物事の本質を曝露させたコロナかな。

By: Kazusei Akiyama, M.D.

Anas zonorhyncha. Yodo River. Caju©2019


2020年8月

物事の本質を曝露させたコロナかな。

このコラムの24人の読者様、コロナ禍の「新しい生活様式」(註1)に馴染んで来られてますか?このところ、5回連続でコロナ関連のひとりごとだったので、今月はもうしないぞと周囲に言っていたのですが、食言してしまいます。サンパウロ市では一通り第一波が落ち着き、規制緩和が進んでますが、ブラジル全体では6週間連続で死者が1日1000人以上を維持し、この原稿を書いている時新型コロナウイルス感染症死者数が8万7千人近くなっています。ブラジルを含む米州全体の感染拡大の理由は諸説提示されてますが、その一つに欧米文化の個人主義があるのではないかと思います。各自が意見を持ち、それに従って行動する事が是とされる文化は今回のコロナ禍対策が必要とする社会一体の取り組みでは脆弱性を表します。例えば、当地では新しい生活様式を「novo normal、”新しい正常”」と呼ばれる様になってますが、馬鹿馬鹿しくて笑えてしまうのが、「正常とはなんだ」「正常は人によって違うだろう」「貴方の正常は自分にはそうでない」といった様な論説が多々散見する事です。

『新しい生活様式は別に各個人の人権や人格を否定しているものではなく、単なる「感染症対策として」普段しなかった行動を生活に取り入れるだけの問題だろ。』

  • 註1:またかですが、新しい生活様式、または新しい生活習慣とは、「身体的距離確保」「マスク着用」「手洗い」をベースに、換気するとか、健康管理するとか、接触を避ける食事の仕方とか、各行政が提言しているコロナ対策。

コロナウィルスを含む、感染症、つまり伝染病の完璧な対策は「病原体に接触しない」であることは簡単に理解できますよね。伝染病に対する予防医学の大前提が「物理的隔離」と「病原体の排除」です。エイズや梅毒の様に一定の行為やマラリアやデングなど一定の場所に特異した伝染病とは違い、コロナは基本的に「人間である事」だけが感染する条件です(註2)。もちろん貧富の差で「感染する確立」や「治癒する確立」の違いはありますが(註3)、これは単に隔離や排除できる経済的余裕の違いだけであり(註4)、生物学的には誰でも罹患します。ちゃんとした教育を受けてないため、状況がわかっていない人達も沢山いますが、それら以外に周りの人間の行動を観ていると、コロナの防疫は自分は関係ないみたいな人結構いますね。サンパウロでいわゆるリベラル派が多い地域では、”保守派政権が提言する事などしないぞ”といった行動に基づく輩や(註5)、日本でもニュースになっていた”マスクなしで外出していたため罰金を科され激高した司法裁判所判事”(註6)のような特権階級意識のため「マスクしない派」がいます。

『リベラル派であろうが、特権階級であろうが、そんな事、ウイルスにわからん。感染するのですけどね。』

  • 註2:感染しにくい人やしない人などもいるようですが、この場合の議論と関係ありません。
  • 註3:いうまでも無く、富裕層の方が自宅隔離やテレワークなどができ、罹患してもより早くより良い医療にアクセスできるので死亡率が比較的低い。サンパウロ市の疫学調査では、社会経済的底辺は上層部に比べると感染確率は3倍。
  • 註4:適当な栄養分を摂取できるかもありますな。
  • 註5:ポル語でrebeldia ignorante無知な反抗と呼ばれてますな。
  • 註6:7月18日にサントス市でマスクなしで海岸を歩いていたサンパウロ州司法裁判所判事が市の警備隊にマスク着用を求められ拒否したため、市の条例に基づき罰金を科したところ、「字を読めるのか」と罵り、罰金書類を破り捨て、警備隊の上司にクレームすると強迫した事件。その前日も同じような事をしていた。

人間は国家や家族、会社といった共同体を維持する事で社会を作ってます。今回のコロナ禍で全人類、今まで経験したことの無い状況におかれてます。マスク着用や手洗いなどはともかく、人類の存続を危うくする身体的距離(註7)を取らないと命の危険がある(かもしれない)これまで踏み入れたことのない世界を現在我々は生きてます。この様な究極の状況に人間おかれると、本質が出るものです。新しい生活様式は他の言い方では「うつさない、うつされない」行動です。これには結局なにが基本的必要かというと、他人に迷惑をかけない、命を奪わないといった「道徳」(モラル)ではないでしょうか?(註8)

  • 註7:子孫ができませんね。
  • 註8 :前述の判事などは、沈没する船から一番に救助艇に乗り移るタイプですな(笑)。

感染症に対する道徳も心配ですが、大変危欋すべきではないかと思うのが現在の社会で盛んになっている「遡及的道徳」に基づいたキャンセルカルチャー(cancel culture)です。遡及的道徳とは、「現行の道徳」に合致しない「昔の」行動や作品、あるいはそれらの発言者や作者を批判・攻撃する事です。最近おこった、米国の警官による黒人殺人事件が引き金となったブラック・ライブズ・マター抗議の一環で、黒人奴隷に関する歴史的産物や芸術作品を否定する運動にまで発展してます。筆者が大変びっくりしたのが、映画「風と共に去りぬ」を抹消すべきといった運動です。確かに以前から黒人奴隷の歴史を美化した人種差別作品と言われてきてます。しかし、映画作成の教科書的な面などもある重要な作品であることは間違いないですし、映画が作成された時代、そして作品が模写する時代を反映する内容であることを考慮すべきだと考えます(註9)。キャンセルカルチャーは現行の価値観に沿わないモノ(人や組織)をすべて抗議、否定、キャンセル、削除、侮蔑、非売運動などをする行動に至り、主にSNSなどネットで拡散します(註10)。社会の周辺にいる人達が”声を拡大し、不利な現状に挑戦する行為”だと言われます。しかし、キャンセルカルチャーの視点で見ると、人は善か悪かの選択しかなく、その中間や又違った余地がまったくない。米国初の黒人大統領であったオバマ氏すら、気に入らないモノに対して草々に見切りをつけ、接触を完全に拒絶する姿勢は慎むべきであると説いています。

  • 註9 :気に入らないから自分は観ないのであれば、それは勝手だけど、それを他人に押しつけるのはどうか。
  • 註10:この様な批判を始める人物は「道徳的グランドスタンディング(moral grandstanding):道徳的な話を利用して自分自身の社会的地位の促進を目指す」をして社会的に優位に立とうとする事が多いように見えます。

現在我々が生きている世界は、良いも悪いも今まで人類が渡ってきた歴史の賜物です。帝国主義や奴隷制度があって、有害であったモノだったからこそ、現在そのようなコトにならないような社会を築いているのではないでしょうか?間違いから学び、場合によっては責任をとり、そこから得た教訓をみんなで共有し、社会をより良くするのが真の道徳であると思います。リベラルな社会では言論の自由を最重要視しますが、自分たちには言論の自由がないと言って、言論の自由を脅かしている事がわかっていない。異なる意見や価値観を受け入れることによって、学ぶ事も多いし、個人の意識の向上になると思います。保守的な特権階級もその特権を失う危険があるので、自分達の価値観を固持するので、結果的には同等ですね。

『結局は自分自身を高めるのではなく、他人を見下して、自分のレベルに合わせている。幼稚園だな。マスク不使用も同じ。先が思いやられる。』


接触しないとできない事もあるでしょ。

By: Kazusei Akiyama, M.D.

