たかが下痢、されど下痢。

By: Kazusei Akiyama, MD


2014年11月

今月のひとりごと:『たかが下痢、されど下痢。』

今年の5月に便秘のひとりごとをしたのですが、好評でしたので今月は下痢の話しです。

排便は生活の一部ですが、以外と医学で問題視されていないのではないでしょうか?その証拠の一部に「毎日快便」のようなアプローチはどちらかというとサプリメント関連の業界からされていると思います。便秘と下痢、どちらも排便の異常ですが、まだ下痢のほうが医療に重要視されているでしょう。それもそのはず、下痢は子供の死因の大原因のひとつなのです。現在の日本やブラジルでも考えられなくなってますが、世界的にみると年間76万人の五歳以下の子供が下痢のために死亡してます(註1、註2)。これらはアフリカや南アジアなど、まだまだ上下水道などのインフラ整備や医療が進んでない所の事情ですね。このコラムの22人の読者様の事情はそういったものではありません。

まず下痢の定義ですが、普通便より水分の多い液体状便のことを指します。形状により、軟便、泥状便、水様便と分類しますが、はっきりした区切りは無いです(註3)。ほ乳類は通常大腸で水分を吸収する構造になってますが、何らかの原因でその水分が十分吸収されないまま排便されたのもが「下痢」です。また、吸収の問題ではなく、腸から水分が排出される状況もあり、これはさらに重篤な状態です。下痢の原因は大きく分けて、「食べ物が良くなかった」と「腸が病気になった」です。

食べ物が良くなかった(あるいは食べ方が悪かった):暴飲暴食と 食中毒ですね。食べ過ぎ、大量飲酒、冷えた飲食物、油や刺激物や人工甘味料の大量摂取、乳糖不耐症、下痢をするモノの摂取、海外での飲食、アレルギーなどです。

腸が病気になった:感染症、ストレス。吸収不良症候群、炎症性腸疾患(註4)、甲状腺機能異常、糖尿病、薬の副作用、大腸癌、お腹を冷やす、などです。

『筆者の診療所に来られる下痢の患者さんのほとんどが感染症が原因だな。ノロとかロタとかウイルス性が多い。いわゆる腸風邪だな。でも当地でバカにならないのが寄生虫。アメーバとかべん毛虫など肉眼で見えない虫の感染が結構あるぞ。まだまだ後進国だからな。患者さんは「そんな汚い所で食事してません!」とかおっしゃるが、「キレイな所」で下働きしているのは「汚い所」に住んでいる人だったりするのだな。意外と多いのがストレス関連の下痢。不安神経障害の症状の一つだな。ストレスイコールだれでもなる訳ではないけど過敏性腸症候群になりやすい体質だとよくあるぞ。』

この話しには必ず「下痢止め」云々がありますが、ほとんどの場合、体の防衛反応としての下痢なので、止めるとかえって悪化する事になります。ので、ちゃんとした診断がないかぎり、下痢止めは服用すべきではありません。 腸の病気の分類は感染症とストレス系をのぞくと重要な疾患ばかりです。下痢が1ヶ月以上続く場合はどこかおかしいですから医者に診てもらったほうが良いと考えます。


註1:5歳以下子供の一番の死因は肺炎。

註2:これでも減ったのだな。30年ほど前は年間500万人くらいだった。ブラジルも多かった。

註3:軟便と水様便の違いは一目瞭然で解りますね。

註4:潰瘍性大腸炎、クローン病、腸ベーチェット病など。


意味の無い検査は…意味が無いぞ。

By: Kazusei Akiyama, MD


2014年10月

今月のひとりごと:『意味の無い検査は…意味が無いぞ。』

このコラムの22人の読者様、皆様お元気でしょうか?今月は「検査」つまり、「臨床検査」のひとりごとです。検査は医療のなかで診断にたどりつく手段であることはあまり説明が要らないと思います。そういった意味では問診や聴診も臨床検査ですし、体重測定もそうです。しかし一般的に検査というと検体検査と生体検査が臨床検査と理解されていると思います(註1)。

『要するに、検査をして医業の目的の一つ、診断に行き着くのだが、現在の医療のやり方をみていると臨床検査そのものの一人歩きがあるのではないかと思うほど「検査」を重要視する傾向にあるだろう。元々臨床検査は医学教育の過程で「補助診断(註2)」と呼ばれ、問診と診察、つまり医師が患者を直接診る行為こそが病態把握に最も重要であるとの考え方を教えるものであるのだな。実際、臨床学の大先生に言われたのが「ちゃんと問診と診察をすると8割方診断がつく、残り2割の疑問点などを臨床検査で確認する」であったのだ。ここでのポイントは「確認する」であって、なにか解らんから検査で決めることではない。』

いわゆる検査で病気の有無を決定するのは実は大変な問題があるのです。画像に写ってないから陰性であるとか、検査が陽性であったから病気ですとか一般的にはそのように考えるのですが、人間がかかわるすべての物のとおり、「検査ミス」の問題もありますし、またすべての検査にまとわる「感度」と「特異度」といった特徴のため、偽陽性と偽陰性があります。

『例えば血液検査の結果は数字で出ると、なにか正確な感じがするのだが、検査ミスでその数字が検出されている可能性があるぞ。有名な話しで、1970年代米国CDC(註3)が米国の検査ミスを調査した結果、ミスが全体の25%以上もあった。4分の1だぞ!仮にミスがなかったとしても、どの検査にも感度と特異度という概念があり、結論からいうと100%正確な検査は地球上存在しない。簡単にいうと感度とは「その検査がどれだけ目的の変化を検出出来るか?」であり、特異度とは「その検査はどれだけ目的の変化を検出するのに向いているか?」といえるだろう。例えば、頭痛の検査で心電図は向いていない。あるいは子宮癌の検査でレントゲン撮影は感度が低い。感度が高くて特異度が低い検査は偽陽性、つまり病気がないのに陽性と出る確率が高くなる。特異度が高くても感度が低い検査は偽陰性、つまり病気があるのに陰性と出る確率が高くなる。前者は本当に病気である人を見逃す確率が減るが、無い人を正しく診断できない。後者は前者のように無い人を病気であると診断しないが、あるひとを正しく診断できない。』

