ブラジル医療事情:診察の受け方

Bolinhas. São Paulo. Caju©2004

By: Kazusei Akiyama、MD

ブラジルの医療事情(4) − 診察の受け方 {2024年11月改稿}

このシリーズの一回目で記載したように、ブラジルの医療システムは日本と違う点がかなりあります。今回は実際の診察の受け方について解説しましょう。ポイントは4つ。まず一般的に予約制であること、次に自由診療と保険診療が混在すること、診察時間や再診の仕方が異なること、そして支払い方法が異なることです。では腹痛で受診するといった例で診察の流れを解説します。

最初に診察の予約を取ります。一般的には電話またはSMSを使用します。日本語可の診察機関もあれば不可の場合も有りますが、専門性が高い医療機関ほど不可の傾向が強いようです。また、専門性の高い診察ほど、会話の内容も高度になりますので、通訳の手配が必要になる場合が多いです。

予約で尋ねられるのは、氏名、年齢、紹介元、連絡先、などの他、自由診療(パルチクラール particular、直訳すると私費診療、自費診療)か保険診療(コンベニオ convenio 、直訳すると提携診療)かを尋ねられます。医療報酬の請求の仕方が異なり、自由診療では医療費を患者さんに請求し、提携診療では直接保険会社に請求するためです。したがって提携診療はゼロ割負担になります。しかし、提携診療の方が医療報酬が圧倒的に少ないため、時間や曜日の制限が見られます(早い話、診察が短いわけです)。この傾向はブラジル国内で加入した医療保険では普通ですが、海外で加入した傷害保険などではその限りではありません。そのため、診察は自由診療で受診し、可能であれば後で保険会社から医療費の払い戻しを受けるのが賢いブラジル人の診察の受け方です。

予約の時に診察理由を聞かれることがありますが、聞いている相手は大抵事務方であり専門家ではありませんので、ここでは「昨日からお腹が痛い」ぐらいの簡単な症状を伝える程度で十分です。

次に予約した日時に医療機関に出向きます。この時、以前受けた検査結果などを持参すると、診察の参考になります。ブラジルでは検査結果は患者さんの所有物であり、本人が管理するものと考えられていますので、ちゃんと保管しておきましょう。初診ですと、カルテの作成があります。提携診療の場合、この場面で提携保険のカードを提出します。日本のように診察券は一般的ではありません。

診察時間は自由診療の場合、最低30分はかかります。じっくり話を聞いた上で、身体検査をし、必要があれば血液や大便検査、エコーやCT等画像検査、内視鏡などの検査指示がでます。ほとんどの場合、検査は別途検査機関に出向くことになります。検査費が医師の儲けになるわけではないのが日本と異なるところです。提携診療の場合、保険内容と検査内容により、保険会社の許可が必要であったり、利用可能な検査機関の制限があったりします。

診察時に、再診の有無、回数、検査結果の受け取り方法(自分が受け取って次回再診の時に持参するのか、直接医師に送られてくるのかなど)、医療費用や診断書の作成なども医師と直接相談します。一回の診察で済み、かつ、海外傷害保険などで後日払い戻し制度を利用する場合、ここで保険請求用診断書の作成も依頼します。

日本ではほとんどが保険診療なため、3割とか1割の自己負担分を(場合によっては薬代と検査代も含め)診察機関に支払いますが、ブラジルでは、診察機関、薬局、検査機関などの支払いは別々に行います(自由診療の場合)。支払は現金以外にクレジットカードの使用ができます。小切手も可能ですが近年あまり使われなくなってます。外貨での請求は法律で禁止されてます。再診・通院が多いなどの場合、月極や一括支払いも可能です。提携診療の場合、診察費と検査費の支払いは無く、薬代は大手の薬局などでは割引があることもあります。しかし、上記のような制限があります。海外傷害保険(海外旅行保険)では薬代と検査費用、交通費なども医療費として請求できますので、領収書の保管が大切です。いずれにしても、自由診療で受診するのか、提携診療で受診するのか、またどの保険会社を利用するのか等をしっかり把握しておくことが重要なポイントといえるでしょう。邦人がブラジルの健康保険に加入されている場合、診察は自由診療、検査は提携診療を使用する方法もよくみられます。

少し蛇足です。日本の国民健康保険に加入している場合、「海外療養費の請求制度」が適用でき、海外で生じた医療費も一部払い戻しがあります。領収書は必ずとっておきましょう。


