錯覚してますよね:洗剤編

By: Kazusei Akiyama, MD

Half Moon. Sao Paulo. Caju©2018


2018年9月

錯覚してますよね:洗剤編

 

我々の生活の中ではあまりにも普及していて、あって当たり前のようなモノが多々あります。それらには本当に便利であるため、生活の足しになるモノも沢山あります。しかし、はたして便利であるのか、無くてはないモノなのか、生活の質を高めているのか疑問が出るモノも色々あると考えます。そう言った目で見れば、周りには我々が「良いと思って」錯覚しているものが結構あるのではないでしょうか?これらに焦点をあてる「錯覚してますよね」シリーズを開始します。

シリーズ第一弾は「洗剤」です。言葉のとおり、「洗う」ための「汚れをおとす」ための製品の総称ですが、現在ではほぼ「合成洗剤」の事を示します。人類の歴史で一番古い洗剤は「石鹸」ですが洗剤とは言わないですね。いわゆる洗剤の主作用は「界面活性作用」であり、油を含む汚れを水に分散させる作用が洗浄能力になります(註1)。合成洗剤は第一次世界大戦中にドイツで発明されたとされており、先進国での現在のような普及は洗濯機の普及と関連があると言われます(註2)。1950年代には石油を原料にした合成洗剤が普及し始め、洗濯や掃除のみではなく、食器洗いや身体を洗う製品などに発展しました。

  • 1:水に溶ける汚れは水洗でおちるので洗剤は不要。
  • 2:洗浄力が強く、石鹸に比べ、水溶性に優れ、石けんカスが発生しないため。

『そう、髪の毛を洗うシャンプーやボディーソープは食器洗い洗剤や液体の洗濯洗剤、掃除用洗剤と同じである。これを知ってる人はあまり多くないのがびっくりだな。この話をすると全然違う物質であると思っている人が多い。濃度や添加物などが違うだけで、基本的な界面活性剤は全く同じなのだ。思うに石鹸が廃れた原因は、使用開始(泡立てる)するのに合成洗剤より時間と手間がかかる(といっても数秒の話ですけどね)のと、巧みな宣伝のためではないか。非常に強い洗浄力があるので、それをうたい文句にできるし、石鹸使用の難点とされる石けんカスが出ないので、念入りに水洗いしなくても仕上がる所も良かったのでは?』

『そのかわり、食器に残留して、食べ物と一緒に体内に入ってくる。』

ということで普及してます、合成洗剤。

しかしそのために幾つか問題が出現しているのですが、24人の読者様は承知されてますよね。一つが環境汚染。また、身体への毒性。合成洗剤は残留性が高く、自然界で分解されるのに時間がかかるため、下水で排出されたものが「発泡」という現象として現れます。

写真1と2:サンパウロ市の下流のチエテ川の発泡

写真1:Pirapora do Bom Jesus市、2015年。

写真2:Salto市、2017年。

動画:サンパウロ市より約70km下流のチエテ川(2024年10月)

下水道が整備された先進国では発泡はおこらなくなっているようですが、下水処理でも分解しきれなく、汚泥中に残留してしまいます。界面活性剤は細胞膜を不安定にさせ、最終的には細胞膜を破壊してしまうので、有毒性の物質と認定されます(註3)。問題はこの界面活性が持続する合成洗剤は環境中に一定濃度以上あると生物毒になることです。石鹸ももちろん界面活性剤ですが、水中の硬質(カルシウムやマグネシウム)と反応し、石けんカスになってしまい、素早く不活性化されます。また、石けんカスは自然界の細菌や魚のエサになってしまうので、残留しにくいのが大きな違いです。

  • 3:生物の細胞は細胞膜表面で物質代謝を行う。細胞膜は繊細な界面で成立しており、界面活性剤はこの機能を破壊する。

『ここで大きな錯覚が、「合成洗剤の方が汚れがよくおちる、簡単におちる」だろう。確かに洗浄力は強力なのだが、石鹸より優れているとか、何倍ものものでもない。しかし、物質の性質上、接触するものにダメージをあたえてしまうし、(註4)、色んな添加物が入っているのでそれら物質(註5)の毒性もあるし、その対策が必要になってくるのだな。洗髪の場合はシャンプーの後、リンスでコーティングするわけだな。洗濯の場合は柔軟剤をつける。食器洗いの場合は手袋を着用する。そうすると今度は「対策」の物質の毒性に直面する事になるのだ(註6)』

  • 4:皮膚の場合、炎症をおこす、髪の毛の場合、ツヤがなくなり細くなってくる、洗濯物の場合、繊維がゴワゴワしてくる、等。
  • 5:洗浄力増強剤(水軟化剤、キレート剤、pH調整剤、アルカリ剤、分散剤等)、保持剤(泡調整剤、溶剤、安定化剤)、その他(酵素、蛍光増白剤、 漂白剤 )、香料、染料、柔軟剤など。
  • 6:ゴムにアレルギーを起こす;柔軟剤も界面活性剤なので、それがずっと皮膚に接触しているので経皮毒になる。

『皆さん、石鹸でも十分に汚れ落ちますよ。』

『食器も洗えるし、洗髪、掃除、洗濯もできます。何より手や頭皮の皮膚が荒れなくなります。抜け毛減る、髪の毛のボリュームが増えるなど髪の元気が戻るとの報告があります(註7)。環境にも優しい石鹸は(註8「次世代にどんな地球を残したいか」を考えておられる子供さんのいる家庭の味方と言えるでしょう。嫌がられる石けんカスはちゃんと「すすぎ」ができたか判る材料になりますね。目からうろこですよ。』

  • 7:これはある程度使い続けないと効果が現れない。
  • 8:石鹸も環境問題がない訳ではない。例えば原料となるヤシの木の栽培のため、熱帯雨林を伐採している地域もあり、問題化。

ではどの様に石鹸を使うか、次に提案です:

