ボウフラは煮えてしまったので、サシガメを考える。

By: Kazusei Akiyama, MD


Nettai-shimaka, Aedes aegipti. São Paulo. Caju©2013

2014年03月

今月のひとりごと:『ボウフラは煮えてしまったので、サシガメを考える。』

猛暑のサンパウロです。記録を取りだした71年前以来の暑い1月でした。邦人が多く住むパウリスタ地区を給水しているCantareira水源の貯水率も記録的な減少で断水が心配です。普段は12月の夏期からいわゆるスコールが始まり、貯水量が増えるのですが、今年は雨が少なくて消費するばかりだったのですね。このような状況でも節水政策が無いし、「明日は明日の風は吹く」 ブラジル特有の猛暑です。以前ひとりごとした様に(註1)サンパウロは標高があるので夜間は気温が下がり、夏でも過ごしやすいのですが今年は熱帯夜が続き窓を開けて寝ることが多かったです。でもいつもなら多い蚊がほとんどいない。最近気付いたのですが、あまりにも暑くって、残った水たまりではボウフラが煮えてしまったのですね(笑)。なので、夏に注意勧告がある「デング熱」が今年はすっかり影を潜めてます(註2)。水が多くて蚊も多いほうがいいのか?このコラムの22人の読者様はどちらでしょう?

それで、夏のひとりごとの種が一つ無くなり困っていたのです。先日診察室でアサイーの話しが出て、日本でも取り上げられている事がわかり、これで行こうと考えたのですが、仕事がら行き着いたのが「シャーガス病」です。順番に説明すると、アサイーはアマゾン地方特有のヤシ科の植物で、果実と成長点が食用にされます。成長点はいわゆるパームハーツ、こちらのpalmitoパルミットです。これはほとんど栄養がありませんね。果実はすり潰したものをペースト状で食するのが一般的です。ジュース屋さんにある、ド紫のあれです(註3)。果実は栄養価がおそろしく高く、抗酸化物質のポリフェノールが多いとされるブルーベリーの15倍以上あり、鉄分がレバーの3倍、カルシウムやカリウム、植物性繊維も豊富です。そのため、日本を含む海外で健康食品として脚光を浴びてきている感じです。ダイエットにも良いと宣伝されてますが、植物性繊維は水溶性なのであまり効果は無いし、100gあたり250kcalとカロリーが高いので逆効果かもしてません(註4)。でなぜアサイーが病気と関係があるかというと、アサイーを食べた人がシャーガス病になるという構図があるからです。

  • 註3:パラ-州では日常的に食され、魚料理などにも出てくる。
  • 註4:だからスポーツジムなどで好んで消費されるのですな。

シャーガス病(Deonça de Chagas)はアメリカトリパノソーマ病とも呼ばれ、トリパノソーマ・クルージと呼ばれる原虫が原因の感染症です。あまり話題にならないのですが、アマゾン領域の熱帯地方ではマラリアに次ぐ危険な感染症です。 ブラジルではbarbeiroバルベイロと呼ばれる中南米に生息するカメムシの一種のサシガメが媒介します(註5)。黄熱やマラリア、デング熱の様に蚊の唾液に原虫がいるのではなく、糞の中に原虫がいて、ヒトを含むほ乳類を吸血している時に脱糞し、刺された人が痒みのため掻いて皮膚を傷つけ、そこから原虫が体内に侵入する感染症です。感染直後であれば治療薬がありますが、あまり症状がでないので感染した事が判らない。二~三十年後にシャーガス病として発症(註6)した時点では治療は対処療法しかありません。

  • 註5:日本にもサシガメはいますが、トリパノソーマ感染とは関係ありません。
  • 註6:心筋炎、心肥大、不整脈、巨大食道、巨大結腸、髄膜炎、肝臓肥大、脾臓肥大など。

元々風土病とも言えるほど多い病気だったのです。ブラジルでは1970年度に年間約15万人新規発病していたのが、2010年度には年間150人程度まで減少しました(註7)。これは農村人口が減少したのと、媒介者であるサシガメの駆除が進んだのた、サシガメに刺されないように注意する教育(JICAの事業でもありますね)が成功したためです。また、輸血経由の感染が多く、1986年に献血すべてにトリパノソーマ抗体検査を義務つけ、1990年から100%実施されるようになりこの手の感染が激減しました。

  • 註7:それでも中南米を中心に1000万人程度感染者がおり、毎年20万人規模で新規感染している。

現在ブラジルで発病する95%がアマゾン地方のパラー州とアマッパー州に集中してます。そうです、アサイーを郷土料理として食している地方ですね。 保管や衛生状況が悪い所で生食するとサシガメやその糞が混ざって感染する、昔ではあまり無かった経口感染です(註8)。また、無症状期間が長い感染症なので、原虫保有者が中南米以外の地域にシャーガス病を広めているのも問題です。去年の6月に日本で献血したブラジル日系人がシャーガス病であり、その血液が輸血に使用されたことが話題になってました(註9)。 サンパウロや海外で入手できるアサイーペーストやジュースは輸出用に熱滅菌加工されてますので基本的に問題がないのですが、アマゾンに観光に行った時などは、保健所の許可があるような場所で食べるよう留意が必要ですね。食べたことのない読者様はせっかくのブラジル生活ですから、話しの種に1度ぜひどうぞ。

  • 註8:感染方法は前出の皮膚や粘膜から侵入、輸血や臓器移植の経血感染がほとんどであった。
  • 註9:日本では無い病気だから、献血血液の安全検査項目に入ってないのだな。くわしくは こちらに記載されてます。