ブラジル医療事情:かかりつけ医

Sun spot. California. Caju©2009

By: Kazusei Akiyama, MD


ブラジルの医療事情(3)ー 「かかりつけ医」{2024年11月校閲}

医療において最近見直されてきているのは「ファミリードクター」の存在です。日本語では「家庭医」と訳されますが、筆者は「家族の医者」(ドクターオブザファミリー)が正しい訳ではないかと思います。現在、都市部ではライフスタイルの変化によって、家族ぐるみの付き合いがある医師を持つ人は皆無といってよいほど見あたりません。昔のファミリードクターはその一家に出入りするため、家族全員の既往症、健康状況、環境や人間関係の問題点などを把握しており、それらの情報が予防的なアドバイスや病気になったときの診断・リスクの特定に役立っていました。また、その信頼関係から、健康上の問題は真っ先に相談を受ける立場にあったのです。

今回解説の「かかりつけ医」とは「健康上の問題があったとき、まず相談をする医師」と一般的に定義されます。昔のように代々お世話になってきた信頼のおける医者という存在がないので、積極的に自分で決めなければならないわけです。患者さんと医者の関係も人間関係ですから、なんといっても波長がまず合わないと話になりません。したがって「相談しやすいこと」と「近さ」がポイントになると考えられます。東京都医師会によるとかかりつけ医の条件とは次の5点だそうです:

  1. 近いこと
  2. どんな病気でも診てくれること
  3. いつでも診てくれること
  4. 病状をきちんと説明してくれること
  5. 必要なときにふさわしい医療機関を紹介してくれること。

①は距離だけではなく、人間関係としての近さも含めてのことでしょう。

②はまず全般的に医学を理解していないと、専門分野以外の解説や紹介もできません。

③は時間外は同然、さらにブラジルの場合、医師の自宅や携帯電話に連絡がつくことも含まれると思います。初めてではないので、電話連絡で解決がつくことが多いのです。

④は納得のいく説明こそ信頼関係のもとになります。また、疾患そのものの説明だけではなく、生活全般に渡ってのアドバイスができることも大切でしょう。

⑤は 処置や検査などを含む高機能医療が必要な場合、紹介できるネットワークをもっている必要があります。また、どの時点で紹介するべきか的確な判断を下すためには、自身の実力や限界も把握していなければなりません。

かかりつけ医は必ずしも内科医である必要はありませんが、家族全員を診られる「家族の医者」であることは必要です。ブラジル人によくあるパターンが小児科医や婦人科医がこの役割を担っているところです。かかりつけ医は専門ではなく「役割」です。これらの条件が満たされれば、看板上の専門分野は関係ありません。


 

ブラジル医療事情:医療機関の選び方

By: Kazusei Akiyama, MD

ブラジルの医療事情(2)ー 医療機関の選び方{2024年11月校閲}

今回は病院や医者などの医療機関を選ぶ際、なにが重要なポイントとなるかについて考えてみます。一般的に、患者さんにとって良い医療機関とは患者を大切に扱ってくれる機関であり、その上で技術レベルの高さ(先端医療を含む)、アクセスの良さ(近い、行きやすい)、コミュニケーションの取りやすさ(言語や情報の透明性)、丁寧な対応(ホスピタリティ)、衛生的で清潔感のある施設、などといった条件が続き、またこれらに見合う対価、つまり納得のいく費用であることが理想的ではないでしょうか?結論から言うと、このような理想的なものが全て揃っている所はまず存在しないと思った方が良いでしょう。さらに、ブラジルに在住されている邦人の皆さんにとっては言葉の問題が大きく、日本語が通じるか否かによって選ばざるを得ないという、選択範囲の狭さがネックになってくると考えます。

言葉の問題はさておき、病気やケガの内容など、個々のケースにより医療機関選びのポイントは変わってきます。遠くに移動するのが難しい病気や頻繁に通院が必要な場合であれば近所にあったほうが便利ですし、難しい手術や検査が必要になれば技術レベルが重要になるわけです。また、医療技術的にはそれほど格差のない、例えば出産などの場合でも、産院によってホスピタリティやルームサービスが違ったり、母子同室かどうかなど、方針の差がある医療もあります。ですから、必要に応じて医療機関を使い分けるということが大切になってきます。

