね?まあ~、開業医のひとりごとです。今月の本題とは関係ありません。今月は大変多く見られる子宮筋腫を取り上げます。

『子宮は大まかにいうと3層あって、外から、漿膜、筋層、内膜があり、この筋層内に発生する良性の平滑筋腫瘍を筋腫という。繁殖期の女性の20%に発症し、40代に好発するのだな。臨床の現場では、40歳前後の女性の3人に1人の割合ぐらいで観るぞ。できる原因は分かっていない。大抵が無症状なので、健康診断とか、いわゆる直接筋腫と関係のない医療行為で観察される事が多い。女性ホルモン(エストロゲン)に依存するため、これに反応して大きくなる。そのため、閉経すると縮小する。筋腫そのものは良性であり、悪性化することは希なのだな(註1)。筋層から発生して、どの方向に大きくなるかで症状が変わってくる。外側にできる漿膜下筋腫はスペースの多い腹腔内にあるので、大変大きくなりやすく(註2)、症状が乏しい。粘膜下筋腫は反対に子宮の内側にできるので、不正出血や月経困難、不妊症(註3)の原因になり、小さくて症状が強いのが特徴だな。一番よく見る筋層内筋腫は症状的に多彩で、その大きさや発生場所によるぞ。過多月経やそのための貧血、月経困難など婦人科系の症状以外に周辺臓器を圧迫するほどの大きさになると、排尿障害、排便障害、腰痛などを起こすことがある。良性の腫瘍なので筋腫そのものは命に関わるものではないが、どの程度症状があるかで治療が必要になるのだな。』

この腫瘍は増加傾向にあります。これは、健診などでエコー検査が普及したため、発見される機会が増えたのもありますが、生活仕様が欧米化したため(註4)、女性ホルモンに影響される人生期間が伸びたため(註5)とされてます。筆者は食生活なども影響があるのではないかと思います(註6)。

『治療はどれだけ症状があるか、妊娠が必要かの二つが大きなパラメーターだな。根本的とされる治療は子宮全摘出なのだが、元の臓器が無くなるから、二度と発生しない(あたりまえだな)。これはもう出産した女性向けだな。全摘が嫌であれば、筋腫核出術、つまり、筋腫だけを切除する方法だが、多数あったり、筋層内筋腫では不可能であることが多い。薬物治療もある。女性ホルモン依存なのでそれを抑える薬を使うのだが、人工閉経になってしまうので、閉経近い場合や手術をする前に腫瘍を小さくするために投与されることが多い。その他、近年では集束超音波療法(註7)や子宮動脈塞栓術(註8)などが開発されているぞ。さらに、漢方薬が有効なのだな。』

ここまで書きましたが、ほとんどの場合、あまり婦人科的な症状がなく、治療は単なる経過観察です。しかし、腰痛や頻尿など一目関係のなさそうな症状のみも多いので、40歳代であればちゃんと受診したほうがよいのではないかと考えます(註9)。


註1:悪性化するのは0.5%に満たないとされている。しかし、元から悪性の子宮肉腫や子宮体癌も腫瘍であり、鑑別が必要である。

註2:世界最大の子宮筋腫は52歳のインド人と記録されており、13kg、直径53cmであった!

註3:着床の邪魔をするIUDと同じ効果をするのだな。

註4:疫学的事実として、日本人より欧米人に多い。

註5:女性の成熟が早まった、初潮の年齢が低くなっている。また、ホルモン補充などで閉経が遅くなった。

註6:女性ホルモンそのものや環境ホルモンが食品経由で体内に入ってくる。特に動物性蛋白経由で。

註7:腫瘍を焼く方法だな。

註8:筋腫に血液を供給している動脈に詰め物をして壊死させる方法だな。

註9:50歳代で不正出血や前出の症状がある場合は悪性の可能性が高いので受診は必須だぞ!