台所:石鹸はブラジルではCoco石鹸が良いとされるが、洗濯石鹸でも使えます。石鹸もさることながら、食器洗いで重要なのは、「まず機械的に汚れをおとす」事で、これには「たわし」や「食器洗いブラシ」を使います(註9)。油などは、あらかじめキッチンペーパー等で大まかとっておきます。普通のスポンジで水たっぷりで泡立て、洗い、石けんカスが残らない様水洗いして終わりです(註10)。

『面白い事に、始めはあまり上手くいかない。理由は水の量だな。洗剤で洗う時の水の量で使うと、少ないので泡が立たない。石鹸使う時は、水たっぷりが重要です。』

  • 9:このやり方は最近の医療でも見直され、外傷の手当には「赤チン」の塗布ではなく、石鹸とブラシで洗い流すのが最も効果的。
  • 10:これで合成洗剤が残留した食器で食べる事が避けられる。

洗髪:シャンプーは石鹸シャンプーが入手できれば液体で使用できます。なければ普通の石鹸、または中性石鹸で洗えます。まず水たっぷりで髪を洗い、石鹸を手でしっかり泡立て、まず頭皮からマッサージするように洗い、次ぎに髪です。しっかり洗い流さないと石けんカスのためベタベタした仕上がりになります。筆者は2回洗いが一番効果的ではないかと思ってます。また、石鹸は性質上弱アルカリ性なので、髪のキューティクルを開き、洗ったままだとゴワゴワしますので、弱酸性のリンスを使います。このリンスは商品では「石鹸シャンプー用リンス」として出てますが、自作でも十分いけます。自作する場合は、食用酢、レモン汁、クエン酸水のどれでも可です(註11)が酢の匂いが苦手であれば、クエン酸(註12)がお勧めです。石鹸は以外と洗浄力があるので、毛染めや化学的なパーマなど頭髪に化学物質をコーティングしている場合は取れてしまう可能性がありますので、事前に石鹸利用可を確認するほうが無難でしょう。

『美容のためとはいえ、そのような化学製品を頭皮に付着させている事自体にも問題ありと思うけど。』

  • 11:水2リットルに対し、大さじ1くらい。クエン酸水は水200mlにクエン酸小さじ1で作っておいたものをさらに希釈する。
  • 12:柑橘類の酸。ポル語名、acido citrico。専門薬局や健康食品店、通販などでキロ20レアル前後で売ってます。

洗濯:粉石鹸を使う。しかし高価のため、クエン酸を使うのがお勧めです。水10リットルに対してクエン酸10gの溶液で洗濯でき、柔軟剤は不要です。

『筆者は職業柄毎日何十回も手を洗うが、残念な事に保健所の規則で医療機関で使用される石鹸はポンプ式でないとダメなのだな。これは接触性の感染症を予防する措置だから仕方ないけど、手が荒れる 三倍に薄めて使ってるのだけど。ブラジルで流通している液体石鹸はどれも洗剤なのだ。』


 

心にグッときますね

By: Kazusei Akiyama, MD

Kema Komon. Osaka. Caju©2018


2018年8月

心にグッときますね

FIFAワールドカップも終わり、ブラジルの社会と経済生活が正常に戻りました(註1)。今年は総選挙がおこなわれるので、残念ながら平穏な生活は数週間しかありませんね。選挙運動が始まれば、ウソの垂れ流しに曝され、左派と右派の攻勢の板挟みになる生活が待ってます

このところ、このコラムは話の内容が医学専門的すぎて面白くないと24人の読者様からご指摘いただきました。確かに一年前から遡ってみると医学の解説書みたいになっているところもあり、反省の材料が多々あります。そこで、どの様なテーマがいいのか、広く読者様に応募しますので、hitorigoto@kazusei.med.brまでご一報いただければと思います。従って、今月は全然医学とは関係のないひとりごとです。

2017年にインターネットで炎上したAna Vilela作詞作曲のブラジル音楽、Trem Bala。直訳では「弾丸列車」、新幹線とか特急列車の意味ですが、ブラジル人の心にグッときた歌詞で、色んなカバーが出てます。その内、筆者が一番好きなのが、Música Caipiraジャンルで活躍しているMayck&Lyanの二人(図1)(註2)のバージョンです。

  • 2:「マイクとリアン」と読みます。

1Mayck&Lyan

カイピラ音楽は近年Música Sertanejaとも呼ばれ、いわゆるブラジルの内陸、「田舎の音楽」です。日本人にブラジル音楽というと、やはりボサノバとサンバの連想になると思いますが、実はこの田舎音楽がブラジルでは一番売上げが大きいのです。Caipiraとは「サンパウロの田舎者」の意味の言葉ですが、このサンパウロ、昔はとてつもなく広大な大きさなのです。図2でわかるようにアマゾン地方が始まるあたりまでサンパウロだったのです。

21709年時点でのブラジルの行政区画

ここで生まれた田舎音楽はポルトガルの10弦ギターを原点にしたヴィオラ・カイピラ(viola caipira)の伴奏を使い、基本的にペアで歌い、ホモフォニー(homophony)(註3)のデュエットボーカル(註4)になります。歌詞の内容はブラジルの田舎の生活模写や自然の秀美が主でしたが、近年では恋愛や人間関係などのテーマも増えているようです(註5)。今回紹介しているペアは高音(テノール)が一般的なMúsica Caipiraの中、低音で珍しく、筆者は好きなアーティストです。

  • 3:最上声部が独立したリズムによる主旋律となり、他の声部が伴奏となっている楽曲。
  • 4:同性のペアが一般的。男女の異性ペアは珍しい。
  • 5:これは近年都市部でもこの音楽のジャンルが浸透してきているので、テーマも変化してきていると言われてます。

Trem Balaの歌詞と筆者の和訳は次ぎのとおりです。インターネットで閲覧できますので、ご存じない方は是非一度この様なブラジル音楽もあるのかと、ご覧いただければと思います。

Mayck&LyanTrem Balahttps://youtu.be/5vyIl4anjcM

Ana Vilelaのオリジナルはこちら:https://youtu.be/sWhy1VcvvgY


ポルトガル語の歌詞はスペースの都合でピンドラマには記載されてません。

TREM BALA

(Ana Vilela)

Não é sobre ter todas as pessoas do mundo pra si

É sobre saber que em algum lugar alguém zela por ti

É sobre cantar e poder escutar mais do que a própria voz

É sobre dançar na chuva de vida que cai sobre nós

É saber se sentir infinito num universo tão vasto e bonito

É saber sonhar

E, então, fazer valer a pena cada verso daquele poema sobre acreditar

Não é sobre chegar no topo do mundo e saber que venceu

É sobre escalar e sentir que o caminho te fortaleceu

É sobre ser abrigo e também ter morada em outros corações

E assim ter amigos contigo em todas as situações

A gente não pode ter tudo

Qual seria a graça do mundo se fosse assim?

