差別はいけません。

By: Kazusei Akiyama, M.D.

Wood and cotton. ©Caju 2019.


2019年7月

差別はいけません。

先月市内で「第23回サンパウロLGBTプライドパレード」(註0)が行われました。パウリスタ通りから出発したパレードは例年どおり三百万人規模の人出だったそうです。いわゆるゲイパレードは日本を含め世界各国でおこなわれてますが、サンパウロ市のは世界最大級です。サンパウロ市の行政も街に二番目にお金をおとしてくれるイベント(註1)なので、LGBT大歓迎!パウリスタ通りの歩行者信号をホモカップルの図に変更する気合いの入れようです(写真)。

  • 註0:ポル語では 23ª Parada do Orgulho LGBT de São Paulo
  • 註1:一番お金をおとしてくれるイベントはF1グランプリです。

『こんな事に金をかけているより、「雨で故障する信号機を直したり、他に優先事項あるだろう」といった意見が多々出てましたな。』

LGBTとは「性的少数者」を総称する言葉で、1980年代より欧米で使われはじめ、四半世紀たった今すっかり定着してます。最近は色んな少数者が挙手し、LGBTQIAというのが正しいそうです。簡単に性別の問題ではなく、「セクシュアリティsexuality」という概念で定義されてます。これは「1:身体の性別」+「2:心の性別」+「3:性的指向(註2)」の三項目で構成され、1が持って生まれた遺伝子情報の性別、XかY;2が自分の性別をどう自認しているか;3が誰に対し恋愛感情を抱くか、の組み合わせになります。このコラムの24人の読者様はなんの頭文字かご存じと思いますが、確認してみると:

  • L: lesbian レスビアン 1と2と3が女性
  • G: gay ゲイ 1と2と3が男性
  • B: bisexual バイセクシュアル 1と2は問わず、3が両性
  • T: transgender トランスジェンダー 1と2が一致しない人(註3)
  • Q: questioning クエスチョニング 2と3を迷ってる人(註4)または queer クィア 2を定める事に違和感を感じる人
  • I: intersex インターセックス 1に「性分化疾患」がある人(註5)
  • A: asexual アセクシュアル 3が無い人(註6)

『因みに、1と2が一致し、3が異性の場合がStraightストレート(ポル語ではheterossexualまたはhetero)と呼ばれてます。一番多いヤツですな。』

  • 註2:発音は同じですが、「性的嗜好」ではないので、間違いがないように。
  • 註3:性適合手術の対象になるグループ。全員手術する訳ではない。しないで衣装を変えてる場合は「異性装者」という。
  • 註4:まあこれだけあると迷いますよね。
  • 註5:これは疾患なので、ちょっと性的指向とかとは違うのでは。
  • 註6:恋愛感情はともかく、性的欲求がない人。

LGBT運動が欧米で始まったのは、その社会では同性愛行為は犯罪または病気と位置づけられ、社会的な制裁の対象となっていたからであると考えられます(註7)。要するに「人権」に関する問題ですね。実際、1990年までWHO国際保健機関編集の「国際疾病分類」に記載されてました。最近ではすっかり市民権を得て、反対に逆差別がおこってます。少しでも異を唱えようものなら性的少数者に対する差別、古い価値観に縛られた権威主義者などとバッシングを受ける確立が多大であり、ストレートは肩身が狭いのではないでしょうか?医師の観点からいくと、社会的ストレスの要因であると思います(註8)(註9)。

  • 註7:日本の文化では「衆道」と呼ばれる男性同性愛者が確立していた事実からも、特にそのため迫害を受けるような社会ではなかったようです。
  • 註8:バッシングの恐怖もありますし、他人の指向・嗜好を強制嚥下させられるのもストレスですね。例えば、他人に迷惑かけてなかったら、ベジタリアンでもかまわないのですが、ベジタリアン思想を強制するのは虐待ですよね。
  • 註9:アントニオ・グラムシが唱えた文化破壊を目標とする「文化共産主義」、家族主義の破壊の推進に利用されてますよ。

『人権とは、人間として生きる上での基本的な権利ですな。人権を守ることは、尊厳や平等、そして自由を守っていくことで、「自分という存在が平等に扱われ、そして自分のことを自分で考えて自分で決めていくことができる」状態を守る事であろう。これは人類がお互いにすべき事であり、対面通行の道である。「権利」は「義務」と両立するものであり、権利を主張する場合、自動的に義務が生じる。なので、差別をされたくないと権利を叫ぶのであれば、差別しない義務もあるのだな。これだけ色々分類するのも一種の差別ではないかなあ。』

診療所では診察時にセクシュアリティについて問診します。これは各グループ特有の疾病が関係してくるからで、別に差別している訳ではありません。筆者は誰でも「人間として」尊重するのが正しいのではないかと考えてます。どちらにしてもややこしい世の中になってきてます。ブラジルの著名なコラムニストのLuis Fernando Verissimoが書いた母と息子の会話で新社会を理解してみます。

