過ぎたるは猶及ばざるが如し!

By: Kazusei Akiyama, MD


2017年08月

今月のひとりごと:『過ぎたるは猶及ばざるが如し!』

過猶不及(かゆうふきゅう)。論語に出てくる孔子の言葉です。これは多分筆者が一番日常的に使用している概念をことわざにしたものです。「いくら良いことでもやりすぎと、やり足らないのと同じようによくない」という意味ですね。考えるのは良いけど、考えすぎは良くない。スポーツは体に良いけど、やりすぎると怪我したり体調をくずしたりする。延々と例を挙げられますが、「程ほどがよろしい」と言う事ですね。筆者の職業の場合、「ほどほど」より「やりすぎ」にスポットが当たります。「医療のやりすぎ」の問題です。

このコラムの24人の読者様は「ポリファーマシー(polipharmacy)」「ポリパトロジー(polipathology)」という言葉を聞かれた事はありますか?ポリは古代ギリシャ語のpolys、「多数」という言葉で、前者の場合、「多数薬を服用」後者は「多数罹患している」意味になります。現時点での一般的な定義は次のとおりです:

ポリファーマシー:3ヶ月以上、毎日5剤以上の薬物を服用すること(註1)。

ポリパトロジー:5つ以上の直接関連のない疾患の診断があること(註2)。

これらは最近注目されている現象です。理由は幾つかあるでしょう。まず超老齢化社会、老人になるほど病気になり、投薬を受ける確率が高くなります。次に医療の高度化・複雑化。診断技術が進み、「見つかる病気が増えた」、「それに対する新薬が増えた」。また、健康の異常は薬で治すものである概念(註3)が蔓延しているのも理由のひとつでしょう。医学の進歩のため、薬物療法の選択肢が増えたため、今度はその治療、その前の診断が健康上の問題になってきているのです。

一例で考えてみましょう。前からある高血圧症のフォローのため、92歳の男性が行きつけの心臓内科に行きました。「定期検診」名目で内科は色んな検査を実施、その内前立腺ガンマーカーが高値を示しました。そこで前立腺の組織を採る生検で精密検査をしたところ、ガンの診断がつきました。この患者さんは特に泌尿器科系の症状はないし、年齢相応の衰えはあるもの、日常活動には支障ない程度で、普通に生活されてます。殆どの老人性前立腺ガンは細胞の悪化はあるもの、大きくならない、転移しないのが特徴です(で、この場合もそのタイプのガンです)。さて、この件はどの様に処置するのが一番良いのでしょうか?ガンがあるので手術をして、その後抗がん剤を服用する。何もしないでほっとく。現在の医療の主流の考え方に元つくと、もちろん治療!になりますね。それで手術をして、そのまま死亡するかもしれないし、合併症をおこし、寝たきりになるかもしれないし、手術の後遺症で排尿障害が現れるかもしれないし、抗癌剤の副作用で苦しむかもしれません。そう、「なにもしない」のも重要な選択肢の一つなのです。

世の中は高齢社会になってますが(註4)、医療の高度化・複雑化のおかげであるとみんなで錯覚しているのではないでしょうか(註5)?現行の医療の考え方は次のとおりです:

1. 新しいモノは前のモノより良い。

2. 医療処置はすべて効果があり、かつ安全である。

3. 高度医療こそ健康上の問題を克服するものである。

4. 出来るだけ処置をすることは生活の質を改善する。

5. 無症状の疾患を発見することは必ずプラスになる。

6. 病気の危険因子は薬物投与で克服する。

7. 気分や感情のコントロールは薬物を使う。

これに更に医師が根本教育される「患者を死なせない」概念が働くと、あらゆる手段を使い現代の医療では「生かせ続ける」事が出来るのです。

しかし、ある治療の副作用のため、更に薬を飲まないといけない、元の病気はよくなったけど、治療の副作用で違う場所が悪くなった、などいわゆる「医原病」が多いのも今の現象です。ポリファーマシーやポリパトロジーは老人に多々観られるのですが、老人に限った事ではありません。現代の医療を徹底的に進めると行き着く現象だといえるのではないでしょうか?そのため、色んな提言が現れてます。上述の前立腺ガンの例だと、「ガン」と呼ばずに「低悪性度病変」や「緩慢性病変」と言った名称の変更が提言されてます(註6)。

『ガンだと「治療せんといかん!」になるので、名前をガンで無いようにするやり方だな。』

世界的にみると、医療のやりすぎを考える運動(無駄な医療撲滅運動)は幾つかあり、次の3つが代表的をいえます:

Choosing Wisely:邦訳は「賢い選択」。これは米国内科専門医認定機構財団、アメリカ発の運動で、医療各会が代表的な無駄な医療行為(検査・治療)を5つリストアップしている。(註7)

Right Care:邦訳は見当たりませんが、「正当な医療」。伝統的医学誌である英国Lancet紙が力を入れている。医療にアクセスと必要な治療を考える運動。(註8)

Slow Medicine:邦訳なし、「急がない医学」。イタリアで始まった民間運動。急性期集中治療を重点とした医療現場、患者をろくに検査しない(できない)3分診察、それを補う検査の数々、即効性の薬物使用(副作用も速効)、などを考える運動・哲学(註9)。

医療のやりすぎは実際危険でもあるし、医療費の高騰にもつながります。正に過猶不及ではないでしょうか?


註1:5剤以下でも「不要な薬を服用している場合」ポリファーマシーと見なす定義もある。また、日本では「多剤服用のため有害現象がおこっている状態」との定義が多々観られるが、有害現象は必須ではない。

註2:一般的には6ヶ月以上前より診断で、慢性病が5つ以上ある状態。

註3:メディカライゼーションmedicalizationと言われ、日本語では「医療化」。何でも病気とみなし、治療対象(投薬対象)にする考え方。例えば、医者に行って血圧が高いと言われ、薬を出された。生活態度の見直しや血圧が高くなる原因は追及しない。投薬治療に依存。

註4:90歳なんて最近はザラですよね。

註5:実は違うのです、公衆衛生(上下水道の整備、予防接種政策、減塩政策など)と食糧の改善(内容や冷蔵の普及)が寿命が伸びる条件です。医療の進歩の貢献は一割程度とされてます。

註6:low risc lesionindolent lesionなどと呼ばれる。

註7:http://www.choosingwisely.org

註8:http://www.thelancet.com/series/right-care

註9:http://www.slowmedicine.com.br/conceito/ 2016年8月のひとりごとも参照ください。日本でスローメディシンを検索すると「医療の基本は自然治癒力」を提言する書籍が出てきますが、この運動は治療をしない事を薦めている訳ではありません。


Kombuchaってお茶なの?