Por isso, eu prefiro sorriso e os presentes que a vida trouxe pra perto de mim

Não é sobre tudo que o seu dinheiro é capaz de comprar

E sim sobre cada momento sorriso a se compartilhar

Também não é sobre correr contra o tempo querer sempre mais

Porque quando menos se espera a vida já ficou pra trás

Segura seu filho no colo

Sorria e abrace seus pais

Enquanto estão aqui

‘Que a vida é trem-bala, parceiro

E a gente é só passageiro prestes a partir

Segura seu filho no colo

Sorria e abrace seus pais

Enquanto estão aqui

‘Que a vida é trem-bala, parceiro

E a gente é só passageiro prestes a partir


トレン・バーラ

アナ・ヴィレラ

この世界の全ての人を自分のものにすることじゃなくて

どこかで誰かが自分の事を守ってくれる人がいることなんだ

歌った時に自分の声以上を聞くことができることなんだ

人生の雨の中でダンスすることなんだ

この広大で綺麗な宇宙で限界をつけずに夢を見ることなんだ

信じる事についての詩に価値を感じることなんだ

世界の頂点に立って勝ったと知ることではないんだ

登る時に進んだ道が自分を強くした事を感じることなんだ

誰かを受け入れて、そして他の心にも住処を作ることなんだ

それでどんな時でも友達を持つことなんだ

僕たちは全部になれないんだ

そうであったらこの世界は面白くないでしょ?

だから僕は、笑顔と人生が自分の周りにもってきてくれた贈り物を選ぶのさ

お金が買える事についてじゃないんだ

共有出来る笑顔とあらゆる瞬間についてなんだ

時間に逆らってもっと求めることではないんだ

だって気付いたら人生はもう置いて行かれてるからさ

子供を抱っこして

親がまだここにいる間に笑顔で抱きしめるんだ

人生は特急列車なんだよ

僕たちは出発寸前の乗客でしかないんだから

子供を抱っこして

親がまだここにいる間に笑顔で抱きしめるんだ

人生は特急列車なんだよ

僕たちは出発寸前の乗客でしかないんだから


 

コッパ・ビアアグラなんでしょうか?

By: Kazusei Akiyama, MD

Contrast. Himeji. Caju©2017


2018年7月

コッパ・ビアアグラなんでしょうか?

さて世の中は4年に一度のお祭り、FIFAワールドカップの時期です(註0)。今回はロシア。前回はブラジルで開催され、ドイツにボロ負けして決勝進出を逃し(註1)たのは記憶に新しいです。その後、2015FIFA汚職事件が勃発し、当地のサッカー連盟幹部も泥沼にどっぷり浸かっているのが判明しました(註2)。同時に史上最悪とされる贈収賄事件のラバジャット作戦が進み(註3)世の中「汚職」一点張りになり、毎日メディアに出る汚職ニュースにこれでもかと曝されてます。さらに、前大統領罷免で酷くなった左派と右派の攻防(註4)の板挟みになり、もう4年も続く不況に生活が大変なブラジル人の疲弊に拍車がかかってます。

  • 0:ポルトガル語では「Copa do Mundo FIFA コッパ・ド・ムンド・フィッファ」
  • 1:その後、3位決定戦も惨敗。20148月のひとりごとを参照
  • 2:このため、ブラジルサッカー連盟の元会長はスイスで逮捕され、現在米国で拘置されている。また、前会長は国際指名手配されており、ブラジル国外に出られないため、FIFA理事を解任された。
  • 3:これでブラジル元大統領、国営石油公社ペトロブラス前社長、ゼネコン最大手の社長などが収監された。
  • 4:に伴う主張合戦、デマ、強迫、フェイクニュースなども

『「汚職スキャンダル地獄」と呼ばれてますな。』

この様な社会状況で開催されたコッパ。ブラジルではコッパの時は、ブラジル代表チームを応援しないのは「非国民」みたいな感情があり、「もちろん」国民全体が一丸となってセレソンを応援するのが「当たり前」でしたが、今回は全く雰囲気が違います。「もうどうでもいい」感情が多く見当たります。

『「それどころではない」と、生活に追われているから?(註5)』

  • 5:それだけではないでしょうけど、これについては又別にひとりごとできますね。

結果、応援グッズの売り上げは伸びない、テレビも売れない、人々は熱狂しないのないないつくしで盛り上がりません。遂にCopa Viagraという言葉も出てきました。

このビアアグラは勃起障害治療薬のバイアグラの事ですね。勃起障害は性機能障害の一つで、後者は以前「性的インポテンツ」と呼ばれており、つまり、ポテンツ=力が足りないから当地では性的発言でなくても「力不足」の場合の対処に「バイアグラでも飲めば?(註6)」といった表現に発展してます。不祥事の多いサッカー連盟や代表選手などの力不足にも絡んでいるのでしょう。今月のひとりごとはこのバイアグラに焦点を当ててみます。

  • 6Toma um Viagra

男性の「性機能障害」は勃起障害の他に射精障害や性欲低下があります。英語名称 erectile dysfunction の頭文字を取ってEDと通称されてます。EDは「満足な性行為を行うのに十分な勃起を得られないか、または維持できない状態が3ヶ月以上持続している」であり、また、「通常性交のチャンスの75%以上で性交が行えない状態」とも定義されます。