この様な現象を理解しながら診察しないといけないのですが、一般的な医療実態ですと診察時間が短く、医師が熟考する時間がないので、補助診断であるべき検査に頼ってしまうのですね。また、場合によっては病院や医療機関の収益のために検査をだす事もあるでしょう。なにがなんでも「検査」が良い訳ではありません。前出の偽陽性ですと、不必要に心配しますし、確認の精密検査などさらに費用やリスクがかかります。また、検査の概念に「侵襲性」があり、感度も特異度も高くても高侵襲であるとトラブルになる可能性が高くなります(註4)。

『さらに、検査は診断のみに影響をあたえるものだけではなく、治療にも影響をあたえるものでないと意味がない。例えば、インフルエンザはA型とB型があるが、検査によりAかBが出ても、治療は同じだし、一般臨床現場では予後は同じなので、はっきりいってどっちでもいいのだな。反対の例はウイルス性肝炎の場合、A型、B型、C型、その他あるが、型によって治療薬や予後が異なるので判別が重要である。また、必ずしも検査に陽性を求める訳ではない。場合によっては、「ほら、何もないですよ」と患者さんを安心させるために検査をすることもあるぞ。』

ということで、「検査」は「補助診断」と位置づけする医療が患者さんにとって一番良いのではないか?と考える筆者でした。


註1:検体検査とは血液や尿、組織サンプルなど人体から採取した検体を試験所に持ち込み検査する。生体検査はレントゲンやMRIなどの画像診断、内視鏡や眼科の検査、負荷試験や機能検査など人体を実態で検査する。

註2:ポル語ではexames complementares、英語ではsupplementary testsやcomplementary diagnosis examsなどと呼ばれる。

註3:Centers for Desease Control、疾病対策センター。主に感染症の世界的権威。

註4:大まかに、侵襲的検査、低侵襲的検査、非侵襲的検査に分類される。英語でinvasive test (examination), little invasive or minimally invasive, non-invasive test。


熱中症の反対かな?

By: Kazusei Akiyama, MD


2014年09月

今月のひとりごと:『熱中症の反対かな?』

サンパウロでは相変わらず乾燥した毎日が続きます。この原稿を書いている日は湿度が14%、気温はこの冬一番あつい32℃を観測し、健康上非常に危険な状況です。気温と湿度の組み合わせは人間の生活に影響を及ぼします。湿度とは「大気中に含まれる水蒸気量を数値で表したもの」です。(註1)。低いほど水蒸気量が少ないので乾燥している事になりますね。ポル語の標記は「umidade relativa do ar」です。湿度の話は2012年9月にも「加湿器」についてひとりごとしてますのでご参照ください。

健康上の影響を考えると、例えば日本ではいわゆる高温多湿な夏期で「熱中症」が、冬期に「乾燥注意」が関係します。前者は暑さのため熱射病や脱水がおこり、ひどい場合死亡例もあります。後者の乾燥はインフルエンザが関係しているので、最近ではインフルエンザ警戒に乾燥をモニターするスマホアプリまで出てきているようですね。これはちゃんとした理由があり、湿度が20%を切るとインフルエンザウイルスが繁殖に好む環境になるからです(註2)。当地でも冬期に乾燥しますが、日本のように寒くなる訳ではありません。どちらかというと8月9月は冬でも暑くなる事が多く、そのため光化学スモッグが発生(註3)しやすい環境になり、それは湿度が低い状況と重複するので健康被害を起こしやすくなります。

順調に生活できる湿度は60%前後とされてます。はっきりした定義はありませんが、それ以上だと多湿でありいわゆるジメジメした感じが強くなっていきます。それ自体が不快であるし、カビなどが繁殖しやすい状況ですのでそれが健康を害する原因になりかねません。多湿に高温が重なると、熱中症が発症する環境になります。しかし、当地ではそれほど高温にも多湿にもなりません。健康上問題があるのは反対に低湿+光化学スモッグ+元々冬なので呼吸器感染(風邪ですな)のこの今の季節です。カンピーナス大学(UNICAMP)の研究(註4)をベースにしたブラジル独特の湿度に関する警報・注意報があります(表1)ので参考にしてください。

乾燥すると次のような症状・現象が現れます:

・呼吸器系の疾患やアレルギーの悪化

・鼻血

・皮膚の乾燥、唇のひび割れ

・目がチカチカする

・静電気の発生

・農地や森林での火災

対策は緊急報がでた場合は加湿が必要ですが(註5)、それ以外は水分補給が主になります。22人の読者様の各自宅に湿度計があれば良いのですが、最近はパソコンやスマホ用の気象情報アプリが充実してますので、予報をみながら乾燥の予防をお願いしたいものです。


註1:日常的にみる湿度は相対湿度とよばれるもので、ある気温の飽和水蒸気量に対する実測値を比率で表すので、%表示になります。他にも絶対湿度があります。

註2::インフルエンザウイルスは低湿度、低気温、暗い場所で繁殖するのでつまり冬にはやる訳ですな。詳しくは2009年5月のひとりごとをご参照ください。

註3:光化学スモッグはからっとした晴天の日にしか出現しない。サンパウロでも夏のほうが日照が強いが、夕立などスコール系の雨が多いので条件が揃うのは冬期になる。

註4:CEPAGRI, Centro de Pesquisas Meteorológicas e Climáticas aplicadas à Agriculturaの研究。

註5:加湿器や濡れタオルなどで。


ボロ負けしたほうがモテるんだ…

By: Kazusei Akiyama, MD


2014年08月

今月のひとりごと:『ボロ負けしたほうがモテるんだ…』

ようやくFIFAのワールドカップ2014が終わり、1ヶ月間麻酔状態であったブラジルの社会が麻酔から覚めてきたところです(註1)。このコラムの22人の読者様はどのように1ヶ月間すごされたのでしょうか?暴動が起こるだの、社会インフラができてないから大失敗するだの開催前はさんざんな見立があったブラジル杯はなんとか無事に終了はしたのですが反対に前評価が悪かったために「なんだ、ちゃんとできたじゃない」とか「「予想に反してすばらしい出来であった」とかの意見が多かったですね。しかし、これには当地で開業している筆者から言わせてもらうと、「ブラジル全体が1ヶ月の休みにしたから(なったから)なんとか上手くいった」としか言いようがないと思います。もちろん正常な社会経済活動はなかったし、経済的なダメージも膨大なものなったのは間違いないでしょう(註2)。