By: Kazusei Akiyama, MD


Boca do Inferno. Cascais. Caju©2017

2017年07月

今月のひとりごと:『Kombuchaってお茶なの?』

このコラムの24人の読者様(註0)は「コンブチャ」と聞くと何を連想しますか?普通の日本人だと、「昆布茶」ですよね?それで、最近ブラジルではkombuchaなる物が大流行していて、初めてそのネーミングを聞いた時は「ああ、また和食系の流行か?」と筆者も思ったのでした(註1)。ところが読み進めると腸の善玉菌がどうのこうのとなっており、「?」になったのです。

  • 0:先月お二人帰国されましたので、本来は22人に戻るべきですが、「ウェブ版で読者を続ける」との事なので、引き続き24名様です。
  • 註1:少し前に緑茶が流行ったでしょう。

そう、このkombuchaは1970年代に日本でも流行った「紅茶キノコ」の事です。名称については諸説ありますが(註2)、今欧米社会で流行している理由は美容と健康に良いとセレブや芸能人が消費しているからです。欧米風の発音ではコンブチャまたはコンブッカです。紅茶キノコと言えば懐かしいですね。日本の全家庭であった程流行ったのでは(註3)というくらい普及してました。これはキノコ類ではなく、菌類で、紅茶のカフェインと砂糖をエサに繁殖し、発酵により白っぽい膜が出来ます。少し酸味のある飲料になり、菌がいっぱい入ったいわゆる「発酵食品」の一種です。最近は製品化されていて、開封して直ぐに飲めます(註4)。

  • 註2:キノコを昆布と勘違いしたとか、韓国語が由来だとか、コンブと言う医師が始めたとか、不明です。
  • 註3:でもその後廃れて、どうなったのですかね?簡単に繁殖する反面、悪玉菌感染しやすいという辺りで維持がむつかしいのがネックだったのかな?
  • 註4:bebida kombuchaで売ってます、結構高い!300mlくらいで15~20レアル。

でなぜ発酵食品が注目を浴びていると言うと、これは「腸管免疫」と密接しているからです。ヒトを含む動物の生活には、名前の如く善玉菌や食べ物になるような「良いもの」や病原菌や毒物などのような「悪いもの」があり、これの善悪の判断と防御をするのが「免疫」です。身体に危険なものを排除するとても上手くできたシステムです(註5)。言うまでも無く免疫力が低下すると病気になります(註6)。腸は食品として体内に入ったものをまず善悪の判断をし、それから良いものだけを吸収します。また、心身の安定と関係しているため「幸せホルモン」と呼ばれるセロトニンもほとんどが腸でつくられていますので、腸の働きを助けるものを好んで摂りましょうと言うことになるのですな。

  • 註5:病原菌に対しては抗体と呼ばれる蛋白の造成やキラーT細胞の動員、体内で発生したがん細胞などにはNK細胞の動員などがあります。
  • 註6:感染症や癌。アレルギーや自己免疫疾患。

『「腸活」という言葉まででてきてますな。』

その内、腸内菌は消化を助けたり、促進したり、免疫を活性化するので重要です。腸内菌は100%善あるいは100%悪といった構成ではないので、要はバランスの問題で、善を摂って悪を減らす方法です。栄養バランスの悪い食事、加工食品などで腸に入ってくるものの量・質・内容が悪いから腸内菌のバランスが悪くなり、免疫力が低下するのですね。

善玉菌:乳酸菌、ビフィズス菌など。

悪玉菌:大腸菌、ウェルシェ菌、バクテロイデス、ユウバクテリウムなど。

腸内免疫を活性化する善玉菌を増やす事はとても重要なので、流行はともかく、読者様の毎日の食生活に忘れずに摂取してくださいね。腸活や腸内菌の話しはほとんどは美容と関連してますが、特に女性に特化した現象ではありませんので、男女・老若全員該当します。表に腸内菌を増やす代表的な食品を示します(註7)。

  • 註7:この話しはとても面白いので、続きます。大腸の働きについて「ひとりごと」もご参照ください(2014年5月号)。

 

表1:腸内菌を増やす代表的な食品


ポルトガルは日本人にとって身近です。

By: Kazusei Akiyama, MD


2017年06月

今月のひとりごと:『ポルトガルは日本人にとって身近です。』

先日学会出張のついでにリスボンへ行ってきました。一度は行きたい場所の一つで、もちろんブラジルの宗主国であるので当地の原点を観たいのでした。このコラムの24人の読者様の中でも既にポルトガル旅行されてると思うので重複するのはお許しいただいて、少し感想させていただきます。全体はまあのんびりした所で、首都のリスボンでもヨーロッパの田舎といった感じです。この街は西ヨーロッパの一番古い都市であるので、本当に歴史を感じます。ポルトガル人はスペイン人と共に最初に大航海時代に乗り出し、ブラジルを含める大植民地を構築した訳ですが、同じように大植民地を持った英国と比べると、宗主国に残った富はそれ程でも無いように見えます。植民地支配の件ではポルトガル自体その英国に最終的に奪取された史実があるので、ブラジルから出た財宝はあまりポルトガルに残らなかったのだなと思いました。特に感激したのは2点あります。一つは料理で、魚の焼き具合が絶妙であった事です。ちゃんとしたレストランでも街の屋台でも流石と思わせてもらえました。もう一点はTorre de Belémベレンの塔です。この場所からポルトガル人は航海に出て、ブラジルや更に遠い日本まで行ったと思うと感動しました。

リスボンから長崎までは本当に遠いですよね。それを16世紀に木造の船で航路を確定した人間の根性は脱帽ものです。あまりにも遠すぎるし、当時の航海技術ではいっきにポルトガルから日本まで行けた訳ではありません。航路も1498年にインド航路を作り(註1)、ゴアを拠点に(註2)東アジアへ進出し、ようやく1543年に種子島にたどり着いた訳です。この時点ではポルトガル船ではなく、漂着した中国船にポルトガル人が乗っていたと歴史に書いてありますが、凄いのが、その7年後の1550年にはViagem do Japãoと名付けられたゴア発長崎着の航路が確定している事です(註3)。それから1639年の鎖国で南蛮人追放がおこるまで1世紀近くポルトガルと日本の交流は続き、現在まで日本に影響を残しているわけですね。表1は日本語に残るポルトガル語をまとめてみました。

ポルトガル大航海時代の生還率は約20%であったそうで、遭難、難破、襲撃、疫病(註4)、などで4/5が途中で倒れたという凄い統計です。16世紀はそのような時代なので、当時のポルトガルの平均寿命約30歳(註5)と現在では少し考えられない(註6)状況でした。現在(2014年度)の平均寿命が日本83.59歳、ポルトガル80.72歳(註7)であることを考えると、人類は本当に長寿になったと言えます(註8)。

表1:日本語になったポルトガル語

日本語

ポルトガル語

備考

コップ

copo

パン

pão

タバコ

tabaco

ボタン

botão

シャボン

sabão

日本では石けん水の玉、ポル語石鹸

ビスケット

biscoito

合羽

capa

かるた

carta

花札も西洋の輸入品目

金平糖

confeito

襦袢

gibão

如雨露

jorro

おんぶ

ombro

ポル語、肩の事

ビードロ

vidro

日本ではガラス細工、ポル語ガラス

ビロード

veludo

カステラ

castella

スペインカステーラのパンの略

ブランコ

branco

balançoバランソから転じたとの説も

南瓜

camboja

ポルトガル人がカンボジャから持ち込んだから

天ぷら

tempero

ポル語では料理の下味をつける意

木乃伊

mirra

ミイラを作成する時の薬がミイラそのものを指すようになった

 


註1:1488年にアフリカの喜望峰を通過してから10年かかってますね。

註2:ゴアは最近の1961年までポルトガルの植民地支配だった!