合法化の方向なのだろう、やはり。

By: Kazusei Akiyama, MD


2014年02月

今月のひとりごと:『合法化の方向なのだろう、やはり。』

なにが合法化というと、すばり「大麻」です。 このコラムの22人の読者様にももちろん、日本人に馴染みの深い「アサ」の事ですね。年末年始と「大麻の合法化」がニュースになってました。ブラジルのお隣の国、ウルグアイでは12月に大麻の栽培と購入が合法化となり、元旦に米国コロラド州の「解禁」が日本のメディアにも記載されました(註1)麻薬に関連する法律で取り締まられてきた大麻が前者の様に国家による生産物になる事や後者の様に全米で初めて嗜好用大麻の合法化は大きな出来事だと思います。

日本では「日本書紀」に記載があるほど、麻は大昔から人間の生活に密着し、栽培されてきた植物です。元々日本では繊維素材をもとにした糸・布や製紙、種や葉や花を食用、薬用にし、いわゆる産業製品としての扱いだったのですね。木綿が普及するまでは麻布が庶民の服装に使用され(註2)、種は油にもなり、現在でも七味唐辛子の一味として日本人の食卓に上がっていますね(註3)。また、漢方医学では種は「麻子仁(ましにん)」とよばれ、便秘薬の処方構成の一部です。さらに、戦前の民間療法に子供の「疳の虫」にも使用され、明治時代にはぜんそくの治療薬も存在しました(註4)。大麻を吸引する習慣はなく、どちらかというと「酔い」として嫌われたので(註5)向精神作用(註6)が少ない品種に改良され、結果日本で野生自生している大麻はTHC含有濃度が少ないそうです(註7)。そして、取り締まりの根本にあるいわゆる娯楽用としての使用はアメリカ進駐軍が持ち込んだとされます。

『皮肉な事に、同じ進駐軍が公布した「大麻取締規則」(1947年)を元に取締法ができたのだな。これにより伝統的に(註8)存在した産業が打滅を受けたのだな(註9)。』

向精神作用のある物質は人類の始まりから我々と密接してます。どの宗教にも「お酒」が出てきますし(回教を除く)(註10)、基本的に集団生活をする人類にとって社会を潤滑に稼働させる重要な役割があるのは社会学の専門家でなくても理解ですよね。筆者の見解は、問題は「乱用」と「違法性」にあると思います。医学的に考えると、向精神作用のある物質は「危険性」と「依存性」に関心があります。いかに健康に影響を与えるか、そのところが重要です。「乱用」とは健康上(必須では無いけどついでに社会上)問題のある使用方法なので、国際疾病分類に「薬物乱用」が記載されます。違法性はその時代や社会背景により定義されるものであって、医学的には、違法・合法によるその物質の入手方法や品質などに影響があります(註11)。

現時点で大麻の用途は「産業用」、「医療用」と「嗜好・娯楽用」に分類できます。産業用は主に繊維素材の加工、医療用は癌やエイズの患者さんの治療に利用され、嗜好用は言葉のとおりで、向精神作用の「多幸感」を求めます(註12)。合法化の動きは主に西洋社会で運動が行われており(註13)、「アルコール以上に危険なものではないので禁止する理由が見当たらない」のが一番の理由ではないかと考えます(註14)。小職としては医療用が一番関心があります。向精神作用以外にも喘息や緑内障の治療に有効のようですし、難治の多発性硬化症に有用性が示唆されてます。鎮痛作用、鎮静作用、催眠作用は周知のとおりで(註15)、解禁により医療用の用途が期待されているのは理解できます(註16)。今後の動きに注目したいですね。最後に、小職は医師として、マリファナ吸引を推奨しているのではありませんので、誤解の無いようにお願いします(註17)。さらに、ブラジルでは違法薬物なのでご注意を(註18)!


註1:ウルグアイの件はあまり報道されなかったようです。やはり日本は北米依存が強いのだな。

註2:金持ちは絹を使った。

註3:七味唐辛子の中の一番大きな粒、直径約3ミリのあれですな。

註4:「ぜんそくたばこ印度大麻草」という商品。レトロでかわいいネーミングだな。

註5:産業用に扱っている時に花粉を吸入しても薬理効果があるためだな。

註6:テトラヒドロカンナビノール、THCが向精神薬効がある。

註7:これと反対の現象がブラジルにみられる。当地には大麻はブラジルの東北部、ノルデスチでサトウキビ栽培に従事するアフリカ奴隷が持ち込んだとされる。キツい仕事を和らげるのに使ったのですな。そのため、THC含有量の多い方向に品質改良が行われ、国産ではノルデスチ産の大麻が一番強いとされる。

註8:どれだけ伝統的かというと、神社の神事に使用される。大麻と書いて「おおぬさ」とよばれ、お祓いに使われるハタキのような、あれです。

註9:現在でも免許制で生産農家は存在するが、少ない。取締法により、大麻が使いにくくなり、日本で表示される布などの「麻」は「亜麻(あま)」を示すことになった。

註10:キリスト教のワイン(キリストの血だって)や日本の御神酒。

註11:回教国ではご存じのとおり酒類は違法であるし、米国でも飲酒が禁止された時期もあった。ブラジルではごく普通に医療用として処方される覚醒剤が日本では麻薬扱いだし、例は尽きない。今月のひとりごとの対象の大麻でもアメリカの事情で押しつけた日本での取り締まりも、現在はその本国で解禁の運動が激しい(実際コロラド州では解禁になった)。なんか、勤勉な日本人がキツい宿題をちゃんとしているのに教師役のアメリカが事情が変わったので問題を変えるといったような状況に見えますがね。

註12:違法性であるなどの問題で、名称を分ける事が頻繁にみられる:産業用はヘンプ(大麻の場合。亜麻の場合はリネン)。医療用はメディカルマリファナまたは単にメディカル。嗜好用をマリファナ。

