汚染、感染、伝染のちがいは?

By: Kazusei Akiyama, M.D.

Coffee Cup. São Paulo. Caju©2020


2021年1月

汚染、感染、伝染のちがいは?

謹賀新年。このコラムの24人の読者様には是非今年はよい年でありますように!新語・流行語が「3密」であったように、去年はコロナで振り回された1年でした。この年末年始も感染拡大感染拡大と世間は騒いでいます。そこで気付いたのが、こんなに言われている言葉「感染」ってどういうことか皆解っているのか?です。コロナ対策でああしろこうしろと呼びかけがありますが、以外となんでやっているのか解らない人が多いようなのです。理由がわかれば行動もしやすくなると思いますので、今回は感染について考えてみましょう。

元々、「感染」とは微生物が生体内に侵入し、生体内で定着し、増殖し、寄生になった状態を指します。感染イコール疾病ではありません。つまり、生体にとって利点のある感染もあるわけです。

『最近注目されている腸活、つまり、善玉の腸内菌を育てるのなんかはおこってうれしい感染だな。』

感染が拡大しているということは、市中に感染の元が沢山出回っているということで、その一部が疾病になるので「大変!」になるわけです。つまり、疾病になるリスクが増えると言うことで、厳密には、疾病が増えている状況を表す言葉ではないのです。しかし、一定度増えるので、大変になります。

感染が成立するには「感染源」、「感受性体」、「感染経路」の三要素が必要です。

  • 感染源:感染の原因となる微生物を含むモノ(微生物そのものではありません)
  • 感受性体:感染の原因となる微生物が進入し、増殖する生体
  • 感染経路:微生物が感染源より感受性体に進入する経路

これら三要素は「感染の連鎖」と呼ばれ、この連鎖を断ち切る事が感染管理の原則となります。

『コロナ対策の三密をさける、マスク使用、手洗いは結局感染経路をなくす処置であることがわかる。経路が無くなれば、感染が成立しない。』

感染源は大きく分けて2つに考えます。まず感染者や昆虫などを含む感染動物が生産するモノ:排泄物、嘔吐物、血液、唾液、粘液、精液など。次にその感染者や動物が触れた物体や食品、これを汚染物質や汚染物体と呼びます。感染源の中には病原性微生物と呼ばれる病原体が入っています。これらは次の5種類に大きく分類(これら以外にもありますが、狭義なので、実際はこれら5分類で考えていただいて問題ないです)されます:

  • ウイルス:生物学的存在と呼ばれる。ウイルスは細胞を構成単位とせず、自己増殖はできないが、遺伝子を有するという、非生物・生物両方の特性を持っている。例:麻疹ウイルス。
  • 細菌(バクテリア):細胞膜を持つ原核生物。例:溶連菌。
  • カビ(菌類):菌糸と呼ばれる糸状の細胞からなり、胞子によって増殖する菌類のこと。例:真菌(カンジダ菌)。
  • 原虫:単細胞生物的で、真核細胞であり、細菌類ではなく、菌糸のような構造を持たず、つまり菌類とは思われない微生物。例:マラリア原虫。
  • プリオン:タンパク質から成る感染性因子。厳密に言えば生物では無く、生物の産生物質。

病原体は次の特徴があります:

  • 肉眼や外観から見えない。
  • 発病の責任因子である、つまり病原体が作用していると発症し、作用していないと発症しない。
  • 伝染性がある、つまり病気になったヒトから接触や空気などを介して他のヒトに伝達する。
  • 増殖性がある、つまり伝染によって患者が増え、病原体自体も増える。
  • 可搬性がある、つまり発症しているヒトが移動して、新たな場所で伝染病が発生する。

『これらの特徴にも、コロナに対する対策のヒントがいっぱい詰まってますね。』

感染経路は大きく分けて2つあります。まず「垂直感染」。これは母子感染とも呼ばれ、名称のとおり、親が持っている感染症が直接子孫に伝染する状況を指します。例:胎内感染すると先天性疾患を持つ赤ちゃんが生まれる(可能性がある)風疹ウイルス。垂直感染以外のものを「水平感染」と呼びます。非接触型と接触型があり、前者が「飛沫感染」と「空気感染」、後者が「接触感染」と「媒介物感染」になります。

  • 空気感染:病原体を含む直径0.005mm以下の粒子を吸い込み、感染。例:結核、麻疹。
  • 飛沫感染:病原体を含む直径0.005mm以上の粒子を吸い込み、感染。例:インフルエンザ、新型コロナ
  • 接触感染:感染源に直接接触して感染。例:破傷風、梅毒。
  • 媒介物感染:汚染された水、食品、血液、昆虫などを介して感染。例:黄熱、コレラ。

『ここにきて「汚染」と言う言葉がでてきた。つまり、病原体を含有するモノ(や環境)であって、危険な状態ではあるが、汚染自体そのものだけでは感染が成立しないことがわかる。』

感染が成立するとどうなるかというと、必ずしも病気になるわけではありません。しかし宿主に病気が生じればr「感染症」と呼ばれるようになります。さらに、宿主に症状が出る場合、「顕性感染」と分類されます。問題は「不顕性感染」です。これは細菌やウイルスなど病原体の感染を受けたにもかかわらず,感染症状を発症していない状態を指します。感染症状は抗体陽性や遅延型過敏反応などで確認できます。一般的には感染が成立しても必ず発症しなく,大部分がこの不顕性感染となるのですが、不顕性感染の人はしばしば保菌者(キャリア)となり,病原体を排泄し感染源となる可能性が高いので疫学上問題となります。

『キャリアはコロナ禍の「無症状感染者」と呼ばれる人達の事だな。』

感受性体は我々ヒトの場合は「免疫機能」を持っているので、病原体が進入しても、必然的に増殖できません。また、ヒトは学習能力があるので、感染の連鎖を断ち切る方法を訓練出来るはずです。しかし体力がない高齢者や既往歴のある方が今回のコロナも含め、感染症の犠牲(重症化・重篤化)になりやすいのは、免疫機能が低下しているからです。また、自身で免疫機能を低下する事もあります。一番の例が減量ダイエットで、生命を維持するために適切な食事をしない事ですね。感染の種類に「日和見感染」がありますが、これは従来病原性が低い病原体が宿主の抵抗力低下に伴い感染症に展開する状況です。感受性体側の我々ヒトは免疫不全にならないように生活する必要があるわけです。

『ワクチンは感受性体側の防御力を増す方法だな。』


おまけ

感染と関係する用語

  • 汚染:病原体を含有するモノや環境、病原体が侵入する前の状況
  • 感染:一人の宿主が対象、病原体と宿主の関係
  • 伝染:二人の宿主が対象、片方からもう片方に感染。
  • 流行:複数の宿主の間でおける伝染

 

暑かったらクーラーつけたいですよね。

By: Kazusei Akiyama, M.D.

CB1300SF Red&Black. SP-063 Road. Caju©2014


2020年11月

暑かったらクーラーつけたいですよね。

今月のひとりごとはどちらかと言うと24人の読者様のうち、ブラジルまたは南半球におられる方むけです。題名からも判明する様に、これから暑くなる季節と関係する話です。日本など、北半球で過ごされた方は、もう既に夏が過ぎた場合はどうだったか体験を共有していただけたら嬉しいです。リオはともかく、サンパウロは元々夏期は乾燥していて暑くても気温が32度くらいまでで、日陰に入れば過ごしやすい所でした(註1)。しかし、近年の地球規模の気象変動のためか、当地でも気候が変わってしまい、夏は高温多湿になってしまいました。そのため、数十年前までは皆無であったエアコンの普及が目につきます。ブラジルでエアコンと言えば、リオを連想したものです。熱帯地方の海辺の街のため、高温多湿で当たり前です。市内に走っているバスはキンキンに冷房が効いてます。それが今年の夏は過去形になると発表されてます。理由はコロナ対策でバスなどの公共交通機関は窓を開けて走り、エアコンの使用は禁止になったようです(註2)。この措置は閉めきった場所で密にならないようにするのもありますが、実はコロナ禍においてはエアコンは問題ありなのです。

  • 註1:その気候が筆者がサンパウロに住んでいる大きな理由でした。
  • 註2:窓が開かないバスなどもあったはずですが、その場合どうするんですかね?