ブラジルにおける医学の先進性

By: Kazusei Akiyama, MD

一般社団法人日本ブラジル中央協会の会報、ブラジル特報2015年3月号の特集に記載された文章です。2015年初頭の現状で執筆されてます。PDFはこちら。

ブラジルにおける医学の先進性

ブラジルは医療発展途上国

国連が発表した2014年度の人間開発指数(HDI-Human Development Index)が187国中79位のブラジルは間違いなく医療発展途上国である。HDIは平均寿命、教育指数およびGDP指数の三つの指標からなっており、医療の発達は直接平均寿命に影響する。現在ブラジルには287000人強の医師がいるが、2/3はミナスジェラエス州以南の東南地方と南地方で活躍している。つまり、中部、北部と東北部には医師の密度が低いことを示し、これらの地方ではいわゆる無医村が多く見られる。例えば、筆者の同級生で医学部卒業後トカンチンス州に移住した者がいるが、1990年前半時点では半径250kmで唯一の医師であった。現時点ではブラジル全国平均で人口1000人に対し医師1.5人であり、WHOが推奨する最低、医師2.5人/人口1000人以下である。これが2013年よりブラジル政府が実施している医師輸入・医学部大量創立政策(Programa Mais Médicos)の根拠とされているがこれについては後ほどコメントする。

ブラジルにおける先端医学

このような医療環境で先進的な医学が行われているかどうかを考察する。先進的な医学をいうとまず連想するのが「先端医学(医療)」または「高度先進医療」であろう。いろんな名称があるが、本文では先端医学とする。先端医学の関心は大まかに二つに分類できる。一つが現在治療が確定していない健康上の問題の解決方法を探る方面。二つ目が現行の治療方法をさらに良い方向へ改善する技術を探る方面。また、実施面では「研究」と「臨床」にも分類できる。結論からいうと、当地ブラジルの先端医学は研究が弱く、臨床が強いと言えると考える。理想的には研究と臨床が同時に行える環境こそこれらがお互いに生きるのだが、この環境が整備されていないのが当地の現状であろう。日本では各医学部に先端医学関連の部署が設置されているが、ブラジルの医学部は少ない例外を除き、普通の医師を養成するのが精一杯といったところである。いかなる研究でもすぐに実用化するものではないので助成システムが必要である。研究先進国では、公共と私設の助成システムが豊富であるが、ブラジルではCNPq(Conselho Nacional de Desenvolvimento Científico e Tecnológico – 科学と技術の開発国家評議会、連邦政府の「科学と技術と革新の省」の部門)やFAPESP(Fundação de Amparo à Pesquisa do Estado de São Paulo、サンパウロ州研究助成財団、サンパウロ州政府の「高等教育局の外郭団体)の2機関が主な助成機関であり、公共資金がほとんどである。反面、総合的に社会的な整備がない事は先進国では考えられないような事が行えるのでもある。つまり、医師免許取得以前から医療行為に従事でき、医療費が無料の大学病院に大量に来る患者さんで臨床訓練ができる事を示している。このため、手技が問われる部門ではブラジルの(まともな医学部出身の)医師は先進国の同職者と比較して上手だと言える。

先端医学の分野をいくつか

先端医学の各分野としてはテーラーメイド医療(遺伝子レベルでの個体差に合わせた医療)、分子治療、細胞遺伝子治療などの研究と確立や、医工学を駆使した低侵襲医療、脳神経科学への応用などがある。前者の分野では癌、免疫疾患、糖尿病や虚血性血管疾患などのいわゆる生活習慣病関連、難治性疾患、細胞再生・移植医学、治療の確定されていない感染症の治療や予防などが主な研究対象である。後者ではロボット工学を用いた手術、腹腔鏡や非有線式カメラなど内視鏡技術、カテーテル経由の血管治療、脳神経損傷に対する工学応用などが代表的である。ブラジルではどのような事がされているのだろう?先端医学で最も目を引くのが、脊椎障害に対する対策として、脳波で制御する外骨格(exoskeleton)の研究であろう。これはサンパウロ大学出身の米国Duke大学教授のNicoelis医師の研究であり、去年のワールドカップのオープニングでかの外骨格を着用した脊椎麻痺の29歳男性がサッカーボールを蹴る場面(写真)が有名である(開催式の一部であり、平行して他の催し物があったのでテレビでは1秒しか映らなかった。そのため実際本当に作動したのかどうか議論があるが)。その他、サンパウロ大学で糖尿病治療として幹細胞を使った膵臓細胞再生の研究やリオデジャネイロのFIOCRUZ(Fundação Oswaldo Cruz、オスバルド・クルス財団、連邦政府の保健省の外郭団体)のデング熱ワクチン開発などが挙げられる。FIOCRUZは1900年創立当初からブラジルの感染症系の先端医学を担っているといえるであろう。元々ペスト対策に創設された機関であったが、クルス博士主導で当時ブラジルの首都であったリオの黄熱を駆除した実績がある。最近では中南米で初めてHIV菌を分離したり、開発途中のシャーガス病の治療薬やマラリアのワクチンの研究などがある。広い国土の上、医療格差が激しい当地で最も期待される先端技術は遠隔医学(telemedicine)であろう。これはインターネットなどの通信技術を活用して、診察、診断、治療をする行為である。例えば、僻地の医師が医用画像を中心地の専門医療機関に送信して、診断の支援を仰ぐ。そして、一番高度な行為は遠隔手術だとされる。しかし、お粗末なブラジルの通信事情では実用化が困難であるのが現状である。