註13:オランダに始まり、合法化あるいは非犯罪化がベルギー、ポルトガル、スペイン、カナダ、チェコ、ベルリン市、ワシントン州、コロラド州、ウルグアイなどで施行された。

註14:勿論否定運動もありますが、諸研究による安全性のエビデンスのため理屈がなくなってきているようだ。何かというと、「踏み石論」(もっと危険なドラッグの入り口になるという論説)や「犯罪関与論」(マリファナの影響下で犯罪に挑む)に行き着く(にしか行き着かない)ようですが。

註15:これら作用は1951年まで日本薬局方に記載されていた。

註16:完全合法化されたウルグアイに製薬会社が大関心のもよう。

註17:ちなみに秋山説では現時点で我々の社会で入手可能な向精神薬で危険上位は「エタノール=酒」、「砂糖(ショ糖)」、「たばこ」です。

註18:薬物の依存性、乱用性、危険性などについては別途ひとりごとが必要ですね。


あっという間に今年だよな!

By: Kazusei Akiyama, MD


2014年01月

今月のひとりごと:『あっという間に今年だよな!』

謹賀新年。このコラムの22人の読者様、去年もご愛読ありがとうございました。今年も宜しくお願いいたします。今年はなんといってもコッパの年ですよね。そう、ブラジルで開催されるサッカーのワールドカップ2014年です! 筆者の周りでは「へ、もう今年じゃあないの?間に合うの?」とか「これは世界に向かって大恥をかくのでは?」とかのコメントが多いのですが、ぜひなんとか上手く開催、実施、閉会にもって行きたいものですね。実際、競技場の工事はどこも遅れているし、関連する周辺インフラや空港や宿泊施設の整備もバッチリ進んでいるようではないし、本当に大丈夫ですかね?でもそこがブラジル。なんとか最終的につじつまが合うのですな。過去にもこのような締め切りがあるイベント開催もなんとかつじつまが合ったので、今回も大丈夫だろうとなんか楽天的ですね。ま~、我々一般市民がやきもきしても仕方のない事ですが。でもワールドカップは世界的大イベントで日本を含む、海外から大挙観光客が来るので少しだけ心配してます。

日本戦の初戦はペルナンブッコ州のRecife。日本語の表示は「レシフェ」が多いですね。ポル語風に読めば「ヘシッフィ」、さらに現地のペルナンブッコ方言(註1)で読むと「ヘェーシーフェ」になります。サンパウロからみると違う国と思えるほど文化や社会の違うノルデスチ、その中で筆者はペルナンブッコが一番好きです。とにかく文化活動が多彩でアートや民芸品なども他のところとは一線を画してます。ノルデスチに行くと民芸品がいっぱいありますが、どちらかというとお土産用に作っているものですね。ペルナンブッコは実用的な物や純粋に美術の域に達している物も多々あって興味が尽きないのです。また、民族も違い、17世紀半ばにオランダの侵略と統治があったので、ノルデスチでは一番「白人」が多い感じがする(註2)。面白いのは黒人のヘアーと顔つきの金髪・緑色の眼の男女ですね。オランダの血が混じっているのだな。ブラジルはいろんな民族のルツボですが、きれいになる混合とそうでないのもあるようです。ペルナンブッコは前者でしょう(註3)。人達も考え方がリベラルで政治的に新しい事も好きです(註4)。

日本戦を観戦しにレシフェまで行く読者様、せっかくなので隣町のオリンダにも足をのばしてもらって、是非ブラジルの文化面も観てもらいたいですね。この町はUnescoの世界遺産に登録されており、それだけでも一見の価値がありますが、その旧市街地を散策しながらアートギャラリーを覗くのがお勧めですよ(註5)。


註1:そう、ブラジルでも方言があるのだ。ペルナンブッコは「ノルデスチ方言(ブラジル東北部)」に十把一絡げされることが多いが、ノルデスチでも色々あるのだ。バイア方言やセアラ方言なども違うぞ。去年は全部セアラ方言で撮った映画「Cine Holliúdy」が面白かった。普通のポル語の字幕付きでないと内容が全然わからんけど。日本の東北弁の映画を観ると現地の方以外は全然わからんのと一緒だな。

註2:バイアに行くと黒人が多い、もう少し北のパライバやセアラでは額が広く首が短いタイプが増えるのだな。

註3: 筆者の好みと独断では。ミナス人も前者だな。ちなみに表題の写真の女性は筆者の親友で純粋へシッフィ人です。

註4:その証拠にMST、Movimento dos Trabalhadores Sem Terra、ブラジル農地解放運動の農地占拠が全国で一番多い州です。

註5:最後に蛇足ですが、2016年にリオで開催されるオリンピック。その4年後の2020年東京オリンピックのほうが先に準備が終わってしまうのではないかと言われてますよ。


動物実験は悪なのだろうか?

By: Kazusei Akiyama, MD


2013年12月

今月のひとりごと:『動物実験は悪なのだろうか?』

筆者宅には16歳になる老犬が居ります。上の写真の犬ですね。プードルの雑種(メス)です。もう15年以上一緒に住んでるのですが、これだけ生活すると、犬の方もすっかり「自宅の習慣」がわかってます。筆者が着替えをしていると、服装で自分もお出かけするか判るのですな(註1)。初めの頃は靴を履いた時点で判明していたのですが、いつの頃か、服装で判るようになりました。犬の知能は人間の3歳から4歳の子供と同等と言われます。ということで、芸を仕込んでみましたら(もちろん若い時の話しです)、色々出来るようになりました。一番感心できる芸は外出から帰った時に足を拭く「アシ」コマンドです(註2)。とても重宝しているのが自宅や診療所の従業員の雇用面接です。本犬が嫌った人は仕事が続かない事実があり、最近は面接の必須要員になってます(註3)。筆者の犬の場合はこの様な生活に組み込まれてますが、一般的にペットは家族の中で役割があり(註4)、情が移りますよね。ここまで書いたのは、今回のひとりごとは動物実験と動物愛護運動について少し考えてみたいからです。

  • 註1:犬を飼っている22人の読者様は珍しくもないでしょうけど。
  • 註2: まず前を向き、ハーネスを外し、顔を拭く;次に「オテ」、「オカワリ」で前足を拭き、「アンヨ」で左後ろ足を上げ、「ハンタイ」で反転してから右後ろ足を上げるコマンドです。
  • 註3: 犬は人間が捉えられないエネルギーが判るそうだが…
  • 註4: 一番多いのが「単にカワイイだけ」かな?

