By: Kazusei Akiyama、MD

ブラジルの医療事情（６）　ー　 入院

海外で病院治療を受ける中でも、入院は一番不安とストレスが伴うものです。理由は二つあります。一つは入院という自宅で療養できない、または手術が必要など健康状態が著しく悪化している状態であること。二つ目は数ある医療行為の中でも、一番費用がかかり、時間が長くかかる治療だからです。今回はこの二つ目の諸問題について解説します。

入院をするにはまず医師の診断と指示があります。これは個人オフィスの専門医の場合と病院の救急部門の場合が考えられます。救急部門で入院と診断された場合は、もちろんその病院に入院することになります。そのため、この様な場合に重要なのはどの病院に駆け込むか、ということです。ブラジルでは医療機関はピンからキリまでありますから、ちゃんとした病院でないと後々大変です。専門医の場合は、使い慣れた病院や、実施する手術の技術的な環境が整った病院などを選択することが多いようです。また、以前にも書いたように、使用する医療保険により、病院の制限があることがあります。これは特にブラジル国内で加入されるconvenioと呼ばれる保険に多く見られます。

手術をする病院が決まったら、医師の指示書を持って入院受付（setor de internação）に赴きます。そこで、カルテの作成や使用する保険（あるいは自費）の提示、入院同意書、手術同意書などの手続きをします。日本の海外傷害保険などの場合は、それらの保険会社が海外で提携している病院でなければ、全額自費扱いとなり、後日、保険会社から払い戻しを受ける形になります。ここでよく問題になるのが、cheque-caução（シェッキカウソン）と呼ばれる保証小切手を要求されることです。自費入院の場合その限りでは無いのですが、病院と提携している保険を使用する場合は法律違反とされています（憲法違憲、消費者保護法違反、など）。が、それでも要求されることが後を絶たないのですが、法廷で争っている時間などありませんので、泣き寝入りになります。具体的には1万から2万レアルの金額の小切手の様です。蛇足ですが、この場合病院が足下につけ込んでいるようですが、反対にブラジルでは借金を踏み倒してなんぼのものと考える人たち（特にお金持ちに多い）がかなりいます。一番有名なのはコーロル元大統領のご母堂（最終的に入院中死亡）の踏み倒しですが、一国の（元）最高指導者ですらこの有様です。ブラジルでは裁判所の判決が非常に時間がかかりますので法律違反でもまず自衛を優先するわけですね。

お部屋（基本的に個室）に入ると、看護士の問診、麻酔科医の診察、予備検査、準備などがあります。日系の病院であっても、これらのスタッフは必ずしも日本語ができるとは限りませんので、語学がまったく出来ない方はこの場面では通訳が必要と思われます。準備が終わると、麻酔前投薬が行われ、次に目が覚めるとすでに手術が終わっていて、元のお部屋に戻っていることになります。日本に比べて、比較的早く起床させられます。できるだけ早く動いたほうが、術後の後遺症（特に血栓症）が少なくなるからです。手術の翌日に自分でシャワーを浴びるなど日本人にはびっくりするような行動ですが、いざやってみると意外にできるものです。また、入院期間も比較的短期間になっています。これは必要最小限の回復を病院でしてもらい、早くベッドを開けることと、入院を長くすることで起こりうる問題（院内感染など）を減らすという目的があります。

入院中は検温や投薬、食事の上げ下げなど常時人の出入りがあり、いちいちポルトガル語で対応しないといけないのは大変です。しかし、お世話をしてくれる人たちは、外国人であってもちゃんと会話をしようとする姿勢がありますので、さほど深刻な問題ではないと思われます。ブラジルの病院はホスピタリティ（医療以外のいわゆるホテル機能）が大変発達してます。特に食事制限がない場合、院内のレストランから出前を頼むことも可能ですし、時間外の食事に対応してくれたりします。また、付き添い人がお部屋で宿泊できるようにもなっています。そして人員の余裕が有りますので、処置に時間がかかってもいやな顔をされることが少ないように思われます。この優れたホスピタリティのため、予定される入院＝出産でブラジルの病院を選択される方もかなりおられるようです。

ブラジルでの入院中は、多少わがままを言ってみてはいかがでしょうか？