註3:季節風を利用するため、年に1度の航海であった。

註4:特に壊血病、新鮮な野菜や果物不足のためビタミンC不足による病気。

註5:日本の平均寿命は約33歳。

註6:現在でもアフリカでは平均寿命30歳代が存在します。

註7:ちなみにブラジル74.40歳。

註8:この飛躍には公衆衛生、食糧の改善がほとんどで、医学の進歩の貢献は10%程度と言われる。


ソーセージと言っても、色々ありますよ

By: Kazusei Akiyama, MD


2017年05月

今月のひとりごと:『ソーセージと言っても、色々ありますよ』

このコラムの24人の読者様も既にご存じの様に、先月当地で食肉不正が発生しました。ブラジル連邦警察(PF)の大がかりな捜査はすべて名称がつきます。で、今回のは「Operação Carne Fraca」直訳すると「弱い肉作戦」です(註1)。PFの操作の名称はその内容にちなんだ命名があるのですが、今回のは絶妙な名前です。「安モンの肉」という意味と聖書に出てくる「肉が弱い」(註2)つまり「欲望に勝てないため汚職に走った」を上手く掛け合わせてあります。この食肉不正は食肉加工業者がブラジル政府の検査官に賄賂を渡し、品質管理基準に満たない食肉が認可され(註3)国内外で流通していた疑いの捜査でした。日本でもブラジル産の食肉が輸入されているので、輸入保留されましたし、EU、スイス、中国、チリなどは輸入停止、全部で31カ国・地域が輸入を止めるの騒ぎにまでなりました。問題のあった加工業者は主にパラナ州を拠点にしている企業ですが、全国におよび、流石のブラジル人も肉の消費を控え、スーパーでの売り上げが軒並み減少しているようです(註4)。問題のあった製品は牛肉、豚肉、鶏肉の加工品で、ソーセージ、ハンバーガー、冷凍鶏肉などで、「水分含量が基準より多い」「蛋白含量が基準より低い」「使用基準より添加物が多い」「サルモネラ菌汚染」などの容疑があります。捜査の証言では加工の工程で消費期限切れや産地不明の肉の使用、段ボールの混合(註5)などが指摘されてます。

『ブラジル政府は「S.I.F.下で確認された単発的な法規違反、一部の公務員が犯した職業上の逸脱行為であり、ブラジルの衛生管理制度全体の機能不全を意味するわけでない」との姿勢である。元々そこらで屠殺された家畜を適当に販売していた社会に衛生基準を取り入れたS.I.F.制度自体は正しいと思うし、全世界への輸出実績を勘案すると(註6)S.I.F.がついている食品はないより安全であることはまず間違いないであろう。でもこうやって、不正が起こると、「何を食わされているのか解らん」状態になるのだな。』

今回問題があった製品の内、ソーセージが当地邦人でも消費が多いので(註7)、それ(ブラジルではsalsicha)に焦点を当てみます。なぜソーセージが不正の対象になったかというと、「かなり加工できる肉製品だから」でしょう。ソーセージの定義は「食肉+脂身+塩・香辛料を腸などに詰めた食品」です。「詰める」がミソなので、ブラジルでも「詰め物」embutidoと広義に呼ばれます。日本でもウインナーやフランクフルトと呼ばれるようにドイツ語圏の食文化ですね(註8)。ウインナー、フランクフルト、ボロニアの違いは何の腸に詰めるかで決まり、羊、豚、牛の順になります。日本のJAS規格のソーセージは特級、上級、標準と3段階の等級がありますが、ブラジルの法規では5段階あります(註9)。等級付けはどれだけ「肉のみが入る」かで決まります(表1)。

『肉のみというと、反対に肉以外のものが入ると言うことだな。』

塩と香辛料は入れないとソーセージにならないので、どれにもありますが、肉以外とは結着材料、デンプン質、砂糖、などの他、「畜肉」と呼ばれる豚の頭、鶏の首や背骨と肋骨、牛や豚の肉を分けた残骸などを「機械的処理」したモノです。物理的処理ともよばれ、残骸を機械的に濾して骨を廃除する方法です(註10)。わかりやすく言うと昔はゴミだった精肉廃棄物を「有効処理」して食用に利用しているわけです。

『安モンのソーセージのザラザラした食感は骨だったんだ~!』

表1。ブラジルのソーセージの等級。

等級

規格

1 salsicha Viena

最も肉含量が多い。牛と豚(またはどちらか)肉と脂身のみ。

2 salsicha Frankfurt

牛と豚(またはどちらか)肉と脂身にベーコンが入る。香辛料多め。

3 salsicha tipo Viena ou tipo Frankfurt

牛と豚(またはどちらか)肉と畜肉(40%まで可)と腱、皮、脂身、結着剤など。

4 salsicha de carne de ave

鳥類肉(一般的に鶏肉)肉と鶏畜肉(40%まで可)と結着剤など。

5 salsicha

牛と豚(またはどちらか)肉と畜肉(60%まで可)と内臓、腱、皮、脂身、結着剤など。

肉のみで作られたソーセージは調理すると白っぽい肉の色になります(フランクフルトは着色するので例外)。医師としてお勧めできるソーセージはブラジルでは等級1と2のみです。普通スーパーで大量に並んでいるのは5のsalsichaです。ポル語で「畜肉」は「carne separada mecanicamente」と表示さているので、是非ラベルを読んでみてください。湯煮や燻製など保存処理をしていない「生ソーセージ」(ブラジルではlinguiça frescal)が基本的肉のみで作ってますので筆者はソーセージを食する場合はfrescalの一種linguiça toscanaにしてます。


註1:1100人の捜査員の動員。194箇所で強制捜査。309通の裁判所命令。

註2:新約聖書に出てくる「肉」は「人間の欲望」の意味だそうで、「肉が弱い」とは「欲望に負ける」という事になるそうです。

註3:ブラジルの食品認可はS.I.F.Serviço de Inspeção Federal、連邦衛生検査制度による。1915年に創設された歴史ある役所。農務省(正式名:ブラジル農牧食糧供給省)の管轄。家畜、その生産物、加工品、原料;魚介類と海産品;家畜乳と乳製品;卵と卵産品;蜂蜜と蜜産品の監督・認可が業務。

註4:最近スーパーに行くと肉売り場が小さくなっている感じがします。捜査直後は10人に4人が肉の消費を減らしたとの調査結果あり。

註5:そのとおりです、紙を混ぜてカサを増やすやり方ですな。

註6:輸入する側にも検査があるので、可であるから輸入が許可されるのでしょう?