『事情が事情だけに大らかに言えない訳だな。』

EDは原因により次のように分類されます。

分類

説明

器質性

血管性

動脈性

動脈硬化の関与が殆ど

海綿体性

血流を受ける側の問題

混合性

神経性

陰部への刺激の神経伝達の問題

解剖性

骨盤内手術の既往が主、陰茎自体の異常

内分泌性

勃起に関する成分代謝の問題。性腺機能低下。

心因性(機能性)

解剖学的に問題ないが、不全。ストレスが多い。

混合性

EDの大半は陰茎に流入する血液量が減少するのが主な原因です。動脈硬化と併存が多いため、血管性の疑いの場合、他の臓器においても血流障害がありうるので、動脈硬化性変化を検査する必要があります。50歳台より増加し、日本人の罹患率は40代前半16%40代後半20%50代前半36%50代後半47%60代前半57%60代後半70%と報告されてます。しかし20歳台の若年層でもみられ、これは心因性のものが多いです(註7)。リスクファクターは多岐にわたり、年齢、喫煙、高血圧、糖尿病、脂質異常、肥満、運動不足、薬剤使用、うつ、ストレス、教育不良などがあります。

  • 7:新婚性勃起障害というのもありますね。

治療は1998年に販売開始になった「クエン酸シルデナフィル」=バイアグラが革命を起こしたと言って間違いないでしょう。かつては治療が難しい障害であったのが、患者単体で薬物服用して治療に当たれるようにできるようになり、EDの認知度や患者の積極性も変化しました。この薬物はPDE5阻害と呼ばれる作用を持ち、シルデナフィル以外に2種類市販されてます(註8)。これら経口勃起障害治療薬は器質性障害も含め殆どEDに使用され、有効性は7~8割とされており、「比較的」安全な薬です。併用禁忌は狭心症の治療薬であるニトログリセリンなど硝酸薬であり、併用するとショック状態になる危険性があります。また、日本語には「腹上死」(註9)とあるように、性交は体力を使うため、バイアグラ服用時に狭心発作がおき、搬送された救急病院でニトログリセリンを投与されて症状が悪化するケースもあります。従って、典型的な医師の処方薬ですが(註10)こっそり使いたい人が後を絶たないので日本ではインターネットによる個人輸入が盛んです(註11)。

  • 82004年販売のレビトラ、2007年販売のシリアス。
  • 9:医学用語では「性交死」。
  • 10:処方薬は必ずメリットとデメリットを天秤にかけて出すため。
  • 11:日本国内のインターネットによる個人輸入では半数強が偽造薬品との試算がある。

『間違いなく50歳以上の男性の性交には役立つ薬物だな。但し、性欲増強目的には使えない。PDE5阻害薬は自分の勃起を補助する薬であって性的刺激がないと、薬の効果が発現しないから。(註12)』

  • 12:勃起をおこす薬はある。血管作動性薬剤であるプロスタグランジンE1またはパパベリン塩酸塩を陰茎海綿体に注射するといやでも勃起する。

性交は人間の存在そのものと関係するものです。EDは上述のように、かなり罹患率の高い健康上の問題なので、1人(あるいは2人)で困らず、医師に相談してみましょう。

『さてコッパ・ビアアグラ、セレソンは決勝トーナメントに進出できたみたいだけど、バイアグラのんでパワーアップするのでしょうか?』


 

これでも空気がきれいになってるそうです

By: Kazusei Akiyama, MD


2018年06月

今月のひとりごと:『これでも空気がきれいになってるそうです』

サンパウロ市へ車で到着する時にビビってしまうのが、「臭い」と「都市を覆う灰色のドーム」です。そう、大気汚染が嗅覚と視覚で解るのです。臭いはサンパウロ市から出る主要高速道路のどれでも感じる事が出来ます。灰色のドームはAyrton Senna道路を利用して東から入った時に顕著に見えます。このコラムの24人の読者様もこの様な経験はされてるのではないでしょうか?「あの灰色の中で住んでいるのだ」と思うと少し怖くなるのですが、更に恐ろしい事に30分もすると大気汚染の臭気を感じなくなってしまうところです。人間の適応性というか…

では匂いは何で出来てるのか?灰色は何で出来ているのか?屋外燃焼行為、工場等の悪臭、生活で出る匂い(調理、洗濯など)、工事や工場の粉塵などや、いわゆる伝統5物質(註1)と呼ばれる化学物質で成り立ってます。工業革命が起こり、それに伴う大気汚染は主に石炭を燃やすための煤煙であり、その時点では「黒い」大気汚染でした。20世紀に入り、石炭が石油に替わり、煤煙は減ったのですが、石油に多く含まれる硫黄酸化物+窒素酸化物+炭化水素が化学変化を起こし「白い」大気汚染に替わりました。石炭を含め、モノを多く燃やすのは後進国に多いので、中間の「灰色」であるブラジルは大気汚染からみても典型的な発展途上国といえるでしょう。

なぜ大気汚染が問題になるかというと、人間の生活のため大気中の微粒子や有害な気体成分が増加し、人の健康や環境に悪影響を及ぼすからです(註2)。呼吸器系の疾患と関連するのは簡単に理解でると思います(註3)。世界保健機関によると、世界人口の約90%が汚染された大気の下で暮らし、それが原因で死亡する人口が年間700万人にあがると推計している。医学的な研究では、都市部に暮らすことにより、大気汚染のために平均で約4年平均寿命が短くなるといった結果があります(註4)。最近では国別にみると中国が最悪であろうと考えられます(註5)。5年ほど前に北京市周辺でおこった高濃度汚染が有名ですし(註6)、日本にも浮遊して来て問題になっているPM2.5がありますね。このPMはParticulate Matterの頭文字で、「粒子状物質」のことで、2.5はその内非常に小さな「微小粒子状物質」、粒径2.5㎛以下のモノを示します(註7)。目に見えない小さな物質の大きさの単位であり、特定の物質のことではありません。以前は10㎛以下の粒子が環境基準として定められていましたが、それよりさらに小さな粒子は人間が持っている空気のフィルター(鼻の粘膜機能や気管の絨毛上皮など)を越して肺の奥まで入り込むので注目されているのです。呼吸器系の疾患もそうですが、循環器にも影響する事が判明してますし、最近の研究結果では骨粗しょう症にも関連することが示唆されています(註8)。