Miedou. Koya Town. Caju©2020


2020年7月

接触しないとできない事もあるでしょ。

ここのところ連続で恐縮ですが、またコロナ渦関連のひとりごとです。百年に一度の危機と広く認識される世の中ですので、話題には事欠きません。この原稿を書いている時、ブラジルでは新型コロナウイルス感染症死者数が5万5千人を超したところでした。1ヶ月前の2.5倍です。当地ではコロナ感染対策が明らかに迷走してますので、なかなか終息に向かう光景が見えないです。現在サンパウロ市では”感染率”Rt(註1)が約1なので、「増えないけれど減らない」状態です。今回は感染症予防対策として発出された「オンライン診察」に焦点をあてていきます。

『今更何故新型コロナウイルス感染症拡大の予防に「人と人が接触しない」のが重要か説明しなくても良いかと思うが、その不接触の方法の一つとしてパンデミックの初期から推奨されるようになった「遠隔医療」は初めは外出規制の緩和策の意味が強かった。接触云々より、外出規制のため出かけられない、出かけたくない、または感染を恐れるので医療機関を受診したくない人が目当ての応急措置、そして医療機関での院内感染予防や外来の待合等で人が密集するのを避けるための方策だったのだな。』

一時的な措置であることは、日本でもブラジルでもオンライン診察は「コロナウィルスパンデミック中の期間限定解禁」とされたことが一番の証拠です。この「解禁」という言葉がひとりごとのポイントになります。解禁と言うのは、「禁止されていたものを解くこと」なので、元々オンライン診察は医療行為としては禁止されていた訳です。今回のコロナ禍で人との接触を7〜8割削減するのも予防対策の一つで、テレワークやオンライン授業などの世の中になり、わざわざ出向かなくでもできる仕事がいろいろ判明しましたが(註2)、反面、現場に人がいないとできない事はなにかも判明したと考えます。医業は人間を診て、訴えは何か判断し(診断ですね)、処置する流れに完結します。いうまでも無く対面の対応が必要です。

  • 註1:正確にいうと「実効再生算数」または Rt(アールティー、Effective Reproduction Number)。感染者が平均して何人に感染させるかという人数。1以下でないと感染拡大が終息しない
  • 註2:現場に人がいないと成り立たない業種にまで8割削減とか要求し、その現場が疲弊したアホな国もありましたな。

しかし特に米国発信の遠隔医療推奨が最近10年ほどで強くなってきてます。遠隔医療(英語:telemedicine)とは情報通信機器を活用した医療に関する行為と定義されます。情報通信機器は簡単にいうと、スマホ、タブレットやパソコンなどの事です。医療行為は原則的に対面で行われます。医療行為の対象となる人間は各自心身の状態が異なり、話からだけでは診断は困難です。処置で例をあげると、オンライン手術って無理ですよね(註3)(註4)。この様な事情から、遠隔医療の進歩は正に言葉の狭義のとおり、距離的に遠い、僻地に医療行為をもたらす方法が勘案されてきました。一番良い例は、遠隔地で撮影した医療画像を専門医に送り、診断の助言を仰ぐ方法です。ブラジルでは医業を取り締まる連邦医師評議会(CFM、Conselho Federal de Medicina)が一旦2018年12月にオンライン初診を含む遠隔医療を認可しましたが、医療現場からの大反対で3ヶ月後に認可取消に至った経緯があります(註5)。日本では、医師法に「無診察治療の禁止」という項目があり、対面診察でないとこれに該当するとされてきました。しかし、5年ほど前から”事実上解禁”といった解釈の上、「スマホ診療」と呼ばれるITを駆使した医療サービスが出現するようになってきてました(註6)。

  • 註3:遠隔手術ではない。遠隔手術とは遠隔操作で行われる手術の事。
  • 註4:米国で近年発達しているtelemedicineは、対面診察をオンライン診察に変えるものです。彼の地では元々触診などあまりしなく、検査ベースの医療文化のため問診をビデオ通話で行うのに変更したと考えてもよいです
  • 註5:この認可には大きな経済的利権が動いたとされてます。
  • 註6:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO97275590V10C16A2000000/

『問題は「オンライン初診」だな。』

遠隔医療は次のように分類されます:

  • 1.遠隔健康医療相談:一般的な情報提供による医学的助言;相談者の個別な状態を踏まえた具体的診断は伴わない。
  • 2.オンライン受診勧奨:受診不要の指示や助言。診断や医薬品の処方等は行わない。
  • 3.オンライン診察:患者の診察及び診断を行い、処方箋発行などの診療行為を行う。

既に診察している患者さんはともかく、初めて見る人物をビデオ通話を利用しても初診する事は大変困難です。責任のある医師であれば、この3分類の内、相談と受診勧奨しかできないです。医師の診断手順には単なる話を聞くだけではなく、その話し方やちょっとした身体の動作・仕草、同席した家族の言動、あるいは患者の匂い等対面でないと不可能な感度が必要なのです(註7)。今回の「期間限定の解禁」はこの様な制約がある行為なので規制があったのが、政治的な判断で解禁された事実をこのコラムの24人の読者様によくご理解いただく必要があると思います。

『但し、オンライン診察全体を否定するものではない。筆者の診療所ではオンライン診察は医療の利便性を高めるものと位置づけ、数年前より「感染症患者が通院しなくても済む」ために実施している。初診で感染症の診断をした場合、罹病期間中はオンラインでフォローする運用方法だな。移動や待合の時間節約になるし、それ以上に治療が継続しやすくなる。体調不良や付き添いがない時でも受診できるので、頻繁なフォローが可能になり、経過を把握しやすいので病気の悪化を予防できる。さらに、外出しない事で周囲を感染させない、本人は他の病気の院内感染を防げる。(註8)』

感染症に対する運用以外では、慢性疾患で症状が安定している患者さんのフォローもオンライン診察でできると考えます。今回のコロナ禍で世の中のいろんなモノ・コトが確実に変革します。医療の仕方もその一つでしょう。限定期間が終わってもオンライン診察は無くならないと予想してます。医師側、患者側、どちらも賢く利用すればとても有用と考えます。医者に行かんでも薬がでると喜んでる方もおられるようですが、大変危険ですよ。オンライン診察ができるかどうかを先ず相談してみてください!

  • 註7:結構匂いで細菌性感染症の診断がつくのです。バカになりません。
  • 註8:オンライン診療は対面診療を補完するものと考えてます。急性疾患であれば初診と治癒確認の最終再診は必ず対面で行う必要があります。慢性疾患であっても、定期的に対面診察が必須です。
この原稿は2020年6月26日に執筆されたものです。

 

特効薬は「外出しない事」!

By: Kazusei Akiyama, M.D.

Komainu. Hatsukaichi. ©Caju 2020


2020年4月

特効薬は「外出しない事」!

またまた新型コロナウイルスのひとりごとです。人類が今まで見たことのない状況に陥った張本人なのでお許しいただき、ひとりごとを展開したいと思います。この文章を読まれている時はサンパウロ州全体で外出や開店など禁止を含む都市封鎖中ですね。ブラジルでは感染者数と死亡者数がうなぎ登りで増加パターンが現在一番死者が多いイタリアと同じなので、流石のブラジル人もビビってます。アジアで発症して大騒ぎになっている間はブラジルも対岸の火事風に眺めていた感が強かったのが、欧米で大流行してしまい、欧州から感染者が入るようになるとようやく他人事でないと感じたようです。2月にはいろいろ新型コロナに関する情報、SNSやSMSに毎日いっぱい出てましたが7割方冗談やフェイクニュースでした。「こいつら全然危機感ないなあ」とみてましたが、ブラジルの行政、そこは自国、自州、自市の市民をよくわかってるのか、あっという間にイベントや外出自粛であるような当地ではヌルい措置から非常事態宣言で都市封鎖にもっていきました。ウイルスは世界中何処も同じなので、当地でも次の三つの対策が世界各国共通の感染拡大抑制の根幹です:①人の往来を制限する、②手洗いの徹底、③クラスター(感染者の集団)を避ける。耳にタコができるほどこの3点についてこのコラムの24人の読者様も聞かれていると思いますが、以外と「理由」がちゃんと理解されていないように感じますので、おさらいしてみましょう。