註7:なぜか日本人の朝食にはウインナーとサラダが付きもの、それを当地でも継続しているのだな。

註8:日本で「ボロニア」と呼ばれる詰め物はイタリア系、ブラジルではsalsichãoおよびmortadela。また、サラミのようなドライソーセージもありますね。

註9:正確には4+1段階。

註10:食肉処理装置という機械です。


ブラジルは今、黄熱迷走中ですな。

By: Kazusei Akiyama, MD


2017年04月

今月のひとりごと:『ブラジルは今、黄熱迷走中ですな。』

先月号にも記載した当地ブラジルで流行中の「黄熱」が迷走しているのはないでしょうか?まず、黄熱ワクチン接種の勧告を記載します:「流行地域(註1)に住んでいるまたは旅行する以外はワクチン接種は勧告されてません。つまり、「どうしてもそれらの地区へ行く必要がある人が予防接種すべき」は各方面の同意があるようですが、その「流行地域」がどこか?で迷走です。WHO世界保健機関が3月にサンパウロ州とリオデジャネイロ州いずれも全域(州都のサンパウロ市とリオ市及びカンピーナス市、ニテロイ市を除く)に旅行する旅行者にワクチン接種の勧告が出ました。ブラジルの厚生省はこの勧告には反対してます。リオ州は全域を認めるが、サンパウロ州は一部必要ということです。しかし、サンパウロ州保健局は連邦政府厚生省と同調しておらず、リオ州の流行地域14行政地区への対応で十分と発表してます。いったいどうしたら良いのでしょうか?

  • 註1:2017年3月下旬時点でブラジルの次の各地の山林地帯、河川地帯:北地方(アマゾン地方)、中西地方(ブラジリアを含む)の全域、マラニョン州全体、ピアウイ州南西、バイア州西と南、ミナス州全域、サンパウロ州西、エスピリトサント州北、南地方(パラナ州、サンタカタリーナ州、リオグランデドスル州)の西(イグアスを含む)。

『まず、現時点では当地で流行の黄熱は「森林地域」とウイルスの宿主になる「野生の猿類」が関係しており、媒介する蚊も都市部でデング熱やジカ熱を媒介するネッタイシマカのAedes属ではなく、森林系のSabethes属とHaemagogus属の媒介であることが判明している。学術的に正確にいうと、黄熱ウイルスは3種類のライフサイクルがある:①熱帯雨林型、②都市型、③中間型。熱帯雨林型は森林型ともいわれ、森林内で猿と蚊の間の伝播である。都市型サイクルはヒトと蚊の間の伝播であり、Aedes属の蚊が媒介蚊となる。中間型は森林(ジャングル)の周辺境界部で見られるサイクルでヒトー蚊ー猿の間の感染環になる。今回のブラジルでの流行は「中間型サイクル」と言える。(註2)つまり、田舎、森林地帯やその周辺へ行く場合がリスクになり、それ以外はリスクがほとんど無いと言える。』

  • 註2:ブラジルでは都市型サイクルの黄熱は1942年以来観察されてません。20世紀の初めにリオの市街地で大流行した黄熱は都市型サイクルでしたが、これは撲滅されてます。

黄熱はフラビウイルス科フラビウイルス属のウイルス感染です。感染は媒介動物の蚊に刺され、感染します。ヒトからヒトへの感染は成立しません(註3)。黄熱ウイルスに感染しても、全員発症することはありません(註4)。蚊に咬まれてから3日~6日の潜伏期間があり、発症した者には高熱、頭痛、悪寒、筋肉痛、背部痛、悪心嘔吐等の症状が現れます(註5)。しかし、発症した15%程度が重症化し、一時期の寛解期を経て熱が再燃し、下痢、黄疸、出血、肝不全、腎不全、ショックなどに至り、約50%が死亡します(註6)。ヒトが感染源になるのは、約1週間で、発症2日前くらいから発症後5日の期間でその間に蚊が吸血すると蚊が感染します。

  • 註3:ので、この場合は性感染や垂直感染はしません。
  • 註4:不顕性感染と呼ばれます。
  • 註5:風土病化している地域では軽い症状や不顕性感染が多い。
  • 註6:ブラジルの実績。

特異的な治療はないので、発症すると対症療法になります。しかし、ワクチン接種が有効性が高いので予防が出来る疾病です。黄熱ワクチンは安全性が高い製品とされてますが、生きたウイルスを使った弱毒化ウイルスワクチンなので、接種した5~10%に軽い黄熱の症状が出ます(接種後5~10日後)。誰でも受けて良いワクチンではありません。次の状況、人口は接種するのは勧告されません:

①6ヶ月歳以下(註7)②妊婦 ③卵アレルギーがある者 ④以前他のウイルスワクチンでアレルギーがあった者 ⑤60歳以上の者 ⑥免疫不全がある者(註8)⑦大量の副腎皮質ホルモン投与中の者。これらは予防接種を受けても良い(リスクがあっても受けた方が良い)場合もあるので、医師に相談してください。

  • 註7:脳炎のリスクのため。日本国の勧告は9ヶ月歳以下。
  • 註8:HIV感染者、悪性ガン患者、化学療法あるいは放射線療法を受けている者、骨髄不全や骨髄移植を受けた者。

『予防接種が有効な疾患であるが、副作用が多いワクチンなので賢く利用するのが良いと思うぞ。当地では特に前出の森林周辺境界部へ行くのを検討したほうがよいのでは(註9)?また、2016年7月にWHOが黄熱ワクチン接種の有効期間を1回の接種で10年有効から一生涯に変更した。しかし、この改定はまだ浸透してないようで、ブラジル厚生省の様に10年間とするところも多々あり、これも迷走のひとつだな。』

  • 註9:邦人観光が多いイグアスの滝が正に森林周辺境界部なので、行くメリットと予防接種するメリットを天秤にかけてください。

過去の感染症に関するひとりごとも併せてご覧ください:2015/5デング熱2014/3シャーガス病2010/4デング熱と黄熱


本当に便利なのかな?