色んな対策がある中、わかりやすいのが車の排気ガスの規制です。特に酸化窒素をたくさん排出するディーゼルエンジン車(主にトラックですね)の規制、酸化硫黄を排出するガソリンエンジン車の規制が多くの都市で行われてます。変わった所では2ストエンジン(註9)の撤廃が見当たります。規制は全く走らせないか排ガス対策が進んだ新しい車でないとダメか、代替エネルギー源(エタノールを使うとか電気自動車に替えるとか)を進めるのが主な政策です。

『だから中国は電気自動車大国になる方向が強い。トラックを減らして成功した例が実はサンパウロ市なのだな。1998年より、Rodoanel(図)と呼ばれる環状線を建設中であり、まだ北部分を残して(註10)るのだが、それでもMarginal do Tiete や同Pinheiros やAvenida Bandeirantesを通過していたトラック(註11)が一日約2万台減少したため、酸化窒素(NOx)が25%減ったとの研究結果をサンパウロ大学が出した。この減少で大気汚染と関連する呼吸器系と循環器系の疾患が市内で10%減っているのもこの調査で判明した。』

サンパウロではこれから冬期に入り、雨が減り6~8月は光化学スモッグが発生しやすくなり、大気汚染が増えます。気をつけましょうと言っても抜本的な対策は空気のきれいな所へ転地するしかないのでどうしようもないです…か?


註1::二酸化硫黄(SO2)、一酸化炭素(CO)、浮遊粒子状物質(SPM)、光化 学オキシダント(Ox)及び二酸化窒素(NO2)。

註2::環境が悪化することにより、更に状況が悪くなる。

註3::気管支喘息が誘発されたり悪化したりするのが一番簡単な例。

註4::因みにサンパウロ市では3年程度の短縮です。。

註5:WHOは大気中の浮遊物は25㎛/㎥までが基準である。90年代の米国で平均45。最近の中国が400!で700までいったことがある。中国では平均寿命が12年減少している推計!

註6:この時期北京は「人が住む所ではない」と言われ、1日滞在するだけでタバコを21本吸ったのと同じであると推計された。

註7:2.5マイクロメートルは1ミリメートルの千分の2.5。髪の毛の太さの30分の1程度。

註8:PM2.5中の重金属が骨に沈着するのではないかと考えられている。

註9:潤滑油をガソリンと一緒に燃やすのでスゴイ煙が出ます。

註10:2018年に落成し、全線開通するそうである。

註11:特にサントス港に向かうため市内を通過するトラック。


 

ブラジル医療事情:薬の購入

Collection. Jaguariúna. Caju©2007

By: Kazusei Akiyama, MD

ブラジルの医療事情(7)ー 「薬の購入」 {2024年11月改稿}

当地は医薬分業が基本システムなので、医師に処方されたお薬は原則院外薬局で購入することになります。ブラジルの薬局は本来医療システムの一部といった考え方であるべきなのですが、完全に商業ととらえられています。したがって、うっかり信用すると、その「お店」の利益になる商法に巻き込まれたりします。

薬には「先発品」と「後発品」があり、さらに後発品には「類似品(medicamento similar)」と「ジェネリック品(medicamento genérico)」があります。先発品(medicamento de referência)とは初めてある薬物の認可をとったもので特許が切れたものがベースとなり後発品が生産されます。ブラジルでは類似品に落とし穴が多く見られ、注意が必要です。類似品は「先発品と同じ成分ですよ」と当局に申告するだけで認可されますので、審査が厳格とはいえません。その点ジェネリック(ブラジル名GENERICO)は減税の対象となるため、「先発品と同じ効き方である証明=溶出試験や生物学的同等性試験など」が必要であり、審査も厳格で、品質は信頼に足るものといえるべきです。しかし、2002年以降、政府や当局の汚職のため品質の担保が必ずしもあるとは言えない残念な状況です。ジェネリック医薬品を使用する場合は必ず担当医に確認する必要があると考えます。

ブラジルではネットで通販部門も出しているような大手の薬局をお選びいただくことをぜひお勧めします。悪質な薬局では「同じですから」といって類似品を売ったり、「これしかありません」と用量以上の数量を出したりと色々トラブルが絶えません。サンパウロの薬局では薬剤師が常勤する義務があり、それらがカウンターで販売員をしている事がありますが、それでも出されたお薬を鵜呑みにしてはいけません。当地は責任をもって仕事をしている事があまりないので、購入者自身も商品を確認する事が大事です。


 

 

 

ブラジル医療事情:入院の仕方

 

Otomemaimai (Trishoplita goodwini). Yoshino-cho. Caju©2009

By: Kazusei Akiyama、MD

ブラジルの医療事情(6) ー  入院 {2024年11月改稿}

海外で病気の治療を受ける中でも、入院は一番不安とストレスが伴うものです。理由は二つあります。一つは入院という自宅で療養できない、または手術が必要など健康状態が著しく悪化している状態であること。二つ目は数ある医療行為の中でも、一番費用がかかり、時間が長くかかる治療だからです。今回は入院の問題について解説します。

入院をするにはまず医師の診断入院指示があります。これは個人オフィスの専門医の場合と病院の救急部門の場合が考えられます。救急部門で入院と診断された場合は、もちろんその病院に入院することになります。そのため、この様な場合に重要なのはどの病院に駆け込むか、ということです。ブラジルでは医療機関はピンからキリまでありますから、ちゃんとした病院でないと後々大変です。専門医の場合は、使い慣れた病院や、実施する手術の技術的な環境が整った病院などを選択することが多いようです。また、以前にも書いたように、使用する医療保険により、病院の制限があることがあります。これは特にブラジル国内で加入されるconvenioと呼ばれる保険の提携診療に多く見られます。