  • 「母さん、結婚相手が決まったよ。」
  • 「それは良かったね。相手のお嬢さんは誰?」
  • 「お嬢さんじゃないの、太郎だよ。」
  • 「へ、太郎?太郎って男性じゃないの?」
  • 「そう、太郎。お母さんどうかしたの?」
  • 「いやあ、別に。ちょっと心臓が止まっただけ。」
  • 「なんか文句あるんだったら今すぐ言ってほしいけど。」
  • 「文句?文句ないよ。ただ、いつかはウチにお嫁さんが来ると思ってたの。」
  • 「お嫁さんくるじゃない?男性みたいけど。」
  • 「じゃあお婿さんかなあ?で、いつ太郎さんを家に連れてくるの?」
  • 「いつか決めないといけないの?」
  • 「一応お父さんに事前に知らせておいたほうがいいと思うからね。」
  • 「父さん嫌がると思うの?」
  • 「愛する息子が生涯のパートナーを見つけた喜ばしい事だから嫌がる訳ないでしょ。聞いたら満足してあの世に行くと思うよ。」
  • 「母さん、なに言ってるの。今日日こんなの普通だよ。僕の友達は皆ほとんどゲイだよ。」
  • 「そお?ゲイでないのは残ってないの?あんたの妹に紹介してもらいたいからねえ。」
  • 「妹はお付き合いしてるから紹介いらないよ。」
  • 「え?付き合ってるの?誰と?」
  • 「花子っていう子だよ。」
  • 「ええ?妹は女性と付き合ってるの?」
  • 「母さんどうしたの?どうしてそんな悲しいの?」
  • 「だって…いつかは孫の顔が見られると楽しみにしてたもの。」
  • 「大丈夫。孫の顔みられるよ。僕と太郎は子供二人ほしいの。二人で精子提供してね、太郎の元カノが卵子提供してくれるって。」
  • 「え?元カノ?太郎さんて元カノいるの?」
  • 「うん、彼がストレートだった時の。花子っていうの。」
  • 「花子?」
  • 「うん、妹の相手の花子だよ。」
  • 「ちょっと待って。あんたの今の彼氏の元カノが妹の今の彼女なの?」
  • 「そうそう。花子が卵子くれて、僕たちは子宮借りるの。」
  • 「ああ、代理母の子宮ね。誰から借りるの?」
  • 「妹からだよ。」
  • 「え?妹があんたと太郎の子供を作るのね?あんたの精子と妹の彼女の卵子使って。」
  • 「そのとおりだよ。」
  • 「と言うことは、できた子供はあんたと太郎さんと妹と花子さんと四人の子供に当たる訳ね。」
  • 「そうかなあ。」
  • 「この子供はママが二人、あんたと太郎さん、パパが二人、妹と花子さんできるのね。」
  • 「そうだね。」
  • 「と同時に、あんたの妹は出産母以外に叔母でもあるんだ。ああ、この場合は叔父か。」
  • 「そうそう。それでね、次の年には二人目を作るの。今度は太郎の精子の番だよ。卵子は妹の。で花子の子宮を借りるの。まあ、取り替えっこだね。」
  • 「ああ、取り替えっこね。二人目は花子さんが出産するのね。」
  • 「そのとおり!よく判ってるじゃない。」
  • 「うん、判った。まあ、一種の乱交と言う事だね。それも近親相姦も交えて。」
  • 「そんな事ないよ。妹と花子は僕たちの子供を作るのに協力してくれるだけだよ。」
  • 「ふーん。で彼女たちが子供欲しかったどうするの?」
  • 「その時は僕たちが協力するの。」
  • 「ええ、なんか訳判からなくなってきた。一体誰が父親で、母親で、子供は誰の子で… ああ、判った!」
  • 「何が?」
  • 「今後家系図書けないって。」

 

錯覚してますよね:消毒液編

By: Kazusei Akiyama, MD

Close to sunset. Naruto. Caju©2019.


2019年6月

錯覚してますよね:消毒液編

我々の生活の中では「良いと思って」錯覚しているものが結構あるのではないかと思われます。これらに焦点をあてる「錯覚してますよね」シリーズの第四弾は「消毒液」です。

日本医師会の定義で「消毒」とは「対象微生物の数を減らすために用いられる対処法」であり、その目的は「感染症を惹起しえない水準にまで病原微生物を殺滅または減少させること」です。よくある間違いで「滅菌」の概念と混同される事があります。滅菌とは微生物を完全に殺滅または除去する方法で、滅菌は消毒になりますが、消毒は滅菌ではありません。簡単にいうと消毒により発病を防ぐ訳で、その発病を起こす生物を除去する、無菌にする必要はないのです(註1)。

  • 註1:無菌にしたら消毒にはなりますが。

『感染症というと、もちろん感染しないように予防する事が一番である事はややこしい理論でなくても判る。その予防には病原生物をシャットアウトする方法、あるいは既に存在する生物に対して消毒を行う方法がある。前者は我々の現在の技術で可能であるけど、設備が必要なので特殊な場合を除いて現実的ではない。なので、後者が日常的に行われている訳だな。』

消毒の方法には大きく分けて物理的方法と化学的方法があります(表1)。一番効果的な方法はなんといっても「焼却」です。全てが灰になり、生物は死滅します。しかし、熱を用いた消毒方法は生体や環境、非耐熱性の用具に対しては使用できません。そこで化学的方法が有用となってくるのですね。

表1

物理的方法 乾熱 火炎、焼却など
濕熱 煮沸、蒸気など
照射 γ線やX線など放射線法;高周波法
紫外線
濾過
化学的方法 液体 消毒液
気体 酸化エチレンガス、過酸化水素ガス、オゾンなど

 

我々の普段の生活にて一般的なのは煮沸消毒、紫外線消毒(日光消毒)と消毒液使用でしょう。煮沸は用具や器具などの消毒に行います(註2)。日光消毒は安価・確実でメリットが多いのですが、日照に左右され、場所によっては不可です(註3)。なので消毒液を使う事が多くなるのだと考えます。消毒液は化学物質の殺菌能力により高水準消毒剤、中水準消毒剤、低水準消毒剤に分類されます(表2)。

  • 註2:赤ちゃんの哺乳瓶、ジャムなど長期保存用の入れ物、家庭内の感染者の用具など。
  • 註3:紫外線は殺菌効果が高いですが、ものによっては分解したり退色させたり劣化を起こすことがあるので長時間は必要ありません。正午あたりで1時間から2時間くらいで十分です。ここに面白い実証実験があります:https://www.fcg-r.co.jp/compare/enviro_140214.html

表2

区分 効能 薬剤の例
高水準消毒剤 芽胞(註4)を含め、全ての微生物を死滅する グルタラール
中水準消毒剤 結核菌、一般細菌、ウイルス、真菌(註5)を殺滅する エタノール
ポビドンヨード
低水準消毒剤 ほとんどの一般細菌を殺滅する クロルヘキシジン
逆性石鹸
界面活性剤
  • 註4:一部の細菌が増殖に適さない環境になった場合形成する耐久性の高い細胞構造。長期間休眠状態を維持できる。
  • 註5:いわゆるカビのこと。