『実はウチの犬は幼少の時に殺処分になることろを引き取ったのだな。なので、赤ちゃんの時に家に来たのではなく、何時生まれたのかもはっきりしない。当初は怯えたり、言うことを聞かなかったりで大変だったが、元々頭は悪くない個体なので、その内、筆者宅は安住の地であることが判ったようだ。殺処分は当地では市役所の役目であるが、すぐに処分される訳ではなく、一応里親を募集する。それでも貰い手がつかない場合、処分になる、あるいは医学部や獣医学部の実験に廻される。そう、医学部の教育に犬は重要なのだな。外科の基本手技の習得には生体が必要で、こればかりは試験管だの実験モデルだのシミュレーションだのは役にたたない。 ブラジルの医学部は患者さんが豊富で外科などは手術実習がたくさんできるが、いきなり人間を開腹したりするわけではない。 ラットやカエルでは個体が小さいためこれも役にたたない。サルやブタなどが一番いいのだが、飼育が大変だし、学生レベルの腕では手術から回復するような事もしないし、犬が丁度よいのだな。結局手技実習のあと殺処分になる。(註5)。このような状況とは別に、薬剤などの開発に動物実験があります。この場合は実験の性質上、均質な個体が必要で、そのために飼育された動物が用意される(註6)。』

  • 註5: 筆者も四回生の時に単位(必須)を取ったぞ
  • 註6:「 ラット、マウス、ウサギ、犬(犬の場合はビーグル犬)、サル、ブタなど。

動物愛護団体などの運動では「動物実験は悪、即廃止」を訴えていますが、「すべて悪」なのでしょうかね?10月にサンパウロ州サンホッケ市にある動物実験施設が動物愛護者により実力行使のうえ侵入され、実験用のビーグル犬178匹が誘拐されました。この事件のため、この施設は閉鎖に追い込まれ、抗がん剤など開発中の新薬の研究10年分がパーになりました(註7)。動物愛護は必要だと思います。毛皮の問題、肉食になる畜産の問題、サーカスの動物問題、ペットの虐待や使い捨てなどより高度な人間社会を目指すには重要な議論点があるのは十分理解できます。しかし、医学や医療に関した動物実験はどうでしょう?愛護団体がいうように100%代替できるのか、筆者は疑問に思いますが。(註8)

  • 註7:ブラジルでは一番レベルの高い実験が可能な施設であったので筆者は残念に思う。
  • 註8:前出の事件ではラットは残されました。同じ実験動物なのに。愛護団体の理屈からいくと、保護の対象でしょうが。カワイイわんちゃんは「保護」され、可愛くないネズミはほっておく。この行為を偽善的であると思ったのは筆者だけでしょうかね?

イライラは病気かも、病気であれば治るよ

By: Kazusei Akiyama, MD


2013年11月

今月のひとりごと:『イライラは病気かも、病気であれば治るよ』

このコラムの22人の読者様、お元気でしょうか?年末も近づいてきて、なんか「せわしない」時期ですね。年末の12月は師走と呼ばれ、いつも悠然と構えている師匠が走り回る意味だそうでなかなか言えて妙です。要するに、年末はやることが多いのですな。しかも、一年中の疲れも溜まって来ているし。この時点でイライラが募っている読者様もいらっしゃると思います。このイライラ、普通の生理的な現象がほとんどですが、病気が絡んだ状況であると放置しては良くないですね。医学用語で「易怒」(註1)という状態です。

  • 註1: 読みは「いど」 。

『易怒は精神状態を表し、ほとんどの精神障害の疾患にみられる。圧倒的に多いのが、不安神経障害。気分障害のうつにもあるぞ。怖いのが、認知症、特にアルツハイマー病に関連するものだな(註2)。アルツハイマー病などのイライラは急速に現れ、同じように去るので特徴があり解りやすい(註3)。うつ病の分類などについてはピンドラーマ2010年3月号にひとりごとしたので詳しくは言わないが、気分障害のうつは躁鬱病のそれであり、どちらかというと、怒りっぽくなるというより気分が落ち込んだ状態のほうが多いのでは?一般的に内科の診療でよく診るのは不安神経障害に関するものだな(註4)。また、精神症状をきたす器質的障害もあるので、まずそちらの除外が重要だな(註5)。巷でよく聞くのがカルシウムが足りないからイライラする話し。結論からいうと間違いです。というか、同時にカルシウム濃度が低下する病気、副甲状腺疾患などが神経症状をおこすから短絡的に「足りない=イライラ」になったのではないかと思う。22人の読者様のように普通に食事をしているとまずこのようなことにはならない。どちらかと言うと、ポテチ+コーラで生活しているような人たちが精神症状をおこすのだけど、これはズバリ栄養失調だな。』