臨床方面での先端医学

ブラジルの医療で世界にも誇れるのは、臨床方面であろう。ブラジル人は意外と器用であり、好奇心旺盛で、新興的社会のため元からの慣習やしがらみが少ないので新しい技術や知識に対する抵抗が少ないように思われる。この例として、心臓移植手術と肝臓移植手術はどちらも世界で2例目であったことが挙げられるのではないか。慣習の例としては、医療鍼灸が典型的ではないだろうか。日本ではもとから東洋医学が存在したが、明治政府により禁止され再度医療システムに完全に取り入れられるまでに130年ほどかかっている。禁止の派生で鍼灸師制度が出来たので鍼灸そのものは存続したが、医師は鍼灸を敬遠したのだろう。当地ではこのような歴史がないので、1980年代までは冷たい目で見られていたが1990年代に10年くらいでアッサリ伯国医師会の分科会にまで成長した。

ブラジルの医療ツーリズム

サンパウロ市の第一線の病院では外国の患者が治療受診に訪れ、増える一方である。この10年間で毎年15%の増加率の試算がある。連邦政府観光局の統計では年間6万人程度が医療観光にブラジルを訪れるとするデータも存在する。この現象はまず、当地トップクラスの医療機関は米国の同クラスの機関と差異が無いからであると考える。また、医療内容もさることながら、(まだ)人件費が比較的安いので医療スタッフを大量に投入でき、病院のいわゆるホテル機能が大変優秀であることも人気の一員にあると思われる。邦人でこの事実を活用しているのは駐在家族の奥様方ではないかと思う。然り、「わざわざ」ブラジルで出産をされているケースをよくみるのである。語学や習慣の違いの問題以上にメリットがあるからであろう。日本人を含む外国人がよく受ける医療行為は、癌治療と皮膚科エステ関連、人工授精、外科では美容形成、歯科、整形外科、心臓循環器系、神経外科、肥満外科手術などである。特に美容形成手術は世界的にも有名で、最も著名なのはイーヴォ・ピタングイ博士であろう。リオのボタフォーゴ地区にあるクリニックには世界中から患者が受診し、特にアラブの王室のお気に入りであることは有名である。皮膚を露出する機会が多く、美容を重要視するリオならではの現象である。

「Mais Médicos」の問題点

最後に紹介したいのが、先端医学ではないが、先端医療政策といえるのが、現政権が2013年に開始した「Mais Medicos」(直訳:もっと医者を)政策で、ブラジルの医療過疎や偏在を解決しようとするものである。まず国外で医学を学んだ医師免許の怪しいブラジル人やキューバ人医師を1万5千人程度過疎地に投入する。平行して、2018年までに1校100人位の医学校を110~120校創立して、毎年11000人医師を増やすといった無謀な政策である。世界的にも例のない試みである。当地の医療過疎は医学校の不足から来るモノではなく、地方に医師を分配し、根付かせる政策が無いのが問題の根本にあり、そのあたりを整備しないでは先が思いやられる。

2015年2月6日執筆


 