『消毒液を使うと、「その殺菌作用でキレイになった」と思うのだろう。日本人は特に消毒液が好きなのだろう。例えばうがい薬と言えばポビドンヨード液であるイソジン®というくらい日本では浸透しているが、ヨード入りの薬は世界的にみると主に外科手術野の消毒に使われ、あまりうがい用と連想しない。また、日本では何でもかんでも抗菌、殺菌、消毒が目に入る。本当にこれだけしないと日本人は生きていけないのかと思うほど「菌」に対して敏感だ。大航海時代にポルトガル人はアフリカ、中東、南アジア、東南アジア、中国を経て日本まで来たが、その時代の文献には航海中出会った民族では一番きれい好きである事が記述されている(註6)。どうもこのきれい好きが行き過ぎたのでないだろうか?「空間除菌」とうたった、二酸化塩素をまき散らす商品までありがたく販売されてるぞ(註7)。』

  • 註6:便所がある、身体を洗う(風呂に入る)等。
  • 註7:D社からでている。抗ウイルス作用、抗細菌作用、消臭作用が確認されているが、人体にどの様な毒性があるか検証されてない。

もちろん病院内など病原菌がウヨウヨしている場所などは適切な消毒方法で滅菌や消毒を行なう必要があることは議論にもあがりません。しかし、日常の生活で殺菌しすぎるとかえって人体の抵抗力を変化させます。人間の皮膚上や粘膜上には「常在菌」が定着しており、有利に共生してます。まず「拮抗現象」あります。つまり数種類の菌で平衝状態を保っているところに新たに病原菌が侵入しても定着できない現象です。さらに常在菌は「免疫系刺激作用」、つまり免疫系を刺激して免疫能力や抵抗力を強くする作用があります。また、(微)生物を殺滅させる効果のある化学物質はヒトの細胞にとっても破壊効果があります(註8)。韓国でおこった「加湿器殺菌剤事件」で死傷者が200人以上でた事件がよい例でしょう(註9)。

  • 註8:消毒液は微生物の外壁(細胞膜など)を壊すことによる殺菌効果のある化学物質であることを忘れてはいけない。
  • 註9:加湿器に使う水は雑菌が繁殖しやすい。そこでPHMGという殺菌剤を水に入れ、混ぜたものが蒸気となりヒトが吸い込み人体に悪影響が出た。

『最近の外傷の手当の仕方は、消毒液の塗布より、外傷により皮膚に着いた微生物や汚れを機械的に落とす(ブラシと石鹸で水洗いする)。そして、表面を覆い(註10)傷を保護する。これが結局一番傷の治りが早い。消毒液など要らない。傷や粘膜以外の消毒で一番有用なのはエタノール(70~80%液)で芽胞以外には殆ど作用し、速乾性なので残留性がないので一般家庭ではおすすめ。』

消毒ではないのですが実は日本では一番効果的な感染予防を小さい頃から教育しているのです:つまり、手洗いとうがい。薬剤を使うのではなく(註11)、水や普通の石鹸で機械的に病原菌を含む、汚れを落とす。このコラムの24人の読者様はしっかり手洗いとうがい、できますか(註12)?


 

 

錯覚してますよね:柔軟剤編

By: Kazusei Akiyama, MD

Late Afternoon. São Paulo. Caju©2019


2019年5月

錯覚してますよね:柔軟剤編

 

我々の生活の中では「良いと思って」錯覚しているものが結構あるのではないかと思われます。これらに焦点をあてる「錯覚してますよね」シリーズの第三弾は「柔軟剤」です。

柔軟剤とは洗濯した後に、その洗濯物に柔軟性を与える仕上げ剤の事です(註0)。このコラムの24人の読者様も使用された事があるでしょう。一般的な洗濯は合成洗剤+柔軟剤のセットでする事がほとんどでしょう。言葉のとおり、柔らかく仕上げる。さらに最近では「柔軟剤の香りを楽しむ」などという「流行」も現れてきてますね(註1)。メーカーやマニアが発信している情報をみていると、柔軟剤はなんかメリットだらけの素晴らし製品のようにみえます。主な効果はもちろん「洗濯物をフワフワに柔らかく仕上げる」ですが、それ以外に、香り、防臭、速乾、静電気ガードがあるということです。これだけ良い効果があるのだから、使わない手はないですよね。

  • 註0:食品添加物の柔軟剤もありますが、ここでは洗濯用の話です
  • 註1:ネットでは「柔軟剤マニア」なる表現も見当たります。

でも、少し考えてみたら、洗濯の仕上がりが「硬く」なるから「柔らかく」する必要が出てくるのがわかりますね。そう、まず問題が前述セットの合成洗剤の使用で洗濯物が硬くなるところから始まると考えます。合成洗剤はどうしても化学的に繊維にダメージをあたえ、残留性も高いので、繊維元来の柔軟性を減らしていきます。また、洗濯行為そのものも硬くする効果があります。ドラム式だと叩き洗いになるので、繊維のパイルが寝てしまい硬くなります。これはタオルで顕著に表れる。縦型渦巻き式は一般的にすすぎが足りなく、洗剤が残留してしまいがちです(註2)。

  • 註2:日本で使用されている洗濯機では1時間以内に全行程終了が普通だが、ちゃんと洗って、濯げてるのか?