現在はいろいろな方法で病気や医療に関する情報が手に入ります。受診する前、すでに患者さんが病気や検査の情報をもっておられて診療がスムーズになることがある反面、それらの情報が原因で不安になってしまうことも多く見られます。そのため、診察の形式も変わってきました。最近では診察時間の8割が病気や検査の説明やインフォームド・コンセント(患者の同意)など情報の処理にあてられているとする試算もあります。

ですから、今回のテーマである「医療機関選び」でも確かな情報や判断が必要となってきます。筆者はこれには医療のプロの力が必要なのではないかと考えています。各々の事情にあった医療機関の手配や紹介、専門医療から送られる情報の分析や解説、患者さんの医療情報の管理をするなどの「かかりつけ医」がまさにその「プロの力」にあたります。母国はもちろん、あまり勝手の分からないブラジルではなおさら、小さなことでもまず相談出来る医者をみつけておくのが、上手な医療機関選びの第一歩であると力説します。

少し蛇足になりますが、ブラジルでは「医師国家試験」が存在しません。医学部を卒業して医師評議会(Conselho Regional de Medicina)というお役所に登録をすれば医者になれます。あまり厳格なシステムとは言えませんのでニセ医者も結構いるようです。そのため、医師評議会のインターネットサイトで本物かどうかをチェックできるようになっています。医者であれば必ずCRMと呼ばれる免許番号を提示する義務があり、この番号と名前をネットで照合することができますので、ぜひご活用ください。顔写真もチェックできます。サンパウロ州ではホームページwww.cremesp.org.brのENCONTRE UM MÉDICOボタンから検索できます。サンパウロ州以外はwww.cfm.org.brを利用できます。HPトップメニュー内Cidadão内Buscar por médicosが検索画面です。ちなみに筆者の免許番号は64223です。


ブラジル医療事情:医療制度の違い

Sunset at Northern Minas Gerais State. Gouveia. Caju©2010

By: Kazusei Akiyama, MD

ブラジルの医療事情(1)- 医療制度のちがい {2024年11月改稿}

外国での生活にはたくさんの不安がつきものです。その原因には言葉の壁、衣食住、治安、教育、健康など、様々な問題があるでしょう。特に精神的にも不安定になりがちな「病気」や「医療」に対する危惧はかなり高い位置にあるのは間違いないです。たとえば、いままでと同じ治療は続けられるのか。病気になったらどの病院にかかればいいのか。流行している病気やその土地特有の風土病はあるのか。その病気の予防はできるのか。などなど、健康面での不安は数え上げたらきりがありません。

もちろん、日頃から体調管理を万全にして健康な生活を送り、医療機関のお世話にならないのが一番です。でも、人間生きている限り、病気やケガと無縁ではいられません。また体調管理のための健康診断や定期検診など、予防として医療機関を利用することも多々あります。

この欄では、筆者が1995年の開業以来邦人の方を多く診療させていただいている経験をふまえ、日本人の方々から受けた相談やお悩みを元に、ブラジルの医療事情について解説します。

さて、日本の独立行政法人「海外勤務健康管理センター」が2002年に実施した調査によると「海外の医療機関への不満」の上位には次の4項目が挙げられました。

  1.  医療費が高い
  2.  言葉が通じない
  3.  医療レベルに不安がある
  4.  医療システムがむずかしい

1の医療費に関しては、実は日本もブラジルも、平均的にはそれほど変わりはありません。日本には「健康保険(国民皆保険制)」という制度があるため、自己負担は治療費の1割から3割です。しかしブラジルでは駐在員のような外国人には全額自己負担(日本で言う10割負担)になるため、高く感じるのではないでしょうか。

次に2の言葉に関しては、どれだけ流暢にポルトガル語が話せる方であっても、医療や健康に関する会話は専門用語が多いので、日本語と同じというわけにはいきません。特に病気にかかった時には不安が先行し、言葉に対する自信も失いがちです。仮に医療機関側に日本語の堪能な医師などがいたとしても、文化的・習慣的な違いや微妙なニュアンスまで理解できるかといえば、非常に難しいのではないでしょうか。病気に対する訴えの捉え方の違いなどもあるかもしれません。

3の医療レベルに対する不安は、ブラジルを含む発展途上国の滞在者に多くみられるようです。しかし、一般的に日本人が滞在する大都市周辺には先進国レベルの医療機関が多くありますので、それほど心配する必要はないと考えます。要はレベルの高い病院などをどのようにして見つけるか、受診するか、が問題なのです。

4については、どんな場面でもシステムが違うとむずかしく感じられるものです。それは医療においても例外ではありません。ですから、違いをはっきり認識することが、この問題を解決する糸口ではないかと思われます。そこで、おおまかな制度の違いを表にしましたので、ぜひ参考になさってください。

表:日本とブラジルの医療システムの違い



 

2018年度南半球インフルエンザウイルス予防接種実施中

By: Newsroom CKA


2018年度南半球インフルエンザウイルス予防接種実施中

現在秋山一誠診療所にて2018年度南半球インフルエンザウイルス予防接種を実施しております。

今年のワクチンはイタリアGSK製またはオランダAbbott製の三価ワクチンです。

感冒のシーズンが近づいてますのでお早めに接種されてはいかがでしょうか?