入国拒否や強制隔離、都市封鎖など新感染に対する措置が執られてます。これらの措置で共通するのが、「人と人の接触を途絶えさせる」方法で、社会活動を止める都市封鎖のはその最もたるやり方ですね。ウイルス性の感染症を克服するには一番確実なのが、ヒト(人間)全員がそのウイルスに対する抗体を持つことです。これにはやり方が二通りあります。一つが自然に感染して身体が抗体を産生する。もう一つがワクチンを接種し、抗体の産生を促すやり方ですね。コロナウィルスは哺乳類や鳥類に病気を引き起こすウイルスで、ヒトには感冒やSARS(註1)、MERS(註2)を起こしたりしますが、今回の騒ぎは名前のとおり、「新型」、新しく現れたタイプです。何を意味するかというと、「人類の誰もが免疫を持ってない」。なので、この感染症を克服するには免疫ができる事ですが、ワクチンはまだありません。自然感染すれば免疫ができるのですが、問題は感染した一部の患者は公衆衛生上無視できない位多く重篤化し、死亡する事です(註3)。人間、普通一定の程度で病気になり死亡しますが、これが今回の様に誰も免疫を持っていなく、簡単に感染が広がるとその重篤化する患者が一度に出ますので既存の医療システムが扱いきれなく医療崩壊といった状態がおこります(註4)。最終的には自然感染が広がり、ウイルスに対する抗体が一般化するのですが、ヒトの往来を制限する事で、この「自然感染をゆっくりおこさせる」のがこの手の政策の目的です。これにより、医療体制が重篤化する患者を救済できる余裕をもたす訳ですね。

  • 註1:SARS:Severe Acute Respiratory Syndrome、重症急性呼吸器症候群。
  • 註2:MERS:Middle East Respiratory Syndrome、中東呼吸器症候群。
  • 註3:地域により差があるが、80歳代以上が罹患した場合、5〜6人に1人が死亡する。
  • 註4:新感染症関連の患者が殺到し、既存の疾患も対応できなくなり、医療崩壊がおこる。

手洗いまたはアルコール消毒(ブラジルの場合はアルコールジェルが一般的)の理由は、ウイルスを手から洗浄する事にあるのは当たり前ですね。でも「こんな怖いウイルス」、石鹸で手洗いしただけで不活性化するのか?といった質問も診療所でありました。答えは「します」です。ウイルスはいわゆる「生物」ではなく(註5)、遺伝子情報の超微小な構造体です。簡単にいうと、カプシドと呼ばれるタンパク質の「殻」の中に遺伝子情報のウイルス核酸が入っているだけの構造です。この殻をエンベロープと呼ばれる「膜」を持つウイルスもあります(註6)。エンベロープは大部分が脂質でできているため、脂質を「溶かす」有機溶媒(エタノール=アルコール)や石けんで簡単に破壊できます。石けんは合成洗剤でも純石鹸でもどちらでも効果があります。

まだまだわからない事が多い新型コロナですが、感染は「飛沫感染」と「接触感染」が認められてます。前者は咳やくしゃみなどや会話の唾で口から細かい水滴(これが飛沫)が飛び散り、それを吸い込む事で感染します。後者は飛沫経由でどこかの表面に付着したウイルスを口、鼻、目の粘膜に接触させる事で感染する訳ですね。接触感染を避けるため、手に付着したウイルスを”死滅”させる行為が手洗いになります。クラスターと呼ばれる集団感染は飛沫ができやすい状況にヒトが沢山いるとおこります。つまり、「換気が悪い閉鎖された空間」の中に、「手が届く距離にヒトが沢山いて」、「会話は発声がある」のが感染しやすい状況といわれ、それを避ける訳です。

『人類の歴史は「なんでも特効薬を探す」歴史でもあるので、今回もいろいろ特効薬がないかと模索がおこってる。しかし、特効薬はないのだな。現時点では世界中で行われている今回のひとりごとの3点の措置しかないので、各自しっかり実行してこの危機を乗り越えたいものだと考えるが、都市封鎖が長く続くと精神状態が悪化するのでとても心配なのだ。』

  • 註5:自己繁殖できないので、非生物、非細胞性生物、生物学的存在などと呼ばれる。
  • 註6:インフルエンザウイルス、単純ヘルペスウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、コロナウィルスなど。

ブラジル・サンパウロでの新型コロナウィルス感染の情報はこちらで更新してます。


 

たかがマスク、されどマスク

By: Kazusei Akiyama, M.D.

Clerodendrum thomsoniae. Genpeikusagi in Japanese. ©Caju 2020


2020年3月

たかがマスク、されどマスク

このところ、新型コロナウィルス(註1)で大打撃を受けている世界です。このコラムの24人の読者様は周りのご親族を含め、大丈夫ですか?このウイルスによる肺炎など病状や予防方法などは2月の始めより大量に報道されてますのでそれらについてではなく、予防に良いの不要だの世間を騒がせている「マスク」についてひとりごとします。

マスクとは人体の顔を覆うモノの事です。日本語では鼻や口を衛生または防御目的で覆うものを指し、仮装や芸術、儀式などで使用されるモノは「仮面」と呼ばれますが西洋の言葉では(英語maskポル語máscara)区別はありません(註2)。ウイルス感染を防ぐ為に有効であるとかないとか議論にあがっているのが衛生マスクの一種、サージカルマスクです。元々医療用に使用されていたのですが、日本では花粉症が増えるにつれ粒子吸入予防用として流通するようになり、SARSや新型インフルエンザの流行時に圧倒的に普及しました。日本では元から社会人のマナーとして風邪など上部呼吸器の病気になっているときに「他人に移さないように」マスクを使用する文化があります。昔からある「ガーゼマスク」ですね。木綿など(註3)の布でできており、肌触りがよく、内側にガーゼを重ねて利用し、洗って再利用できるのが特徴です。この日本人の風邪の時のマスク使用は世界中の人達から称賛され、日本文化の紹介などでよく挙がります。他人を思う心ですね。咳やくしゃみでバイ菌が入った飛沫を防いだり、本人の粘膜の保湿をしたりするには適してますが、布の目が粗いので外部からの物質をブロックするには向いてません。そこで花粉やバイ菌などを吸入しない為に「細菌濾過効率、BFE Bacterial Filtration Efficiency)」が高いサージカルマスクが普及したのですね(註4)。この「手術用マスク」は元は使用している人が唾液などを患者側へ飛散させない目的で開発されているものです(註5)。サージカルマスクのBFEは95%以上となってますので、内から外へ出ないのであれば反対も然りであろうという理屈で異物ブロックに有効と思ってみんな使ってる訳です。そこで今回のようなSARS-CoV-2の感染拡大でみんなマスクに走り、サンパウロまで売り切れ状態が続いてますがアメリカの当局や偉いお医者様などが「防御効果無し!不要!」と言ってるのでどうしたものか?迷う人達が多いのではないかと思います。

  • 註1:新型コロナウィルスはWHOによる命名で「2019-nCOV」(2019年発生のNovel Corona Virus)でしたが、2月11日に国際学会(International Committee on Taxonomy of Viruses – ICTV)によりSARS-CoV-2(SARSに関連するウイルスタイプ2) と正式名称がつきました。このウイルスによる疾病が「COVID-19」(Corona Virus Disease、2019年からの)です。報道をみていると名称が混在してますし、ウイルスを指す場合どちらかというと後者の名称を使ってるようです(が厳密には間違いですね)。
  • 註2:どのように区別するかというと、説明をつけます:「カーニバル用マスク」「儀式用マスク」「手術用マスク」など。
  • 註3:麻布や竹布もバージョンもある。麻は通気性にすぐれている。竹は消臭性や抗菌性がある。
  • 註4:布の様に糸を織ったモノだと目が粗くなるので、不織布と呼ばれるシート状の布でできている。
  • 註5:手術用マスクはいわゆる花粉対策用のと構造や素材が同じでも、長期間使用できるように輪ゴムではなく紐で結ぶようになっている。実際使って見ると装着感が全然違う。