コロナ対策をおさらいしてみると、頻繁に手洗い、マスク使用、3密を避ける、そして感染リスクを高めやすい行動を避ける(一覧)があります。この内の「3密を避ける」に、「換気する」があります。コロナウィルスは飛沫感染するので、ウイルスを含んだ飛沫が浮遊している空気を除いてしまいたいので換気する訳です。厳密に言えば、外部と遮断されてまったく一人でいるのであれば、換気なしの密室でも問題ないのですが、実際はそうはいかないので新しい空気の入れ換えは必要です。入れ替えというより、排気が重要です。皆以外と錯覚しているのが、エアコンで換気できているという事です。できるモデルもありますが、殆どは換気しません。一般的に家庭で使われるエアコンは室外機と室内機があり、冷房の場合、前者で熱を放出し、冷たくなった冷媒ガスを後者に送り(註3)、室内機を冷やし、後者はその冷えた空気を室内に循環させています。したがって、エアコンを使うと、実際は室内の空気をかき混ぜているだけで、換気は行われません。

  • 註3:厳密にいえば、冷媒ガスを気体にして送る。

『この様な環境で、飛沫が浮遊すると、エアコンに吸い込まれ、部屋中に広がっていく。中国ではレストランでエアコンが飛沫を拡散して集団感染がおこった報告が今回取り上げている問題の良い例だな(註4)。2月に日本で大騒ぎになった豪華客船の集団感染も空調システムを介した可能性が大きい。ウイルスは飛ぶだけではなく、室内機に付着し、一定時間活性を保つので貯留されてしまい、感染機会が増えるのだな。新型コロナウイルスは低温に強いし。なので、室内の空気を排出せよと言われるのです。』

エアコンつけないと熱中症で死ぬような環境になってきましたので、では暑い中、どの様に換気するのか?窓やドアを開けて、空気の通り道を作らないと換気になりません。窓が1ヶ所しかないなど通り道が作れない場合は、扇風機やサーキュレータで強制排気します。部屋の中の空気をかき混ぜるのではなく、窓に向かって風を送るようにします。首振りはしません。そしてエアコンは止めません。エアコンは電源を入れて立ち上がる時に一番電力が必要なので、換気の度に止めたりするとかえって電気を使います。換気のタイミングはこまめにするほうが効果的です。つまり、1時間に1回15分の換気より、5分3回のほうがいいです。台所やトイレの換気扇をつけっぱなしにしておくのはどうか?トイレのは容量不足だと思われます。台所の換気扇はそれなりに排気能力がありますが、新しい空気が入るようにしないと効果ありません。可能であれば、空気の通り道を作る方法が一番効果的と考えます。

エアコンはコロナ禍でこの様な問題がありますが、コロナ以前に病気と関係がある、注意が必要な装置です。空調システムは機能上、ホコリやカビが溜まりやすいものです。一番関連がある病気は「換気装置肺炎」と呼ばれるもので、空調器にカビが増殖し、それを吸入する事で過敏性肺炎が発症します。カビだけではなく、細菌感染症であるレジオネラ菌(註5)による肺炎もあります(註6)。ビルなどの中央式空調は個別式よりメンテナンスが大がかりなので、きちんとしてないため病気と関連しているケースを医療現場でみます。

  • 註5:Legionella pneumophilaなど、レジオネラ属菌。
  • 註6:レジオネラ感染は個別式である家庭内のエアコンでは起こりにくい。ビルなどに使われる熱源機器を一カ所に集中設置したセントラル空調方式で報告されている。

『また、俗に「クーラー病」というのもあるぞ。これは、冷房のため、室外との大きな寒暖差が生まれ、体温をコントロールする自律神経が乱れてしまうためにおきる症状(註7)だな。元々自律神経が失調気味だとなりやすい。筋肉が少ないし、冷え症になりやすい女性の方がかかりやすい。クーラーをいれた部屋で冷たい飲み物もNGだな。』

  • 註7:クーラー病の症状:発熱、吐き気、頭痛、下痢、悪寒、肩こり、鼻炎、喉の痛み、発汗、腹痛、眠気、めまい、足のだるさ、筋肉痛など。

エアコンって何気なく使っているけど、注意と定期的な掃除が必要な装置なのです。換気装置肺炎や換気装置感染症はエアコン以外に加湿器でもおこりますので、2012年9月にひとりごとした「加湿器はこわいぞ!」もあわせてご覧ください。


一覧:コロナ感染リスクを高めやすい行動7類

  • 飲酒を伴う懇親会
  • 大人数や深夜に及ぶ飲食
  • 大人数やマスクなしでの会話
  • 仕事後や休憩時間
  • 集団生活
  • 激しい呼吸を伴う運動
  • 屋外での活動の前後

 

救世物になればよろしいのですが…

By: Kazusei Akiyama, M.D.

Still standing. Osaka. Caju©2019


2020年10月

救世物になればよろしいのですが…

このところ毎月「今月はコロナ関連のひとりごとはしないぞ」と息巻いてるのですが、世の中をすっかり変えてしまった100年に一度といわれる災難なのでどうしても話題の中心になってしまいます。しかたないです。ウィズコロナの今日この頃です。と言うことで、今月は最近問い合わせが多い、「ワクチン」や「免疫」について展開します。

新型コロナウイルスを含め、一般的に感染症というものは、その元になる「病原体」(註1:ウイルス、細菌、カビ、寄生虫、など。)に接触(伝染)する事から始まります。病原体には特徴があり、まずそれから理解する事が大事です。ヒトの例ですと:

  • • 肉眼や外観から見えない。
  • • 発病の責任因子である、つまり病原体が作用していると発症し、作用していないと発症しない。
  • • 伝染性がある、つまり病気になったヒトから接触や空気などを介して他のヒトに伝達する。
  • • 増殖性がある、つまり伝染によって患者が増え、病原体自体も増える。
  • • 可搬性がある、つまり発症しているヒトが移動して、新たな場所で伝染病が発生する。

『こうやって病原体の定義を改めて見ると、まさにコロナの世の中そのものだな。新型コロナウイルスは新しく現れた病原体なので、誰も免疫を持っていないし、治療も確立していない。したがって、この「病原体の特徴」をブロックする事を(する事しか)一番始めにされた訳だな。都市封鎖やマスク使用などでヒトからヒトの伝播をなくすしか手が無かった訳だ。』

病原体が現れたら生物が死滅するシナリオでは、現存する生物などいないはずなのですが、いるのはそれらに対する防御があるからです。これがいわゆる広義の「免疫」というものです。生物の長い進化の中で、免疫がすぐれた個体が多く子孫を残した訳です。我々はその子孫なのでしっかりした免疫をもっている事になります(註2)。免疫はそれだけで学問になるほど複雑かつ難解ですが、簡単な説明を試みます(註3)。まず大きく分けて、自然免疫と獲得免疫があります。自然免疫は自分自身ではない細胞の構成物、つまり、異物・病原体に対する防御です。特定の病原体に対してではありません。血液中にある白血球がこの役割をします。簡単にいうと、外部から入ってきた異物を食べて体内から除く方法で、「食細胞」と呼ばれます。感染症になると痰や膿が出ますが、これは病原体を食べた白血球の死骸ですね。異物は「抗原」と呼ばれます。

しかし、自然免疫は感染した細胞内に入ってしまっている抗原や毒性分子には対処できないのです。ここで更に高度な作用機序をもつ「獲得免疫」が出動します。これは特定の抗原に対する作用があり、大きく分けて、「特定の抗体を作る作用」と「感染した細胞を破壊する作用」があります。抗体は産生されると、血流に乗って身体中を巡るので「液性免疫」とも呼ばれます。感染細胞破壊は感染症が終われば必要なくなり、従事するエフェクターT細胞と呼ばれる細胞は消滅しますが、一部がメモリーT細胞と呼ばれる細胞に変化し、体内に残ります。これが「細胞免疫」と呼ばれるものです。細胞免疫は一回目の感染で抗原と接触して得た情報を記憶しているので、次回感染した場合、直ちに反応し、その抗原を退治するのです。但し、細胞免疫は1種類だけの抗原を認識するため、異なる抗原に対して何百万単位の種類の免疫細胞が必要になります。