 

インフルエンザウイルス予防接種に関するご案内およびQ&Aはこちらをご覧ください。


 

おひとりさまでいいよ

By: Kazusei Akiyama, MD


2018年05月

今月のひとりごと:『おひとりさまでいいよ』

このコラムの24人の読者様より、前回の話しは内容の割に短いひとりごとであった、また、おひとりさまの定義が間違っているのではとご意見もらいましたので、今月はおひとりさま現象を軸に孤独を考えていきます。

日本語で孤独について調べてみると、「孤独」と「孤立」が混同されているのではないかと思います。人間は集団生活をするという大前提で我々の社会は成り立っており、これらの概念はどちらも周りから離れる(isolation)ことが主です。先月にも書いたとおり、この「離れる」を「自らする」のかどうかで意味も効果も予後も違ってきます。この方向から考えると孤独はactive、活動的、積極的であり、孤立はpassive、受動的、消極的な状況からくるものではないでしょうか?この活動・受動での一番大きな違いは後者が先月のテーマになった孤独の健康問題に当てはまる事でしょう。前出の定義からいくと孤立は「周りから離される」ため、本人はそれを好んでないのが特徴です。

『明らかに性格上の問題などにより、外されたケースもあるのだろが、殆どの受動的な孤立は「気付いたらそうなってた」のだと思う。現在の、特に大都会の、生活環境がその様にさせるのではないか?そうでないと、今の日本の独り者大国は説明がつかない。明治大学教授の諸富氏の説に、「同調圧力」(註1)の反動が孤立へ導くというのがある。戦後の教育で、小学校と中学校で体験する集団生活が「排他的集団」といった”組織”のなかで行われるため、同調能力を身につける。「周りと違うと、どんなひどい目に遭うか」覚えるのだな。この同調圧力は日本の社会の中ではものすごく強く(註2)、それに疲れてしまうのだな。でも植え込まれた同調能力のため、周りに馴染むように努力してしまい、さらに疲れる。これが最近増えている鬱や引きこもりや不登校と関係あるのではないだろうか?(註3)

2015年11月号(”生みにくい、生まれにくい”)でアプローチした少子化や未婚化が進む社会構造も孤独と関係がある。これは特に女性に多々影響があり、そのため社会現象として「おひとりさま」が誕生したのだろう。2007年の出版物により、その言葉が市民権を得たと言われる。勿論出版物がおひとりさまを作ったのではなく、それ以前からあった現象を捉えたものであり、これも受動的な孤独の一種であろう。それを正当化したのが「おひとりさまは良いぞ」”運動”だと思う。その辺りを読んでると、次の様な文章が出てくる:

”自分を磨く贅沢な時間”、”自由に使える時間がある”、”自分のための時間をすごす”、”じっくり吟味”、”思い立ってもすぐに行動に移せる”、”他人に依存しない”、そしてスゴイのが”精神的に自立している証拠”。

ほんまかいな。

おひとりさまは女性を指すことが多いが、勿論男性も存在する。しかし、近年では女性の事のようである。男性を指す場合、明らかに経済力で分類しているのが良く解る。”おひとりさま男性”とは大体「独身貴族の男性」と同定義に使われている反面、経済力がない場合はオタクとか、ニートとか言ったような別名称が現れる。さらに最近、「スネップ」という用語まで登場した(註4)。これも受動的な孤独であろう。スネップは引きこもりと違い、外出したりするが、社会生活や社会的な関わりを持たないのが特徴という定義であり、どちらにしても生産性の低い人達であるのは間違いない。SNEPなる言葉を作った学者は「孤立の一般化」と呼んでいる。また、日本人には「役に立たずとも迷惑にならなければそれでいい」といった様な概念も強いのでは?でも、この様な社会状態で大丈夫ですかね?』