By: Kazusei Akiyama, MD


2017年03月

今月のひとりごと:『本当に便利なのかな?』

今年のサンパウロは日本の冬で大流行した輸入物のインフルエンザの流行で始まり、咽頭結膜熱、手足口病、訳の分からん熱など、「もらい物」つまり感染症で賑わってます。しかし、一番怖いのは当地ブラジルで流行中の「黄熱」ですね。大変問い合わせが多かったので、医学界より出ている黄熱ワクチン接種の勧告を記載します:「流行地域(註1)に住んでいるまたは旅行する以外はワクチン接種は勧告されてません(註2)。つまり、「どうしてもそれらの地区へ行く必要がある人が予防接種すべき」と言うことになります。流行地域への移動をやむを得ない場合はまず事前に接種しかたを確認をし(イエローカード)、10年以内に受けていなければワクチン接種をする必要があります。

さて、今回のひとりごとは実は感染症の話しではありません。一般内科の医療現場では、食生活と関係する疾病を毎日診てます。前回の話しも「口から入る物」が肥満をおこしているでしたね。我々人類は生活をするのに必須の食事から病気になっているのではないでしょうか?色々便利になったことで、生活の質が向上した事は間違いないでしょうが、その反面、便利過ぎて、実は難しくない事も忘れているのではないかと思うこの頃です。便利には対価があります。便利を流通するためには物を加工する必要があり、それが行き過ぎているのでは?一例を挙げると、高血圧などと関連があると悪者扱いされているナトリウムですが、現在の先進国の都市部の成人のナトリウムの一日の摂取量の大半は塩化ナトリウム、いわゆる「塩」からくるのではなく、6割が食品添加物に含まれるナトリウム塩(註3)由来といった試算があります。

『塵も積もれば山となる、という事だな。』

また、例えば、顆粒状の出汁の素はお湯に入れただけで出汁ができる、と便利ですが、和食のベースの「鰹だし」は沸騰した水に鰹節を投入して2分でできます。この場合、不便なのは、鰹節を濾して、それを捨てる(註4)ことですね。「便利な生活」を追求した結果、簡単な事も忘れているのではないでしょうか?ということで、まず家で作らないトマトソース(箱や缶を開ける以上に手間はありますが、以外と簡単!)を例に挙げ、このコラムの24人の読者様に「便利X食生活X病気」について考えて戴ければ幸いです。


  • 註1:2017年2月下旬時点でブラジルの次の各地の山林地帯、河川地帯:北地方(アマゾン地方)、中西地方(ブラジリアを含む)の全域、マラニョン州全体、ピアウイ州南西、バイア州西と南、ミナス州全域、サンパウロ州西、エスピリトサント州北、南地方(パラナ州、サンタカタリーナ州、リオグランデドスル州)の西(イグアスを含む)。
  • 註2:非常に副作用の強いワクチンであるため;流行により需要が多く、ワクチンの在庫が少ないため。。
  • 註3:例:亜塩素酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム、サッカリンナトリウム、亜硝酸ナトリウム、L-アスコルビン酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、エルソルビン酸ナトリウム、グルタミン酸ナトリウム、等々。
  • 註4:2番だしをとる手もありますが。

ブラジル式トマトソースベースのレシピ

材料(3リットル分)

トマト4kg(細長いイタリアンが良い(tomate italiano)、ソース用なので、形が悪くてもOK、なるべく完熟だと美味しい。完熟していなければ、常温で置いておくと赤くなります。桃太郎、プチトマトでも可(高額になりますが)。サラダ用のtomate caquiやdeboraやcarmenは美味しくできない)

人参 大 1

パセリ(salsão)  葉を取った茎のみ 3

バジリコ(manjericão) 葉を取った茎のみ 3~5 (当地では鉢植えで売ってます。乾燥バジリコを使う場合、ティーバッグに入れる)

タマネギ 大 2

オリーブオイル 大さじ 4

 

作り方

1。トマトはスポンジと石鹸で洗う。水気は拭き取る。(写真1

2。人参、パセリ、バジリコはたわしで洗う。皮むき不要。水気は拭き取る。

3。タマネギはみじん切りにしておく。

4。寸胴など深い鍋にトマトを一つずつ入れ、手の平で押しつぶす。(写真2

515分ほど中火にかけ、柔らかくなったら下ろす。(写真3

6。熱いまま、2分ほどミキサーにかける。ざるで濾す。(写真4

7。鍋にオリーブオイルを入れ、加熱。3のタマネギを投入、シンナリするまで炒める。(写真5)

8。6の濾したトマトジュースを7の鍋に投入。人参(丸ごと)、パセリ、バジリコを入れる。

9。中火で沸騰したら、弱火にし、蓋をせず約40分加熱する。時々全体をかき混ぜる。

10。出来上がったら、人参、パセリ、バジリコを取り出す。(写真6)

備考

このソースはベースです。パスタや煮込み料理をするとき、適宜、塩、オリーブオイル、ニンニク、バターなどを加えるので最初から入れません。無農薬の原料を使わない場合、薬品含有になるとの意見がでますが、商品化されたものは農薬以外に添加物が入りますので随分マシではないでしょうか?ソースは冷凍容器などに適宜取り分け、冷凍。6ヶ月で消費するのが理想ですが、1年くらい冷凍保存できます。


 

寄生虫、いますよ。ブラジルには

By: Kazusei Akiyama, MD


2016年12月

今月のひとりごと:『寄生虫、いますよ。ブラジルには』

今月も感染症の話しです。先日邦人の患者さんを診察していた時に寄生虫(註1)の疑いが出たのですが、なにやら体内にエイリアンでも棲んでいるような大騒ぎだったのです。確かに日本では事実上寄生虫がなくなったといえるのかもしれません。1958年から続いていた小学生の寄生虫卵検査が2015年度で廃止されました。文部科学省の資料によると小学生の寄生虫卵保有は1958年度で29.2%、1983年度で3.2%、2013年度になると0.2%まで激減してます。寄生虫は通常糞便とともに排泄された卵が経口か経皮で体内に取り込まれます。したがって、下水道処理などの衛生設備のインフラ整備、手洗いや食料の適切な処理、裸足で歩かないなどの衛生概念の教育などが予防の柱です。そのため、それらが発達していない発展途上国に多い感染症である事は容易に理解できますね。また、体外にでた卵が生存できる環境はどちらかというと温かく、湿ったほうが適しているので、熱帯地方がその条件がそろってます。

  • ​註1:狭義では自由生活をする動物に寄生する生物で、外部寄生虫(例:ダニやシラミ)と内部寄生虫(例:蛔虫、マラリア原虫)に分類されるが、一般的には腸内寄生虫のことです。