  • 註2:現時点で根治法が無いため。
  • 註3:本人はあまり解ってない、周りが大変になる。
  • 註4:この場合不安神経障害とはストレス障害、適応障害、パニック障害、心気症、など。
  • 註5:甲状腺疾患、副腎や副甲状腺疾患、脳血管障害、パーキンソン病、脳腫瘍、膠原病、重金属中毒。

器質的疾患が除外できたら、精神症状は精神障害の一部になるので、そこで治療になります。不安神経障害系の治療は「抗不安薬」と「抗うつ剤」を単用あるいは併用します。抗うつ剤というと、躁鬱病の治療薬のように思われますが(そのとおりです)、いわゆる新世代抗うつ薬(註6)はこの種類の疾患の治療にもとても有効です。簡単に説明すると、抗不安薬は短期的な治療や急性期に使い、抗不安薬は中期・長期的アプローチに使用します。ブラジルの生活でおこる理不尽のためイライラしている方は、理不尽はどうにもなりませんが、障害のためにイライラが発生または悪化しているようであれば治療の対象になりますね。目安は「あまりにもイライラして、その状態自体に嫌悪している」ような状態であると考えます。

  • 註6:「選択的セロトニン再取り込み阻害薬」SSRIと「セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬」SNRIの2種類。

閉経で考える日伯の違いは?

By: Kazusei Akiyama, MD


2013年10月

今月のひとりごと:『閉経で考える日伯の違いは?』

ここ2ヶ月、愚痴っぽいひとりごとで大変失礼をいたしました。このコラムの22人の読者様にもちょっとお叱りをいただきましたので、この場を借りてお詫び申し上げます(註1)。今週、友達の婦人科のドクターと話しをしていて、閉経が話題にあがりました。ブラジル人女性と日本人女性のコトの捉え方の違いはあるのかと。

まず定義からです。閉経とは「月経が停止する自然現象」であり、女性ホルモンのエストロゲン産生が劇的に減少するためです(註2)。月経はいうまでもなく生殖と関係があるので、これが停止する事は生殖能力が無くなる事であり、子供が産めるのが大きな特徴である女性の人生では大変大きな転機ですよね。日本人女性の場合、平均50歳で閉経がおこります(註3)。正常とされる年齢帯は平均年齢プラスマイナス5歳で、それ以前の45歳以前の場合早発閉経、それ以降の55歳以降の場合晩発閉経と呼ばれ、一応正常範囲以外なので、関与する疾患がないかなどの精密検査の対象になります(註4)。そして閉経年齢の前後5年間が更年期と呼ばれます。更年期に入ると、ホルモンの分泌が不安定になってくるため、いろんな症状が現れます(註5)。症状の多少は個人差がありますが、ひどいと「更年期障害」と位置づけられ、治療の対象になります。

『今月のお題の答えからいうと、「違いはある」だな。日本人は自然は「従うもの」である捉え方が多いと思う。反面、ブラジル人も含む欧米人は自然は「支配するもの」である考え方ではないだろか?(註6)この概念の違いが閉経では一番つらい更年期障害(註7)に対する態度の違いがでてくると思う。日本人にとって閉経は受け入れるものであるが、ブラジル人にとって閉経は抵抗するものである。前者はいかに「更年期を上手く乗り越えるか」考え、後者はいかに「更年期にならないか」の発想になるのだろう。だから更年期障害の”治療”としてホルモン補充療法、HRT(註8)が開発された。典型的な欧米考え!ホルモンが低下するのが問題であれば、外部から入れる。それで更年期にならない。というか、更年期か更年期でないかよく解らん状態になる。止めると障害の症状が出てきてつらいからいつまで経っても止められない。モラトリアムの一種だな。先送り。でも、5年以上HRTをすると乳ガンの発生が増加するので、ビビりながら薬を使う(註9)。体力のある間に、上手く乗り越えれば良いのに、無くなってからではさらに乗り越えにくくなるのだな。HRT自体は上手く使えば、ホルモン分泌が激変する時期に有効だと思う。反対に「絶対に薬などに頼らないで根性で」解決を求める日本的な考え方もいかがなものか?』

という事で、HRTも視野に入れてもいいでしょう。 バカとはさみと薬は使いようと言いますね(言わない?)。 さらに日本人は「漢方薬」という更年期障害にとても有効な手があるのです。筆者が思うに、更年期には「準備」が必要で、宿題をしてこそじたばたしないでこの女性の大課題をクリアできるのです。女性の宿題は月経、出産、更年期に対してといくつかあると考えますが、これらについては次の機会にひとりごとしましょう。


註1:日本人社会ではそうでもないのですが、当地ブラジルではすっかり医者が悪者にされてしまったので気分が晴れないのです。あ~まだ言ってる!

註2:閉経すると女性ホルモンが完全にゼロになるわけではない。

註3:ブラジル人女性は直近の調査では平均52歳で閉経。

註4:日本の鉄道のダイヤのように正確な現象ではないので、多少ずれても異常のないことがほとんどではあるが、一応そういうことになってるのですな。

註5:「のぼせ」や「ほてり」、異常発汗、不安、いらいら、不眠、倦怠感、耳鳴り、など。

註6:だからこそ自然を保護する「エコロジー」な概念は西洋社会で生まれるのではないか?元々共存、共生していれば「破壊に対する保護」が必要ないでしょうが。どちらも上から目線だけど。

註7:「月経が無くなる」事自体には不満をもつ女性はあまりみない、どちらかというと「面倒な月経がなくなり安堵」といった意見が多いかな。

註8:Hormone Replacement Therapy。

註9:漫然とやってるから、70歳でエストロゲン補充をしている人もたまに診るぞ!