解禁状態だな、キス。けど、汚ったね~

By: Kazusei Akiyama, MD


2015年03月

今月のひとりごと:『解禁状態だな、キス。けど、汚ったね~』

さてまたカーニバルの時期が来ました。正確にいうと、時期が去ったのですが、今年は早めにあったので良かったです。当地に住むと解るのですが、ブラジルでは「カーニバルが済んでようやく一年が始まる」のでようやく仕事に取り付けるといった所です。カーニバルネタは毎年あるのですが、ここ数年前から加速している現象で、今年はすっかり定着した感じの「beijo na boca」についてのひとりごとです。

『直訳すると、「口にキスする」で、この場合は濃厚接吻、ディープキスのことだな。で、どんな現象かというと、お祭り(この場合は公道でのカーニバル騒ぎ)で群衆が集り、すれ違った不特定多数の人とディープキスをするのだ。大抵は男女のパターンだが、男x男でも女x女でもよい。できるだけ多くの他人とキスするのがいいのだそうだ。強制的にするのではなく、ま~遊び感覚でやるわけだが、医学的に観て全然お勧めできることではないよな。お互いの同意の上成り立った行動なので、法的には問題がないが(註1)しかし、汚いと思うぞ。』

日本の文化でもキス、接吻は愛情の表現であり、性的行動の一部でもありますね。西洋でも愛情の表現ですが、やり方によって、度合いが違います。つまり、額にすると、親愛、頬だと単なる挨拶(註2)、口だと愛情、さらに濃厚な口だと性行為といった位置づけになります。挨拶以外は、いわゆる「気持ちの良い、良くさせてくれる」行動に当たります。で、今回のひとりごとの現象は①できるだけ気持ちよくなりたい、②特定のお付き合いはしたくない(註3)が合わさったものではないかと考えます。はっきりいって、この現象のキスは性的行動と取れるでしょう。

『で、当事者達は性交までいってないので安全だと思っているらしい。性交「よりかは」安全かな。しかし、キスで伝染する病気などいっぱいあるぞ。しかも、完全治癒しないものまで。反対に性交のほうが、機械的なバリアを使用することが出来るので(註4)キスより伝染性が低いかもしれない。口の中(医学的にいうと、口腔内)はバイ菌がとてつなく多いぞ。場合によっては肛門より細菌が多い(註5)。年齢とか歯の有無にもよるが、一般的に口腔内には300種類以上の細菌が存在し、その総数5000億個くらいある!(註6)』

キスによって伝染する疾患をまとめてみると次のようになります。典型的な「キス病」とされるのが、Epstein-Barrウイルス感染である伝染性単核球症(infectious mononucleosis)です。重症化する事が多い細菌性髄膜炎。でも頻度の多いのが唇ヘルペス(1型ヘルペス)で、これは一度感染すると一生治らない。さらに、A型とB型肝炎。人パピロマウイルス。梅毒。歯周炎、虫歯(註7)。風邪、感冒。アメーバやべん毛虫のような原虫系寄生虫。真菌症。都市伝説ではキスによるAIDS伝染がありますが、これは科学的に証明されたことがありません。感染症の治療が進み、ちょっとしたことでは命にかかわる事がなくなってきた(註8)のがこの現象を助長しているのではないかと思う筆者でした。

医学の進歩も善し悪しでしょうかね?


  • 註1:2009年にブラジル刑法の部分改定があり、強姦や性的虐待の定義が変わり、キスでも強制的にするとこの法に触れる可能性大。
  • 註2:この挨拶のキスがブラジルの地方によってやり方が異なる。サンパウロでは1回(右側)、リオとミナスが2回(右左)、北やかなりの田舎にだと3回(右左右)なのだ。特にサンパウロ市では1回以上頬キスしようとすると、「田舎者」とバカにされる事があるので注意!
  • 註3:最近は特定の人としっかりお付き合いしないのがトレンドらしい。自由が良いとか、面倒だとか、色々理由があるようだが、反面、寂しい人間を大量に産出しているのではないかな?多数に囲まれた孤独。
  • 註4:コンドームのことだな。
  • 註5:この「場合によって」は簡単になる。1日歯磨きしないと、口腔内細菌数が爆発的に増える。
  • 註6:キスをたくさんすると勿論増えるが、ある一定の数になるとそれ以上は飽和状態になるので増えない。
  • 註7:そう、虫歯の原因のバイ菌がうつるのだな。
  • 註8:特にHIVの治療が確立され、AIDSで死亡することが激減したのが、今回のような現象の行動と関係があるだろう。20年前まで、HIV陽性は死の宣言であったのが、現在では「単なる感染症」の位置づけになってきている。