女性にしろ、男性にしろ、おひとりさま人生の利点を満喫するには「孤独力」が必要です。孤独力とは「1人の時間を過ごせる力」とか「1人で自分の内面と深く会話する力」だそうです。これさえあれば「おひとりさまでいいよ」になりますか?それらも経済力が伴わないとホームレスですよね。でも筆者はそれ以上に「覚悟」が必要だと思います。


  • 註1:何事も目立たず、周囲と同じ事をしなければならない。
  • 註2:集団でイベントすると直ぐに解る。各自に希望を訊くと「皆さんと同じで」が一番多い答えでしょ。ブラジル人とはえらい違い、各自好きな事言って全然まとまらない。
  • 註3:排他的集団は日本の社会構造で重要な位置を占めているぞ。診療所の患者さんでも、同調圧力のため病気になって通院があるぞ。不安神経障害や胃潰瘍などが多い。ママ友もさることながら特に会社関係のセニョーラス会がやばいようである。
  • 註4:SNEP solitary non-employed persons 孤立無業者。20歳~59歳の在学中を除く未婚の無業者のうち、普段1人でいるか、家族以外の人と2日連続で接していない人々を指す。2011年時点で日本で162万人いる試算あり。

 

孤独は個独?

By: Kazusei Akiyama, MD


2018年04月

今月のひとりごと:『孤独は個独?』

今年の1月にニュースになった英国で新設された「孤独担当大臣」(註1)、このコラムの24人の読者様はご覧になられましたか?イギリス社会で「孤独に困っている人達」のために総合的な政策を率いるそうです。市民が参加できる地域活動や相談窓口の設立を啓蒙するのが主な政策になるようです。どうしてわざわざ「孤独」を「問題」とし、対処する事が必要となるのでしょうか?

孤独に困る人間は人類が社会生活を始めてから、存在するのは簡単に想像できますよね。集団生活をするのが人類にとってメリットがあるので、社会というものが出来た訳です。その集団から何らかの理由で孤立してしまった人達は実際生活をするのが大変になり、また、孤独は健康への負の影響を及ぼし、病気のリスクを高めるので社会的政策の対象になるのです。

孤独が健康リスクになるのは既に出ている研究では「鬱病」「認知症」「アルツハイマー病」「心筋梗塞」「早期死亡」などがあります。勿論いずれも孤独により、リスクが増えます。それも多少ではなく、アルツハイマー病を例に挙げるとリスクは2倍以上になる試算です。米国での研究結果によると孤独のリスクは1日にタバコを15本以上吸うことやアルコール中毒症に匹敵する、肥満の2倍や運動しないことより高い(註2)というのがあります。

『社会的孤独問題。とうとう大臣まで出たかといった感じがする。まず高齢化社会問題の副産物であるのは自然現象としても、社会不適合のために急増している孤独。これだけグローバル化した社会、ネットでつながった社会に住んでいるのに… また、我々の社会は現在都市化、核家族化、少子化が進んでおり、その恩恵に浴していると思って生活してますよね。面倒な村社会や近所の付き合いや家族のしきたりが減って気楽になったと喜んでませんか?(註3)これが、その結果、「無縁社会」というものを作り出しているのだな。』

日本人は元は農耕民族です。稲作を村全体で行う。1人では出来ない。なので集団生活、集団感覚が重要であったのでしょう。「孤独」を辞書で引いてみると、「ひとりぼっちで寂しい様」と出てます。日本語では孤独は宜しくない状態と考えられているのですね。英語では孤独を意味するsolitudeとlonelinessの二つがあり、それぞれ意味が違います。後者が要するに宜しくない状態で1人でいて寂しいを意味し、前者は自らすすんで孤立することを意味します。如何にもプライバシーを重んじる欧米社会ならの考え方ですね。日本語にはこの概念がありません(註4)。無縁社会になると、各自自由であると錯覚してしまい、特に現在の日本の社会では「おひとりさま」がもてはやされるようになりました。結果、世界で一番の孤独大国になったのではないかと考えます。図に2005年に行われたOECDの調査を示します。

図:他人(友人、同僚、集団と全く(赤)あるいは滅多に(青)付き合わないと回答した人の割合。

次の図も日本の社会構造が変わってきている事を示すものではないでしょうか?