医業をしたければ医者になればいいのよ

By: Kazusei Akiyama, MD


2013年09月

今月のひとりごと:『医業をしたければ医者になればいいのよ』

このコラムの22人の読者様、皆さんお元気でしょうか?暑かったり寒かったりで体調が不安定ですね。このところ続いて申し訳ないのですが、今月もかたい話です。今年の7月に11年間議会で議論されて立案された「ブラジル医行為法」が一部拒否の状態(註1)で大統領府に承認されました(註2)。これに対するひとりごとです。

医師や医療に関する法律や規則はそれぞれの国で異なりますが、大概共通する点があります。まず、「いかに人の健康を守る(註:その延長で「健康を害しない」)」、そして「その健康を守る従事者や機関の秩序」ではないかと筆者は愚考します。日本の例を挙げると、このテーマに関する法律は「医師法」「医療法」があります。前者は医師とは何か、何ができるか、何をしないといけないか、を定義してます。後者は医療を提供する業界の定義です。違った観点からいうと、前者が医業に携わる個人に対する規則で後者が同、体制と法人(行政も含む)に対する規則でしょう。日本の場合、どちらも戦後、1948年の法律です。しかし、実は日本でも「医行為」(または「医業」)の法定義はなく、それぞれの場面で「解釈」されてきたのが現状です。日本の厚労省の解釈では「医師の医学的判断および技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、または危害を及ぼすおそれのある行為」とあります(註3)。もっと解りやすいのが「医師が行うのでなければ保健衛生上危害の生じるおそれのある行為」であると考えます(註4)(註5)。

ここでまた全世界で共通するのが、医学や医療行為そのものが進歩してきて、非常に複雑になってきたことです。また、平均寿命の延長や都市構築の進化で人口や疾病の構成が変化してきたこともあります。この状況で医療サービスの広大複雑化がおこり(註6)医業そのものの定義が見直されないといけない時期にきているのかもしれません。

『ブラジルで起こっているすったもんだも結局純粋な医行為そのものの法定以上に医師以外の医療従事者のプレッシャーで生じているものである。つまり、彼らが複雑化する医療行為の範囲をできるだけ取り囲もうとする動きがあるからだな(註7)。また、「医業は独占であり、独占は悪である」といったロビー活動が特に(現時点で資格すらも確定されていない)鍼灸施術者により同時に行われている。でもそれを言うと、反対になんでもありで、医者などいらないのでは(註8)?  要するに、「医行為」の法定とともに「医業類似行為」の法定も同時に行わなかったのが失敗の元ではないかと思う。しかし11年間議論し、上院と下院に通過した法案をばっさり削除するか?』

ちなみに医業の独占事項とは、「診断」と「治療方針の決定」であると愚考します。そして、「医業に携わりたい者は医学部にいって医者になれば良いのだ。」と思います。


註1:この法案の一番の特徴である、診断や治療など医師の業務に関する肝心なところが削除されたので、意味のない法律になってしまった。

註2:先月のコラムで「ブラジル医師法」と書きましたが、正しくは「ブラジル医行為法」「Lei do Ato Médico」です、訂正します。

註3:平成17年7月26日の医政発第0726005号。

註4:平成13年11月8日医政発第10号。

註5:この2つの医政は内容的に同じだろう。時期の違う厚労省から発令されているが、17年のは「政治的に正しい」世論の反面かな?

註6:例えば介護サービスの展開、昔はなかったですよね。

註7:例えば、看護師による子宮頸癌検査サンプルの採取、検査技師による画像検査の実施

註8:日本では幸い(?)医業類似行為という概念があり、その中に按摩・マッサージ師、鍼灸師、柔道整復師などの業務が入っているので、それほど問題にならない(のかな?)。


医者までデモせんといかんのかよ。

By: Kazusei Akiyama, MD


2013年08月

今月のひとりごと:『医者までデモせんといかんのかよ。』

寒いですね。昨日サンパウロでは50年前より記録を採るようになってから一番寒い日中でした。気温8度前後の話しで、日本人からみたら別にどうってことのない寒さですが、それは日本でのことですよね。当地では窓やドアからスースー風が入ってきますから、家の中が寒い!脱線してしまいました。

今月は連邦行政府と医者の関係のひとりごとです。行政は6月にあった一連のデモに対する処置の一環にブラジルの医療事情を改善するためMais Médicos(註1)と呼ばれているプログラムを起動しました。これで揉めているところに、11年間議会で議論されて立案された「ブラジル医師法」が一部拒否の状態で大統領府に承認されました(註2)。この2点で両者の関係が最悪になり、医師でもある現職の厚生大臣は医師会や医師評議会よりpersona non grata(註3)であると宣言されるまで至ってます。

『現在の連邦行政が得意な「焦点をそらす」やり方だな。一連のデモはバス運賃の値上げ反対で始まったのだが、あっという間に10万人規模のデモになったのはやはり色々な社会的不満が充満していたからだろう。未だにこの社会現象の理由などについて解析が行われているが、要するに既存の行政方法や政治の仕方にクレームがついたのではないかと愚考する。ワールドカップに伴う巨大な投資が行われているが、それより「教育や医療に予算をまわせ!」や「FIFAが要求し、政府が出来るといっている興行の国際的基準を教育や医療にするほうが重要だろう」などがあった。無駄遣いをするな、物事の質を上げろといったところだろう(註4)。これらの要求に対して、大量の医者を無医村に投入するといった焦点ぼけ政策が打ち出されたのだな。何もないところに医者が一人でいっても出来ることはほとんど無いのに… もちろん、1万人単位の無職の医者がいるわけでないので、外国から必要分、正式な手続きをふまずに輸入する(註5)のだそうだ。それをすると数ヶ月後から始めたい医師の大量投入に間に合わないので省くといった乱暴な政策なのだ(註6)。ブラジルらしいといえばそうかもしれない。都会の郊外はともかく、田舎町が公募する医者の給料は元々悪くない(註7)。ただし、額面どおり支払われなかったり、労働条件が提示されたものと全然ちがったりで短期間で辞職するケースが多いのだ(註8)。あるいは、人数が少なく、労働過剰のため過労で倒れたりする。インフラやシステム投資がきちんとされなく何十年も放置されていた医療現場が手品のように良くなる訳がないのだな。また、医療はゆきとどくのも重要だが、それが質の高いもの(註9)でないとダメだろう(註10)。この様な環境におかれているブラジルの医者は今回の「医療政策がうまくいってないのは医者不足であるから」という行政のウソにかなり頭に来たのだな。7月3日にサンパウロの主要道路、パウリスタ通りで史上最高の5000人ほど医者のデモがあったのはこのような背景があったのだ。筆者も参加したぞ(註11)。教授級も結構いたのが印象深かった。』