 

胃カメラと東西考

By: Kazusei Akiyama, MD


2015年01月

今月のひとりごと:『胃カメラと東西考』

新年明けましておめでとうございます。22人の読者様に今年もぜひご愛読いただけるように頑張ろうと思う筆者です。年末年始は例年のクリスマスデコレーションが減った感じでしたね。去年はW杯と大統領選挙があったので、企業の協賛や献金が多く、年末には弾切れになったとどこかで解説してました。また、サンパウロでは水不足が深刻で、毎日の生活に影響を与えるかどうか心配です。新年から盛り下げる話題で申し訳ありません。

さて今月のひとりごとは苦痛に対する東洋と西洋の考え方の違いです。勿論東西どちらも苦痛を嫌いますが、その苦痛であるとする感覚は違います。おおざっぱにいうと、西洋では痛みとは「良くない事」であり、廃除すべきモノの一つに挙げられます。東洋では痛みは「生理現象の一つ」であり、自然の一部と捉えられるのではないでしょうか?東洋では多少の痛みは「苦痛」とまで考えないので、指圧や鍼灸など若干痛みが伴う手技が発明されたのではないかと考えます。反面、西洋の文明に影響が多大なキリストが最後にイバラの冠を着けられた事に象徴されるように、痛いことは悪いことであると捉えられるのだと思います。この違いを日本人には経験が多い「胃カメラ」で考察します。

胃カメラは内視鏡検査検査の一種です。内視鏡検査は、医療で光学系の器機を用いて人体内を観察する検査です(註1)。有線式のいわゆる胃カメラや大腸カメラ、腹腔鏡、気管支鏡、血管内視鏡などと非有線式のカプセル内視鏡がありますが、後者はまだ一般的ではありません。なぜ「胃カメラと日本人」かというと、日本人種は世界で一番胃癌の多い民族であるからです。この背景があるからこそ、「胃癌検診のシステム構築」、「世界で類を見ない胃レントゲン造影(バリウム検査)の技術」、「胃カメラの開発」があったのです。ブラジルを含む欧米では、胃カメラ検査は「麻酔」や「鎮静剤」や「鎮痛剤」を投与して意識がなく、眠った状態でするのが普通ですが(註2)、日本ではそうでもありません(註3)。

  • 註1:広義では直接観察しにくいモノの内部を観察する器機や検査を示しますが、ここでは医療用の話しです。
  • 註2:ここでは麻酔や鎮静剤や鎮痛剤を総じて「麻酔」とします。
  • 註3:日本では最近、無痛内視鏡とか睡眠内視鏡などと呼ばれる。

『麻酔を使う使わないは医療が進んでいるいないの問題ではなく、痛みに対する捉え方が違うからだぞ。どちらも利点不利点あり、何を重要視するかかによるのだな。麻酔を使うとそのための事故があるのだな(註4)。表に使用不使用のメリットデメリットをまとめた。胃カメラの麻酔は必須ではないのだが、当地では麻酔事故のリスクは無しのリスクを上回るを考えられているのだな。麻酔をして手術するのが当たり前感覚。全然議論にもならない。反面、日本では機器の進歩(この場合は内視鏡の細経化)と医師の技術向上があれば麻酔は邪道と言う考え方が主流なのだな。実際にはブラジルで初めて麻酔胃カメラをした患者さんは「とても楽で、今までのは何?」といった意見がほとんどだな。大腸カメラになると、さらに麻酔の効果が顕著だな。』

  • 註4:死亡事故もさることながら(10万件に1例くらいの頻度)、麻酔下検査後、事故や合併症を起こして救急医療を受ける頻度が統計がある米国では「看過できない」とまで報告されてます。

表をみるとどちらの方法が良いとは断言できないと思います。胃癌が多い邦人、特に男性は40歳を過ぎたら必ず毎年胃の検査をするのが理想的です。その時、どのような検査をするか、そして麻酔の使用の有無を主治医に相談していただけたら幸いです。

  • 註5:消化器粘膜を伸ばしてヒダとヒダの間をちゃんと観察するため。

チクングニア熱が来るぞ!