図:日本人の死亡場所別の割合の推移。

『孤独は明確に求めるのは悪い事ではない。孤独状態は自身の存在について考える機会をあたえ、創造性、想像力につながると考えられている。瞑想もそうだし、宗教関連で「籠もる」修行があるぞ。問題は「人と居たいのに疎外している」や「社会不適合でなんとなく1人でいる」のでしょ。後者がいわゆる「おひとりさま」ではないか?よく考えて行動しないと、最後は「孤独死」に行き着くぞ!』


註1:Minister for Loneliness。

註2:これは解りやすいですね、1人だとろくな物を食べなかったり、出かけなかったり(または出かけないから孤独という面もありますね。)。

註3:ネットで「帰省でもめる」などで検索すると山の様に出てくるぞ。。

註4:「孤高」と言う言葉があるが、他の追従を許さないほど優れた状態に用いるので、自らとは言えないですね。


迷走は続きますな。

By: Kazusei Akiyama, MD


2018年02月

今月のひとりごと:『迷走は続きますな。』

このコラムの24人の読者様には「またか」と言われそうですが、今月も「黄熱」の話しです。よくひとりごとのテーマに上がりますが、最近ブラジル、特にサンパウロ市でも黄熱パニックがおこりそうになっているので仕方ないです。去年の4月号に直近の黄熱に関する学術的なひとりごとをしており、基本的に内容に変更はありません(註1)。但し、最近の当地の傾向をみると、結論から言えば、「ブラジルへ渡航する、または生活する場合、黄熱ワクチン接種をしておいたほうが良い」と考えられます。

  • 註1:黄熱の種類、ワクチン接種の勧告、ウイルスの種類、症状など。

『この原稿を書いている今日現在、とうとうサンパウロ動物園(と隣の植物園)まで閉園になってしまった。付近に住んでいる野生の猿の死亡が確認され、飼育されいる個体にも黄熱検査陽性になった為。その前に、公営の緑地公園等の閉鎖もあり(註2)、間違いなく猿類の間では黄熱が流行状態になっているぞ。野生猿類(註3)の黄熱による死亡例は去年の中頃から報告が増え続けている。騒ぎは「猿殺し」まで発展。でも猿はこの場合、何処に黄熱ウイルスが分布しているのか判明するのに重要なのだな。』

  • 註2:2017年10月に州営のHorto FlorestalとParque da Cantareiraの閉鎖で始まり、2018年1月中旬現在、サンパウロ市だけで23箇所閉鎖。
  • 註3:ブラジルには5科123種の猿類が確認されおり、その内サンパウロ州では10種生息(Mico-Leão-Preto, Bugio-Preto, Muriqui-do-Sul, Mico-Leão-de-Cara-Preta, Sagui-da-Serra-Escuro, Bugio-Ruivoなどが代表的。

現在ヒトの死亡例も増加中ですが、すべて「森林型」の黄熱が原因です。都市型には移行してません。なので、我々都市部の中心地の住民は理論的にいうと予防接種不要なのですが、これほどメディア(特に当地テレビメディア)が騒ぎ立て、接種勧告されていない人達が接種に殺到し、さらに騒ぎが大きくなっている現状では、接種が可能な方は日本でしてこられたほうが良いと判断します。当地ではこの騒ぎでワクチンが不足し、少量で接種(註4)する事に至ってます。ブラジルでは1942年以降、都市型の黄熱は絶滅してます。但し今回の様に森林型に感染したヒトが都市部で繁殖している「ネッタイシマカ」に吸血されると、都市型に移行する訳ですね。従って、前からこのコラムでもうるさく言っている「各自宅で蚊の対策=繁殖させない」のが実は一番重要なのです。

  • 註4::fraccionated vaccination。ワクチン基準量0.5mLのところ、0.1mL使用、サンパウロ州、リオ州、バイア州で実施。黄熱の場合、基準値と同じ予防率であるが、有効期限が8年(基準の場合、生涯有効)。

『今回の黄熱騒ぎは2016年12月にミナス州で始まった。場所はドッセ川流域。そこからエスピリトサント州に広がった。そのため、2016年11月にドッセ川上流でおこった鉱滓ダム決壊事故が今回勃発の痕本にあるのではないかという一説がある。つまり、ドッセ川汚染が原因で魚が全滅、蛙類が激減したため、蚊のボウフラや成虫の天敵がいなくなったので蚊の暴発が起こったのでは?という説。筆者は一理あると思うけど。』



表示してある情報、わかりますか?