でも、「…なんか理不尽…」というのが、ブラジルで開催されたワールドカップが終わってからの心境でした。ブラジル人の心境ではなく、筆者のです(註3)。もちろん説明が必要です。準決勝戦でドイツに7X1で惨敗して、その後3位決定戦でオランダ3x0でダメをだめ押しされた後、セレソンの選手達を指しての女性のコメントが「気の毒」から「かわいそう」をとおり「アーよしよし、ダッコしてあげたい」まであったのですね。その上で、「母性本能をくすぐられた」とか「だめな息子を戦場に送り出す母の気持ちはこうなのか」とか女性達の説明を聞いていると理不尽だと思う反面、「はは~、なるほど」と結構納得した面もあったのです。男性と女性は色々違う!と言うまでも有りませんが、その違いをはっきり見せて(見せつけて)くれた大イベントでしたね(註4)。

『それでそのくすぐられる「母性本能」とやら、どういった物か?医者として、あまり疑問に思ってなかったのですが(註5)、調べてみるとすごく議論がある(社会人類学的見解や心理学的見解)のと、恋愛の手段としての位置づけがある(母性本能を利用して女性にモテる)のが見つかった。結論からいうと、前者はピントがずれているのでは?後者は今時の「草食性男性x肉食性女性」なる時期を航海するための手段?と思ったぞ。この後者の「今時の現象」があるため、または至ったための前者の議論でもあるけど。要するに、母性本能があるのかないのかの大議論があるのは本能のような非理性的な生物現象を人間の理性で勘案するからでないかと思う。母性本能を「もっているだろう(あるだろう)」「もっている(ある)」「もっていない(ない)」「もちろんもってる(もちろんある)」などの議論は医学的観点からいうと不毛で無駄であると思うけど。それで少子化や晩婚、未婚などの議論に突入するのだな。

理性的な母性、またはそれに関する議論、つまり、母親になるか(註6)どうかの「理性的母性」の話とごっちゃになってる(註7)あるいは、学習するものである(から学習したものがもってる)とか。医学的にいうと「ほ乳類と鳥類の雌に見られる、生理的な、繁殖と養育に関する反応であり、人類にも認められる」だと愚考する。』

こんな事「も」考えさせられるW杯でした。さて、仕事仕事!


註1:そう、麻酔状態です、陶酔状態の誤字ではありません。

註2:例えば、期間中懸念されていた空輸は問題なく稼働したわけですが、これはビジネスユーザーが激減したためと説明されている。ホテル業界でも結局空室が結構多かったのもそのためとされている。

註3:ブラジル人の心境は一言でいうと、「唖然」でしょう。

註4:ここまで負けるか。

註5:本能は存在するから、また、日常的にそれが観察できるから。良い例が赤ん坊です。おっぱいに吸い付くとか、不快であれば泣くとか。

註6:「母に」なるか、なりたい、なりたくない、ならない、なれない、ならないといけない、なるだろう、なるのか、などなど、延々と続くぞ…

註7:他にも母性があり、混同されているのが判る:母性(maternity)、母性本能(maternal instinct)、母性愛(maternal love)、母性的行動(maternal attitude)。これらは定義が違うぞ!


腹が立って…

By: Kazusei Akiyama, MD


2014年06月

今月のひとりごと:『腹が立って…』

「…しようがない」のと「…どうしていいのかわからない」のがワールドカップを前にしたブラジル人の心境ではないでしょうか?というのが今月のひとりごとです。このコラムの22人の読者様の一人に「最近治安が悪くなっている」との指摘があり、これをテーマに風が吹けば桶屋が儲かる式に少し考えてみたいと思います。

『治安が悪くなっているというか、どちらかというと社会全体が暴力的になっているのではないかと思うぞ。ブラジルの80年代は非常に治安が悪化した時代であったが、その時の状況とは違う。かの時期はあまりにも貧富の差が激しく、生活の糧として泥棒するのがもっと頻繁であった。その過程として、暴力が使われた。「泥棒のツールとしての暴力」だな。それから30年以上たった現在では前より貧困層が少なくなっているのは間違いないので、「食べるのに困って泥棒した」パターンは激減したであろう。であれば単純に盗難などが減るはずであるが、そうではないのだな。警察を管轄するサンパウロ州政府の発表では、今年の第1四半期の統計では強盗の件数が32.5%増加したとのことだ。反対に窃盗や単純殺人は現象のトレンドにある(註1)。「暴力のツールとしての泥棒」だな。また、この所頻繁に起こっているlinchamento(リンチ、私刑)は新しい社会現象であり、これも暴力の表現方法だな。私刑は集団暴行の一種だが、「処罰」が関係する(註2)。身内の殺人などもあるぞ。』

このように観ると、暴力の蔓延が起こっているとまでいえるのではないでしょうか?ブラジルだけの社会現象ではないでしょうけど。

『社会人類学にはculture of fear「恐怖の文化」というものがある。現代の西洋社会に存在する現象とされ、単純にいうと「社会の中には常に何かに対する恐怖が存在する」、「そしてそれを経済的利益のため煽る集団がある(註3)」だな。昔からのアメリカの何らかの脅威に対する銃社会や、最近欧州の移民の脅威に対する民族排他的政策の支持が主な例であろう。「それみたことか」的な惨状の報道はメディアの大きな飯の種だし、欧州の例であると、政治的集団が優位を得るための手段であると考えても妥当であろう。ブラジルでは前出の治安悪化に伴い、この恐怖の文化が発展した。この時点から利益が出たのはセキュリティの関連企業だな(註4)。テレビなどは惨状専門番組などを作るまでに至った(註5)。政治の場面で恐怖が明確に表現されたのは2002年の大統領選挙であった。当時野党であった労働者党が政権をとることに対する恐怖を煽るものであったが、その対象であった党が反対に与党になってしつこくこの手段を使用している(註6)。』