手術をする病院が決まったら、医師の入院指示書を持って病院の入院受付(setor de internação)に赴きます。そこで、カルテの作成や使用する保険(あるいは自費)の提示、入院同意書、手術同意書などの手続きをします。日本の海外傷害保険などの場合は、それらの保険会社が海外で提携している病院でなければ、全額自費扱いとなり、後日、保険会社から払い戻しを受ける形になります。ここでよく問題になるのが、caução(カウソン)と呼ばれる入院保証金を要求されることです。近年ではクレジットカードで事前支払が多いですが、小切手が使える場合があります。病院が医療提供する時にカウソンを要求するのは法律違反とされています(憲法違憲、消費者保護法違反、など)。が、それでも要求されることが後を絶たないのですが、法廷で争っている時間などありませんので、泣き寝入りになります。具体的には入院内容によりますが、2万レアル程度からの金額の様です。ブラジルの提携保険の場合は入院保証金はありません。

蛇足ですが、この場合病院が足下につけ込んでいるようですが、反対にブラジルでは借金を踏み倒してなんぼのものと考える人たちがかなりいます。特にお金持ちに多くみられるようです。一躍有名なのはコーロル元大統領のご母堂(最終的に入院中死亡)の踏み倒しですが、一国の元最高指導者ですらこの有様です。ブラジルでは裁判所の判決が非常に時間がかかりますので法律違反でもまず自衛を優先するわけですね。

お部屋(基本的に個室)に入ると、看護士の問診、麻酔科医の診察、予備検査、準備などがあります。日系の病院であっても、これらのスタッフは必ずしも日本語ができるとは限りませんので、ポルトガル語が出来ない方はこの場面では通訳が必要と思われます。準備が終わると、麻酔前投薬が行われ、次に目が覚めるとすでに手術が終わっていて、ICU病床や元のお部屋に戻っていることになります。日本に比べて、比較的早く起床させられます。できるだけ早く動いたほうが、特に血栓症など術後の副反応が少なくなるからです。手術の翌日に自分でシャワーを浴びるなど日本人にはびっくりするような行為がありますが、いざやってみると意外にできるものです。また、入院期間も比較的短期間になっています。これは必要最小限の回復を病院でしてもらい、早くベッドを開けることと、入院を長くすることで起こりうる院内感染などの問題を減らすという目的があります。

入院中は検温や投薬、食事の上げ下げなど常時人の出入りがあり、いちいちポルトガル語で対応しないといけないのは大変です。しかし、お世話をしてくれる人たちは、外国人であってもちゃんと会話をしようとする姿勢がありますので、さほど深刻な問題ではないと考えます。ブラジルの病院はホスピタリティと呼ばれる医療以外のいわゆるホテル機能が大変発達してます。特に食事制限がない場合、院内外のレストランから出前を頼むことも可能ですし、時間外の食事に対応してくれたりします。また、付き添い人がお部屋で宿泊できるようにもなっています。そして人員の余裕が有りますので、処置に時間がかかってもいやな顔をされることが少ないように思われます。この優れたホスピタリティのため、出産のように予定される入院でブラジルの病院を選択される方もかなりおられるようです。

ブラジルでの入院中は、多少わがままを言ってみてはいかがでしょうか?


ブラジル医療事情:検査の受け方

Vaccinium sp.. São Paulo. Caju©2016

By: Kazusei Akiyama, MD

ブラジルの医療事情(5) ー 検査の受け方{2024年11月改稿}

今回のテーマもブラジルと日本では随分システムが違います。病院にかかった折に検査が必要となった場合、日本では基本的に診察を受けている医院や病院で検査をします。いわゆる検査の外注は希です。受診中の医療機関でできない検査であれば、適切な検査機関に紹介されますが、検査のみの依頼ではなく、患者さんの診察および精密検査の依頼、つまり転医になります。この様な流れになってますので、医療機関ではある程度検査ができる環境を整えておかなければなりません。このシステムならばどこでも受診すればある程度の検査ができるので便利です。しかし、設備投資に多大な費用がかかり、特に小さな診療所などでは大きな負担になり、そのため、検査費を稼ぐため、不要の検査をする所も出てくるわけです。また、日々進歩する医療検査機器に対応しなければなりません。

ブラジルでは医院レベルの診療科で必須の検査—例えば産婦人科にエコー検査や子宮癌検査など—があるのを除き、検査はほとんど外注になります。このシステムであれば、医院側が設備投資をしなくても常に最新、最善の検査で診療を進めることが可能です。また患者さんが主治医を変えなくても良いのも利点です。もっとも、検査機関まで移動する必要がある、という難点はありますが。

ではどのように検査を受けるのか?

「腹痛で内科医を受診」した例で解説してみます。まず診察を受けます(診察の受け方は前編参照)。検査が必要であると医師が判断した場合、検査指示書が出ます。この例の場合、血液検査、尿検査、大便検査、上腹部エコーの指示が出たとします。検査によっては時間の予約が必要ですので、担当医と検査機関についての確認をします。また、保険の種類により、使用できる検査機関の制限あるいは事前許可がありますので、保険会社と確認が必要です。一般的な血液検査や尿検査は予約は不要ですが、一定の条件(絶食の時間や検体採取時間帯の制限、付添人の有無など)が満たされていないと検査ができず、出直さなれればならなくなりますので、これらの検査の条件も確認します。そして、検査機関をどこにするかを担当医と相談します。

さて、必要条件を満たした上で予約のとおりに決められた検査機関に行きます。そこでもまず、カルテの作成があります。名前や住所、CPF(ブラジル納税者番号)の他、服用中のお薬やアレルギーなどの質問があります。ちゃんとした検査機関では医師が常勤してますので、分からなければ主治医と連絡を取るなど対応してくれます。カルテ作成時に結果の渡し方について尋ねられます。数字だけの結果であればインターネットで閲覧するのが一般的ですが、写真など画像がある場合、後日取りに行くか、配達を依頼するか決める必要があります。支払はカード使用が一般的です。