By: Kazusei Akiyama, MD


2018年01月

今月のひとりごと:『表示してある情報、わかりますか?』

謹賀新年。2018年は良い年であるように…と願いたいです。ブラジルでは不安神経症になる要因の多い新年ですね。今年はFIFAワールドカップが開催されます。10月には大統領選挙を含め、選挙があります。前半は浮かれ気味。後半は嘘八百のオンパレードで頭の中の正当軸がブレると思われます。(註0)当地では今年は3年前より進められてきた「食品表示」の変革が行われる予定です。改革を進めたい消費者団体とさほど進めたくないメーカーの”戦争”が開戦です(註1)。

食品表示とは名前のとおり、販売される食品に内容、原料、栄養表示など記載する事です。1962年にFAO(国連食糧農業機関)とWHO(世界保健機関)により食品規格が設立されたのが始まりです。それまでは、表示があったりなかったり、内容も各事業者が好きな事をラベルしてました。しかし、毎日の食べ物です。取引の公正、安全性の確保も重要ですし(註2)、何を食しているかを理解する事で健康の増進を図る目的が一番大事なのではないでしょうか?そのため、内容量や原料名、保存方法や調理方法等で始まった表示も近年では栄養に関する情報に重点がおかれるようになりました。表示方法は各国それぞれ規則があり、統一されてませんが、大概、名称、内容量、原材料名と賞味期限が共通してます。原材料は多く含有されるモノから順に記載されるのも共通してますが、日本の場合は「水」(註3)は表示しなくてもよいようです(註4)。

件のブラジル当局(註5)は数年前には「砂糖含有」の表示を図り、加工業界の反対で失敗している経緯があります。今回は「警告」を記載するか(註6)、含有物質(註7)の量により白緑黄赤と色による表示(註8)にするかが争われてます。いうまでもなく、前者は消費者団体案で、後者はメーカー案ですね(註9)。どうなるかは不明です。

 

現行のブラジルの食品表示には次の情報が義務化されてます:

1.原材料リスト。多いモノから順に記載。単品(例:酢)の場合は原材料名のみ。

2.生産者と消費者窓口。

3.ロットと賞味期限。

4.内容量。

5.栄養表示表。

6.栄養に関するその他の情報。グルテン含有、大豆含有、diet食品、等。

表示違反項目もあります:

a.間違った食品の代用:例:イチゴジャムは生で食べるイチゴの代用でない。

b.効能をうたう:特に医療関係の効能は禁止。

c.当たり前の特徴を得するような言い方:例:コレステロールフリーの食物油(植物油はコレステロールを含有しない。)、本当のトマトが入ったケチャップ(トマトが入らないとケチャップではない。)

栄養表示表は4種類ありますが、一番良く見るのが次のモデルです。記載項目は一盛りに対し「カロリー」「炭水化物」(註10)「タンパク質」「総脂質量」「飽和脂質」「トランス脂肪酸」「食物繊維」「ナトリウム」。

ブラジルの食品の栄養表示表(2017年現在)

「食品表示があれば、人の生活に好影響をあたえる」のだろうか?偽装事件もあるし。数字を読んで理解、判断できるのだろか?できてないでしょ。食品表示が早くから導入された米国が良い例だろう。全人口の1/3が肥満!平均寿命世界第40位…一体何を食べて病気になるのかがわかるリストになってませんか?』


  • 註0:このコラムの24人の読者様、是非、冷静に騒ぎをやり過ごしてくださいね。
  • 註1:現地メディアのトーンです。
  • 註2:食の安全については2012年1月のコラムもご覧ください。
  • 註3:飲料水の事ではなく、食品に含有される水。
  • 註4:日本の場合、関連する法律が食品衛生法、JAS法、景品表示法、計量法、健康増進法、医薬品医療機器法と6種類あり、整合性がないとの指摘がある。
  • 註5:ANVISA 保健省国家衛生監督局。
  • 註6:ブラジルのタバコのパッケージは警告タイプですね。日本のように「危険性を高めます」のようなヌルイ表示ではなく「この製品は心臓病や心筋梗塞をおこします」や「この製品はインポの原因になります」等、短い文章とギョッとする写真が表示されてます。。
  • 註7:主に「カロリー量」「砂糖」「飽和脂質」「トランス脂肪酸」「ナトリウム」「人工甘味料」の表示。
  • 註8:健康に危険なほど、赤。
  • 註9:但しメーカー案では「総糖体量」「総脂質量」「ナトリウム量」の簡易案。
  • 註10:ここに砂糖が入る。

 

私は高血圧になったのでしょうか?