『結論からいうと、「使用するに値する」と考える。確かにサージカルマスクは「防塵マスク」(註6)と比べると吸入防止の機能は劣る。元々装着者を守るために作られたのではないから。どれだけ粒子をカットするかという除去率はマスクの不織布の成績だけを見ると95%以上99%とかいった数字がでるが、人間の顔は凹凸があるのでぴったりといかない。なので実質の除去率は20%以下だな。しかし、これはゼロより大きい。また、元々装着している人が他人に飛沫を飛散させないためのマスクなので、「自分が感染源になるのを防ぐ」目的で使用するのに感染症拡大の場合意義がある。また、喉や鼻の粘膜を加湿するのでウイルスが付着しにくくなる効果も期待できる。従って、現在の日本の様にウイルス感染の市中感染がおこっているときは、外出する全員がマスクをすると「マスクの効果」が現れることになる。』

ただし、漫然とマスクをしておれば大丈夫という事ではありません。良い例が横浜に係留しているクルーズ船で感染した検疫官です。船内で作業するのに手袋とマスクを着用していたそうですが、同じマスクを繰り返し使ってました。外部からの物質をブロックするためのマスクですから、外側の表面にはウイルスが付着しているわけです。適切な扱い方をしないとマスク自体が感染源になりかねません。正しいマスクの扱い方をおさらいしてみます。今回のSARS-CoV-2だけではなく、感染症対策のため(例えばインフルエンザの流行時)にマスクを使う場合、やり方は同じなので是非この機会に知らない方は習得をお願いします。外出毎(註7)に新しく取り替えるのが理想的です。

  • サージカルマスクには表裏上下がある。耳かけが接着してある部分が裏(顔側)。針金が入っている部分が上。
  • 装着
    • *先ず、針金の中心を90度くらいに曲げる。
    • *曲げた部分を鼻に当てる。
    • *鼻に当てた状態で耳かけを引っ張って装着する。
    • *針金部分が鼻と顔に沿って密着するように形成する。
    • *鼻の部分を持って、下側を顎の下に引っ張り込む。
    • *装着中はマスクの表面を触らないようにする。
  • 脱着
    • *耳かけを持ち、片耳を外し、そのまま耳かけを持ちながら反対側も外す。
    • *耳かけを持ったまま、マスク本体は触らずにゴミ箱にすてる。

『2020年3月3日現在、日本では「屋内の閉鎖的な空間で、人と人とが至近距離で、一定時間以上交わる状況・場所を避ける」事が要請されてます。その他、うるさくいわれている「手洗い」「うがい」が重要です。「家に帰ったらする」のではなく、外出先でも機会があればいくらでも手洗い(註8)とうがいをしましょう。』

熱や風邪の症状のある方は、仕事休んで外出を控え、自宅療養をお願いします(註9)。新型コロナウィルス感染のため受診する目安は次のとおり(2020-3-3現在):

  • すぐに受診
    • 強いだるさ
    • 息苦しさ
  • 2日程度続く:高齢者、持病のある人、妊婦が
    • 37.5度以上の発熱
    • せきなどの風邪症状
  • 4日以上続く:上記以外の人、子供含むが
    • 37.5度以上の発熱
    • せきなどの風邪症状

 

  • 註6:N95マスクと呼ばれるカップの様なマスク等。これは粒子状物質の吸入防止に作られたものなので、モノを吸い込むのを避けるに関してはこちらの方がすぐれている。
  • 註7:外出時、人混みにいるときのみ必要。人が居ない場所を移動する時は不要。
  • 註8:手洗いで留意しないといけないのが、洗いのあとの手拭き。ペーパータオルを使用しましょう。タオルなどは(特に外出先)はできれば使わないほうが良いです。
  • 註9:COVID-19でないのに下手に救急外来行って、そこで移される可能性がある。あるいは感染していても軽症な場合は治るので下手に救急外来へ行き、感染源になるのを避ける。

 

錯覚してますよね:新型タバコ編

By: Kazusei Akiyama, M.D.

Medetai. Year of Rat. Caju©2020


2020年02月

錯覚してますよね:新型タバコ編

このコラムの24人の読者様、どの様に初めての令和の新年を迎えられたのでしょうか(註1)?今月は「錯覚してますよね」シリーズの第5弾として最近ユーザーの増えている「新型タバコ」(電子タバコ、非燃焼・加熱式タバコ)に焦点を当ててみます。ユーザーが増えるとともに、最近話題に上がる事が多い新型タバコですが、まず定義から始めます。現在では「健康に悪い」と広く認知されているタバコ(註2)は大抵大量生産されている「紙巻きタバコ」(註3)の事を指します。また、消費の多い紙巻きタバコがタバコ製品では最も有害と推定されてます(註4)。この様な現状から特に先進国では紙巻きタバコの市場の減少が顕著であり(註5)、それにとって変わるビジネスを模索する動きが2000年代より見られてます。タバコ製品世界的大手のP社においては、「紙巻きタバコから撤退する(註6)」と逆手にとったPRまで打ち出してます(註7)。紙巻きタバコは健康に悪いんだ、ならばその代わりにReduced Risk Product(RRP、リスク低減製品)でニコチン依存ビジネスを継続すれば依存症になっているかわいそうな人達を救う事ができる!(註8)と閃いた訳ですね。

  • 註1:ある読者様に「新年号は明るく、めでたい話にしろ」と要望があったのですが、どうしてもネタが思いつかないので悩んでるうちに締め切りになってしまい新年号は休稿してしまいました…
  • 註2:健康に悪いという認知も広く浸透したのは結構最近だと思う。1980年代には健康被害に対する否定的な論調がかなり強かった。現在では避ける事のできる死因の3位とされる。
  • 註3:刻んだタバコ葉を紙で巻いてある、使い捨てのタバコ製品。
  • 註4:匂いや燃焼速度を調整するために「紙」が加工されている、香りを良くするための香料や依存性を高めるためや、煙を見えにくくするためや、刺激を低減するため等、いろんな添加物が加えられそれらが燃焼するため、単にタバコ葉の燃焼以上に健康被害がでると考えられる。
  • 註5:先進国ではないが、ブラジルは喫煙規制が大変上手くいった例であり、規制開始25年で喫煙率が男性が29%から12%、女性が19%から8%に低減した。
  • 註6:We’re Trying to Give Up Cigarettes(我々は紙巻きタバコを諦めようとしている)
  • 註7:前回ひとりごとした「広告は本当ではない」の例ではないか?紙巻きタバコを止めると言ってるけど、ニコチン供給デバイスビジネスを止めるとは言ってないからウソでは無いけど…
  • 註8:”Quitting smoking – or never starting – is always best. For those who would not otherwise stop, there are better alternatives than continuing to smoke.” (喫煙を止めるーまたは始めないーのが一番良い事です。しかしそれができない人達には喫煙を続けるより良い他の方法があります。筆者訳)といった部分も広告に見当たります。そんなに悪いモノだったら初めから売るなよ!