そこで考案されたのが柔軟剤です。内容は基本的に界面活性剤です。界面活性剤の問題は「錯覚してますよね:洗剤編」で取り上げました(2018年9月号)。厳密に言えば、洗剤は陰イオン界面活性剤で柔軟剤は陽イオン界面活性剤で別物ですが、「界面活性剤」である問題性は同じです(註3)。つまり、細胞毒であるものを日常的に使用する問題ですね。柔軟剤は衣類の繊維を界面活性剤がコーティングし、繊維がバラバラになったまま乾燥するのが作用機序です。また、陰イオン界面活性剤は殺菌効果があるので、臭いの原因の菌の繁殖を抑えるとうたわれます。

  • 註3:洗剤の界面活性剤は陰イオンであるため、洗剤を使うと洗濯物がマイナスの電気を帯びます。柔軟剤の界面活性剤は陽イオンで、プラスの電気を帯びてるので繊維の表面をコーティングする。

『これらの効果がでるのは、勿論洗濯後、「衣類に残る」大前提があるのだな。筆者の考えではここに一番の問題があると考える。柔軟剤を使用した衣類を着用すると言う事は、構成する化学物質にずっと接触していると言うことなのだ。最近流行の製品は「しっかり1日中香る」など、「取れない」工夫がさらにしてあるので、ばっちり服についてますよ。で、皮膚から吸収される。経皮毒になる。』

ということで、良いことずくめの柔軟剤ではありません。実際次の問題点が指摘されてます:

  1. 皮膚炎をおこす。経皮毒以前に接触性皮膚炎をおこす可能性がある(註4)。
  2. 衣類によっては悪効果がある。繊維をコーティングすることで、「綿」は吸収性を失う。タオルがフワフワ仕上がるけど、吸水である元の機能が失われ、本末転倒?スポーツやアウトドアなどに使う機能ウエアは吸汗や撥水効果が低下する。毛があるモノは柔軟剤により繊維が貼り付いてしまうのでかえってベタついた仕上がりになる。化学繊維は繊維そのものがダメージをうける事がある。
  3. 洗濯機が臭くなる。最後のすすぎに柔軟剤をいれるので、残留物に雑菌が繁殖しやすくなる。殺菌効果があるというが、これも本末転倒?
  4. 環境問題。界面活性剤そのものが自然界で分解されにくい。香料、溶媒、染料、防腐剤、等も環境汚染を起こす。また、製品が入っている「プラスチック容器」も廃棄物になる。
  5. 匂いによる健康被害。10年ほど前より頭痛、吐き気、咳、倦怠感などの報告が増えているいる。香料そのもののアレルギーは良く知られた現象である(香水アレルギー)。上3の臭くなるのを香りで打ち消す。これも本末転倒。持続する香りを楽しんで…(註5)
  • 註4:実際診察した症例で、三ヶ月歳の赤ちゃんの顔半分に発疹がでているのがあった。これは抱っこした大人の服に柔軟剤が使用されていて接触してからだと考えられる。
  • 註5:下水道がちゃんと整備されてないサンパウロ首都圏を通過するチエテ川(下水が流れ込んでいる)の下流に行って匂いを嗅いでみたらわかります。匂いを通り越して悪臭ですね。

『本末転倒な柔軟剤について考えると、実は我々が行っている洗濯の仕方を考える必要があると思う。衣類が傷む洗剤を使い、そのため柔軟剤でコーティングし、そのためアイロンがけの時に滑りやすいようにアイロンスプレーを使う。メーカーは喜ぶよなあ。石鹸と少しの酸(酢やクエン酸)で十分洗濯できるのに…』

筆者が医師としておすすめできる洗濯方法は:石鹸(粉、日本には液体もある)を使う。柔軟剤として弱酸性の液体(酢、クエン酸)を使う(註6)。こうするとアイロンは単なる水をスプレーするだけで十分できます。洗濯物で一番ゴワゴワしやすいのがタオルですが、これは幾つか手間をかけると上手に仕上がります:石鹸+弱アルカリ性液で洗濯するが、タオルだけ余裕をもって別に沢山水を使うコースで洗う。脱水をあまりキツくしない(800rpmくらい)。脱水が終わったらできるだけ早く干す。干す前にパイルを立たせるため勢いよくはたくように20回ほど振る。半乾きになったら乾燥機にいれるとフワフワになる。

  • 註6:石鹸は弱アルカリ性なので、最後に中和するモノを使うとふんわり仕上がる。酢、クエン酸はどちらも食用なので経皮毒がない。

『酢を使っても匂わないです。また、洗濯物に香りをつけたい方は、上の「弱アルカリ性液にアロマオイルを数滴入れる方法」と「乾いた洗濯物にピローミスト等をスプレーする方法」があります。騙されたと思って一度試してみてください!』


 

旬という概念、わかりますか?

By: Kazusei Akiyama, MD

What a view! Harukas. Caju©2019


2019年4月

旬という概念、わかりますか?

このコラムの24人の読者様は毎日数回食事をされてますよね?当たり前のように「食べている」訳ですが、多分健康に良い食事をするように心がけている方が多いのではないかと思います。何をどう食べたら良いか、何は摂りすぎたら良くないとか考えますよね。しかし、なぜモノを「食べるか」わかってますか?

巷で「どうして食べるか」聞いてみると、一番多い回答は「空腹になるから」でしょう。また、「食べないと力が出ない」とか「健康を維持するため」なども答に挙がるでしょう。当たり前すぎて「どうして私たちは食べるのか」あまり考えないですね(註1)。ここで筆者が一番大事な答えと考えるのが、もっと当たり前の「食べないと死ぬから」です。これを見落としているから現在の「変な」「本当に健康なのか」「これで大丈夫なのか」食生活をしているのではないかと思います。

  • 註1:実際あまりこの手の研究もない。

そう、当たり前でしょ?食べないと死ぬ。食べないと生きられない。食べることは生きることだ。ここに来ると、生きるとは何か?になりますね。極限まで縮小すると、「生きるとは他の生き物を体内に取り込む」ということです。最近、特に都市部の生活では、食糧の生産現場と消費現場の隔たりが大きいですし、食品を加工することで「元の形」を連想しにくくなった等、生き物を食べるといった行為に対する認識がとても薄れているのではないでしょうか?生あるモノは死ぬ。これは絶対的なお約束です。生きると言うことは死なないようにすると言えます。