このコラムの22人の読者様の生活圏にはあまり関係のない事情だと思いますが、現在以上のような事が起こっているのです。そのため、医者全般があまり嬉しくない状況におかれているのではないかと思います。こんなムチャな政策、上手くいく訳がないのですが、はたして本当に実行した場合、近い将来と遠い未来にツケがくるので心配ですね。


註1:直訳すると「もっと医者を」。筆者の意訳は「なんでもいいからとにかく医者を」だな。ポイントは3点あり、1万レアル/月の奨学金で地方や大都会の郊外で仕事をする医師の募集、数年以内で100校以上医科大学を創立させ医師数を増やす、2022年頃より医学部卒を2年間強制的に地方で医療をさせる、です。

註2:この法案の一番の特徴である、診断や治療など医師の業務に関する肝心なところが削除されたので、意味のない法律になってしまった。

註3:歓迎せざる人物の意のラテン語。

註4:それ以外に多かったのが、汚職反対、特に政治家や特権階級の。

註5:正規の手続きは「外国で医学部を卒業した者は、ブラジル国内で一定の研修をした後、Revalidaと呼ばれる試験に合格しないと医業に携われない。」合格率は恐ろしく低い… 2010年で0.3%、2011年で9.6%、2012年で8.4%であった。早い話、ブラジルに来たい、あるいは帰りたい、外国で卒業した医者は程度が低いのだな。

註6:実はこれには一つ隠れた理由があるようだ。10年前よりの労働者党政権が推奨して党員をキューバの医学校に数百人単位で送り出しているが、一般的な西洋医学の医学校と違うためRevalidaの対象にならないらしい。ので帰って来ても医者になれない。それで今回のどさくさに紛れて帰国させる。

註7:月給2万レアル前後なんかざらであるぞ。

註8:要するにだまされる訳ですな。

註9:百歩譲って、ある一定以上の質。

註10:その点はMais Médicosは量の事を言っているのであって、質については何もいってない。つまりMelhores Médicos政策ではないのだな。

註11:ごめんなさい、夕方のラッシュ時に交通マヒにさせてしまって。


やはり「予防的乳房切除」についてはひとりごとしないといけないよな。

By: Kazusei Akiyama, MD


2013年07月

今月のひとりごと:『やはり「予防的乳房切除」についてはひとりごとしないといけないよな。』

このコラムの22人の読者様、ご無沙汰してます。先月と先々月と2ヶ月連続で休稿してしまい、申し訳なく思ってます。5月号は学会やらで忙しくダメになり、6月号はやるぞ!と決意していた矢先、筆者診療所のデータなどがすべて入っているサーバーが死んでしまい(註1)、修復で大変だったのでした。この2ヶ月で医療関連だけでも色々ニュースがありましたが(註2)一番衝撃的かつ医学界で物議をであったのは米人女優アンジェリーナ・ジョリーが受けた乳癌予防手術だと思います。

『正式な医学的用語では「予防的両乳房切除及び再建手術」ですな。現時点で一番乳癌と関連ありとされている遺伝子異変(註3)があり、母親や親戚が乳癌で死亡しているのでガンになる前に、乳房を全部取っちまったのだな。その後シリコンインプラントで再建したのだ。この場合、予防処置であるため、皮膚と乳輪・乳頭が残る。乳癌のリスクを算出する疫学モデル(註4)が存在するが、彼女の場合、乳癌のリスクが87%であったのが切除により5%に減少したとされる。確かにガンになる組織そのものが(ほとんど)無くなってしまうため、リスクが減るのは減るのだが、それでもゼロになるわけではない(註5)。』

この様な疫学的モデルを根拠にした数字に基づいて、特に米国では予防的切除が行われているのです。女性の象徴でもある乳房(註6)を切除することは、身体的ダメージもさることながら、精神的ダメージも大きいことは簡単に想像がつきます。乳癌の予防切除は、「片側」つまり、一方がガンになった場合でリスクが高い患者さん(註7)に実施することから始まったのですが、ここでのポイントは「予防的」かつ「両側」つまり、まだ健康な組織をなくしてしまう事でしょう。既に発病しているので片側を切除し、ではその反対側も予防切除しましょうという状況ではかなり違う。高確率にしても、まだなってないガンに対して全部摘出してしまうのはたしかにジョリーの声明にもあった「決断」が必要ですね。

『ジョリーの行動が絶唱されたのは、主に米国だった。彼の地の事情を反映しているからだな(註8)。すでに両側全摘を受けていたりやそれをすべきであると医師に言われている女性はは多々いるもようで、それらの女性達に対して、勇気をもって対処する事が大切である事を彼女は訴えているわけだな。ま~完璧に西洋医学の考え方であって、予防ではあるかもしれないけれど、東洋医学の「未病を治す」とは性質の違うものだろう。筆者は問題はガンになりやすい状況や環境にあるのではないかと思う(註9)。乳癌は前出の遺伝子異変も重要だが、それがない一般の女性のリスク要因では、女性ホルモンのエストロゲンが多い状態、飲酒、高身長(註10)、社会的地位が高い(註11)のが確実とされている(註12)。これら要因への注意、改善こそ重要だと思うけど。いずれにしても、「女らしさ」を演出してくれるエストロゲンと関係のあるので、色っぽい女性ほど乳癌になりやすいという事だな。』