「恐怖心を煽る」のはユダヤ教・キリスト教に基づく西洋文化に根強いですね。全能の神様がすべてを視ていて悪い事をしたら罰する文化ですからね~(註7)。恐怖の文化の結果として、個人は不安になり、自信がなくなり、集団生活をしているのに周りに対する疎外感が現れます。そして、自分が住んでいる場所の連帯感がなくなり、猜疑心が高まり、さらに恐怖がひどくなるといった悪循環に至ります(註8)。危険が多い大都会ほどこの状態がひどく、「群衆の中の孤独」といった事になります。不安がつのると、不安神経症に総括される病気になります。不安そのもの、抑うつ状態、パニック、被害妄想、緊張、苦悩、強迫観念、適応障害、不眠などが症状ですね。

『これにさらに三つの状況が重なると思う。一つが今の政権が12年前から煽っている、polarizationつまり政治的と社会的分極化(註9)だな。もう一つが「nova classe media 新中産階級」の借金まみれだと思う(註10)。そして最後に「ウソのつかれすぎ」だろう(註11)。分極化は社会的緊張を高める副作用があるぞ。借金は苦しいぞ。嘘つきは泥棒の始まりというぞ。このような状況で、結局不安は増えるだけだし、なにがなんだかわからないし、だれもこの苦しみを改善してくれないし、で「腹が立つ」ブラジル人ではないのかな?その噴出したものが暴力ではないかと考察する。組織だったものが抗議デモになり、そうでないものがリンチや強盗やムチャクチャな運転になるのではないのかな?』

今年は大統領選挙があるので、まだまだこの構図が続くのが目にみえてます(註12)。不安を煽りたいわけではありませんが、心配ですね。


註1:窃盗は暴行をともわない、例:置き引きやスリ。

註2:当地では司法がちゃんと機能しているとは言いがたい。裁判の判決が出るのに2~30年かかるのなどざらにあるぞ。ので、市民自身が制裁を下す構図があるのでは?あてにしない現れ。また、今の中央政権がこの12年間あらゆる立法機関の否定を実施した末の、司法機関そのものを否定する行為かも知れないぞ。

註3: あるいは「それを煽る事によって経済的利益を得る集団がある」ともいえる。

註4:施錠、柵、アラーム、ガードマン、防弾車、など。

註5:この手の番組は視聴率を稼ぎやすいのだな。

註6:直近の宣伝では、今年の10月の選挙で現大統領を再選しないと社会保障や職を失うぞといった内容。

註7:さらにユダヤ文化化の場合、もっとひどい。ユダヤ人でない母が子供に「おまえが悪い事をしたら、おまえを殺す」と言うに対し、ユダヤ人の母は子供に「おまえが悪い事をしたら、私が自殺する」と言うといった例えがある。すごいプレッシャー!これでは不安神経症になりますな。心理学の始祖はユダヤ人であったことも偶然ではないだろう。

註8:それでもっと引きこもるのですな。ブラジルの場合、高い塀とガードマンに囲まれたコンドミニアムなどに。で、その中でも隣づきあいもしない…

註9:nós contra eles(我々対あいつら)に代表される。

註10:所得分布が改善したため低階層が中産階級になったと喧伝されるが、本当に起こったのは、銀行融資の民主化だけで、融資にアクセスがあるのと購買力があるのはまったく違う。単純な算数が出来ない学歴では金融リテラシーは望めない。ので、喧伝にのせられ、ガンガン買い物をした結果、借金だらけになってしまった。だまされた!と思ってもおかしくないだろう。

註11:現実を曲げられてばかりだと、しまいに正当の概念が瓦解してしまう。

註12:つまり、もっとウソがつかれまくるので。


毎日出ないと良くないです。

By: Kazusei Akiyama, MD


2014年05月

今月のひとりごと:『毎日出ないと良くないです。』

出ないと良くないものは色々ありますが、今月は「ウンコ」についてです。排便、つまりウンコの出る状態の異常は回数が増える事が多い下痢と減る便秘があります。下痢は大便そのものの形状が至極変化をするので(註1)判りやすく、医学的にもきっちりした定義があります。反面、便秘にははっきりした定義がありません。意外でしょう?正常(あるいは健常)な排便回数より少ない排便、あるいはその行為の困難といったような定義になります。

『しかし、この「健常の回数」というのが問題なのだな。医学書によると1日2~3回から3日おき、週1回、すごいのでは2週間に1回までと、筆者によりまちまちなのだ。15日おきが健常であるといってる医学者は絶対に自身がその頻度でうんこをするので普通と思っているのだろう。なので、医療の現場では回数より、排便に際する不満感(不快感、残便感、腹滿感、排便困難など)を重視することになる。』

大便というのは小腸では液状であり、大腸で水分を吸収され、直腸でいわゆるウンコの形状になります。大腸での水分吸収が多いと硬いウンコになり、少ないと柔らかいものになります(註2)。大腸を通過する時間が正常な大便を作るポイントになります。日本人の場合、女性の半数、男性の1/4が便秘だそうです。男性は若年層は少なく、40歳代から増加し、70歳代で男女同じくらいになります(註3)。便秘は医学的に器質性便秘と機能性便秘に分類されます。器質性は腸管の管内が狭くなるような、解剖学的に通過障害をおこした物を指します(註4)。腫瘍、捻転、癒着や炎症が原因ですね。どちらかというと急性の状況が多い。機能性は名称のとおり、解剖学的な組織変性はなく、これは慢性の便秘が多い。さらに弛緩性、痙攣性そして直腸性に細分されれます。弛緩性は腸の蠕動が低下し、通過に時間がかかるタイプです(註5)。ウンコは太く硬い。痙攣性は副交感神経の異常で不規則な運動を起こすタイプでウサギのウンコ状でコロコロしてます(註6)。直腸性は大便が直腸に入ってきても便意を感じないタイプです(註7)。