『発展途上国で熱帯地方って、もろブラジルではないですか!そう、この国はまだかなり寄生虫があるぞ。5年ほど前にミナス州のある市で実施された調査では、小学生の寄生虫卵保有率が平均29%、学校の立地環境により7%から83%まで保有が検出されたのだ。保有率の差は、市内と農村部、トイレの有無、飲み水の適切な処理の有無だった。日本も戦前は人糞尿で下肥を使っていたので、大半の人が寄生虫感染していた試算があるぞ。1960年頃の農村部で60%!これが、衛生インフラの整備でほとんどゼロまでなったのだな(註2)。きれい好きな日本人の仕事ですな。』

  • 註2:しかし無農薬野菜、いろんな生食の普及(例:サラダ)、発展途上国からの野菜の輸入などで、また症例が増える傾向にあります。

ブラジルではこのコラムの24人の読者様はスラムに居住しているわけではないですよね。食料だって、ちゃんと調理しているし、変なものを食べる訳でもないし、裸足でそこらを歩いている訳でもないので、寄生虫なぞ関係ないと思ってませんか?というか、寄生虫の存在そのものを忘れてますよね。今の日本の現状では無理もないと思いますが。しかし、ブラジルで生活しているので、寄生虫感染のリスクにはさらされます。80年代の話しですが、サンパウロ市内の某名門校で行われた研究では、以外にも小学生の半数近く寄生虫卵保有者でした。裕福な家庭なのにどうして?になったのですが、結局「外食するから」「自宅に(家族以外の)料理人がいるから」が原因でした。当地のように貧富の差があると、料理を作っている人とそれを食べている人の衛生概念の差もあります。衛生状況の悪いファべーラ(註3)に住んでいる人が料理を作っていたりするのですね。

  • 註3:ブラジルでのスラム街の名称。

寄生虫は少量であったり、成長してなかったりすると、体に変化はなく、症状もまずありません。それが大量になったり、大きくなると症状がでます。一般的な症状は腹痛、下痢や排便のパターンの変化、疲労などです。重症化すると、貧血、腸閉塞、黄疸、肝硬変、てんかん、内臓破壊なども起こりうります。サナダ虫に代表される条虫は中間宿主が生活史に必須なので(註4)、生活史のサイクルを断ち切る事により減る傾向にありますが、野菜など経由で経口摂取される蛔虫やヒトからヒトへ感染する蟯虫のような虫は依然として感染率が高い(註5)。蛔虫、線虫、蟯虫などは肉眼でも見えますが、アメーバやラムブル鞭毛虫などの原虫は顕微鏡でないと見えません。ブラジルでは寄生虫に感染する事は恥ずかしい事ではありませんので、上記の症状がある場合は早めに受診しましょう(註6)。

  • 註4::サナダ虫の卵をヒトが直接飲み込んでも成長しない。しかし、そのため幼生のまま体内の本来寄生すべきでない部位に定着して弊害をきたす事もある。例:脳内寄生=てんかん。
  • 註5:蟯虫は夜間に肛門付近に排卵する、それで痒くなり、掻いた手で他人に移したり自己再感染する。
  • 註6:定期健診で検便しているから大丈夫と思っているあなた、そう大丈夫でもないので注意が必要です。定期健診の検便方法ではよほど大量の寄生虫がいない限り、検出されません。

梅毒が流行中です!でも他人事だと思うでしょ?

By: Kazusei Akiyama, MD


Neko. Osaka. ©Caju 2012

2016年11月

今月のひとりごと:『梅毒が流行中です!でも他人事だと思うでしょ?』

今月はいきなり質問です。梅毒が性的な接触によってうつる感染症であることはこのコラムの24人の読者様、皆さんご存じですよね?で、性感染って、関係ないと思われてませんか?正式な医学用語は「性行為感染症」(英語:STD sexually transmitted disease、ポル語 DST doença sexualmente transmissível)です(註1)。STDが完全に伝播しない方法は「禁欲」ですが、それでは人間の生活、総じて人類の存続にも関わりますので、絶対になくならない疾病の一つと言えます。感染症と名前がつく疾病全般のとおり、1940年代に抗生物質が開発されてから随分と症例が減りましたが(註2)このところ世界的にSTDの増加傾向が認められます。特に「梅毒」の増加が著しい(註3)。今月、ブラジルの保健省は現在梅毒の流行を認可しました。2010年6月より2016年6月の6年間の間に23万件の新規患者が報告されてます。梅毒の増加傾向はブラジルだけではなく、世界規模です。日本も例外でなく、厚労省の統計によると2010年から2015年の間に約4.3倍増加し、特に女性20代前半の感染者が多くなっていること(この年齢帯で13倍強の増加)が政府や医学会で問題になってます。

  • 註1:ここではSTDとします。少し古い名称でVD venereal disease(性病)がありますが、最近は使われません。
  • 註2:細菌性の感染症は間違いなく減ったが、生物はなかなか「うまく」できており、その”穴”を埋める様に抗生剤が効かないウイルス感染が増えた、または現れた(例:AIDSのHIV)。
  • 註3:感染をおこす細菌は梅毒トリポネーマ、Treponema pallidum、宿主はヒト。感染経路は生殖器、口、肛門から感染、皮膚や粘膜の微細な傷口から侵入し、血液内に進み、体内のいろんな臓器に達する。輸血など血液製剤からの感染も可能であるが、一般的に検査が行われるため、リスクは低い。この細菌は体外では急速に死ぬため、物を介した感染は皆無。

『なぜ問題になるかというと、妊婦の感染が増えているからだな。日本での研究では、妊婦が感染している場合、ほぼ100%胎児に伝播し、子宮内死亡または周産期死亡しなかった場合(註4)「先天性梅毒」になる(註5)。さらに問題が、STDで例えば淋病の様にかなりの確率で症状が出る感染症にくらべ、特に早期では症状がわかりにくい(註6)ことや自然によくなってしまうので感染したことが気付かないこともこのSTDの特徴だな。また、長い時間をかけて症状が形成されるので、長期にわたり伝染する。さらに、多彩な症例を起こし、梅毒は医学界では「偽装の達人」(註7)つまり、医者患者ともに「見逃し」することが多い感染症なのだな。』

  • 註4:感染した胎児の40%が死亡する。
  • 註5:先天性梅毒は生まれた時症状があるのは1/3に過ぎなく、生後数年で症状が現れる(肝臓・脾臓の肥大、発疹・発熱、神経梅毒、肺炎など)。
  • 註6:痛みや痒みをともわないことが多い。
  • 註7:”the great imitator” by Dr. William Osler。

症状は次の4段階で観察されます。医学の進歩で後期梅毒はよほど医療の無い所にいかないかぎり最近はみなくなりました。早期が一番治療しやすいのですが、自然に消滅する場合が多いので、見落とす可能性が高い疾病です。感染後早くて1週間、遅くて3ヶ月で発症します。