では他の生き物を取り込むとはなにか。我々は生物として環境から色んな分子を共有してます。例えば今、読者様の血液内を移動している「ブドウ糖」、これは炭素と水素で構成されてます。ブラジルであれば、サトウキビの砂糖が一般的なのでサトウキビ由来のブドウ糖としましょう。サトウキビ畑を取り巻く空気中の炭素がサトウキビに取り込まれ、砂糖(ショ糖)になり、これを人間が食べて体内で代謝され、二酸化炭素と水になり、呼吸によってまた大気中に戻されます。つまり、炭素や水素や窒素や酸素などの分子が生命体と環境の間を行ったり来たりして生命活動を継続しているのが「生きている」という事なのですね(註2)。

  • 註2:我々動物は大きく分けて、組織を構成・維持する物質(主にタンパク質、アミノ酸)、組織を稼働させるエネルギー源になる物質(主に炭水化物と脂質)、これらを円滑に機能するのを担う物質(ホルモン、免疫物質、ビタミンなど)の三種類の物質を生きるのに必要とします。これを肉を食べたり、野菜を食べたりして取得し、体内で吸収・消化・消費してます。肉も野菜も全て元は生き物です。

ここで重要なのが、我々は環境の賜物である事実です。アミノ酸などが作られた環境があるから、生き物がある。その反対ではない。だから、人類も永い間、環境が造ってきた結果であると考えられます。筆者も読者様もその環境の特徴に最も順応・適応してきた産物の子孫なのですよ。なので、環境がもたらす食べ物が一番生体維持に向いているのです。例えば最近冬に日本へ行くと、「イチゴ」が山の様に売ってます。苺って春の食べ物じゃなかったでしたっけ?このような例は一杯ありますが、現在は元の季節でない食べ物が日常的に入手できるようになってます(註3)。また、もてはやされてます。これが現在の食に関する「体調を壊す一因」になるのではないかと思います(註4)。旬の食べ物に注意しなくなったとも言えるのではないでしょうか?

  • 註3:元の季節でない時期に出荷することで高価になったり、収入を維持できるため生産者が頑張った結果や、地球規模の流通が発達しその場所の季節とは関係ないモノが手に入るなどのためですな。
  • 註4:その他に「食事の仕方」や「工業的に加工した食品」に関する原因もありますが、これは別の機会にひとりごとします。

広辞苑で「旬(しゅん)」をひくと、意味の一つに(註5)「魚介・野菜・果物などがよくとれて味の最もよい時。」があります(註6)。これは旬の食べ物を摂る事によって、最も生命の維持が効率がよい事を示します。我々はその時期に採れるモノを食べて出来上がった動物なのです。表に旬と食べ物の特徴をまとめてみました。

どんな食べ物? どうして食べるの?
苦いモノ。山菜や野草。 冬の間に体内に溜まった老廃物排出を促す。
水分や酸味が勝モノ。キュウリ、茄子、トマト、スイカなど夏野菜や夏果物。 身体を冷まし、暑さを和らげる。
カロリーが高めのモノ。秋の魚(サンマ、イワシ、サバなど)は良質の油を提供する。 寒い冬に備え、身体を整える。
寒さから身体を守る食材。人参、ダイコン、ゴボウ、レンコンなど根菜類。 身体を温める効果があるモノをとって冬を乗り越える。

 

『旬の食べ物を無視して生活している現在、生命の維持に脅威ではないでしょうかね?』


  • 註5:もう一つの意味が「旬儀」の略で、古代、朝廷で行われた年中行事の一つ。
  • 註6:同じ漢字を「じゅん」の読みにすると、時間の単位になり、10日、10ヶ月、10年を示します。旬という字を調べていて関心したのが、「筍」タケノコという漢字です。たけかんむりに旬。竹が芽を出して、10日経ったモノ。なるほど。

 

医者との会話、どうしますか?

By: Kazusei Akiyama, MD

Flame. Ookawa. ®Caju2018

2019年1月

医者との会話、どうしますか?

謹賀新年。丁度キリの良い、101回目のひとりごとで始まる新年です。毎年年末になると、その年の新語・流行語大賞なるものがメディアで発表されます。去年の大賞が冬期オリンピックで使われた「そだねー」だそうです(註1)。どうやって選定されるのか、周りの日本人に聞いてみても意外と皆知らない言葉や言い回しが多いと思われますが、24人の読者様ご存じですか?説明聞いてやっと「あーそういえば」的な。

  • 註1:現代用語の基礎知識選2018ユーキャン新語・流行語大賞、詳細ははhttps://www.jiyu.co.jp/singo/に載ってます。

年間大賞語:「そだねー」

トップテン:「eスポーツ」、「半端ないって」、「おっさんずラブ」、「ご飯論法」、「災害級の暑さ」、「スーパーボランティア」、「奈良判定」、「ボーっと生きてんじゃねーよ!」、「#MeeToo」

『でも、2018年の流行語は「平成最後の」ではないでしょうかね?』

で、この大賞のトップテンを読んでると、一つとても共感するのがありました。法政大学の上西充子教授が編み出した「ご飯論法」というもので、日本でおこっている不誠実な国会答弁をたとえたものですが、なんと医療の現場にもあるのです、これをやる患者さんが。

 

ご飯論法は次のように展開します:

Q「ご飯は食べなかったんですか?」

A「ご飯は食べませんでした。(パンは食べましたが、それは黙っておきます)」

Q「何も食べなかったんですね?」

A「何も、と聞かれましても、どこまでを食事の範囲に入れるかは、必ずしも明確ではありませんので…」

Q「では、何か食べたんですか?」

A「お尋ねの趣旨が必ずしもわかりませんが、一般論で申し上げますと、朝食をとる、というのは健康のために大切であります。」

Q「いや、一般論を伺っているんじゃないんです。あなたが昨日、朝ごはんを食べたかどうかが、問題なんですよ。」

A「ですから…」

Q「じゃあ、聞き方を変えましょう。ご飯、白米ですね、それは食べましたか?」

A「そのように一つ一つのお尋ねに答えていくことになりますと、私の食生活をすべて開示しなければならないことになりますので、それはさすがに、そこまでお答えすることは、大臣としての業務に支障をきたしますので。」