『体調を整えないと免疫が低下するなどと言われるのは、この「自然免疫」や「獲得免疫」が上手く作動しない事を指すのだな。』

感染症に対する防御は投薬で治療するといった手がありますが、抗生剤を始め、あらゆる薬物は病原体をすべて完全に死滅(あるいは異物をすべて完全に除去)させる訳ではありません。ある程度減少させたり不活性化させたりはしますが、最終的には体内の免疫が作動しないと感染症は終息しません。なので、投薬するにしても、免疫も作用するようにしないとダメです(註4)。事前に細胞免疫が無い場合、ワクチンを使用します。ワクチンによる予防接種は、人為的に病原体と接触し、免疫を獲得する方法です。新型コロナウイルスの場合、新規に現れた病原体なので、「運悪く」早い時点で感染した方以外はだれも免疫をもっていない訳です。そこで、今世界中で最も望まれているのが「新型コロナワクチンを!」でしょう。

  • 註4:感染症の治療に免疫抑制作用があるステロイド剤を使う事があるが、やり過ぎると治療が上手くいかない。

先月のひとりごとでワクチンにも触れたように、現在、数ヶ月後に使用可能な製品が出てくると思われます。これを心待ちにしている人達が多いのは承知してますが、残念な事にここにきて心配な事柄が判明してきました。接種により有効な抗体はできるのですが、どうやらコロナウイルスに対する抗体は短時間で消滅してしまう可能性が大変大きいようです。さらにやっかいなのが、「再感染」の症例が報告されてきた事です。抗体が減ったため再感染するのも困りますが、その再感染により感染症が重篤化する可能性があるからです。「抗体依存性免疫増強」という状況がそれです。

獲得免疫の産物として抗体がありますが、実はすべての抗体が有用である訳ではないのです。抗体は大きく3種類に分けられます。病原体をブロックして感染症を発症させない「中和抗体」がいわゆる「善玉抗体」であり、皆これを期待するし、抗体と言えばこのタイプの事と思うのです。例は麻疹の抗体です。一旦できると、一生効果があります。次に、「感染抗体」があり、これはブロックもしないが悪さもしない、「感染した証拠」になるだけの抗体です。例はエイズのHIVの抗体です。そして問題が「感染増強抗体」、俗に「悪玉抗体」と呼ばれるタイプです。例はデング熱の抗体です。抗体依存性免疫増強は過去の感染やワクチンによって獲得した抗体がワクチンの対象となったウイルスに感染した時、または過去のウイルスに似たようなウイルスに感染したときにその抗体が生体に悪い作用を及ぼしてしまう状況です。以前の”情報”に基づいた抗体はウイルスに結合するのですが、中和しなく、「免疫複合体」とよばれるモノになり、自然免疫などの細胞に吸着しやすくなり、さらにウイルスの侵入門戸を広げてしまう事になるのです。

『新型コロナウイルスの再感染がこの作用機序で起こっている事実は現時点で認められていない。しかし、既に変異した新型コロナウイルスが何種類かある(註5)上、再感染は前回感染のウイルスの型と異なるとの報告が多くを占めるので、今後の検証が必要だな。』

この様な事情のため、救世物になる新型コロナワクチン、重篤化の原因になるかもしれないので手放しで喜べないです。ごめんなさい…

  • 註5:武漢で発生したウイルスは、日本や東南アジア、オセアニアに伝播したモノは弱毒した変性とされ、ヨーロッパ経由で米州や中東、南アジアに伝播したモノは強毒化していると、分類されている。S型、K型、G型と呼ばれる新型コロナウィルスの変異。

ウィズコロナの正常とは?

By: Kazusei Akiyama, M.D.

660cc cars. Osaka. Caju©2020


2020年9月

ウィズコロナの正常とは?

当地ではコロナ禍も若干落ち着いてきたようですが、このコラムの24人の読者様は皆様お元気でいらっしゃいますか。今年の3月以来、日本へ退避された方が大勢いらっしゃるので、ネットで閲覧できなければ、現地には2~3人くらいしか読者様残っておられない様な感じです。サンパウロでは8月中旬より、コロナによる死者がゼロ/日になるなど、隔離緩和されても感染拡大がストップした実感があります。しかし、世界的に見ると、コロナ禍が収束するのはまだ一年以上かかるのではないでしょうか?確実にコロナに打ち勝つのにはワクチンが必要です。現在、世界中で124社がワクチンを開発しており、その内10社程度がヒトでの臨床試験に入ってます(註1)。すでにロシア製が使用認可を受けてますね。ワクチンができても、それで大丈夫とは言えません(註2)。どんなワクチンでも同じですが、開発時の3大課題が①安全性、②予防に有効な抗体ができるか、③有効な抗体の持続期間はどれくらいか、です。①と②は年内に答えが出ても、③は実際時間が経ってみないとわからないので推測しかできません(註3)。

  • 註1:その内、4社がブラジルでも臨床試験を進めてます。ブラジルはCOVID-19が多いので、ワクチンの試験をするのにとても向いているので、今後当地での臨床試験は増えると思われます。
  • 註2:ワクチンを使用して病気にならないか、副作用は無いか、毒性はないか、等。
  • 註3:いくら安全であり、有効な免疫ができても、その免疫が数ヶ月しか持続しなかったら、ワクチンの意味ないですね。

この様な状況の世の中なので、日本では「外出自粛」と呼ばれる隔離生活をいつまでもできる訳がありません。したがって、「共存するしかない」ので「ウィズコロナ」といった概念が浸透してきてます。先月ここで書いた「新しい生活様式」でコロナウィルスと共存するぞ、といった事ですね。この新しい生活様式は純粋に疫学的に考えると、先月の ”単なる「感染症対策として」普段しなかった行動を生活に取り入れるだけの問題” だと思いますが、人生を変えてしまうような状況なので、対応性は各個人や集団、民族によって違いが出てきます。今回はこのウィズコロナの「新しい正常」をどうするか考えていただくのに筆者の周りで実際おこった二つの出来事を展開します。

『ニューノーマルだな』

❶ 規制の一つに飲食店の営業時間の短縮があります。サンパウロ市では先程までは17時までの開店しか認められなかったのが、22時まで営業しても良いと言う事になりました。「ようやく外出して夕食に出かけられる」事になった訳ですが、皆様ご存じのように、サンパウロ市の現地人の夕食設定は夜9時頃からが習慣になってます。

『9時に行っても、10時に閉まってしまうの?』

そこで、新しい正常ではどうしたら良いのでしょうか?

a) 22時に閉まるのであれば、いつもより早いけど19時に行って、夕食を楽しむ。

b) 外食したいけど、21時開始は譲れない。22時に閉まるのであれば、出かけない。

c) どのみち外食は危険と思うので、家で自炊(またはデリバリー)する。

❷ 新しい生活様式の重要事項の一つが密を避けるです。当地の中産階級以上では女中を使う事が普通ですが、社会的に下層の人達がそのような仕事につきます。住んでいる所は密になっている場合が多いし、密になりやすい公共交通機関を利用する事がほとんどです。雇い主よりコロナ感染する可能性が高い人達と言う事になり、その人達と接すると感染リスクが増えます。

『実際サンパウロ市の疫学調査で、社会の下層部は上層部に比べ、コロナ罹患の確率は3倍であると結果がでている。』

そこで、新しい正常ではどうしたら良いのでしょうか?

a) 給金を提供し続けても女中業をしている人を本人の家から出さないようにする。

b) 女中業をしている人を雇い主の家から出さないようにする。

c) 女中の使用そのものを止める。

この2例を周りの人達に尋ねてみたところ、日本人とブラジル人では反応が違います。リアル2~3人、バーチャル24人の読者様はどうされますか?


物事の本質を曝露させたコロナかな。

By: Kazusei Akiyama, M.D.