日本人は欧米人ほど乳癌になりませんが、日本人女性のガンでは一番多い事実には間違いありません。30代はそれほどではありませんが、40代で急増し、40代後半にピークがあり、50代から減少する特徴です。30代後半以上の22人の読者様はぜひ毎年婦人科で乳癌検診を受けられるようお願いします。


  • 註1:停電が直接の原因であったようだ。
  • 註2:その他に「インフルエンザがサンパウロ州に集中して死亡例が多い」、「最近流行のデモに巻き込まれて催涙ガスを吸った時の症状と対策」、「子宮癌予防ワクチンの副作用事情」など話題の多い2ヶ月でした。
  • 註3:BRAC1とBRAC2という遺伝子。
  • 註4:ゲイルモデル、クラウス表など
  • 註5:なので、ジョリーの声明での” I can tell my children they don’t need to fear they’ll lose me to breast cancer.”「わたしの子どもたちに、わたしをがんで失うことを恐れなくていいと言うことができます」というの正確ではないぞ。
  • 註6:欧米社会は明らかにオッパイ社会だろう。
  • 註7:リスクは個人差がある。現時点で一番高いリスクが:女性、加齢、BRCA1・BRCA2の遺伝子変異、第一度近親に乳癌、乳癌の既往歴、乳腺密度が高い、のこの6点である。
  • 註8:欧州や日本などの先進国では否定する論調の医療関係者が多かった。実際、現時点では高いリスクの患者さんは頻繁にチェックして、なれば初期発見で治療にもっていくのが一般的な見解だ。
  • 註9:日本人女性のあいだでも間違いなく増えている。日本国立ガンセンターのデータでは1980から2000の20年間で発病率が88.1%増えている。正確にいうと年齢調整罹患率。対人口10万人で、1980年が25.2件、2000年が47.4件。その間、米国の増加は33.3%。
  • 註10:になるような食生活?
  • 註11:つまり出産回数や授乳回数が少ない。
  • 註12:その他関連が証明されていないものが、喫煙(閉経前は関連があるようだ)、高脂肪食、制汗剤の使用、乳房インプラント、環境汚染、夜間勤務などがある。

殴っているわけではないのですけど。マッサージでもないよ。

By: Kazusei Akiyama, MD


2013年04月

今月のひとりごと:『殴っているわけではないのですけど。マッサージでもないよ。』

ドンドン、トントン、ゴリゴリ。

「あ~先生、そこそこ、気持ちイ~」。

診察室での一場面です。”変な事”をしているわけではありません。診察のうちの身体検査を実施している間に患者さんとの会話です。

「だから、マッサージじゃないから。」

「へぇ~、そ~なんだ。でも叩いて何か判るのですか?」

「判るよ、もちろん。色々。打診という診察技術です。」

『これも医療文化の違いですかね。日本では保険診療がメインだから診察時間が短いのだな。数をこなさないと経営が成り立たないのが実際なのだ。じっくり問診や身体検査をしている時間がない(註1)。だからやらない(できない)。患者側もそれに慣れているから、そういうモノがあるとも思ってもいない。筆者の診療所のように時間をかけてじっくり診る、考える方法には(註2)慣れていないので今月のひとりごとのような場面になるのだな。当地でも現地の保険、Convenioコンベニオで診療している所は事情は同じだから、国の違いというより、報酬制度の違いによるものだな。』

身体検査の正確な名称は「臨床診察的な手法による検査」です。これには視診、打診、聴診、触診があります。だいたい漢字の意味のとおりですね。視診は体の発達具合や変形、肥痩の程度、障害の有無、歩行機能の状態、粘膜の検査で貧血や黄疸の有無、浮腫、発汗、発疹や湿疹、病変の有無などを診ます。打診は体内の臓器異常や腫脹の有無を診ます。聴診では心音、肺音、腸の蠕動、動脈雑音などがわかります。触診は臓器肥大や腫瘤の有無、リンパ腺の異常、肩こりなどのこりや圧痛点などを診ます。どうです、色々わかるでしょ?

『筆者はこの他に、東洋医学的な診察を取り入れているので、少し重複するけど、四診(ししん、望診、聞診、問診、切診)があるのだ。望診:見た目。体格、顔色、態度などの他に、舌の観察。聞診:声や咳の音(註3)。問診:これは一番西洋医学と同様だな。自覚症状、現病歴、既往症、家族歴など。切診:触診と似ているけど、観ているモノが違う。脈の観察や腹診(註4)、皮膚や関節の状態など。だから、実は診察は患者さんが待合に入った時から始まっているのだ。声の状態や咳のタイプ、歩き方などが聞こえているよ。』


註1:ので、レントゲンだの血液検査だの即検査になるのだな。

註2:検査が外注のため、患者さんが検査機関に出向く必要がある。面倒だし、時間がかかるので、出来るだけその場で解決を目指すのでじっくりやる訳です。例えば、肺炎などは診察でほとんどわかります。レントゲンは確認のためだな。その代わり、診察費が高いですね。

註3:望診には元々これ以外に嗅覚による観察というのがあったのだな。排泄物の臭いや味など。さすがにこれは最近はしないな。体臭や香料の使い方は観察するけど。

註4:腹診は漢方医学では非常に重要で腹壁の温度や緊張、圧痛点などを観察する。