 

つまり、「朝食」という意味での「朝ごはん」を摂ったかどうか聞かれているのに、「ご飯=白米」にすり替えて「食べていない」と言い、「パンを食べた」事実は明かさない。あとは何を聞かれても、一般論でごまかす。ということです。

 

診察室で実際におこったケースで展開してみると次のようになります。

Q「お酒は飲まないのですか?」

A「日本酒は飲みません。(ビールは飲みますが、それは黙っておきます)」

Q「何も飲まないのですね?」

A「何もと言われても…仕事の付き合いで少しは飲まないといけない時もありますけど。」

Q「では、飲酒されますね。」

A「いやあ、飲酒といわれる範囲がちょっとわかりませんが、仕事でのお付き合いは重要なのです。」

Q「仕事の話をしてるのではないのです。あなたがお酒を飲むか飲まないかが問題なのですよ。」

A「ですから…」

Q「じゃあ、聞き方を変えて、理由はともあれ、アルコールが入った飲料は飲まれますか?」

A「そのように私の生活の内容を全て言わないといけない事はちょっとプライバシーに関わりますので…」

 

『ここまで来ると、「一体何しに医者に来たの?あんたの健康の話だろ!」と、速効で「医者患者関係(註2)が悪くなるのだな。』

 

健康で医者に行かずにすむ一年になるのが好ましいと考えますが、もし受診する必要がある場合、医者とご飯論法式の会話するのは絶対に止めましょう。診断に至る判断を誤る事になりかねませんし、結局損するのは患者さん本人なのですよ。ということで、今年もどうぞよろしくお願いいたします。


 

社会全体の取り組みが必要です。

By: Kazusei Akiyama, MD

Transparency. Nakanoshima. ©Caju 2018


社会全体の取り組みが必要です。

2018年12月

今回はまずこのコラムの24人の読者様へのお礼からです。本稿でひとりごと100回目になりました。毎度のご愛読とお付き合いありがとうございます。実は自身でも驚きですね。よく言われるのが、「まあこれだけ話題があるものだ」ですが、人間の生活をテーマに書いているのでネタは無尽蔵にありますね。丁度良い機会なので、前号全てを振り返って見たのですが、以外と今まで展開したことのない話がありました:「未病」についてです。

『最近では日本のK大臣が不正広告をした事件でその広告に出てくる著書が「未病云々」で、折角の漢方用語が不名誉な話に出てきてハラハラしながら見てます。まあ、ただ「広義の未病」を言っておられるようなので、必ずしも漢方医学の「未病を治す」知恵とは少し範囲が違う感じがします。未病とは「未発の疾病」のことで、大臣の場合、病気になるのを防げたら医療費削減になる、寿命が延びるなどを言っておられる。これに行き着くのに、定期健診(註1)や食事指導など予防医学的な手法をもってするというそうです。』

  • 註1:トイレにセンサーをつけて健康状態を把握するといった提言もありますな。

ただし、「未病を防ぐ」のと「未病を治す」(註2)のでは大きな違いがあります。「防ぐ」は「治す」の一部でしかありません。漢方医学の教科書をみると未病を治すとは①疾病に対する予防、②早期治療、③疾病の発展傾向を掌握する、とあります。西洋医学の予防医学の概念では予防は一次から三次まであり、次のように考えられます:

  1. 一次予防が公共政策などで実施される健康保持で、市民全体を対象にした予防接種、水道水のフッ素添加など;
  2. 二次予防が特定の人口に対する健康状態把握で、企業の定期健康診断、妊婦健診など;
  3. 三次予防が既に診断がついている疾病の治療で、慢性の糖尿病や高血圧症などを早期治療して悪化・進化させないなど、

になります。この観点からみると、西洋医学的な考え方では漢方医学の①と②にあたり、③はありません(註3)。

  • 註2:「みびょうをちす」と読みます。。
  • 註3:この「発展傾向」は現在進められている遺伝子解析で試みられているが、疾病全般的にはほど遠い。

勿論1次から3次予防は重要です。日本人の疾病構成に大きな影響を及ぼしたのが「減塩政策」であるのは記憶されていると思います。それにより、「脳血管疾患」による死亡(註4)が1960年代から1970年代には1位だったのが、現在3位までに後退した原因とされてます(図:日本国厚生労働省人口動態統計資料より)。

  • 註4:この場合、脳溢血、脳出血による死亡の事ですね。

しかし、一番難しく、かつ挑戦的であるのが漢方医学の「傾向把握」です。言ってみれば、これこそ未病を治す知恵の一番根幹にある部分ではないでしょうか?東洋医学の古い本には「上工(註5)は未病を治すとは何ぞや。師の曰く、夫れ未病を治す者は、肝の病を見て、肝脾に伝うるを知り、当に先ず脾を実すべし。」(註6)と出ています。これを現代風に考えると、現在患者さん(健康人でもいいです)の状態と置かれている取り巻く環境の考察が治療(あるいは健康維持)に重要になると言うことでしょう。

  • 註5:工とは昔の中国で医師の呼び方。「下工は症状を治し、中工は病原を治し、上工は未病を治す」とある。
  • 註6:東洋医学の五臓六腑の概念では肝と脾は相剋関係にあるので、肝の病が溢れて脾を傷付ける。紙面の関係で詳しく書けませんので、知りたい方はネットで「漢方相剋関係」を検索してください

簡単な例を挙げると、仕事のストレスで心身症に罹患している場合、個人に向精神薬を出すことも重要ですが、仕事環境の改善をしないと完治は見込めません。また、全ての仕事をしている人がストレスになる訳でも、またストレスになれば心身症になる訳でも無いのは、個人差や環境差があるのは理解できます。さらに大きく地域や行政単位で考える事も可能です。例えば現在日本の人口の四割以上が発症している花粉症、これは杉花粉に対するアレルギーが多くを占めてます。一般的に、特に行政サイドからは、杉花粉が大量にあるからだと言われてますが、全くの見当違いだと思います。アレルギー疾患はある抗原に対し身体が感化すると、その抗原に接触すると多い少ないに関わらず発症します。抗原が多いとは「接触する機会が増える」だけで、多いために発症しているのではないのです。従って、正しい対策方法は「抗原(杉花粉)を減らす」のではなく、「アレルギーにならない身体造り」なのです。この考え方を社会全体で共有しているかというと、残念ながら見当たりません…