Anas zonorhyncha. Yodo River. Caju©2019


2020年8月

物事の本質を曝露させたコロナかな。

このコラムの24人の読者様、コロナ禍の「新しい生活様式」(註1)に馴染んで来られてますか?このところ、5回連続でコロナ関連のひとりごとだったので、今月はもうしないぞと周囲に言っていたのですが、食言してしまいます。サンパウロ市では一通り第一波が落ち着き、規制緩和が進んでますが、ブラジル全体では6週間連続で死者が1日1000人以上を維持し、この原稿を書いている時新型コロナウイルス感染症死者数が8万7千人近くなっています。ブラジルを含む米州全体の感染拡大の理由は諸説提示されてますが、その一つに欧米文化の個人主義があるのではないかと思います。各自が意見を持ち、それに従って行動する事が是とされる文化は今回のコロナ禍対策が必要とする社会一体の取り組みでは脆弱性を表します。例えば、当地では新しい生活様式を「novo normal、”新しい正常”」と呼ばれる様になってますが、馬鹿馬鹿しくて笑えてしまうのが、「正常とはなんだ」「正常は人によって違うだろう」「貴方の正常は自分にはそうでない」といった様な論説が多々散見する事です。

『新しい生活様式は別に各個人の人権や人格を否定しているものではなく、単なる「感染症対策として」普段しなかった行動を生活に取り入れるだけの問題だろ。』

  • 註1:またかですが、新しい生活様式、または新しい生活習慣とは、「身体的距離確保」「マスク着用」「手洗い」をベースに、換気するとか、健康管理するとか、接触を避ける食事の仕方とか、各行政が提言しているコロナ対策。

コロナウィルスを含む、感染症、つまり伝染病の完璧な対策は「病原体に接触しない」であることは簡単に理解できますよね。伝染病に対する予防医学の大前提が「物理的隔離」と「病原体の排除」です。エイズや梅毒の様に一定の行為やマラリアやデングなど一定の場所に特異した伝染病とは違い、コロナは基本的に「人間である事」だけが感染する条件です(註2)。もちろん貧富の差で「感染する確立」や「治癒する確立」の違いはありますが(註3)、これは単に隔離や排除できる経済的余裕の違いだけであり(註4)、生物学的には誰でも罹患します。ちゃんとした教育を受けてないため、状況がわかっていない人達も沢山いますが、それら以外に周りの人間の行動を観ていると、コロナの防疫は自分は関係ないみたいな人結構いますね。サンパウロでいわゆるリベラル派が多い地域では、”保守派政権が提言する事などしないぞ”といった行動に基づく輩や(註5)、日本でもニュースになっていた”マスクなしで外出していたため罰金を科され激高した司法裁判所判事”(註6)のような特権階級意識のため「マスクしない派」がいます。

『リベラル派であろうが、特権階級であろうが、そんな事、ウイルスにわからん。感染するのですけどね。』

  • 註2:感染しにくい人やしない人などもいるようですが、この場合の議論と関係ありません。
  • 註3:いうまでも無く、富裕層の方が自宅隔離やテレワークなどができ、罹患してもより早くより良い医療にアクセスできるので死亡率が比較的低い。サンパウロ市の疫学調査では、社会経済的底辺は上層部に比べると感染確率は3倍。
  • 註4:適当な栄養分を摂取できるかもありますな。
  • 註5:ポル語でrebeldia ignorante、無知な反抗と呼ばれてますな。
  • 註6:7月18日にサントス市でマスクなしで海岸を歩いていたサンパウロ州司法裁判所判事が市の警備隊にマスク着用を求められ拒否したため、市の条例に基づき罰金を科したところ、「字を読めるのか」と罵り、罰金書類を破り捨て、警備隊の上司にクレームすると強迫した事件。その前日も同じような事をしていた。

人間は国家や家族、会社といった共同体を維持する事で社会を作ってます。今回のコロナ禍で全人類、今まで経験したことの無い状況におかれてます。マスク着用や手洗いなどはともかく、人類の存続を危うくする身体的距離(註7)を取らないと命の危険がある(かもしれない)これまで踏み入れたことのない世界を現在我々は生きてます。この様な究極の状況に人間おかれると、本質が出るものです。新しい生活様式は他の言い方では「うつさない、うつされない」行動です。これには結局なにが基本的必要かというと、他人に迷惑をかけない、命を奪わないといった「道徳」(モラル)ではないでしょうか?(註8)

  • 註7:子孫ができませんね。
  • 註8 :前述の判事などは、沈没する船から一番に救助艇に乗り移るタイプですな(笑)。

感染症に対する道徳も心配ですが、大変危欋すべきではないかと思うのが現在の社会で盛んになっている「遡及的道徳」に基づいたキャンセルカルチャー(cancel culture)です。遡及的道徳とは、「現行の道徳」に合致しない「昔の」行動や作品、あるいはそれらの発言者や作者を批判・攻撃する事です。最近おこった、米国の警官による黒人殺人事件が引き金となったブラック・ライブズ・マター抗議の一環で、黒人奴隷に関する歴史的産物や芸術作品を否定する運動にまで発展してます。筆者が大変びっくりしたのが、映画「風と共に去りぬ」を抹消すべきといった運動です。確かに以前から黒人奴隷の歴史を美化した人種差別作品と言われてきてます。しかし、映画作成の教科書的な面などもある重要な作品であることは間違いないですし、映画が作成された時代、そして作品が模写する時代を反映する内容であることを考慮すべきだと考えます(註9)。キャンセルカルチャーは現行の価値観に沿わないモノ(人や組織)をすべて抗議、否定、キャンセル、削除、侮蔑、非売運動などをする行動に至り、主にSNSなどネットで拡散します(註10)。社会の周辺にいる人達が”声を拡大し、不利な現状に挑戦する行為”だと言われます。しかし、キャンセルカルチャーの視点で見ると、人は善か悪かの選択しかなく、その中間や又違った余地がまったくない。米国初の黒人大統領であったオバマ氏すら、気に入らないモノに対して草々に見切りをつけ、接触を完全に拒絶する姿勢は慎むべきであると説いています。

  • 註9 :気に入らないから自分は観ないのであれば、それは勝手だけど、それを他人に押しつけるのはどうか。
  • 註10:この様な批判を始める人物は「道徳的グランドスタンディング(moral grandstanding):道徳的な話を利用して自分自身の社会的地位の促進を目指す」をして社会的に優位に立とうとする事が多いように見えます。

現在我々が生きている世界は、良いも悪いも今まで人類が渡ってきた歴史の賜物です。帝国主義や奴隷制度があって、有害であったモノだったからこそ、現在そのようなコトにならないような社会を築いているのではないでしょうか?間違いから学び、場合によっては責任をとり、そこから得た教訓をみんなで共有し、社会をより良くするのが真の道徳であると思います。リベラルな社会では言論の自由を最重要視しますが、自分たちには言論の自由がないと言って、言論の自由を脅かしている事がわかっていない。異なる意見や価値観を受け入れることによって、学ぶ事も多いし、個人の意識の向上になると思います。保守的な特権階級もその特権を失う危険があるので、自分達の価値観を固持するので、結果的には同等ですね。

『結局は自分自身を高めるのではなく、他人を見下して、自分のレベルに合わせている。幼稚園だな。マスク不使用も同じ。先が思いやられる。』


接触しないとできない事もあるでしょ。

By: Kazusei Akiyama, M.D.