こんな世の中なので先進諸国で二種類のRRPが開発されました。その1:電子タバコ。英語ではelectonic cigarette (e-cigarette)、ポル語ではcigarro eletrônico (保健当局の正式名称はdispositivo eletrônico para fumar喫煙用電子装置)。その2:加熱式タバコ。または非燃焼タバコ。英語では、heated tobacco products, heat-not burn-tobacco ポル語では tabaco aquecido。この二種類を新型タバコと呼びますが、その使用方法や作用機序が異なります。

電子タバコはニコチンを含む液体(註9)を本体にセットし、液体を電熱で気化させ、蒸気を吸入します。マイクロプロセッサで電熱を制御するため、「電子」の名称が付きます。蒸気vaporからくるvapeヴェイプと呼ばれます。また、派生で動詞がvapingヴェイピングになります。加熱式タバコはタバコ葉を加熱し、ニコチンを含むエアゾル(分散粒子)(註10)を生成しそれを吸入します。普通のタバコのように燃焼しないので、煙が出なく、ニコチン含有の空気を吸ってる感じになります。メーカーは蒸気と言ってますね。

  • 註9:ニコチン以外には大麻の有効成分の一つであるTHCやメントール、果物の香料などが多い。
  • 註10:エアロゾルを簡単に言うと、気体あるいは固体の「空気中に漂う粒子状物質」。「霧」は気体のエアロゾル、「煙」は固体のエアロゾル。

 

『要するにどちらも「電熱式蒸気タバコ」だな。違いは「電子」が液体、「加熱」がタバコ葉を「熱して」いるところという事か。』

この新型タバコを喜んで使っている方達が挙げるメリットを次に示します:

  • 嗅覚や味覚を低減させない。
  • 口臭がタバコ臭くならない。
  • 歯の黒ずみがない。
  • 吸った場所がタバコ臭くならない。
  • 息切れがない。
  • タバコが原因の咳がない。
  • 火災の危険がない。
  • 吸い殻で環境汚染しない。
  • 受動喫煙がない。
  • タバコ喫煙と関連される疾患(肺炎、癌、心筋梗塞、慢性気管支炎、肺気腫、脳血管発作、血栓症、胃潰瘍、インポテンツ、その他)にならない。
  • 紙巻きタバコより安価(電子タバコの場合)。

 

『なんか良い事だらけの新型タバコ、に感じますよね。ネットを覧てると、”メリットしかない電子タバコの爆誕!”のような記事まであるな。煙出ないし、匂いしないので、堂々と喫煙できるぞ〜みたいな… それで、実際室内喫煙する、あ、じゃない蒸気吸入か、人が増えているらしい。”受動喫煙がない”という理由で。受動喫煙がないという考え方や広告はウソでしょ。煙が見えないだけで、大量にエアロゾルを排出しているのは既に証明されてるぞ。世界保健機関WHOは「受動喫煙者の健康を脅かす可能性があると考えることが合理的である」 との見解です。』

上記メリットは有害と広く認知されている喫煙をしたい人達が「そうであって欲しい」といった希望だと思います。事実タールは出ないので、臭いとか歯が黒ずむとかは削減しますが、疾患にならない?(なります(註11)、火災がない?(リチウムバッテリは火災になりますけど)、環境汚染しない?(吸い殻は無くてもカセットがでるでしょう)とクエスチョンマークがいっぱいの新型タバコです。メーカー自体、「有害性物質が少ない」といっているだけで、「リスクが低減された製品である」とは言ってないのです。「あくまで、健康懸念物質が低減されている…」と言った内容の説明です。Stephensが行った研究では(註12)有害性物質の低減が認められてますが、健康被害の低減につながる曝露量なのか科学的根拠はありません。また、ニッケルやクロムなど重金属濃度が紙巻きタバコより高い事が判明してます(電子タバコのデバイスが金属で構成されているから?)。医学界は新型タバコの使用は従来の喫煙と同じような危険性があり、推奨できないものとしてます(註13)。

『健康によさそうだと思って、新型タバコに替えたそこの貴方!従来のタバコと同じくらいニコチン出るようにできているので、満足感ありますよね。でもそれって、ブラジルで言う「6を半ダースと交換する」事になってませんか?特に日本では加熱式タバコが流行っているようですが、日本の規制は甘いですよ。公衆衛生に関する予防原則では「安全性が確認されるまで販売を認めない」のだが、日本のやり方を覧ていると「健康被害が確認されるまでは販売してもよい」だな(註14)。そして、今までの歴史からみると、「タバコ会社が真実を発信する」ということは信じられますか?』


 

広告とは半信半疑で接しましょう。

By: Kazusei Akiyama, M.D.

Like a metal zipper. Osaka. Caju©2019


2019年12月

広告とは半信半疑で接しましょう。

このコラムの24人の読者様はフェルナンド・デ・ノロンニャ諸島(Arquipélago de Fernando de Noronha)はご存じですか?ブラジル東北地方のナタル市より360km東北東の大西洋沖合にある火山島郡です。世界で最も美しいとされるビーチ(Praia do Sancho)があったり、波が穏やかな時期はダイビング、反対の時期はサーフィンに適しており、2001年に世界遺産登録された、大変美しい島々です。観光するには入島税があり、少しハードルが高い観光地です。何故ノロンニャの話をしているかというと、自動車メーカーのR社がこの島の環境保護に参加しているとの広告を見たからです。「ノロンニャは世界でも類を見ない自然の聖域。何世代にもわたって保存するに値する所。環境保護は専門家だけではなく、我々も同調する義務がある。そのためR社はカーボン・ゼロ・プログラムに参加し、電気自動車を島に導入した。島で汚染物質がゼロになるために。云々…」といった内容の企業広告です。金をかけた画像にホロッとくるナレーションと楽曲、なんと素晴らしい企業の取り組み!と思いますよね。

『確かに、電気自動車は走行中に排気ガスを排出しない(註1)ので、CO₂排出がゼロであることは正しい。バッテリーに蓄えた電気でモーターを動かしているからだな。R社が設置した「充電スタンド」でバッテリーを充電するわけだ。しかし注意してみると、実はノロンニャで供給される電気の殆ど(92%)がディーゼル油を燃やした火力発電由来なのだな(註2)。従って、ノロンニャで電気自動車を走らせると動力源の電気を作るのに化石燃料が必要になるので結局CO₂排出ゼロでは無い。なので、「島で電気自動車を走らせると汚染物質がゼロになる」のははっきり言って「ウソ」です。元々CO₂排出ゼロ由来の電力供給が殆どの場所(例:水力発電=ノルウェー)や(例:原子力発電=フランス)で内燃式エンジンの車をやめ、電気モーターにすると確かにCO₂排出が激減する。しかし、石炭、石油、天然ガスなど化石燃料で発電している場所ではCO₂削減効果が期待できない(註3)。要するに、世の中エコロジーを謳うと先進的とか社会に貢献しているとかの流れになるからこの様なデタラメな広告を打つのだな。』

  • 註1:電気自動車を製造するにはCO₂排出がある。
  • 註2:一ヶ月約45万リットル使用。残り8%程度は太陽光発電。
  • 註3:日本では政府はガソリン車に代わりに全部電気自動車にすると約半分削減できると宣伝してるが、80%以上化石燃料、特に石炭を使用する発電方法のため、結局トントン、効果ゼロといった試算も存在する。

広告とは「商品・サービス・意見などの情報伝播活動」と定義されます。いろんな分類方法がありますが、商品やサービスなどの販促のための「商品広告」、企業や団体のイメージアップを図る「企業広告」、商業目的でなく個人や法人が政治問題や社会問題について主張する「意見広告」、健康や安全など社会啓発を目的とした「公共広告」に大別できると考えます。広告の根底にあるのは、各種広告の広告主の商品の販売促進や考え方に対する好意を獲得する目的ですね。消費者にとって魅力的に見せたり(商品・サービス、またはそれを提供する事業者)、発信者の意見が正当である事をアピールするため、ウソまでいかなくても「誇大広告」に至りやすいと思います。また、フェイクニュースのように始めから騙す意図の広告が多いのも最近の特徴ですが、これは今回取り上げません。

『ウソ(嘘)は真実に反する事柄の表明だな。ヨーロッパの古典的定義では「欺こうとする意図をもって行われる虚偽の陳述」(註4)で、一般的に悪い事とされるが、日本で存在する「嘘も方便」といった使い方もある。まあでも判断を誤らせる嘘は良くない。広告になると、フェイクニュースのようなもので無い限り、そこまでおおっぴらに嘘はつかない。しかし、本当でない事が結構ある。例えば、赤い色のモノを「青色です」とはやらないが、「青色ではないです」とやるわけだな。赤は青ではないので、嘘ではないが、赤ですと正確な事をいってるわけでもない。世の中を見回すと意外とこの手の広告が多いのだ。』