カルテができると、待合室に案内され、名前を呼ばれたら採血の部屋に入り、本人確認があります。採血が終わったら確かに採血しましたといった旨のサインをし、採尿と検便のキットを渡され、採取場所(トイレなど)に案内されます。採ったものを返せば次はエコーですが、大便が採れなかった場合、後日持参でも構いません。エコーの待合室で呼ばれたら更衣室で検査用の衣類に着替え、検査室に行きます。エコーが済めば、検査終了です。

検査は往々絶食状態で受けるので、検査後用に軽いスナックや飲み物が無料で用意されている検査機関が多いです。いつ検査結果ができ上がるのかは、カルテを作った時点で提示されますので、それ以降に検査持参で指示を出した主治医の再診を受けます。

血液検査や簡易な画像や機能検査は自宅まで来てくれるサービスもあります。それほど急を要する検査ではない場合や慢性疾患の定期検診の場合などでしたら検査機関まで出向く必要がなくなります。このようなサービスも上手に使ってみてはいかがでしょうか?

ちなみに総合病院では検査の方法は日本と同じシステムですが、外来がない病院もあり、その場合は医師のオフィスに出向く必要があります。また、救急部門では必ずしも気に入った医師が勤務しているとは限りませんし、毎回同じ医師に当たるわけではありません。専門医院と総合病院、どちらを選ぶかは患者さん次第です。


ブラジル医療事情:診察の受け方

Bolinhas. São Paulo. Caju©2004

By: Kazusei Akiyama、MD

ブラジルの医療事情(4) − 診察の受け方 {2024年11月改稿}

このシリーズの一回目で記載したように、ブラジルの医療システムは日本と違う点がかなりあります。今回は実際の診察の受け方について解説しましょう。ポイントは4つ。まず一般的に予約制であること、次に自由診療保険診療が混在すること、診察時間や再診の仕方が異なること、そして支払い方法が異なることです。では腹痛で受診するといった例で診察の流れを解説します。

最初に診察の予約を取ります。一般的には電話またはSMSを使用します。日本語可の診察機関もあれば不可の場合も有りますが、専門性が高い医療機関ほど不可の傾向が強いようです。また、専門性の高い診察ほど、会話の内容も高度になりますので、通訳の手配が必要になる場合が多いです。

予約で尋ねられるのは、氏名、年齢、紹介元、連絡先、などの他、自由診療(パルチクラール particular、直訳すると私費診療、自費診療)か保険診療(コンベニオ convenio 、直訳すると提携診療)かを尋ねられます。医療報酬の請求の仕方が異なり、自由診療では医療費を患者さんに請求し、提携診療では直接保険会社に請求するためです。したがって提携診療はゼロ割負担になります。しかし、提携診療の方が医療報酬が圧倒的に少ないため、時間や曜日の制限が見られます(早い話、診察が短いわけです)。この傾向はブラジル国内で加入した医療保険では普通ですが、海外で加入した傷害保険などではその限りではありません。そのため、診察は自由診療で受診し、可能であれば後で保険会社から医療費の払い戻しを受けるのが賢いブラジル人の診察の受け方です。

予約の時に診察理由を聞かれることがありますが、聞いている相手は大抵事務方であり専門家ではありませんので、ここでは「昨日からお腹が痛い」ぐらいの簡単な症状を伝える程度で十分です。

次に予約した日時に医療機関に出向きます。この時、以前受けた検査結果などを持参すると、診察の参考になります。ブラジルでは検査結果は患者さんの所有物であり、本人が管理するものと考えられていますので、ちゃんと保管しておきましょう。初診ですと、カルテの作成があります。提携診療の場合、この場面で提携保険のカードを提出します。日本のように診察券は一般的ではありません。

診察時間は自由診療の場合、最低30分はかかります。じっくり話を聞いた上で、身体検査をし、必要があれば血液や大便検査、エコーやCT等画像検査、内視鏡などの検査指示がでます。ほとんどの場合、検査は別途検査機関に出向くことになります。検査費が医師の儲けになるわけではないのが日本と異なるところです。提携診療の場合、保険内容と検査内容により、保険会社の許可が必要であったり、利用可能な検査機関の制限があったりします。

診察時に、再診の有無、回数、検査結果の受け取り方法(自分が受け取って次回再診の時に持参するのか、直接医師に送られてくるのかなど)、医療費用や診断書の作成なども医師と直接相談します。一回の診察で済み、かつ、海外傷害保険などで後日払い戻し制度を利用する場合、ここで保険請求用診断書の作成も依頼します。

日本ではほとんどが保険診療なため、3割とか1割の自己負担分を(場合によっては薬代と検査代も含め)診察機関に支払いますが、ブラジルでは、診察機関、薬局、検査機関などの支払いは別々に行います(自由診療の場合)。支払は現金以外にクレジットカードの使用ができます。小切手も可能ですが近年あまり使われなくなってます。外貨での請求は法律で禁止されてます。再診・通院が多いなどの場合、月極や一括支払いも可能です。提携診療の場合、診察費と検査費の支払いは無く、薬代は大手の薬局などでは割引があることもあります。しかし、上記のような制限があります。海外傷害保険(海外旅行保険)では薬代と検査費用、交通費なども医療費として請求できますので、領収書の保管が大切です。いずれにしても、自由診療で受診するのか、提携診療で受診するのか、またどの保険会社を利用するのか等をしっかり把握しておくことが重要なポイントといえるでしょう。邦人がブラジルの健康保険に加入されている場合、診察は自由診療、検査は提携診療を使用する方法もよくみられます。

少し蛇足です。日本の国民健康保険に加入している場合、「海外療養費の請求制度」が適用でき、海外で生じた医療費も一部払い戻しがあります。領収書は必ずとっておきましょう。