Miedou. Koya Town. Caju©2020


2020年7月

接触しないとできない事もあるでしょ。

ここのところ連続で恐縮ですが、またコロナ渦関連のひとりごとです。百年に一度の危機と広く認識される世の中ですので、話題には事欠きません。この原稿を書いている時、ブラジルでは新型コロナウイルス感染症死者数が5万5千人を超したところでした。1ヶ月前の2.5倍です。当地ではコロナ感染対策が明らかに迷走してますので、なかなか終息に向かう光景が見えないです。現在サンパウロ市では”感染率”Rt(註1)が約1なので、「増えないけれど減らない」状態です。今回は感染症予防対策として発出された「オンライン診察」に焦点をあてていきます。

『今更何故新型コロナウイルス感染症拡大の予防に「人と人が接触しない」のが重要か説明しなくても良いかと思うが、その不接触の方法の一つとしてパンデミックの初期から推奨されるようになった「遠隔医療」は初めは外出規制の緩和策の意味が強かった。接触云々より、外出規制のため出かけられない、出かけたくない、または感染を恐れるので医療機関を受診したくない人が目当ての応急措置、そして医療機関での院内感染予防や外来の待合等で人が密集するのを避けるための方策だったのだな。』

一時的な措置であることは、日本でもブラジルでもオンライン診察は「コロナウィルスパンデミック中の期間限定解禁」とされたことが一番の証拠です。この「解禁」という言葉がひとりごとのポイントになります。解禁と言うのは、「禁止されていたものを解くこと」なので、元々オンライン診察は医療行為としては禁止されていた訳です。今回のコロナ禍で人との接触を7〜8割削減するのも予防対策の一つで、テレワークやオンライン授業などの世の中になり、わざわざ出向かなくでもできる仕事がいろいろ判明しましたが(註2)、反面、現場に人がいないとできない事はなにかも判明したと考えます。医業は人間を診て、訴えは何か判断し(診断ですね)、処置する流れに完結します。いうまでも無く対面の対応が必要です。

  • 註1:正確にいうと「実効再生算数」または Rt(アールティー、Effective Reproduction Number)。感染者が平均して何人に感染させるかという人数。1以下でないと感染拡大が終息しない。
  • 註2:現場に人がいないと成り立たない業種にまで8割削減とか要求し、その現場が疲弊したアホな国もありましたな。

しかし特に米国発信の遠隔医療推奨が最近10年ほどで強くなってきてます。遠隔医療(英語:telemedicine)とは情報通信機器を活用した医療に関する行為と定義されます。情報通信機器は簡単にいうと、スマホ、タブレットやパソコンなどの事です。医療行為は原則的に対面で行われます。医療行為の対象となる人間は各自心身の状態が異なり、話からだけでは診断は困難です。処置で例をあげると、オンライン手術って無理ですよね(註3)(註4)。この様な事情から、遠隔医療の進歩は正に言葉の狭義のとおり、距離的に遠い、僻地に医療行為をもたらす方法が勘案されてきました。一番良い例は、遠隔地で撮影した医療画像を専門医に送り、診断の助言を仰ぐ方法です。ブラジルでは医業を取り締まる連邦医師評議会(CFM、Conselho Federal de Medicina)が一旦2018年12月にオンライン初診を含む遠隔医療を認可しましたが、医療現場からの大反対で3ヶ月後に認可取消に至った経緯があります(註5)。日本では、医師法に「無診察治療の禁止」という項目があり、対面診察でないとこれに該当するとされてきました。しかし、5年ほど前から”事実上解禁”といった解釈の上、「スマホ診療」と呼ばれるITを駆使した医療サービスが出現するようになってきてました(註6)。

  • 註3:遠隔手術ではない。遠隔手術とは遠隔操作で行われる手術の事。
  • 註4:米国で近年発達しているtelemedicineは、対面診察をオンライン診察に変えるものです。彼の地では元々触診などあまりしなく、検査ベースの医療文化のため問診をビデオ通話で行うのに変更したと考えてもよいです。
  • 註5:この認可には大きな経済的利権が動いたとされてます。
  • 註6:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO97275590V10C16A2000000/

『問題は「オンライン初診」だな。』

遠隔医療は次のように分類されます:

  • 1.遠隔健康医療相談:一般的な情報提供による医学的助言;相談者の個別な状態を踏まえた具体的診断は伴わない。
  • 2.オンライン受診勧奨:受診不要の指示や助言。診断や医薬品の処方等は行わない。
  • 3.オンライン診察:患者の診察及び診断を行い、処方箋発行などの診療行為を行う。

既に診察している患者さんはともかく、初めて見る人物をビデオ通話を利用しても初診する事は大変困難です。責任のある医師であれば、この3分類の内、相談と受診勧奨しかできないです。医師の診断手順には単なる話を聞くだけではなく、その話し方やちょっとした身体の動作・仕草、同席した家族の言動、あるいは患者の匂い等対面でないと不可能な感度が必要なのです(註7)。今回の「期間限定の解禁」はこの様な制約がある行為なので規制があったのが、政治的な判断で解禁された事実をこのコラムの24人の読者様によくご理解いただく必要があると思います。

『但し、オンライン診察全体を否定するものではない。筆者の診療所ではオンライン診察は医療の利便性を高めるものと位置づけ、数年前より「感染症患者が通院しなくても済む」ために実施している。初診で感染症の診断をした場合、罹病期間中はオンラインでフォローする運用方法だな。移動や待合の時間節約になるし、それ以上に治療が継続しやすくなる。体調不良や付き添いがない時でも受診できるので、頻繁なフォローが可能になり、経過を把握しやすいので病気の悪化を予防できる。さらに、外出しない事で周囲を感染させない、本人は他の病気の院内感染を防げる。(註8)』

感染症に対する運用以外では、慢性疾患で症状が安定している患者さんのフォローもオンライン診察でできると考えます。今回のコロナ禍で世の中のいろんなモノ・コトが確実に変革します。医療の仕方もその一つでしょう。限定期間が終わってもオンライン診察は無くならないと予想してます。医師側、患者側、どちらも賢く利用すればとても有用と考えます。医者に行かんでも薬がでると喜んでる方もおられるようですが、大変危険ですよ。オンライン診察ができるかどうかを先ず相談してみてください!

  • 註7:結構匂いで細菌性感染症の診断がつくのです。バカになりません。
  • 註8:オンライン診療は対面診療を補完するものと考えてます。急性疾患であれば初診と治癒確認の最終再診は必ず対面で行う必要があります。慢性疾患であっても、定期的に対面診察が必須です。
この原稿は2020年6月26日に執筆されたものです。

 

特効薬は「外出しない事」!

By: Kazusei Akiyama, M.D.

Komainu. Hatsukaichi. ©Caju 2020


2020年4月

特効薬は「外出しない事」!

またまた新型コロナウイルスのひとりごとです。人類が今まで見たことのない状況に陥った張本人なのでお許しいただき、ひとりごとを展開したいと思います。この文章を読まれている時はサンパウロ州全体で外出や開店など禁止を含む都市封鎖中ですね。ブラジルでは感染者数と死亡者数がうなぎ登りで増加パターンが現在一番死者が多いイタリアと同じなので、流石のブラジル人もビビってます。アジアで発症して大騒ぎになっている間はブラジルも対岸の火事風に眺めていた感が強かったのが、欧米で大流行してしまい、欧州から感染者が入るようになるとようやく他人事でないと感じたようです。2月にはいろいろ新型コロナに関する情報、SNSやSMSに毎日いっぱい出てましたが7割方冗談やフェイクニュースでした。「こいつら全然危機感ないなあ」とみてましたが、ブラジルの行政、そこは自国、自州、自市の市民をよくわかってるのか、あっという間にイベントや外出自粛であるような当地ではヌルい措置から非常事態宣言で都市封鎖にもっていきました。ウイルスは世界中何処も同じなので、当地でも次の三つの対策が世界各国共通の感染拡大抑制の根幹です:①人の往来を制限する、②手洗いの徹底、③クラスター(感染者の集団)を避ける。耳にタコができるほどこの3点についてこのコラムの24人の読者様も聞かれていると思いますが、以外と「理由」がちゃんと理解されていないように感じますので、おさらいしてみましょう。

入国拒否や強制隔離、都市封鎖など新感染に対する措置が執られてます。これらの措置で共通するのが、「人と人の接触を途絶えさせる」方法で、社会活動を止める都市封鎖のはその最もたるやり方ですね。ウイルス性の感染症を克服するには一番確実なのが、ヒト(人間)全員がそのウイルスに対する抗体を持つことです。これにはやり方が二通りあります。一つが自然に感染して身体が抗体を産生する。もう一つがワクチンを接種し、抗体の産生を促すやり方ですね。コロナウィルスは哺乳類や鳥類に病気を引き起こすウイルスで、ヒトには感冒やSARS(註1)、MERS(註2)を起こしたりしますが、今回の騒ぎは名前のとおり、「新型」、新しく現れたタイプです。何を意味するかというと、「人類の誰もが免疫を持ってない」。なので、この感染症を克服するには免疫ができる事ですが、ワクチンはまだありません。自然感染すれば免疫ができるのですが、問題は感染した一部の患者は公衆衛生上無視できない位多く重篤化し、死亡する事です(註3)。人間、普通一定の程度で病気になり死亡しますが、これが今回の様に誰も免疫を持っていなく、簡単に感染が広がるとその重篤化する患者が一度に出ますので既存の医療システムが扱いきれなく医療崩壊といった状態がおこります(註4)。最終的には自然感染が広がり、ウイルスに対する抗体が一般化するのですが、ヒトの往来を制限する事で、この「自然感染をゆっくりおこさせる」のがこの手の政策の目的です。これにより、医療体制が重篤化する患者を救済できる余裕をもたす訳ですね。