  • 註4:4世紀の思想者アウグスティヌスの定義。

医者として注意してもらいたいのが、健康に影響を及ぼすモノやコトを扱った広告です。最近なんと無責任な広告だと憤慨したのが当地で展開しているチョコレート店C社の”feliz hoje”「今日幸福」キャンペーンです。家族の絆や成功した喜びなど、色々幸福の元を提言するのですが、要するに「チョコ食べると多幸感が得られる、今すぐ(毎日)食べよう」といってる広告です。そんな食生活してると糖尿病になりますよ。また、子供に毎日チョコ食べるような食育してると大人になった時ろくな事になりませんね。食品に関する「嘘では無いけど広告」の代表的なのが、シリアルなどで「ビタミンや栄養素が強化のため添加されてます!」というタイプです。強化添加されてると、なんかされてないモノより良さそうに見えますよね。で、実際添加されてるので、嘘ではないのですが、実はシリアルを製造する加工によって「元々原料にあったビタミンや栄養素」が失われてしまうので、後から添加するのです。誇大広告に至りやすいのが最近流行の「特定保健用食品(特保)(註5)」や「機能性表示食品(註6)」などです(註7)。こう言った食品は健康に敏感な人が関心を示すので、その心を刺激する様な広告になりやすいのだと考えます。ネットで「特保 誇大広告」で検索してみると実物例などが記載されていて勉強になります。

『食品や健康食品の広告には「トク(ホ)に注意が必要」です!(笑え、シャレです)』

『食品や健康食品の広告は内容を鵜呑みにしないようにお願いしたいですね。』

  • 註5:生理学的機能などに影響をあたえる成分を含む食品。
  • 註6:特保と同じく保健機能成分を含むが、消費者庁の許可ではなく単なる届出がされたもの。
  • 註7:特保について詳しくはこちら厚生労働省の情報をご覧ください:https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/food/e-01-001.html

 

見えるって、大事なんですね。

By: Kazusei Akiyama, M.D.

Ajisai. Osaka. Caju©2019


2019年11月

見えるって、大事なんですね。

最近米国のサンフランシスコ・エグザミナー紙に載った記事によると、米国下院議長のナンシー・ペロシ氏がスタンフォード大学病院を相手取り裁判所に訴えを提起しました。争いの理由は「この病院で夫が出術を受けた後、完全にセックスに関心を無くした」です。これを受け、病院側の広報のコメントは「彼女の夫は白内障手術のため入院しました。当院でした事は彼の視力を直す事だけでした。」

このコラムの24人の読者様も既にお気づきを思いますが、これはフェイクニュースですね。当地ブラジルにも流通する、「失明(または視力が低下)していた人が視力を回復したら配偶者に対する性欲が消滅した」という内容のジョークを元にしたモノでしょうね。当地のSMSのグループで拡散してました。現在ペロシ議長は政敵であるトランプ大統領の弾劾手続きを進めているので、政権側から出た誹謗中傷であろうと察します。要するに「貴女は醜い」といってる訳ですが、それの真偽はともかく「失明」に今月は焦点をあててみます。

先天性の盲目は「先天盲」と呼ばれ、「失明」は通常後天性の「中途失明」の意味で用いられます。言葉のとおり、元々有った視力を失う事で、外傷などの急性失明を除き、次の三つの原因がほとんど(65%)です:白内障、緑内障、加齢黄斑変性(AMD, Age-related Macular Degeneration)。人種的な要因のため割合は国々で異なりますが、一位は日本では緑内障、欧米ではAMD、世界では白内障です。図はヒトの眼球を表します。緑内障は視神経、AMDは網膜、白内障は水晶体と病変する部位が異なります。

白内障では水晶体が濁り、光を通さなくなる病気です。いわゆる黒目の中が白濁するのでこの名称になっています。日本語での他の呼び方は「しろそこひ」があります。単一の疾患ではなく、分類がありますが原因として多いのが加齢によるもので、皮質(水晶体が入ってる膜)の混濁や核(レンズとしての水晶体)の硬化がおこり、80歳代では大部分の人に白内障が認められます。加齢以外の原因は外傷、アトピー、薬剤(特にステロイド剤)、放射線(特に紫外線)、目の炎症などが挙げられます。治療は濁った水晶体を手術で取り除き、眼内レンズを挿入する方法が確定してます。加齢は仕方ないにしても、普通にできる予防が紫外線をカットする事だと考えます。野外に出るときには紫外線をカットするメガネを使うのが効果的です。この場合、ポイントはしっかりカットするレンズが重要で、色が着いているサングラスである必要はありません(註1)。

  • 註1:濃い色のサングラスは特に注意が必要。色が濃いと暗くなるので瞳孔が開き、かえって多くの紫外線を目に取り込んでしまう。従って、色付きサングラスほど紫外線カットが重要で、安価なサングラスは絶対に薦められない。特に子供用のおもちゃサングラスが要注意。

緑内障(註2)は日本人の20人に1人の割合の有病率ですが、実際に診断がついているのはその一割程度とされてます。この疾患では視神経が障害され、視野と視力が低下します。典型的な原因は眼圧の上昇により、眼球の”出口”にある視神経に圧力がかかり、神経が障害されます。しかし、アジア系人種では「正常眼圧緑内障」が多くみられ、日本人の場合過半数に達しますます。症状は視野が悪くなる、狭くなるです。加齢、近視、外傷、糖尿病などが原因とされます。視神経が冒されますので、一度失った視野は元に戻りませんので、発病させない、進行させないが大事ですが、初期ではほとんど自覚症状がないので症状が出たときはかなり悪くなっている事が多い疾患です。治療は正常眼圧緑内障も含め、眼圧を下げる薬物療法(点眼薬)が主に行われます(註3)。場合により、レーザー療法や手術する方法が使われます。緑内障は急性発作を起こす場合も有りますが、これは劇的な症状(眼痛、頭痛)が出ますので救急行きになり、診断がつきます(註4)。

  • 註2:緑内障のため失明すると、眼球が緑色になるためこの名称がある。日本名「あおそひこ」。
  • 註3:正常眼圧タイプでも眼圧を下げると緑内障の進行を遅らせられる事が判明しているため。
  • 註4:頭痛の鑑別診断の一つです。2016年3月のひとりごとをご覧ください。

加齢黄斑変性は名前のとおり、加齢に伴い網膜の黄斑部が変性をおこす疾患です。変視症を呼ばれる症状(モノが歪んで見える)のため受診し、発見される事が多くあります。典型的なパターンは発生要因のため網膜に脆弱な新生血管(註5)が生じ、出血などを起こし黄斑部の機能障害に至るものです。また新生血管が認められない非滲出型と呼ばれるタイプもあり、これには治療方法がありません。滲出型は薬物や光線、レーザーなどを用いて新生血管を阻害、退縮、凝固、抜去します。発生要因は加齢以外には喫煙、高血圧、酸化ストレス、紫外線、遺伝子などがあげられてます。

  • 註5:正式名称:脈絡膜新生血管。

『結局、「加齢」がこの失明三大原因に共通するものなのだな。いずれも徐々に進行し、自覚症状が現れたときには病気が大分進んでいる。予防が大切であるのは疑いようがない。40歳を過ぎると、眼科で定期検診する事!早期発見、早期治療が失明に至らない方法ですな。』

『また、「紫外線」が白内障とAMDに関係がある。ブラジルのように日差しが強い所で生活していると、紫外線対策は大変重要と考える。外出するときはしっかり紫外線カット(UVカット)できるメガネを使用しましょう!』


 

伝統って、それなりに意味があるから残ってるのだ。

By: Kazusei Akiyama, M.D.