ブラジル医療事情:かかりつけ医

Sun spot. California. Caju©2009

By: Kazusei Akiyama, MD


ブラジルの医療事情(3)ー 「かかりつけ医」{2024年11月校閲}

医療において最近見直されてきているのは「ファミリードクター」の存在です。日本語では「家庭医」と訳されますが、筆者は「家族の医者」(ドクターオブザファミリー)が正しい訳ではないかと思います。現在、都市部ではライフスタイルの変化によって、家族ぐるみの付き合いがある医師を持つ人は皆無といってよいほど見あたりません。昔のファミリードクターはその一家に出入りするため、家族全員の既往症、健康状況、環境や人間関係の問題点などを把握しており、それらの情報が予防的なアドバイスや病気になったときの診断・リスクの特定に役立っていました。また、その信頼関係から、健康上の問題は真っ先に相談を受ける立場にあったのです。

今回解説の「かかりつけ医」とは「健康上の問題があったとき、まず相談をする医師」と一般的に定義されます。昔のように代々お世話になってきた信頼のおける医者という存在がないので、積極的に自分で決めなければならないわけです。患者さんと医者の関係も人間関係ですから、なんといっても波長がまず合わないと話になりません。したがって「相談しやすいこと」と「近さ」がポイントになると考えられます。東京都医師会によるとかかりつけ医の条件とは次の5点だそうです:

  1. 近いこと
  2. どんな病気でも診てくれること
  3. いつでも診てくれること
  4. 病状をきちんと説明してくれること
  5. 必要なときにふさわしい医療機関を紹介してくれること。

①は距離だけではなく、人間関係としての近さも含めてのことでしょう。

②はまず全般的に医学を理解していないと、専門分野以外の解説や紹介もできません。

③は時間外は同然、さらにブラジルの場合、医師の自宅や携帯電話に連絡がつくことも含まれると思います。初めてではないので、電話連絡で解決がつくことが多いのです。

④は納得のいく説明こそ信頼関係のもとになります。また、疾患そのものの説明だけではなく、生活全般に渡ってのアドバイスができることも大切でしょう。

⑤は 処置や検査などを含む高機能医療が必要な場合、紹介できるネットワークをもっている必要があります。また、どの時点で紹介するべきか的確な判断を下すためには、自身の実力や限界も把握していなければなりません。

かかりつけ医は必ずしも内科医である必要はありませんが、家族全員を診られる「家族の医者」であることは必要です。ブラジル人によくあるパターンが小児科医や婦人科医がこの役割を担っているところです。かかりつけ医は専門ではなく「役割」です。これらの条件が満たされれば、看板上の専門分野は関係ありません。


 

ブラジル医療事情:医療機関の選び方

By: Kazusei Akiyama, MD

ブラジルの医療事情(2)ー 医療機関の選び方{2024年11月校閲}

今回は病院や医者などの医療機関を選ぶ際、なにが重要なポイントとなるかについて考えてみます。一般的に、患者さんにとって良い医療機関とは患者を大切に扱ってくれる機関であり、その上で技術レベルの高さ(先端医療を含む)、アクセスの良さ(近い、行きやすい)、コミュニケーションの取りやすさ(言語や情報の透明性)、丁寧な対応(ホスピタリティ)、衛生的で清潔感のある施設、などといった条件が続き、またこれらに見合う対価、つまり納得のいく費用であることが理想的ではないでしょうか?結論から言うと、このような理想的なものが全て揃っている所はまず存在しないと思った方が良いでしょう。さらに、ブラジルに在住されている邦人の皆さんにとっては言葉の問題が大きく、日本語が通じるか否かによって選ばざるを得ないという、選択範囲の狭さがネックになってくると考えます。

言葉の問題はさておき、病気やケガの内容など、個々のケースにより医療機関選びのポイントは変わってきます。遠くに移動するのが難しい病気や頻繁に通院が必要な場合であれば近所にあったほうが便利ですし、難しい手術や検査が必要になれば技術レベルが重要になるわけです。また、医療技術的にはそれほど格差のない、例えば出産などの場合でも、産院によってホスピタリティやルームサービスが違ったり、母子同室かどうかなど、方針の差がある医療もあります。ですから、必要に応じて医療機関を使い分けるということが大切になってきます。

現在はいろいろな方法で病気や医療に関する情報が手に入ります。受診する前、すでに患者さんが病気や検査の情報をもっておられて診療がスムーズになることがある反面、それらの情報が原因で不安になってしまうことも多く見られます。そのため、診察の形式も変わってきました。最近では診察時間の8割が病気や検査の説明やインフォームド・コンセント(患者の同意)など情報の処理にあてられているとする試算もあります。

ですから、今回のテーマである「医療機関選び」でも確かな情報や判断が必要となってきます。筆者はこれには医療のプロの力が必要なのではないかと考えています。各々の事情にあった医療機関の手配や紹介、専門医療から送られる情報の分析や解説、患者さんの医療情報の管理をするなどの「かかりつけ医」がまさにその「プロの力」にあたります。母国はもちろん、あまり勝手の分からないブラジルではなおさら、小さなことでもまず相談出来る医者をみつけておくのが、上手な医療機関選びの第一歩であると力説します。

少し蛇足になりますが、ブラジルでは「医師国家試験」が存在しません。医学部を卒業して医師評議会(Conselho Regional de Medicina)というお役所に登録をすれば医者になれます。あまり厳格なシステムとは言えませんのでニセ医者も結構いるようです。そのため、医師評議会のインターネットサイトで本物かどうかをチェックできるようになっています。医者であれば必ずCRMと呼ばれる免許番号を提示する義務があり、この番号と名前をネットで照合することができますので、ぜひご活用ください。顔写真もチェックできます。サンパウロ州ではホームページwww.cremesp.org.brのENCONTRE UM MÉDICOボタンから検索できます。サンパウロ州以外はwww.cfm.org.brを利用できます。HPトップメニュー内Cidadão内Buscar por médicosが検索画面です。ちなみに筆者の免許番号は64223です。