  • 註1:SARS:Severe Acute Respiratory Syndrome、重症急性呼吸器症候群。
  • 註2:MERS:Middle East Respiratory Syndrome、中東呼吸器症候群。
  • 註3:地域により差があるが、80歳代以上が罹患した場合、5〜6人に1人が死亡する。
  • 註4:新感染症関連の患者が殺到し、既存の疾患も対応できなくなり、医療崩壊がおこる。

手洗いまたはアルコール消毒(ブラジルの場合はアルコールジェルが一般的)の理由は、ウイルスを手から洗浄する事にあるのは当たり前ですね。でも「こんな怖いウイルス」、石鹸で手洗いしただけで不活性化するのか?といった質問も診療所でありました。答えは「します」です。ウイルスはいわゆる「生物」ではなく(註5)、遺伝子情報の超微小な構造体です。簡単にいうと、カプシドと呼ばれるタンパク質の「殻」の中に遺伝子情報のウイルス核酸が入っているだけの構造です。この殻をエンベロープと呼ばれる「膜」を持つウイルスもあります(註6)。エンベロープは大部分が脂質でできているため、脂質を「溶かす」有機溶媒(エタノール=アルコール)や石けんで簡単に破壊できます。石けんは合成洗剤でも純石鹸でもどちらでも効果があります。

まだまだわからない事が多い新型コロナですが、感染は「飛沫感染」と「接触感染」が認められてます。前者は咳やくしゃみなどや会話の唾で口から細かい水滴(これが飛沫)が飛び散り、それを吸い込む事で感染します。後者は飛沫経由でどこかの表面に付着したウイルスを口、鼻、目の粘膜に接触させる事で感染する訳ですね。接触感染を避けるため、手に付着したウイルスを”死滅”させる行為が手洗いになります。クラスターと呼ばれる集団感染は飛沫ができやすい状況にヒトが沢山いるとおこります。つまり、「換気が悪い閉鎖された空間」の中に、「手が届く距離にヒトが沢山いて」、「会話は発声がある」のが感染しやすい状況といわれ、それを避ける訳です。

『人類の歴史は「なんでも特効薬を探す」歴史でもあるので、今回もいろいろ特効薬がないかと模索がおこってる。しかし、特効薬はないのだな。現時点では世界中で行われている今回のひとりごとの3点の措置しかないので、各自しっかり実行してこの危機を乗り越えたいものだと考えるが、都市封鎖が長く続くと精神状態が悪化するのでとても心配なのだ。』

  • 註5:自己繁殖できないので、非生物、非細胞性生物、生物学的存在などと呼ばれる。
  • 註6:インフルエンザウイルス、単純ヘルペスウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、コロナウィルスなど。

ブラジル・サンパウロでの新型コロナウィルス感染の情報はこちらで更新してます。


 

たかがマスク、されどマスク

By: Kazusei Akiyama, M.D.

Clerodendrum thomsoniae. Genpeikusagi in Japanese. ©Caju 2020


2020年3月

たかがマスク、されどマスク

このところ、新型コロナウィルス(註1)で大打撃を受けている世界です。このコラムの24人の読者様は周りのご親族を含め、大丈夫ですか?このウイルスによる肺炎など病状や予防方法などは2月の始めより大量に報道されてますのでそれらについてではなく、予防に良いの不要だの世間を騒がせている「マスク」についてひとりごとします。

マスクとは人体の顔を覆うモノの事です。日本語では鼻や口を衛生または防御目的で覆うものを指し、仮装や芸術、儀式などで使用されるモノは「仮面」と呼ばれますが西洋の言葉では(英語maskポル語máscara)区別はありません(註2)。ウイルス感染を防ぐ為に有効であるとかないとか議論にあがっているのが衛生マスクの一種、サージカルマスクです。元々医療用に使用されていたのですが、日本では花粉症が増えるにつれ粒子吸入予防用として流通するようになり、SARSや新型インフルエンザの流行時に圧倒的に普及しました。日本では元から社会人のマナーとして風邪など上部呼吸器の病気になっているときに「他人に移さないように」マスクを使用する文化があります。昔からある「ガーゼマスク」ですね。木綿など(註3)の布でできており、肌触りがよく、内側にガーゼを重ねて利用し、洗って再利用できるのが特徴です。この日本人の風邪の時のマスク使用は世界中の人達から称賛され、日本文化の紹介などでよく挙がります。他人を思う心ですね。咳やくしゃみでバイ菌が入った飛沫を防いだり、本人の粘膜の保湿をしたりするには適してますが、布の目が粗いので外部からの物質をブロックするには向いてません。そこで花粉やバイ菌などを吸入しない為に「細菌濾過効率、BFE Bacterial Filtration Efficiency)」が高いサージカルマスクが普及したのですね(註4)。この「手術用マスク」は元は使用している人が唾液などを患者側へ飛散させない目的で開発されているものです(註5)。サージカルマスクのBFEは95%以上となってますので、内から外へ出ないのであれば反対も然りであろうという理屈で異物ブロックに有効と思ってみんな使ってる訳です。そこで今回のようなSARS-CoV-2の感染拡大でみんなマスクに走り、サンパウロまで売り切れ状態が続いてますがアメリカの当局や偉いお医者様などが「防御効果無し!不要!」と言ってるのでどうしたものか?迷う人達が多いのではないかと思います。

  • 註1:新型コロナウィルスはWHOによる命名で「2019-nCOV」(2019年発生のNovel Corona Virus)でしたが、2月11日に国際学会(International Committee on Taxonomy of Viruses – ICTV)によりSARS-CoV-2(SARSに関連するウイルスタイプ2) と正式名称がつきました。このウイルスによる疾病が「COVID-19」(Corona Virus Disease、2019年からの)です。報道をみていると名称が混在してますし、ウイルスを指す場合どちらかというと後者の名称を使ってるようです(が厳密には間違いですね)。
  • 註2:どのように区別するかというと、説明をつけます:「カーニバル用マスク」「儀式用マスク」「手術用マスク」など。
  • 註3:麻布や竹布もバージョンもある。麻は通気性にすぐれている。竹は消臭性や抗菌性がある。
  • 註4:布の様に糸を織ったモノだと目が粗くなるので、不織布と呼ばれるシート状の布でできている。
  • 註5:手術用マスクはいわゆる花粉対策用のと構造や素材が同じでも、長期間使用できるように輪ゴムではなく紐で結ぶようになっている。実際使って見ると装着感が全然違う。

『結論からいうと、「使用するに値する」と考える。確かにサージカルマスクは「防塵マスク」(註6)と比べると吸入防止の機能は劣る。元々装着者を守るために作られたのではないから。どれだけ粒子をカットするかという除去率はマスクの不織布の成績だけを見ると95%以上99%とかいった数字がでるが、人間の顔は凹凸があるのでぴったりといかない。なので実質の除去率は20%以下だな。しかし、これはゼロより大きい。また、元々装着している人が他人に飛沫を飛散させないためのマスクなので、「自分が感染源になるのを防ぐ」目的で使用するのに感染症拡大の場合意義がある。また、喉や鼻の粘膜を加湿するのでウイルスが付着しにくくなる効果も期待できる。従って、現在の日本の様にウイルス感染の市中感染がおこっているときは、外出する全員がマスクをすると「マスクの効果」が現れることになる。』

ただし、漫然とマスクをしておれば大丈夫という事ではありません。良い例が横浜に係留しているクルーズ船で感染した検疫官です。船内で作業するのに手袋とマスクを着用していたそうですが、同じマスクを繰り返し使ってました。外部からの物質をブロックするためのマスクですから、外側の表面にはウイルスが付着しているわけです。適切な扱い方をしないとマスク自体が感染源になりかねません。正しいマスクの扱い方をおさらいしてみます。今回のSARS-CoV-2だけではなく、感染症対策のため(例えばインフルエンザの流行時)にマスクを使う場合、やり方は同じなので是非この機会に知らない方は習得をお願いします。外出毎(註7)に新しく取り替えるのが理想的です。