Angels. Hann. Münden. ©Caju 2019


2019年10月

伝統って、それなりに意味があるから残ってるのだ。

このコラムの24人の読者様、ご無沙汰してます。8月は私用のため、9月は学会のため2ヶ月も休稿してしまいました。すみません。筆者は「国際日本漢方医学学会(註1)」の正会員なので、2年に1回ある総会+シンポジウムに出席したのですが、そこで派生として考えた事をひとりごとします。今回の学会のテーマはConnecting Tradition, Scientific Evaluation and Individual Patient Careでした。近年WHO(世界保健機関)はいわゆる西洋医学でない医療行為を日常的な医療行為に採り入れる事を推奨してます。その政策の内、特に重点をおいているのが「伝統医学」です。日本の場合、漢方医学がその伝統医学にあたります。昨今、西洋医学のみの医療では治療の効果の限界が見えてきている事や、その弊害や高額なコストなどの問題のため、WHOとしては元々各地域で生まれた医療行為を評価するのが重要と位置づけるに至ってます(註2)。伝統医学が元の地域で西洋医学ベースの医療システムに統合されているかどうかは別として、その地域の文化と関係ありますので価値観や言語の齟齬はありません。しかし、元の地域以外で展開するとなると色んな問題が出てきます。今回筆者が学会へ持っていった話は、異文化にて他の地域の伝統医学を展開する場合の用語の翻訳に関する困難や注意点でした。

間違った訳で、ある知識を広めてしまうと、意味不明になったり、その用語の概念が間違っていたりし、理解するのが困難になることが多々あります。東洋医学で例を挙げると、一番目立つのが鍼灸の「経穴」の誤訳です。要するに「ツボ」ですね。これを西洋ではacupuncture point、「刺入の点」と訳されてますので、鍼灸を習得する時に障害になります。経穴を決める時には元の言葉のとおり、ツボ、つまり穴、凹みを触診で探ります。この行為が重要なのですが、「点」にしてしまうと、ツボの概念が皮膚の表面的になってしまい、見つけるのに支障がでます。困難な例を挙げると、日本語をローマ字表記する場合アメリカ英語が元になっているヘボン式を採用しますので、アメリカ人が読むと元の日本語の音になりますが、発音が違うラテン系言語で発音すると全く違った音になってしまう事があります。「漢方(かんぽう)」のkampoが「かんぽ」に、「証(しょう)」がsho「しょ」なってしまうのも学習する上での困難例でしょう。灸に使う「艾(もぐさ)」に至っては全然判りません。これもアメリカ人が聞いた音をmoxaとローマ字化したのですが、ポルトガル語読みにすると「もっしゃ」になってしまいます。西洋で広く使用される同じローマ字でも言語によっては発音が違う問題ですね。

伝統的な知識を国外に持っていく場合の問題と反対に、元々あった伝統を後発の文化や知識が蹂躙する問題もあります。正に漢方医学がその例で、江戸時代までは正規の医療を担っていたのが明治の文明開化で禁止されてしまいました(註3)。近代化する日本の現状に合わない(軍隊などで、大量に医療行為を実施するには西洋医学の方が向いていた)事もあったと勘案しますが、それ以上に日本固有の習俗を「旧習」や「悪弊」などと位置づけた明治政府の日本の西洋化にのまれてしまったのです。脱亜入欧がこの時に始まった訳ですが、東洋発祥の漢方医学は特に否定されたのです。このタイプの問題で最近考えさせられたのが、今月日本で行われる新天皇即位に関する「大嘗祭」、新天皇が行う一世一代の儀式です。この儀式で「麁服(あらたえ)」と呼ばれる斎服が使用されます。これは麻、つまり大麻が原料の繊維で作られます。そう、1948年に進駐軍主導で導入された大麻取締法で規制されている「悪名」高い大麻です。この法律は脱亜入欧というより、敗戦国だったのでアメリカの言う事を聞いたといえるのでしょう。元々麻は日本の文化に古くから存在し、生活に役立っていました。その主たる証拠が麁服であることは疑いがありません(註4)。神事なので当局からは「ダメ」とは言ってないようですが、日本人にとって大麻は大昔から身近にあるもので(註5)なんら問題のあるモノでは無かったのです。

『伝統は意味があるから残ったり、世代を通じて洗練されたりした先人の知恵であると思う。進化しているからと、新しいモノが常に良いものとは限らない。欧米のモノの方が良いとは限らない。伝統は欲しくて入手できるものではないし、造ったらできるものでもない。日本には昔からの良いモノがいっぱいあるので簡単に遺棄しないで欲しいぞ。』

大麻に関しては2014年2月に「合法化の方向なのだろう、やはり。」という題名でひとりごとしてますので、あわせてご覧ください。


  • 註1:International Society for Japanese Kampo Medicine、本部ロンドン。
  • 註2:最近のWHOが使用している名称が「Traditional & Complementary Medicine」です。Traditional Medicine伝統医学が外国で使用されるとComplementary Medicine補完医学として統合される、と言う意味ですね。
  • 註3:1875年に医師開業試験科目として漢方医学は除外された。
  • 註4:衣類の他に、食用(油、薬味など)、薬用(麻子仁、明治時代の喘息の薬など)、神事(しめ縄、おおぬさなど)、漁具(舫い、網など)、生活用品(紙など)があげられる。また、日本特有の意匠として「麻の葉模様」がある。
  • 註5:簡単に発育し、成長の早い一年草であるため、農家の重要な収入源であった。

学会発表ポスター(2019):「異文化で使用する用語の課題:漢方医学用語のブラジルポルトガル語名称」Challenges of Intercultural Terminology: Brazilian Portuguese Denominations for Kampo Medicine Nomenclatures.

By: NewsroomCKA

院長が2019年9月6〜7日にドイツで行われた5th International Symposium for Japanese Kampo MedicineのポスターセッションIで発表したポスターとその抄録(学会誌のページ38に記載)。


Challenges of Intercultural Terminology: Brazilian Portuguese Denominations for Kampo Medicine Nomenclatures 

Kazusei Akiyama

Consultório Kazusei Akiyama, São Paulo, Brazil

The dissemination of knowledge as well as the education is the first step towards the introduction and development of a traditional medicinal method outside its place of origin. Such a traditional medicine is strongly linked to the culture and customs of the site where it was born. Thus, the great challenge at this step is the translation and interpretation into the language of the target country if we want to introduce such a different medicine. If not enough care is taken in this stage, we will be subject to confusion not only about the denomination but also of the concept. The worst example in Oriental Medicine is the word “acupuncture point”. In the original language, it is called keiketsu ( ), which means “hole”. When translated as “point”, a different notion was given.

The author had the opportunity to do the medical review of the first publication on Kampo Medicine in Portuguese, a translation of Watanabe Kenji’s book, “Clinical Pearls for Kampo Medicine”. The most challenging part was the definition of the names in Portuguese for the nomenclatures used in Kampo Medicine. The table shows a few examples for Kampo transcription into Brazilian Portuguese language. Please note that no specific wording exists before and that the meaning can sometimes only be described.

Short table here.

Complete translation list is available on kampo.med.br.


差別はいけません。

By: Kazusei Akiyama, M.D.

Wood and cotton. ©Caju 2019.