『最近注目されているのは「大腸のむくみ」のため、便秘になるまたは便秘が悪化する状況。食べ物の内容やステロイド剤などの薬剤のため腸壁がむくみ、排便困難にいたる。さらに大便が溜まることで腸壁を圧迫し、むくみを改善すべきである血流が悪くなり、悪循環になる。むくみ腸のウンコは細いのと残便感が強いのが特徴。また、機能性便秘のため大便がたまりにたまり、器質性の「糞詰まり」(註8)になることもあるので便秘もバカにはできないぞ。でも便秘って医者もあまりよく判ってない病態だな。念仏のように「植物性繊維を摂れ」とばかり指導するのがほとんど。これは米国では意味があるのだが(註9)日本やブラジルではどうだろう(註10)。筆者の診療所では弛緩性便秘の患者さんが毎日せっせと葉っぱ系の野菜を食べ、しまいに「phytobezoar 植物性胃石」となり、それが腸に詰まって開腹手術になったケースが1例あった(註11)。過ぎたるは及ばざるがごとしだな。』

治療は食事と生活習慣の見直しの他、薬剤投与では腸管の水分を増やす方法(註12)、大腸を刺激して蠕動を促す方法(註13)、神経を調整して運動を改善する方法(註14)に大別できます。刺激性下剤は連用すると習慣性と依存性が出やすく、薬の作用で大腸平滑筋収縮障害がおこることがあるのでなるべく頓用にしたいものです(註15)。自然系だと大丈夫かというとセンナや大黄などは刺激性なので注意が必要です(註16)。

『筆者の愚考では現代の便秘の一番の原因は運動不足です。対策は歩くので十分です。次、または同等で、食生活のまずさだと思います。ちゃんと三食食べる。水分をとる。適当に油(オリーブ油がいいぞ)も必要(無いとウンコが滑りません。)。ブラジルではできれば毎日パパイヤかオレンジジュースを摂る。両方でもいいですよ。22人の読者様、毎日ウンコ出してますか?また、急な便秘は重要な病気と絡むことが多いので、便秘といってバカにしないで受診しましょう。』


註1:泥状や水様になりますね。

註2:ウンコとは通常の大便をしめし、柔らかいとウンチ、もっと柔らかいとウンニョと呼ばれるそうですが、本当ですかね?

註3:ブラジル人も同じようです。

註4:反対に大腸が拡張する「巨大結腸」という病気もあります。

註5:原因は運動不足、加齢、糖尿病や自己免疫疾患である強皮症などの全身疾患、抗うつ剤などの薬剤、など。

註6:ストレスや自律神経失調症などが原因。

註7:排便を我慢しすぎてなることがほとんど。直腸肛門機能障害といった神経の病気もありますが。ウンコ形状は弛緩性と同じ。

註8:医学用語では「糞便性イレウス」といいます。場合によっては手術になることも。

註9:米国発の論文に依存しすぎの現代医学の典型。純粋なアメリカ料理を想像してもらうとわかるよね、バーガーとポテチとコーラでは繊維ゼロ。

註10:サンパウロなどで食する伝統的な料理は米、豆、サラダ、肉類などのバランスが良い食事とされる。正当な和食は植物繊維が多い。

註11:ちなみに筆者の処方で葉っぱ類を大量摂取したのではない。

註12:塩化マグネシウムなどの塩類下剤、マニトールなどの多糖類、新薬では腸の水分分泌を促すルビプロストンなど。

註13:センノシド系やビサコジル系など。

註14:自立神経調整薬や漢方薬など。

註15:つまり便秘薬のためにさらに弛緩性便秘になるのだな。

註16:大黄の下剤成分はアントラキノンという刺激成分であるが漢方では単体で使わない。 大黄甘草湯 に代表される、最低「甘草」という生薬と合わせて、副作用を緩和した状態で服用する。このあたりが西洋医学と漢方医学の違いだな。


美容形成するならブラジルで、でしょう

By: Kazusei Akiyama, MD


2014年04月

今月のひとりごと:『美容形成するならブラジルで、でしょう』

サンパウロではカーニバルが終わり、ようやく2014年が初まった感じです。(註1)カーニバルと言えばリオが有名ですが、サンパウロもなかなかレベルが高くなっているらしいですね(註2) 。22人の読者様の内、パレードに参加された方はいらっしゃったのでしょうか?また、サンパウロでは一時期姿を消していたbloco(ブロッコ)様式の遊びが本格的に復活したようです。これは楽団とともに街を練り歩くタイプのいわゆる昔式のカーニバルですね。日本の町内単位で神輿を出し、お祭りに参加するのに似てるのかな?でも本番の2週間ほど前から練り歩きがあったので、変な交通渋滞が起こってました。

カーニバルに関するひとりごとは2011年3月にシリコンオッパイについて書きました。今年も相変わらず立派な人工オッパイが会場を圧巻していたようですね。2011年後半に世界の最大手が製造していたシリコンインプラントが粗悪品のため、事故や死亡例、そしてフランス政府がその会社製品のインプラントの置換勧告を出し、一時該当する女性がパニックになる騒ぎがありましたが(註3)豊胸手術は相変わらず人気が高いですね。前にも書きましたが、社会の美容形成手術に対する概念がすっかり変わったのは間違いないでしょう。

『見た目を追求する社会になっているのだろう。「こうあるべき!」といったメディアのプレッシャーを感じるよねぇ。そこに「即席幸福」(註4)が絡み、直ぐに結果が出せる美容形成が流行るのではないか?総論でいうと、「悪くなるのがわかっていれば、それを避ける」のではなく、「悪くなるのがわかっていても、即席幸福であればよくて、悪くなった時に治す」感じかな。手術ではないけど、シミ取りのエステを例にあげると、シミにならない様に注意するのではなく、なったら取ればいいじゃんといった方向にいってるように思う(註5)。しかし反対に、見た目を気にする反面、周囲の見た目を無視する社会現象も起こっている。例えば、日本で電車の中で化粧をしているあれだな。だからだれの見た目というと非常に狭い範囲のものになるのでは?でも、要するに最終的に美容形成は「自己満足」の世界だから(註6)自分がよければそれでいいのではないかと思うが。ただし、行き過ぎると「身体醜形障害」という精神科の病気(註7)に当てはまるので注意しましょう。』

22人の読者様の一人に「形成手術をすると後で判るか?」といった質問がありました。回答は「医者であればすぐに判ります」です。また、すぐには判らなくても、歳いってから… それでまた手を入れる事になるのですな。けど、今、幸福になれば良いのでは?だったら、技術が上手いブラジルでしない手は無いですよ。


註1:そうです、当地は年末年始が夏で、直後に夏休みに突入し、終わったら今度はカーニバルで浮かれた感じになり、これらが一通り終了しないと新年が始まらないのです。旧暦の新年と思えばいいか!