診療所では個人的に考慮した健康法や食事指導などを行ってますが、あまりにも「周りの環境」が要改善なので、効果は限定的になってしまいがちであると医療現場で感じます。現在人類は「平均寿命が増えているので良し」とする傾向が強いと思われますが、健康な、地球が持続可能な、寿命の増加なのでしょうか?ブラジルにはenxugar o gelo氷を拭う(註7)という表現がありますが、そうならないように現時点では未病を治するには、患者さん個人の努力もさることながら、社会を構成する組織、企業、行政なども全体になって取り組む必要があるというのがひとりごとを100回して強く感じる結論です。

  • 註7:どこまでやっても終わりが無い、いつまでたっても十分でない等の意味。

 

またグチャグチャになりました。

By: Kazusei Akiyama, MD

Many bugs. Serra do Cipó. Caju© 2016


2018年11月

またグチャグチャになりました。

丁度この原稿執筆中にブラジルの金融決済システムに障害が出ました。サマータイムのせいです。というか、なるべきサマータイムがならなかったからです。ここまではこのコラムの24人の読者様の内ブラジル在住でない方は何の事か判らないですよね。説明します。当地では1985年よりサマータイムが実施されてます(註1)。現在の地域と方法でのサマータイムは2003年よりですが、2007年に政府が法制化し現行の実施になりました。毎年10月の第3日曜日から翌年2月の第3日曜日まで(註2)の期間、図の地域、ブラジルの約南半分で時間を一時間進める政策です。つまり国内でも時間が早まる場所とそうでない場所がでる訳です。今年は1021日開始の予定でした。ところが、今年は10月に大統領選挙があるのと、11月にENENという日本のセンター試験にあたる大学受験用の試験があるので、時間がいつもと違ったら都合悪いだろうと現行の規則を変える迷走があり(註3)、結局政策実施直前の103日に114日開始に変更すると政府発表があったのです。

オレンジ色の部分がブラジルサマータイム実施州。

  • 1:最近のサマータイム政策は1985年以来。ブラジルで初めて実施されたのは1931年で何回かの中止があった。
  • 22月の第3日曜日がカーニバル期間中にあたる場合はその次の日曜日に延期。
  • 3114日開始案と1118日開始案があった。

サマータイムは元々夏期の日照時間が長いのを利用して電力の消費を減らすのを目的にした政策です。産業活動を一時間早く終わらす事で照明の節約になり、夜間の電力の消費を減らすのが一番大きな効果ですが、その他に午後の明るい時間が自由になり、余暇の充実や活動時間が増え経済の活性化がある等がこの政策の根拠となってます。その反面、次にリストアップするような反対論も多々あり、今回ブラジルでおきた障害はコンピュータのシステムの調整と変更に関する問題そのものでした。

サマータイム反対論の根拠

  • 犯罪が増える:午後の日照時間が増えることは朝が早い事を意味し、暗い内に出勤や登校する事になり、犯罪が増える(註4)。
  • 交通事故が増える:時間切替時に交通事故増加の報告がある。
  • 大気汚染が酷くなる:夜明け前にラッシュアワーが生じ、日中より酷い大気汚染がおきる。
  • コンピュータの更新の移行コストがかかる、障害が出る可能性がある:今回のブラジルの例。
  • 寝不足になる:時間の切替で睡眠期間が移動する訳ではなく、どちらかというと同じ時間帯に寝て、早く起きるので一般的に寝不足になり、寝不足関連の健康障害が現れる。
  • 心臓発作が増える:開始直後に顕著に認められる。
  • 精神疾患が増える:鬱が増える報告があったり、自殺率の増加が認められる。
  • 4:実際バイア州ではサマータイムを実施したところ、この手の犯罪が増えたので中止した実績がある

『最近のコンピュータのシステムは時間の変化を上手く扱えるようになってきている。スマホ社会で世界を飛び回る現在に対応できるようになってるのは実感できますよね。なので、今回もブラジルが初めから取り決めの日時にサマータイムを実施していれば問題なかったのだ。それを直前に変更するからシステムの調整が間に合わないで障害が起きたのだな。ブラジルならではの現象と言えるぞ。』

電力の節約で始まったサマータイムも、社会構造や生活環境の進化で「さほど節約にならない」事が判明してきてます。最近はエアコンが普及し、夏の暑い午後や夕方に電力を大量に消費するためで(註5)、そうなると照明の電力の節約など意味が無くなってきたのですね。この様な事情に加え、生活や健康に多大な影響があるサマータイムはどちらかというとヨーロッパを始め、世界的には廃止の傾向です。ブラジルでも例外ではなく、電力節約効果が乏しい、健康に害がある、治安の問題があるなどの理由で廃止法案が国会議会を通過中です。

『と、この様に是非が問われるサマータイムだが、それを日本で導入すると議論になってますな(註6)。次の東京オリンピックのマラソンが過酷な暑さの中開催するのは良くないだろうという理由だそうだ。サマータイムにすると開催時間を早める事になるし、電力も節約するので一石二鳥とか言ってるけど。日本の夏は高温多湿なのでガンガンクーラー使ってるので暑い午後が増えるとかえって電力使うのではないかな?今年の殺人的な7月の猛暑では午前7時前に既に気温が30℃超えてたので、時間早めるのであれば3~4時間くらい早めないと効果ないのでは?まさに「焼け石に水」ですな。(笑)』


論文 (1995): Entre Dois Mundos(二つの世界の間で)

Between Two Worlds. Tokyo. ©Caju2009

By: Newsroom CKA

1995年にサンパウロ大学発行のRevista USPの日伯友好100周年記念の特集号に記載された院長の論文。この文章の一部はColégio Pueri Domus学校6年生用の地理の教材に使用されてます。

出典: Akiyama, K. (1995). Entre dois mundos. Revista USP, (27), 68-73. https://doi.org/10.11606/issn.2316-9036.v0i27p68-73


全文はこちらでご覧いただけます(ポルトガル語)。


 

錯覚してますよね:牛乳編

By: Kazusei Akiyama, MD

Hill Town. Ouro Preto. Caju© 2018.