2019年7月

差別はいけません。

先月市内で「第23回サンパウロLGBTプライドパレード」(註0)が行われました。パウリスタ通りから出発したパレードは例年どおり三百万人規模の人出だったそうです。いわゆるゲイパレードは日本を含め世界各国でおこなわれてますが、サンパウロ市のは世界最大級です。サンパウロ市の行政も街に二番目にお金をおとしてくれるイベント(註1)なので、LGBT大歓迎!パウリスタ通りの歩行者信号をホモカップルの図に変更する気合いの入れようです(写真)。

  • 註0:ポル語では 23ª Parada do Orgulho LGBT de São Paulo
  • 註1:一番お金をおとしてくれるイベントはF1グランプリです。

『こんな事に金をかけているより、「雨で故障する信号機を直したり、他に優先事項あるだろう」といった意見が多々出てましたな。』

LGBTとは「性的少数者」を総称する言葉で、1980年代より欧米で使われはじめ、四半世紀たった今すっかり定着してます。最近は色んな少数者が挙手し、LGBTQIAというのが正しいそうです。簡単に性別の問題ではなく、「セクシュアリティsexuality」という概念で定義されてます。これは「1:身体の性別」+「2:心の性別」+「3:性的指向(註2)」の三項目で構成され、1が持って生まれた遺伝子情報の性別、XかY;2が自分の性別をどう自認しているか;3が誰に対し恋愛感情を抱くか、の組み合わせになります。このコラムの24人の読者様はなんの頭文字かご存じと思いますが、確認してみると:

  • L: lesbian レスビアン 1と2と3が女性
  • G: gay ゲイ 1と2と3が男性
  • B: bisexual バイセクシュアル 1と2は問わず、3が両性
  • T: transgender トランスジェンダー 1と2が一致しない人(註3)
  • Q: questioning クエスチョニング 2と3を迷ってる人(註4)または queer クィア 2を定める事に違和感を感じる人
  • I: intersex インターセックス 1に「性分化疾患」がある人(註5)
  • A: asexual アセクシュアル 3が無い人(註6)

『因みに、1と2が一致し、3が異性の場合がStraightストレート(ポル語ではheterossexualまたはhetero)と呼ばれてます。一番多いヤツですな。』

  • 註2:発音は同じですが、「性的嗜好」ではないので、間違いがないように。
  • 註3:性適合手術の対象になるグループ。全員手術する訳ではない。しないで衣装を変えてる場合は「異性装者」という。
  • 註4:まあこれだけあると迷いますよね。
  • 註5:これは疾患なので、ちょっと性的指向とかとは違うのでは。
  • 註6:恋愛感情はともかく、性的欲求がない人。

LGBT運動が欧米で始まったのは、その社会では同性愛行為は犯罪または病気と位置づけられ、社会的な制裁の対象となっていたからであると考えられます(註7)。要するに「人権」に関する問題ですね。実際、1990年までWHO国際保健機関編集の「国際疾病分類」に記載されてました。最近ではすっかり市民権を得て、反対に逆差別がおこってます。少しでも異を唱えようものなら性的少数者に対する差別、古い価値観に縛られた権威主義者などとバッシングを受ける確立が多大であり、ストレートは肩身が狭いのではないでしょうか?医師の観点からいくと、社会的ストレスの要因であると思います(註8)(註9)。

  • 註7:日本の文化では「衆道」と呼ばれる男性同性愛者が確立していた事実からも、特にそのため迫害を受けるような社会ではなかったようです。
  • 註8:バッシングの恐怖もありますし、他人の指向・嗜好を強制嚥下させられるのもストレスですね。例えば、他人に迷惑かけてなかったら、ベジタリアンでもかまわないのですが、ベジタリアン思想を強制するのは虐待ですよね。
  • 註9:アントニオ・グラムシが唱えた文化破壊を目標とする「文化共産主義」、家族主義の破壊の推進に利用されてますよ。

『人権とは、人間として生きる上での基本的な権利ですな。人権を守ることは、尊厳や平等、そして自由を守っていくことで、「自分という存在が平等に扱われ、そして自分のことを自分で考えて自分で決めていくことができる」状態を守る事であろう。これは人類がお互いにすべき事であり、対面通行の道である。「権利」は「義務」と両立するものであり、権利を主張する場合、自動的に義務が生じる。なので、差別をされたくないと権利を叫ぶのであれば、差別しない義務もあるのだな。これだけ色々分類するのも一種の差別ではないかなあ。』

診療所では診察時にセクシュアリティについて問診します。これは各グループ特有の疾病が関係してくるからで、別に差別している訳ではありません。筆者は誰でも「人間として」尊重するのが正しいのではないかと考えてます。どちらにしてもややこしい世の中になってきてます。ブラジルの著名なコラムニストのLuis Fernando Verissimoが書いた母と息子の会話で新社会を理解してみます。

  • 「母さん、結婚相手が決まったよ。」
  • 「それは良かったね。相手のお嬢さんは誰?」
  • 「お嬢さんじゃないの、太郎だよ。」
  • 「へ、太郎?太郎って男性じゃないの?」
  • 「そう、太郎。お母さんどうかしたの?」
  • 「いやあ、別に。ちょっと心臓が止まっただけ。」
  • 「なんか文句あるんだったら今すぐ言ってほしいけど。」
  • 「文句?文句ないよ。ただ、いつかはウチにお嫁さんが来ると思ってたの。」
  • 「お嫁さんくるじゃない?男性みたいけど。」
  • 「じゃあお婿さんかなあ?で、いつ太郎さんを家に連れてくるの?」
  • 「いつか決めないといけないの?」
  • 「一応お父さんに事前に知らせておいたほうがいいと思うからね。」
  • 「父さん嫌がると思うの?」
  • 「愛する息子が生涯のパートナーを見つけた喜ばしい事だから嫌がる訳ないでしょ。聞いたら満足してあの世に行くと思うよ。」
  • 「母さん、なに言ってるの。今日日こんなの普通だよ。僕の友達は皆ほとんどゲイだよ。」
  • 「そお?ゲイでないのは残ってないの?あんたの妹に紹介してもらいたいからねえ。」
  • 「妹はお付き合いしてるから紹介いらないよ。」
  • 「え?付き合ってるの?誰と?」
  • 「花子っていう子だよ。」
  • 「ええ?妹は女性と付き合ってるの?」
  • 「母さんどうしたの?どうしてそんな悲しいの?」
  • 「だって…いつかは孫の顔が見られると楽しみにしてたもの。」
  • 「大丈夫。孫の顔みられるよ。僕と太郎は子供二人ほしいの。二人で精子提供してね、太郎の元カノが卵子提供してくれるって。」
  • 「え?元カノ?太郎さんて元カノいるの?」
  • 「うん、彼がストレートだった時の。花子っていうの。」
  • 「花子?」
  • 「うん、妹の相手の花子だよ。」
  • 「ちょっと待って。あんたの今の彼氏の元カノが妹の今の彼女なの?」
  • 「そうそう。花子が卵子くれて、僕たちは子宮借りるの。」
  • 「ああ、代理母の子宮ね。誰から借りるの?」
  • 「妹からだよ。」
  • 「え?妹があんたと太郎の子供を作るのね?あんたの精子と妹の彼女の卵子使って。」
  • 「そのとおりだよ。」
  • 「と言うことは、できた子供はあんたと太郎さんと妹と花子さんと四人の子供に当たる訳ね。」
  • 「そうかなあ。」
  • 「この子供はママが二人、あんたと太郎さん、パパが二人、妹と花子さんできるのね。」
  • 「そうだね。」
  • 「と同時に、あんたの妹は出産母以外に叔母でもあるんだ。ああ、この場合は叔父か。」
  • 「そうそう。それでね、次の年には二人目を作るの。今度は太郎の精子の番だよ。卵子は妹の。で花子の子宮を借りるの。まあ、取り替えっこだね。」
  • 「ああ、取り替えっこね。二人目は花子さんが出産するのね。」
  • 「そのとおり!よく判ってるじゃない。」
  • 「うん、判った。まあ、一種の乱交と言う事だね。それも近親相姦も交えて。」
  • 「そんな事ないよ。妹と花子は僕たちの子供を作るのに協力してくれるだけだよ。」
  • 「ふーん。で彼女たちが子供欲しかったどうするの?」
  • 「その時は僕たちが協力するの。」
  • 「ええ、なんか訳判からなくなってきた。一体誰が父親で、母親で、子供は誰の子で… ああ、判った!」
  • 「何が?」
  • 「今後家系図書けないって。」