早期梅毒第1期:感染した部位にしこり(初期硬結)や潰瘍ができます。この時期の2/3前半は抗体検査は陰性です。

早期梅毒第2期:感染後3ヶ月~3年くらい。全身のリンパ節が腫れる、発疹、発熱、倦怠感、関節痛などの症状。掌、足裏に小さい紅斑が多発し皮がめくれた場合は特徴的。1ヶ月くらいで自然に消滅する。

潜伏梅毒:感染後3年~10年くらい。無症状の場合も多い。症状は皮膚や筋肉、骨に「ゴム種」が発生する。

後期梅毒:10年以降。心臓や血管、眼や臓器に腫瘍が発生、脳や神経を侵され、麻痺性痴呆(脳梅毒)を起こす。

このように、診断が難しい感染症です。検査もいろいろあり、VDRL、RPR、FTA-Abs、TPHAなどを2種類以上組み合わせて判定します(註8)。怖い疾病ですが、抗生物質の耐性は認められなく、以外と簡単に治療できます。早期の場合、ペニシリン注射1回で済みます。しかし、ウイルス疾患のように一度感染すると抗体ができて二度と感染しない訳ではありませんので、再感染が可能です(註9)。

  • 註8:これは結構難しい話しなので、割愛します。
  • 註9:麻痺性痴呆の治療でノーベル生理学・医学賞が出てます。1927年度受賞したユリウス・ワーグナー=ヤウレック医師は高熱発熱した麻痺性痴呆の患者が症状が改善する事に着目した。マラリア寄生虫を接種し、マラリアをおこし、梅毒菌を殺す。その後でマラリアを治療する。その名も「マラリア療法」。すごい。他にも抗生剤以前の治療がここに載ってます(食事中には覧ないほうがよいと思います):http://psychodoc.eek.jp/abare/paresis.html

『梅毒は元々アメリカ大陸にあり、大航海時代にコロンブスがヨーロッパに持ち帰り、1493年にスペインで大流行し、そこから世界中に伝播したとの説が一番有力である。日本語ではじめて記録があるのが1512年で、「唐瘡(からがさ)」と言われたように、中国経由で伝来したのだな。初めて南蛮人が日本に到達したのが1543年だから、30年も先にバイ菌が先に来たことになるな。江戸時代には江戸の人口の1割が梅毒患者であった試算もあるぞ。梅毒の流行は歴史でいくつかあり、最近の流行は男性同士の性行為感染が主であったが、若い女性に増えているのが特徴で、諸説ある。例えば、スマホの普及でSNSなどで出会いが増え、不特定の相手との性交渉が増えた;日本の場合、結婚できない30代40代の女子が多々いるため、「20代女子は早くいい男をゲットする必要があり、セックスを武器に数をこなす」といった説まで出現!筆者が思うに、さらに、怖い感染症であったAIDSが薬物治療で克服されたので、感染予防のコンドームを使った交渉が減った、オーラルやアナルなど性行為の方法が多様化してきたのも関連しているのであろう。大変感染力の強い病原菌なので、「たった1回の過ち」でも感染する可能性があるぞ。ウチは大丈夫とか、ウチの子に限ってとか思っている読者様、とにかくきっちり話し合いする事と予防が大切です。』


 

ブラジルに塩辛持って来られます(かな?)。

By: Kazusei Akiyama, MD


2016年10月

今月のひとりごと:『ブラジルに塩辛持って来られます(かな?)。』

サンパウロは春になりました。まだ寒かったり暑かったりで体調がおかしくなりそうですが、このコラムの24人の読者様(註1)はお元気でしょうか?当地は日本の四季のようにはっきりしてないのでどちらかというと、「気がついたら暑くって雨が増えたので夏だった」感じですね。メリハリがない(註2)。

今月は気がついたらそうなっていた事のひとりごとです。今年の5月10日に発令されたブラジル国農務省(註3)の省令第11号(註4)の農務省規則についてです。これは旅行者がブラジルへ入国する際、動物性食品の持ち込みを解禁したのですが、やれ大統領弾劾だ、五輪だ、ジカ熱だ、ISISテロだ、でニュースの中に埋もれてしまった感じです。調べてみたのですが、どこにも載ってない…

『これまでは肉製品、卵製品、乳製品、魚介製品は持込禁制品だったのだ。日本からこちらへ来る時、税関で食料品を没収された経験のある方は多いではないかな?一時帰国なり、旅行なり、日本に行って何を持って帰るかと言うと、まず食品ですよね。インスタント物は当地でも売ってるから、無いもの、マルの鰹節、干物、蒲焼き、佃煮等々や賞味期限の短いスイーツなどでしょう。「楽しみにまっている孫に」と遊びに来た爺婆が泣いても没収!え~どーして?と言っても、国の規則だったので(註5)仕方がない…なかったのだな。

では件の規則の紹介です:

旅行者の手荷物で人間の食用あるいは家畜の食用であれば、次の製品を解禁:

①人間用肉製品:一人10㎏まで。商業的に滅菌された加工品。煮物や干物。エキス。サラミ、ハムやベーコンなど。鶏ガラ出汁粉末など。

②人間用乳製品:一人5㎏あるいは5リットルまで。チーズ、バター、ヨーグルトなど。粉ミルク、ロングライフミルク。エキス。

③人間用卵製品:一人5㎏まで。液体卵や粉末卵など。卵ジャム。

④人間用加工魚介類:一人5㎏まで。干物。塩漬け。燻製品。

⑤人間用乳製品、卵製品、肉製品を含む製菓:一人5㎏まで。クッキーなど。

⑥家畜用食用動物製品:一頭5kgまで。エサやおやつ。

⑦観賞用動物製品:一人5個まで。(註6)

入国の際、これら製品は商業用のパッケージに梱包されており、かつ、未開封であることが必須です。また、持ち込んだものはブラジル国内で販売禁止されてます(註7)。用心深い方は規則を印刷して、通関時に持っておくのも良いでしょう(註8)。

『商業用パッケージ云々は「そのラベルにより、内容を識別できるように」となってるが、日本語での標記で大丈夫かなと考えてしまった。ま~でも、税関が明らかにユルくなったのは間違いないと思う。これで堂々とうなぎの蒲焼きを持ち帰れるぞ!』


註1:そうなのです、読者様がお二人増えたのです。深謝!