2018年10月

錯覚してますよね:牛乳編

我々の生活の中では「良いと思って」錯覚しているものが結構あるのではないかと思われます。これらに焦点をあてる「錯覚してますよね」シリーズの第二弾は「牛乳」です。

牛乳は完全栄養食品と言われ、発育に良いため、日本の学校給食では国の規則により必須の食材です。小さい時からの教育(註1)で「牛乳は飲むほど健康に良い」と思っている人は多いと思われます。ブラジルでは脂肪分が多いのが問題とされてますが、当地でもどちらかというと優等な食品である旨肯定的な意見が多くみられます。カルシウム源として重要であるので、発育や骨粗しょう症予防のためにできるだけ沢山牛乳や乳製品を摂りましょうといったところですね。元々日本人は乳製品は摂らなかったのですが、太平洋戦争後、いわゆる食の欧米化の先陣としてパンと一緒に日本に入った歴史があります。牛乳の成分は主に水分、タンパク質、脂質、炭水化物、ビタミン、ミネラル、必須アミノ酸、と栄養価が高い食品である事は事実でしょう。問題は栄養価値が高いか?という所にあるのではないかと考えます。

  • 1:あるいは強制、強迫、日本の学校では牛乳を飲む事を強要するので、牛乳嫌いな人にとっては学校生活の非常に苦痛な事の一つですね。

『誰が、どの様に使うか。で価値があるかないかになるな。』

牛乳、特に大量生産されたのには色々問題があります。表にリストアップしてみました。

問題・事実

健康と関連

説明

日本人種に牛乳は合わない

下痢、腹痛

アジア人は欧米人に比較して、乳糖を分解する酵素(ラクターゼ)が少ない、無い

高脂肪高蛋白食である

牛乳のみならず、高脂肪高蛋白食は癌の発生を高める

カルシウム、リンが多く、マグネシウムが少ない

発育、骨粗しょう症、腎臓結石、精神疾患

大量にカルシウムを摂取するのはメリットではない。カルシウムは生命の危険に関する物質であるので、体内の量を調整する機能が強く働き、過剰摂取した分は必ず排泄されるし(結石になる確率が増える)、リン酸カルシウムになり体内に沈着する。牛乳を大量に摂取する社会では骨折が多い研究結果がある(註2)。

飽和脂肪酸が多い

肥満、高脂血症、血液ドロドロ、動脈硬化

生産者はできるだけ乳脂肪分の多い牛乳を目指す。血液粘度が高くなる。

エストロゲンなどホルモンが多い

女性化、女性ホルモン依存の癌、前立腺癌

生産性を高めるため、妊娠した牛が好んで使われるため、女性ホルモンが多い。

成長因子IGF-1が多い(註3)

乳癌、大腸癌、前立腺癌

IGF-1の増加は、 早期の癌に対抗する自然の体の防衛メカニズム(アポトーシス)を阻害する

牛の飼育は狭い牛舎で行われる

化学物質摂取

牛のストレスがたまる、糞尿もまみれた生活である、病気になり易くなるので、抗生剤が投与される。

牛のエサは自然ではない

生活習慣病、精神疾患?

元々牧草を食べる牛が遺伝子組み換え由来の穀物を食べている。(註4)

乳糖不耐性がある

消化器疾患

ラクターゼが無い場合。

カゼインが多い

アレルギー疾患、アトピー、喘息

腸内pHを高くし、善玉菌を減らし、悪玉菌を増やす。そのため腐敗作用が有意になり、腐敗のため色んな毒素が発生する。(註5)

高温殺菌をする

腸内環境の変化

カゼインが変性して、代謝されにくくなる。乳清(ホエイ)が変性して腸内で乳糖の代謝に変化がおこる。

  • 2:牛乳にはたんぱく質が多く含まれ、それらが代謝されて大量のアミノ酸になる。体内でアミノ酸が多いと、血液が酸性になり、身体はそれを中和するため骨の中のカルシウムを溶かしてしまう。
  • 3:インスリン様成長因子。
  • 4:穀物は牧草に比べ、脂質が多いので、乳脂肪を多い牛乳が生産出来るので、コストのメリットに増して、製品の品質のメリットもあると好んで使用される。
  • 5:アンモニア、フェノール、インドール、硫化水素、など。

UHTミルク、いわゆるロングライルミルクを消費するのは論外だな。殺菌処理のため、栄養素が激減する(そのため、元々そのためである子牛に与えると1週間程度で死亡するといった研究がある)し、防腐剤も摂取する事になるからな。』

子牛は生まれた時は50kg程度ですが、2年で500kgの成牛になります。牛乳は子牛のための完全栄養食品であることは間違いないでしょう。身体が早く大きくなるための物質が満載です。それを反対に考えると、「早熟」「早老」を促すモノでありますね。なので、人間でも成長している時期には有用かもしれませんが、生涯をとおしては上の表をみても判るように疑問点が多くみられるのではないでしょうか?ではカルシウム源どうするか?の質問が出そうですが、いくらでももっと安全な代替品があります。(註6)。

  • 6:カルシウムの件はまたの機会にひとりごとしましょう。

『一般的に購入できる「大量生産された牛乳は危険であるので一切飲むな」、とは言わないが、質と量を考えて適量(成人の場合は嗜好品程度)摂取するのが良いのではないかと思う。質は広々とした牧場で牧草を食べている牛の高温殺菌してない絞りたて牛乳が理想的だけと、普通の生活してたらなかなか入手できないですよね。なのでやはり量を制限するしかないですな。』