By: Kazusei Akiyama, MD


2014年12月

今月のひとりごと:『チクングニア熱が来るぞ!』

今月はひとりごとというより、医学情報です。当地サンパウロでは雨が少ない今年ですが、これより雨期に入りますので、例年の大水に関連する病気(註1)が増えます。レプトスピラ症はネズミの尿に触れなければ感染しないので、洪水時に泳がなければ大丈夫ですが、面倒なのは「蚊」が媒介するやつです。この所、日本でも「デング熱」が国内で出現し、話題になってます。また、怖いのが「エボラ出血熱」。これは何時流行地のアフリカ西部を出るか、や、治療薬で日本製の抗生剤が有効の可能性があるなと注目を浴びてますね。なぜ怖いかというと、とにかく致死率がとんでもなく高い。罹患すると半分は死亡する感染症です。しかし、比較的静かにブラジル国内に輸入されているのが「チクングニア熱」です。

日本語では「チクングニア」または「チクングンヤ」と標記される(註2)ウイルス性の感染症です。なぜ出血熱の話しにチクングニアが出てくるかというと、感染には「蚊」が媒介するからで、この蚊がデング熱や黄熱、マラリアなどを媒介するのと同じ「ネッタイシマカ」や「ヒトスジシマカ」によるものであるからです(註3)。つまり、感染経路がまったく同じであるのですね。当地の保健関係の監督局では例年のデング熱に合わせ、チクングンヤ熱も流行するのではないかと大変警戒しているもようです。ブラジルでは国内感染例はまだなく、今年の9月よりカリブ海地域からの輸入が報告されてます(註4)。蚊に媒介される感染症は発病している人間を吸血することにより、感染が広がります。ので、発病中は隔離して、蚊に咬まれないようにするのが感染散布の予防の一番重要なとろろですが、デング熱の流行をみても解るように、ブラジルの現状では無理な相談です。また、デング熱と症状が重複することから、来年の夏の熱性感染症ではデングとチクングニアを鑑別する必要があるのも難題の一つです。

チクングニアとはアフリカの現地語、バント語で「折り曲げる」意味で、これは一番主特徴、関節痛のためです。発病者は関節痛のため、「屈んで歩く」のでこの名称が定着しました。潜伏期間は3日~1週間程度で、急激な高熱(38.5℃以上)、発疹、激しい関節痛を起こします。その他、頭痛、全身倦怠感、嘔吐、筋肉痛、結膜炎、リンパ節腫脹などが現れることがあります。重症例では出血や脳症がありますが、致死率は低い感染症です。

チクングニア熱の特徴の関節痛は四肢に強く、遠位かつ対称性(つまり末端にいくほど強く、左右対称に出現する)で次の順に多く見られます:手首、足首、指、膝、肘、肩(註5)。症状は数日から2週間程度続き、ほとんど後遺症なく終焉します。

予防は蚊に刺されないことが中心になります。予防薬も治療薬もありません。投薬は対処療法のみで、ブラジルの場合、前出で説明したようにデング熱の可能性もありますので、解熱鎮痛剤はサリチル酸系(アスピリン系)使用は禁忌です(註6)。デングとチクングニアの鑑別は特異的症状が無い限り、血液検査をするしかありません。今年の夏の高熱は例年よりも注意が必要ですね。高熱の場合、早めの受診をお勧めします。


註1:都市部では蚊とデング熱、ネズミとレプトスピラ症。ブラジル内部では蚊と黄熱が追加。

註2:ポルトガル語では chikungunya または chicungunha。

註3:エボラ熱も蚊による感染説が浮上してきている。

註4:2014/10末までブラジル全国で828例確認されている。

註5:腰、頸椎はめずらしい。

註6:出血が悪化するため。