註2: 「らしい」というのは、筆者はカーニバルを楽しむ年齢層ではなくなっているので関心がないのです。体力がないとも言われますが。とほほ。

註3:フランスのPIPという会社が作っていた。全世界で30万個使用され、ブラジルでは2万5千個使用。外壁が破裂しやすく、内部のジェル状シリコンは医療用ではなく、工業用のもので生産されていた。社長とトップ四人が逮捕と有罪判決を受けて、会社は倒産した。

註4:筆者の造語です。「今、すぐ、できればずっと、幸福でないといけない」といった現代のニーズ。

註5:シミ取りエステの技術を批判しているのではないぞ。

註6:美容形成を薦めるにあたり、一番大きな効果はimprove self-esteemとされる。直訳すると「自尊心の向上」、大辞林によると自尊心は「自分の人格を大切にする気持ち。また、自分の思想や言動などに自信をもち、他からの干渉を排除する態度。」だがこの場合は「自分を好きと思う気持ち」であろう。つまり、自分で良くないと思っている状態が良くなり、幸福になる。

註7:今は亡き歌手のマイケル・ジャクソンが典型的な例。


ボウフラは煮えてしまったので、サシガメを考える。

By: Kazusei Akiyama, MD


Nettai-shimaka, Aedes aegipti. São Paulo. Caju©2013

2014年03月

今月のひとりごと:『ボウフラは煮えてしまったので、サシガメを考える。』

猛暑のサンパウロです。記録を取りだした71年前以来の暑い1月でした。邦人が多く住むパウリスタ地区を給水しているCantareira水源の貯水率も記録的な減少で断水が心配です。普段は12月の夏期からいわゆるスコールが始まり、貯水量が増えるのですが、今年は雨が少なくて消費するばかりだったのですね。このような状況でも節水政策が無いし、「明日は明日の風は吹く」 ブラジル特有の猛暑です。以前ひとりごとした様に(註1)サンパウロは標高があるので夜間は気温が下がり、夏でも過ごしやすいのですが今年は熱帯夜が続き窓を開けて寝ることが多かったです。でもいつもなら多い蚊がほとんどいない。最近気付いたのですが、あまりにも暑くって、残った水たまりではボウフラが煮えてしまったのですね(笑)。なので、夏に注意勧告がある「デング熱」が今年はすっかり影を潜めてます(註2)。水が多くて蚊も多いほうがいいのか?このコラムの22人の読者様はどちらでしょう?

それで、夏のひとりごとの種が一つ無くなり困っていたのです。先日診察室でアサイーの話しが出て、日本でも取り上げられている事がわかり、これで行こうと考えたのですが、仕事がら行き着いたのが「シャーガス病」です。順番に説明すると、アサイーはアマゾン地方特有のヤシ科の植物で、果実と成長点が食用にされます。成長点はいわゆるパームハーツ、こちらのpalmitoパルミットです。これはほとんど栄養がありませんね。果実はすり潰したものをペースト状で食するのが一般的です。ジュース屋さんにある、ド紫のあれです(註3)。果実は栄養価がおそろしく高く、抗酸化物質のポリフェノールが多いとされるブルーベリーの15倍以上あり、鉄分がレバーの3倍、カルシウムやカリウム、植物性繊維も豊富です。そのため、日本を含む海外で健康食品として脚光を浴びてきている感じです。ダイエットにも良いと宣伝されてますが、植物性繊維は水溶性なのであまり効果は無いし、100gあたり250kcalとカロリーが高いので逆効果かもしてません(註4)。でなぜアサイーが病気と関係があるかというと、アサイーを食べた人がシャーガス病になるという構図があるからです。

  • 註3:パラ-州では日常的に食され、魚料理などにも出てくる。
  • 註4:だからスポーツジムなどで好んで消費されるのですな。

シャーガス病(Deonça de Chagas)はアメリカトリパノソーマ病とも呼ばれ、トリパノソーマ・クルージと呼ばれる原虫が原因の感染症です。あまり話題にならないのですが、アマゾン領域の熱帯地方ではマラリアに次ぐ危険な感染症です。 ブラジルではbarbeiroバルベイロと呼ばれる中南米に生息するカメムシの一種のサシガメが媒介します(註5)。黄熱やマラリア、デング熱の様に蚊の唾液に原虫がいるのではなく、糞の中に原虫がいて、ヒトを含むほ乳類を吸血している時に脱糞し、刺された人が痒みのため掻いて皮膚を傷つけ、そこから原虫が体内に侵入する感染症です。感染直後であれば治療薬がありますが、あまり症状がでないので感染した事が判らない。二~三十年後にシャーガス病として発症(註6)した時点では治療は対処療法しかありません。

  • 註5:日本にもサシガメはいますが、トリパノソーマ感染とは関係ありません。
  • 註6:心筋炎、心肥大、不整脈、巨大食道、巨大結腸、髄膜炎、肝臓肥大、脾臓肥大など。

元々風土病とも言えるほど多い病気だったのです。ブラジルでは1970年度に年間約15万人新規発病していたのが、2010年度には年間150人程度まで減少しました(註7)。これは農村人口が減少したのと、媒介者であるサシガメの駆除が進んだのた、サシガメに刺されないように注意する教育(JICAの事業でもありますね)が成功したためです。また、輸血経由の感染が多く、1986年に献血すべてにトリパノソーマ抗体検査を義務つけ、1990年から100%実施されるようになりこの手の感染が激減しました。

