ブラジル医療事情:かかりつけ医

Sun spot. California. Caju©2009

By: Kazusei Akiyama, MD


ブラジルの医療事情(3)ー 「かかりつけ医」

医療において最近見直されてきているのは「ファミリードクター」の存在です。日本語では「家庭医」と訳されますが、筆者は「家族の医者」(ドクターオブザファミリー)が正しい訳ではないかと思います。現在、都市部ではライフスタイルの変化によって、家族ぐるみの付き合いがある医師を持つ人は皆無といってよいほど見あたりません。昔のファミリードクターはその一家に出入りするため、家族全員の既往症、健康状況、環境や人間関係の問題点などを把握しており、それらの情報が予防的なアドバイスや病気になったときの診断・リスクの特定に役立っていました。また、その信頼関係から、健康上の問題は真っ先に相談を受ける立場にあったのです。

今回解説の「かかりつけ医」とは「健康上の問題があったとき、まず相談をする医師」と一般的に定義されます。昔のように代々お世話になってきた信頼のおける医者という存在がないので、積極的に自分で決めなければならないわけです。患者さんと医者の関係も人間関係ですから、なんといっても波長がまず合わないと話になりません。したがって「相談しやすいこと」と「近さ」がポイントになると考えられます。東京都医師会によるとかかりつけ医の条件とは次の5点だそうです:

  1. 近いこと
  2. どんな病気でも診てくれること
  3. いつでも診てくれること
  4. 病状をきちんと説明してくれること
  5. 必要なときにふさわしい医療機関を紹介してくれること。

①は距離だけではなく、人間関係としての近さも含めてのことでしょう。

②はまず全般的に医学を理解していないと、専門分野以外の解説や紹介もできません。

③は時間外は同然、さらにブラジルの場合、医師の自宅や携帯電話に連絡がつくことも含まれると思います。初めてではないので、電話連絡で解決がつくことが多いのです。

④は納得のいく説明こそ信頼関係のもとになります。また、疾患そのものの説明だけではなく、生活全般に渡ってのアドバイスができることも大切でしょう。

⑤は 処置や検査などを含む高機能医療が必要な場合、紹介できるネットワークをもっている必要があります。また、どの時点で紹介するべきか的確な判断を下すためには、自身の実力や限界も把握していなければなりません。

かかりつけ医は必ずしも内科医である必要はありませんが、家族全員を診られる「家族の医者」であることは必要です。ブラジル人によくあるパターンが小児科医や婦人科医がこの役割を担っているところです。かかりつけ医は専門ではなく「役割」です。これらの条件が満たされれば、看板上の専門分野は関係ありません。