註2:ま~なんでも比較の問題ですが。同じブラジルでもアマゾンにいくと熱帯気候で現地のひと曰く、四季ではなく二季しかないそうです:「暑い」と「くそ暑い」。

註3:Ministério da Agricultura, Pecuária e Abastecimento、直訳すると農牧業と供給省、日本の農林水産省にあたるが、ブラジルの場合、水産業はMinistério da Pesca、漁業省なるものが存在し、別扱い。弾劾裁判を経て8月に罷免されたルセフ政権では39省あったのだ!政権交代で24省”まで”減った。

註4:ポル語ではInstrução Normativa Nº 11 de 10 de maio de 2016。

註5:特にブラジルが鬼のように厳しい訳でもない。このようは措置は農牧業に関連する疫病検疫と関係があるのだな。だから、生の肉類は解禁されていない。日本でも家畜伝染病予防法と植物防疫法で持込規制があるぞ。

註6:これがよく分からない。毛皮の敷物とか?

註7:あくまで旅行者の手荷物に関する省令で、商業用の輸入業務とは異なります。また、郵送品には適応されませんのでご注意を。

註8:規則が載っている官報のリンク:http://pesquisa.in.gov.br/imprensa/jsp/visualiza/index.jsp?data=11/05/2016&jornal=1&pagina=18&totalArquivos=184


サンパウロではハーメンがブーム!

By: Kazusei Akiyama, MD


Following the turtle. Praia do Sancho. Caju©2014

2016年09月

今月のひとりごと:『サンパウロではハーメンがブーム!』

今月の表題はカタカナばっかりですね。ブラジル人が「ハーメン、ハーメン」といってるのでなにかと思ったらramen、ラーメンのことでした(註1)。このコラムの22人の読者様もご存じのとおり、サンパウロは今ラーメンブームです。ラーメン元年とも言える勢ではないでしょうか(註2)。ラーメンは元々日本食屋さんのメニューに載ってました。10数年ほど前より専門店ができてそれなりの人気がありましたが(註3)、このブームは米国の流行が移ってきたものだと思われます。また、最近積極的に日本の文化を輸入しようといった運動の結果でしょう(註4)。筆者もラーメンは好きなので、専門店が増えてくれるのは嬉しいです。でも診療所の近所にあるJ店などは連日1時間待ちの大繁盛で多いに結構なのですが、結局行けてません(涙)(註5)。

  • 註1:日本で使用している日本語のヘボン式ローマ字表記では正しいのですが、ポルトガル語では「R」が語頭にあると「ハ行」の発音になります。「ラ行」の発音であれば、「L」なのですが、同じ「R」でも言葉の途中でかつ母音に挟まれていると「ラ行」の発音になりややこしいです。ラの発音も微妙に違います… 因みに、言葉の途中にある「R」も前が子音だと、「ハ行」の発音になります。で、「L」も語尾にくると、「ウ」の発音になります。例:Raul(人名)英語読みだと「ラウル」ですが、ポル語読みだと「ハウウ」になります。あ~ややこしい。
  • 註2:恒例のFestival do Japãoも今年は焼きそばの屋台が減り、ラーメンとサンマ焼きが増えてましたよ。
  • 註3:始めは日系人や訪日経験のあるブラジル人が多かったな。
  • 註4:その証拠に、市内のP地区で繁盛しているT店のオーナーシェフは来日した事がなく、ニューヨークのラーメン店がモデルと新聞記事に載ってました
  • 註5:たかがラーメン、されどラーメン。1時間待ちますか?

『このラーメン、「体に悪い」と言われる事が多々あり、それと今回のブームのためか最近よく診察時に話題にあがる。実際、体に悪いのか?「カロリーが高い」、「塩分が多い」「炭水化物が多い」、「プリン体が多い」など悪いイメージでありますな。ラーメンの問題は、カレーライスと並び日本の国民食とまでなった、つまり、「頻繁に食べられるから」ではないかとこの筆者は考える。当地では解らないけど、日本では毎日食べてる人もいてますよね。パスタあるいは寿司を毎日食べてれば同じように体に悪いだろう。カロリーの件はどうですかね?一般的な1食は500kcal前後なのでとてつもない高カロリー食とは言えないと思う(註6)。塩分に関しては確かに多い、1食で1日の推奨摂取量が入っていることもある(註7)。麺類なので、炭水化物メインの食べ物であるのは仕方がないか(註8)。プリン体が多いのも事実ですな。プリン体は高尿酸値症と直接関連があり、痛風の原因の一つとされている(註9)。プリン体そのものは毒ではなく、体の細胞の生活に必要な物質なのだな(註10)。実はプリン体の80%程度が体内で産生され残りが食べ物から摂取される(註11)。口から入るプリン体は「うま味成分」の一種であり、つまり含有量が多いものは美味いと言う事なのだな。だからラーメンは美味い!』

  • 註6:同じ麺であればカロリーは、醤油味<塩味<味噌味、鶏ガラスープ<豚骨スープ。
  • 註7:これがインスタントラーメンになると2倍などもあるぞ!
  • 註8:そのため、こんにゃく麺を使ったラーメンもあるらしい。食べたことないけど。そこまでしてラーメン食うか?
  • 註9:尿酸値が高いと、尿酸が結晶化し関節にたまり、結晶が剥がれおちたら白血球がそれを食べ、炎症反応を起こした状態を「痛風」と呼ぶ。高尿酸値イコール痛風ではない。
  • 註10:細胞分裂の際、必要;また、細胞のエネルギー源の一つ。
  • 註11:一応適正な一日の摂取量というのがあり、400mg/日。食品のプリン体含有量はネットでいくらでも載ってますので関心のある方は検索してみてください。

また、普通のラーメンの場合栄養学的に問題とされるのは、ビタミン類、ミネラル類、植物繊維が少ない事です。これはモヤシなどのトッピングを増やせばある程度解消できますね(註12)。結局、どの食べ物にも共通する事ですが、食べ過ぎ、偏食、早食い、などが問題なのではないかと思います。ラーメンの場合、酒席のあとのシメで食される事も多いので、そのあたりにも注意が必要でしょう(註13)。当地ではインスタントラーメンの代名詞はMiojo(明星ラーメン®)であるほど、実はブラジル人の生活に密着してます(註14)。なので、ハーメンは何かと聞かれた時は、「ミオジョのインスタントでないやつ」で結構一発でピンと来てくれます。ラーメンはしっかりした味付けなので、ブラジル人好みであるのは間違いないのでこれからもドンドン浸透していくといいですね(註15)。

  • 註12:このため、日本ではサイドメニューでサラダを出すラーメン店もあるとか。
  • 註13:カロリーの高いアルコールやうま味成分の多いアテの後、さらに追い打ちをかける。また、夜遅くスープ系の食事をして寝ると胃食道逆流症の原因ともなりうる。
  • 註14:麺類をスープに浸して食べる文化がないので、スープを捨ててから食べる事が多い。
  • 註15:その内、「スシー」(寿司)のようにブラジル化するのだろうけど… ま、ラーメンも元は中華料理だったものを和風化したものだから、別に文句いえんか。