  • 註7:それでも中南米を中心に1000万人程度感染者がおり、毎年20万人規模で新規感染している。

現在ブラジルで発病する95%がアマゾン地方のパラー州とアマッパー州に集中してます。そうです、アサイーを郷土料理として食している地方ですね。 保管や衛生状況が悪い所で生食するとサシガメやその糞が混ざって感染する、昔ではあまり無かった経口感染です(註8)。また、無症状期間が長い感染症なので、原虫保有者が中南米以外の地域にシャーガス病を広めているのも問題です。去年の6月に日本で献血したブラジル日系人がシャーガス病であり、その血液が輸血に使用されたことが話題になってました(註9)。 サンパウロや海外で入手できるアサイーペーストやジュースは輸出用に熱滅菌加工されてますので基本的に問題がないのですが、アマゾンに観光に行った時などは、保健所の許可があるような場所で食べるよう留意が必要ですね。食べたことのない読者様はせっかくのブラジル生活ですから、話しの種に1度ぜひどうぞ。

  • 註8:感染方法は前出の皮膚や粘膜から侵入、輸血や臓器移植の経血感染がほとんどであった。
  • 註9:日本では無い病気だから、献血血液の安全検査項目に入ってないのだな。くわしくは こちらに記載されてます。

合法化の方向なのだろう、やはり。

By: Kazusei Akiyama, MD


2014年02月

今月のひとりごと:『合法化の方向なのだろう、やはり。』

なにが合法化というと、すばり「大麻」です。 このコラムの22人の読者様にももちろん、日本人に馴染みの深い「アサ」の事ですね。年末年始と「大麻の合法化」がニュースになってました。ブラジルのお隣の国、ウルグアイでは12月に大麻の栽培と購入が合法化となり、元旦に米国コロラド州の「解禁」が日本のメディアにも記載されました(註1)麻薬に関連する法律で取り締まられてきた大麻が前者の様に国家による生産物になる事や後者の様に全米で初めて嗜好用大麻の合法化は大きな出来事だと思います。

日本では「日本書紀」に記載があるほど、麻は大昔から人間の生活に密着し、栽培されてきた植物です。元々日本では繊維素材をもとにした糸・布や製紙、種や葉や花を食用、薬用にし、いわゆる産業製品としての扱いだったのですね。木綿が普及するまでは麻布が庶民の服装に使用され(註2)、種は油にもなり、現在でも七味唐辛子の一味として日本人の食卓に上がっていますね(註3)。また、漢方医学では種は「麻子仁(ましにん)」とよばれ、便秘薬の処方構成の一部です。さらに、戦前の民間療法に子供の「疳の虫」にも使用され、明治時代にはぜんそくの治療薬も存在しました(註4)。大麻を吸引する習慣はなく、どちらかというと「酔い」として嫌われたので(註5)向精神作用(註6)が少ない品種に改良され、結果日本で野生自生している大麻はTHC含有濃度が少ないそうです(註7)。そして、取り締まりの根本にあるいわゆる娯楽用としての使用はアメリカ進駐軍が持ち込んだとされます。

『皮肉な事に、同じ進駐軍が公布した「大麻取締規則」(1947年)を元に取締法ができたのだな。これにより伝統的に(註8)存在した産業が打滅を受けたのだな(註9)。』

向精神作用のある物質は人類の始まりから我々と密接してます。どの宗教にも「お酒」が出てきますし(回教を除く)(註10)、基本的に集団生活をする人類にとって社会を潤滑に稼働させる重要な役割があるのは社会学の専門家でなくても理解ですよね。筆者の見解は、問題は「乱用」と「違法性」にあると思います。医学的に考えると、向精神作用のある物質は「危険性」と「依存性」に関心があります。いかに健康に影響を与えるか、そのところが重要です。「乱用」とは健康上(必須では無いけどついでに社会上)問題のある使用方法なので、国際疾病分類に「薬物乱用」が記載されます。違法性はその時代や社会背景により定義されるものであって、医学的には、違法・合法によるその物質の入手方法や品質などに影響があります(註11)。

現時点で大麻の用途は「産業用」、「医療用」と「嗜好・娯楽用」に分類できます。産業用は主に繊維素材の加工、医療用は癌やエイズの患者さんの治療に利用され、嗜好用は言葉のとおりで、向精神作用の「多幸感」を求めます(註12)。合法化の動きは主に西洋社会で運動が行われており(註13)、「アルコール以上に危険なものではないので禁止する理由が見当たらない」のが一番の理由ではないかと考えます(註14)。小職としては医療用が一番関心があります。向精神作用以外にも喘息や緑内障の治療に有効のようですし、難治の多発性硬化症に有用性が示唆されてます。鎮痛作用、鎮静作用、催眠作用は周知のとおりで(註15)、解禁により医療用の用途が期待されているのは理解できます(註16)。今後の動きに注目したいですね。最後に、小職は医師として、マリファナ吸引を推奨しているのではありませんので、誤解の無いようにお願いします(註17)。さらに、ブラジルでは違法薬物なのでご注意を(註18)!