By: Kazusei Akiyama, MD


2017年12月

今月のひとりごと:『私は高血圧になったのでしょうか?』

このところ、カタい医療の話しばかりですね。このコラムの24人の読者様から面白くないとクレームをいただきそうですが、今月は身近な健康問題を取り上げますのでお許しください。表題の質問は先月(2017年11月)にアメリカの学会が高血圧の新基準を発表したためです(註1)。それまで血圧139mmHg/89mmHg(以下単位mmHgを省略)まで「高血圧」の診断名がつかなかったのが、119/79以上は高血圧との見解になったからです。

  • 註1:AHA(American Heart Association)とACC(American College of Cardiology) が主導。今月12月号のHypertension紙に記載されます。

『これによって、いわゆる高血圧と診断名が付く人口が爆発的に増大した。新基準を出した米国学会によると高血圧の有病率(註2)36.9%から45.6%へ上昇したのだな。昨日まで「正常範囲」だったのが朝起きたら「高血圧」になっていた!医学というものは日進月歩で色んな発見や常識の見直しがあるが、患者さん側からみたら「またか?!」といったところではないか?コレステロールや血糖値の正常値の基準変化(註3)で治療対象になった人達はいっぱいいるからな。』

  • 註2:prevalence 一定の人口に対してある疾病が存在する比率。
  • 註3:これら基準変化についてはまたひとりごとします。

成人の約30%、4000万人高血圧の人がいるとされる日本では反面、正常範囲を上げる方向にあります。2004年の基準では129/84まで正常とあったのが、2014年に139/89(日本高血圧学会)、147/94(日本人間ドック学会)を新基準としてます。

表:高血圧の診断と分類:

『基準値を上げた根拠は「健康と判断された人達の95%が血圧147/94以内であった」からだな。医学では「普通・正常」とされるのは、「大多数に認められる」のが大定義であるので、その点は間違っていない。しかし、「殆どの人に見つかるから正常」の概念も時には困る。大多数の人が「ある病気」になれば、その定義からいくと「ある病気」が普通になるからな。』

我々は間違いなく高血圧になりやすい生活をしているのだと考えます。いわゆるメタボリックシンドロームと関係のある脂質異常症、耐糖能異常、高血圧の基準値が厳しくなるのも生活習慣を反映したものでしょう。今回の高血圧新基準の場合も一応、体重の減量、カロリーと食塩を制限した食事、カリウムの摂取を増やす、1日最低30分の運動(註4)およびアルコール摂取の抑制を治療の根幹とするとしています。

  • 註4:これは例えば通勤時に歩くのでもいいのだが、この勧告がでる事はそれすらしない人が大勢いる事実を示している。

『ただ、そのような生活習慣を維持できないから高血圧になるのではないかと考える。「新基準で高血圧と診断されましたので、じゃあ、勧告通りにします」とはいかないだろう。なので、薬物投与がメインになるのではないかと思うぞ。どんな薬でも副作用があり、降圧剤も然り。手放しで喜んで良いものではない。喜ぶのは製薬会社だな。』

この様に、正常値とは絶対的なモノではありません。また、民族や生活環境により、状況やリスクが変わります。しかし、「血圧は低めが良い」のは医学界の合意です。一般成人は出来るだけ120/80以下を目指す事が重要だと考えます。降圧目標値は年齢や合併症により変わります。ケースバイケースなのでかかりつけ医に相談することが大事です。高血圧は徐々に循環器を壊していきます。普通、症状がでるのは合併症が出現した時で、手遅れの状態も多々ありますので普段からご自身の血圧を把握する事も有用です(註5、6、7)。さらに詳しく知りたい方は日本の国立循環器病研究センターのHPを参照ください。

  • 註5:自分で測る血圧を「家庭血圧」といいます。色んな製品が出ており、お勧めは上腕で測定する器機ですが、手首でも可です。家庭血圧で重要なのは絶対値ではなく、普段からの数値の把握で、そこから外れる事が多いと異常がおこっている事がわかります。
  • 註6:家庭血圧の測定方法:血圧計は各自使用、使い回ししない。1日1回で十分。いつも同じ時間帯、同じ姿勢で2回測り、平均値をメモする(自動的に平均値を出す機種が便利です)。
  • 註7:O社、T社、P社、C社など日本に本社がある製品がおすすめです。ブラジルの薬局でも販売されてます(モデルにより100〜250レアル)。