  • サージカルマスクには表裏上下がある。耳かけが接着してある部分が裏(顔側)。針金が入っている部分が上。
  • 装着
    • *先ず、針金の中心を90度くらいに曲げる。
    • *曲げた部分を鼻に当てる。
    • *鼻に当てた状態で耳かけを引っ張って装着する。
    • *針金部分が鼻と顔に沿って密着するように形成する。
    • *鼻の部分を持って、下側を顎の下に引っ張り込む。
    • *装着中はマスクの表面を触らないようにする。
  • 脱着
    • *耳かけを持ち、片耳を外し、そのまま耳かけを持ちながら反対側も外す。
    • *耳かけを持ったまま、マスク本体は触らずにゴミ箱にすてる。

『2020年3月3日現在、日本では「屋内の閉鎖的な空間で、人と人とが至近距離で、一定時間以上交わる状況・場所を避ける」事が要請されてます。その他、うるさくいわれている「手洗い」「うがい」が重要です。「家に帰ったらする」のではなく、外出先でも機会があればいくらでも手洗い(註8)とうがいをしましょう。』

熱や風邪の症状のある方は、仕事休んで外出を控え、自宅療養をお願いします(註9)。新型コロナウィルス感染のため受診する目安は次のとおり(2020-3-3現在):

  • すぐに受診
    • 強いだるさ
    • 息苦しさ
  • 2日程度続く:高齢者、持病のある人、妊婦が
    • 37.5度以上の発熱
    • せきなどの風邪症状
  • 4日以上続く:上記以外の人、子供含むが
    • 37.5度以上の発熱
    • せきなどの風邪症状

 

  • 註6:N95マスクと呼ばれるカップの様なマスク等。これは粒子状物質の吸入防止に作られたものなので、モノを吸い込むのを避けるに関してはこちらの方がすぐれている。
  • 註7:外出時、人混みにいるときのみ必要。人が居ない場所を移動する時は不要。
  • 註8:手洗いで留意しないといけないのが、洗いのあとの手拭き。ペーパータオルを使用しましょう。タオルなどは(特に外出先)はできれば使わないほうが良いです。
  • 註9:COVID-19でないのに下手に救急外来行って、そこで移される可能性がある。あるいは感染していても軽症な場合は治るので下手に救急外来へ行き、感染源になるのを避ける。

 

錯覚してますよね:新型タバコ編

By: Kazusei Akiyama, M.D.

Medetai. Year of Rat. Caju©2020


2020年02月

錯覚してますよね:新型タバコ編

このコラムの24人の読者様、どの様に初めての令和の新年を迎えられたのでしょうか(註1)?今月は「錯覚してますよね」シリーズの第5弾として最近ユーザーの増えている「新型タバコ」(電子タバコ、非燃焼・加熱式タバコ)に焦点を当ててみます。ユーザーが増えるとともに、最近話題に上がる事が多い新型タバコですが、まず定義から始めます。現在では「健康に悪い」と広く認知されているタバコ(註2)は大抵大量生産されている「紙巻きタバコ」(註3)の事を指します。また、消費の多い紙巻きタバコがタバコ製品では最も有害と推定されてます(註4)。この様な現状から特に先進国では紙巻きタバコの市場の減少が顕著であり(註5)、それにとって変わるビジネスを模索する動きが2000年代より見られてます。タバコ製品世界的大手のP社においては、「紙巻きタバコから撤退する(註6)」と逆手にとったPRまで打ち出してます(註7)。紙巻きタバコは健康に悪いんだ、ならばその代わりにReduced Risk Product(RRP、リスク低減製品)でニコチン依存ビジネスを継続すれば依存症になっているかわいそうな人達を救う事ができる!(註8)と閃いた訳ですね。

  • 註1:ある読者様に「新年号は明るく、めでたい話にしろ」と要望があったのですが、どうしてもネタが思いつかないので悩んでるうちに締め切りになってしまい新年号は休稿してしまいました…
  • 註2:健康に悪いという認知も広く浸透したのは結構最近だと思う。1980年代には健康被害に対する否定的な論調がかなり強かった。現在では避ける事のできる死因の3位とされる。
  • 註3:刻んだタバコ葉を紙で巻いてある、使い捨てのタバコ製品。
  • 註4:匂いや燃焼速度を調整するために「紙」が加工されている、香りを良くするための香料や依存性を高めるためや、煙を見えにくくするためや、刺激を低減するため等、いろんな添加物が加えられそれらが燃焼するため、単にタバコ葉の燃焼以上に健康被害がでると考えられる。
  • 註5:先進国ではないが、ブラジルは喫煙規制が大変上手くいった例であり、規制開始25年で喫煙率が男性が29%から12%、女性が19%から8%に低減した。
  • 註6:We’re Trying to Give Up Cigarettes(我々は紙巻きタバコを諦めようとしている)
  • 註7:前回ひとりごとした「広告は本当ではない」の例ではないか?紙巻きタバコを止めると言ってるけど、ニコチン供給デバイスビジネスを止めるとは言ってないからウソでは無いけど…
  • 註8:”Quitting smoking – or never starting – is always best. For those who would not otherwise stop, there are better alternatives than continuing to smoke.” (喫煙を止めるーまたは始めないーのが一番良い事です。しかしそれができない人達には喫煙を続けるより良い他の方法があります。筆者訳)といった部分も広告に見当たります。そんなに悪いモノだったら初めから売るなよ!

こんな世の中なので先進諸国で二種類のRRPが開発されました。その1:電子タバコ。英語ではelectonic cigarette (e-cigarette)、ポル語ではcigarro eletrônico (保健当局の正式名称はdispositivo eletrônico para fumar喫煙用電子装置)。その2:加熱式タバコ。または非燃焼タバコ。英語では、heated tobacco products, heat-not burn-tobacco ポル語では tabaco aquecido。この二種類を新型タバコと呼びますが、その使用方法や作用機序が異なります。

電子タバコはニコチンを含む液体(註9)を本体にセットし、液体を電熱で気化させ、蒸気を吸入します。マイクロプロセッサで電熱を制御するため、「電子」の名称が付きます。蒸気vaporからくるvapeヴェイプと呼ばれます。また、派生で動詞がvapingヴェイピングになります。加熱式タバコはタバコ葉を加熱し、ニコチンを含むエアゾル(分散粒子)(註10)を生成しそれを吸入します。普通のタバコのように燃焼しないので、煙が出なく、ニコチン含有の空気を吸ってる感じになります。メーカーは蒸気と言ってますね。

  • 註9:ニコチン以外には大麻の有効成分の一つであるTHCやメントール、果物の香料などが多い。
  • 註10:エアロゾルを簡単に言うと、気体あるいは固体の「空気中に漂う粒子状物質」。「霧」は気体のエアロゾル、「煙」は固体のエアロゾル。

 

『要するにどちらも「電熱式蒸気タバコ」だな。違いは「電子」が液体、「加熱」がタバコ葉を「熱して」いるところという事か。』

この新型タバコを喜んで使っている方達が挙げるメリットを次に示します:

  • 嗅覚や味覚を低減させない。
  • 口臭がタバコ臭くならない。
  • 歯の黒ずみがない。
  • 吸った場所がタバコ臭くならない。
  • 息切れがない。
  • タバコが原因の咳がない。
  • 火災の危険がない。
  • 吸い殻で環境汚染しない。
  • 受動喫煙がない。
  • タバコ喫煙と関連される疾患(肺炎、癌、心筋梗塞、慢性気管支炎、肺気腫、脳血管発作、血栓症、胃潰瘍、インポテンツ、その他)にならない。
  • 紙巻きタバコより安価(電子タバコの場合)。

 