註1:ウルグアイの件はあまり報道されなかったようです。やはり日本は北米依存が強いのだな。

註2:金持ちは絹を使った。

註3:七味唐辛子の中の一番大きな粒、直径約3ミリのあれですな。

註4:「ぜんそくたばこ印度大麻草」という商品。レトロでかわいいネーミングだな。

註5:産業用に扱っている時に花粉を吸入しても薬理効果があるためだな。

註6:テトラヒドロカンナビノール、THCが向精神薬効がある。

註7:これと反対の現象がブラジルにみられる。当地には大麻はブラジルの東北部、ノルデスチでサトウキビ栽培に従事するアフリカ奴隷が持ち込んだとされる。キツい仕事を和らげるのに使ったのですな。そのため、THC含有量の多い方向に品質改良が行われ、国産ではノルデスチ産の大麻が一番強いとされる。

註8:どれだけ伝統的かというと、神社の神事に使用される。大麻と書いて「おおぬさ」とよばれ、お祓いに使われるハタキのような、あれです。

註9:現在でも免許制で生産農家は存在するが、少ない。取締法により、大麻が使いにくくなり、日本で表示される布などの「麻」は「亜麻(あま)」を示すことになった。

註10:キリスト教のワイン(キリストの血だって)や日本の御神酒。

註11:回教国ではご存じのとおり酒類は違法であるし、米国でも飲酒が禁止された時期もあった。ブラジルではごく普通に医療用として処方される覚醒剤が日本では麻薬扱いだし、例は尽きない。今月のひとりごとの対象の大麻でもアメリカの事情で押しつけた日本での取り締まりも、現在はその本国で解禁の運動が激しい(実際コロラド州では解禁になった)。なんか、勤勉な日本人がキツい宿題をちゃんとしているのに教師役のアメリカが事情が変わったので問題を変えるといったような状況に見えますがね。

註12:違法性であるなどの問題で、名称を分ける事が頻繁にみられる:産業用はヘンプ(大麻の場合。亜麻の場合はリネン)。医療用はメディカルマリファナまたは単にメディカル。嗜好用をマリファナ。

註13:オランダに始まり、合法化あるいは非犯罪化がベルギー、ポルトガル、スペイン、カナダ、チェコ、ベルリン市、ワシントン州、コロラド州、ウルグアイなどで施行された。

註14:勿論否定運動もありますが、諸研究による安全性のエビデンスのため理屈がなくなってきているようだ。何かというと、「踏み石論」(もっと危険なドラッグの入り口になるという論説)や「犯罪関与論」(マリファナの影響下で犯罪に挑む)に行き着く(にしか行き着かない)ようですが。

註15:これら作用は1951年まで日本薬局方に記載されていた。

註16:完全合法化されたウルグアイに製薬会社が大関心のもよう。

註17:ちなみに秋山説では現時点で我々の社会で入手可能な向精神薬で危険上位は「エタノール=酒」、「砂糖(ショ糖)」、「たばこ」です。

註18:薬物の依存性、乱用性、危険性などについては別途ひとりごとが必要ですね。


あっという間に今年だよな!

By: Kazusei Akiyama, MD


2014年01月

今月のひとりごと:『あっという間に今年だよな!』

謹賀新年。このコラムの22人の読者様、去年もご愛読ありがとうございました。今年も宜しくお願いいたします。今年はなんといってもコッパの年ですよね。そう、ブラジルで開催されるサッカーのワールドカップ2014年です! 筆者の周りでは「へ、もう今年じゃあないの?間に合うの?」とか「これは世界に向かって大恥をかくのでは?」とかのコメントが多いのですが、ぜひなんとか上手く開催、実施、閉会にもって行きたいものですね。実際、競技場の工事はどこも遅れているし、関連する周辺インフラや空港や宿泊施設の整備もバッチリ進んでいるようではないし、本当に大丈夫ですかね?でもそこがブラジル。なんとか最終的につじつまが合うのですな。過去にもこのような締め切りがあるイベント開催もなんとかつじつまが合ったので、今回も大丈夫だろうとなんか楽天的ですね。ま~、我々一般市民がやきもきしても仕方のない事ですが。でもワールドカップは世界的大イベントで日本を含む、海外から大挙観光客が来るので少しだけ心配してます。

日本戦の初戦はペルナンブッコ州のRecife。日本語の表示は「レシフェ」が多いですね。ポル語風に読めば「ヘシッフィ」、さらに現地のペルナンブッコ方言(註1)で読むと「ヘェーシーフェ」になります。サンパウロからみると違う国と思えるほど文化や社会の違うノルデスチ、その中で筆者はペルナンブッコが一番好きです。とにかく文化活動が多彩でアートや民芸品なども他のところとは一線を画してます。ノルデスチに行くと民芸品がいっぱいありますが、どちらかというとお土産用に作っているものですね。ペルナンブッコは実用的な物や純粋に美術の域に達している物も多々あって興味が尽きないのです。また、民族も違い、17世紀半ばにオランダの侵略と統治があったので、ノルデスチでは一番「白人」が多い感じがする(註2)。面白いのは黒人のヘアーと顔つきの金髪・緑色の眼の男女ですね。オランダの血が混じっているのだな。ブラジルはいろんな民族のルツボですが、きれいになる混合とそうでないのもあるようです。ペルナンブッコは前者でしょう(註3)。人達も考え方がリベラルで政治的に新しい事も好きです(註4)。

日本戦を観戦しにレシフェまで行く読者様、せっかくなので隣町のオリンダにも足をのばしてもらって、是非ブラジルの文化面も観てもらいたいですね。この町はUnescoの世界遺産に登録されており、それだけでも一見の価値がありますが、その旧市街地を散策しながらアートギャラリーを覗くのがお勧めですよ(註5)。


註1:そう、ブラジルでも方言があるのだ。ペルナンブッコは「ノルデスチ方言(ブラジル東北部)」に十把一絡げされることが多いが、ノルデスチでも色々あるのだ。バイア方言やセアラ方言なども違うぞ。去年は全部セアラ方言で撮った映画「Cine Holliúdy」が面白かった。普通のポル語の字幕付きでないと内容が全然わからんけど。日本の東北弁の映画を観ると現地の方以外は全然わからんのと一緒だな。

註2:バイアに行くと黒人が多い、もう少し北のパライバやセアラでは額が広く首が短いタイプが増えるのだな。

註3: 筆者の好みと独断では。ミナス人も前者だな。ちなみに表題の写真の女性は筆者の親友で純粋へシッフィ人です。

註4:その証拠にMST、Movimento dos Trabalhadores Sem Terra、ブラジル農地解放運動の農地占拠が全国で一番多い州です。

註5:最後に蛇足ですが、2016年にリオで開催されるオリンピック。その4年後の2020年東京オリンピックのほうが先に準備が終わってしまうのではないかと言われてますよ。