『なんか良い事だらけの新型タバコ、に感じますよね。ネットを覧てると、”メリットしかない電子タバコの爆誕!”のような記事まであるな。煙出ないし、匂いしないので、堂々と喫煙できるぞ〜みたいな… それで、実際室内喫煙する、あ、じゃない蒸気吸入か、人が増えているらしい。”受動喫煙がない”という理由で。受動喫煙がないという考え方や広告はウソでしょ。煙が見えないだけで、大量にエアロゾルを排出しているのは既に証明されてるぞ。世界保健機関WHOは「受動喫煙者の健康を脅かす可能性があると考えることが合理的である」 との見解です。』

上記メリットは有害と広く認知されている喫煙をしたい人達が「そうであって欲しい」といった希望だと思います。事実タールは出ないので、臭いとか歯が黒ずむとかは削減しますが、疾患にならない?(なります(註11)、火災がない?(リチウムバッテリは火災になりますけど)、環境汚染しない?(吸い殻は無くてもカセットがでるでしょう)とクエスチョンマークがいっぱいの新型タバコです。メーカー自体、「有害性物質が少ない」といっているだけで、「リスクが低減された製品である」とは言ってないのです。「あくまで、健康懸念物質が低減されている…」と言った内容の説明です。Stephensが行った研究では(註12)有害性物質の低減が認められてますが、健康被害の低減につながる曝露量なのか科学的根拠はありません。また、ニッケルやクロムなど重金属濃度が紙巻きタバコより高い事が判明してます(電子タバコのデバイスが金属で構成されているから?)。医学界は新型タバコの使用は従来の喫煙と同じような危険性があり、推奨できないものとしてます(註13)。

『健康によさそうだと思って、新型タバコに替えたそこの貴方!従来のタバコと同じくらいニコチン出るようにできているので、満足感ありますよね。でもそれって、ブラジルで言う「6を半ダースと交換する」事になってませんか?特に日本では加熱式タバコが流行っているようですが、日本の規制は甘いですよ。公衆衛生に関する予防原則では「安全性が確認されるまで販売を認めない」のだが、日本のやり方を覧ていると「健康被害が確認されるまでは販売してもよい」だな(註14)。そして、今までの歴史からみると、「タバコ会社が真実を発信する」ということは信じられますか?』


 

広告とは半信半疑で接しましょう。

By: Kazusei Akiyama, M.D.

Like a metal zipper. Osaka. Caju©2019


2019年12月

広告とは半信半疑で接しましょう。

このコラムの24人の読者様はフェルナンド・デ・ノロンニャ諸島(Arquipélago de Fernando de Noronha)はご存じですか?ブラジル東北地方のナタル市より360km東北東の大西洋沖合にある火山島郡です。世界で最も美しいとされるビーチ(Praia do Sancho)があったり、波が穏やかな時期はダイビング、反対の時期はサーフィンに適しており、2001年に世界遺産登録された、大変美しい島々です。観光するには入島税があり、少しハードルが高い観光地です。何故ノロンニャの話をしているかというと、自動車メーカーのR社がこの島の環境保護に参加しているとの広告を見たからです。「ノロンニャは世界でも類を見ない自然の聖域。何世代にもわたって保存するに値する所。環境保護は専門家だけではなく、我々も同調する義務がある。そのためR社はカーボン・ゼロ・プログラムに参加し、電気自動車を島に導入した。島で汚染物質がゼロになるために。云々…」といった内容の企業広告です。金をかけた画像にホロッとくるナレーションと楽曲、なんと素晴らしい企業の取り組み!と思いますよね。

『確かに、電気自動車は走行中に排気ガスを排出しない(註1)ので、CO₂排出がゼロであることは正しい。バッテリーに蓄えた電気でモーターを動かしているからだな。R社が設置した「充電スタンド」でバッテリーを充電するわけだ。しかし注意してみると、実はノロンニャで供給される電気の殆ど(92%)がディーゼル油を燃やした火力発電由来なのだな(註2)。従って、ノロンニャで電気自動車を走らせると動力源の電気を作るのに化石燃料が必要になるので結局CO₂排出ゼロでは無い。なので、「島で電気自動車を走らせると汚染物質がゼロになる」のははっきり言って「ウソ」です。元々CO₂排出ゼロ由来の電力供給が殆どの場所(例:水力発電=ノルウェー)や(例:原子力発電=フランス)で内燃式エンジンの車をやめ、電気モーターにすると確かにCO₂排出が激減する。しかし、石炭、石油、天然ガスなど化石燃料で発電している場所ではCO₂削減効果が期待できない(註3)。要するに、世の中エコロジーを謳うと先進的とか社会に貢献しているとかの流れになるからこの様なデタラメな広告を打つのだな。』

  • 註1:電気自動車を製造するにはCO₂排出がある。
  • 註2:一ヶ月約45万リットル使用。残り8%程度は太陽光発電。
  • 註3:日本では政府はガソリン車に代わりに全部電気自動車にすると約半分削減できると宣伝してるが、80%以上化石燃料、特に石炭を使用する発電方法のため、結局トントン、効果ゼロといった試算も存在する。

広告とは「商品・サービス・意見などの情報伝播活動」と定義されます。いろんな分類方法がありますが、商品やサービスなどの販促のための「商品広告」、企業や団体のイメージアップを図る「企業広告」、商業目的でなく個人や法人が政治問題や社会問題について主張する「意見広告」、健康や安全など社会啓発を目的とした「公共広告」に大別できると考えます。広告の根底にあるのは、各種広告の広告主の商品の販売促進や考え方に対する好意を獲得する目的ですね。消費者にとって魅力的に見せたり(商品・サービス、またはそれを提供する事業者)、発信者の意見が正当である事をアピールするため、ウソまでいかなくても「誇大広告」に至りやすいと思います。また、フェイクニュースのように始めから騙す意図の広告が多いのも最近の特徴ですが、これは今回取り上げません。

『ウソ(嘘)は真実に反する事柄の表明だな。ヨーロッパの古典的定義では「欺こうとする意図をもって行われる虚偽の陳述」(註4)で、一般的に悪い事とされるが、日本で存在する「嘘も方便」といった使い方もある。まあでも判断を誤らせる嘘は良くない。広告になると、フェイクニュースのようなもので無い限り、そこまでおおっぴらに嘘はつかない。しかし、本当でない事が結構ある。例えば、赤い色のモノを「青色です」とはやらないが、「青色ではないです」とやるわけだな。赤は青ではないので、嘘ではないが、赤ですと正確な事をいってるわけでもない。世の中を見回すと意外とこの手の広告が多いのだ。』

  • 註4:4世紀の思想者アウグスティヌスの定義。

医者として注意してもらいたいのが、健康に影響を及ぼすモノやコトを扱った広告です。最近なんと無責任な広告だと憤慨したのが当地で展開しているチョコレート店C社の”feliz hoje”「今日幸福」キャンペーンです。家族の絆や成功した喜びなど、色々幸福の元を提言するのですが、要するに「チョコ食べると多幸感が得られる、今すぐ(毎日)食べよう」といってる広告です。そんな食生活してると糖尿病になりますよ。また、子供に毎日チョコ食べるような食育してると大人になった時ろくな事になりませんね。食品に関する「嘘では無いけど広告」の代表的なのが、シリアルなどで「ビタミンや栄養素が強化のため添加されてます!」というタイプです。強化添加されてると、なんかされてないモノより良さそうに見えますよね。で、実際添加されてるので、嘘ではないのですが、実はシリアルを製造する加工によって「元々原料にあったビタミンや栄養素」が失われてしまうので、後から添加するのです。誇大広告に至りやすいのが最近流行の「特定保健用食品(特保)(註5)」や「機能性表示食品(註6)」などです(註7)。こう言った食品は健康に敏感な人が関心を示すので、その心を刺激する様な広告になりやすいのだと考えます。ネットで「特保 誇大広告」で検索してみると実物例などが記載されていて勉強になります。

『食品や健康食品の広告には「トク(ホ)に注意が必要」です!(笑え、シャレです)』

『食品や健康食品の広告は内容を鵜呑みにしないようにお願いしたいですね。』

  • 註5:生理学的機能などに影響をあたえる成分を含む食品。
  • 註6:特保と同じく保健機能成分を含むが、消費者庁の許可ではなく単なる届出がされたもの。
  • 註7:特保について詳しくはこちら厚生労働省の情報をご覧ください:https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/food/e-01-001.html