迷走は続きますな。

By: Kazusei Akiyama, MD


2018年02月

今月のひとりごと:『迷走は続きますな。』

このコラムの24人の読者様には「またか」と言われそうですが、今月も「黄熱」の話しです。よくひとりごとのテーマに上がりますが、最近ブラジル、特にサンパウロ市でも黄熱パニックがおこりそうになっているので仕方ないです。去年の4月号に直近の黄熱に関する学術的なひとりごとをしており、基本的に内容に変更はありません(註1)。但し、最近の当地の傾向をみると、結論から言えば、「ブラジルへ渡航する、または生活する場合、黄熱ワクチン接種をしておいたほうが良い」と考えられます。

  • 1:黄熱の種類、ワクチン接種の勧告、ウイルスの種類、症状など。

『この原稿を書いている今日現在、とうとうサンパウロ動物園(と隣の植物園)まで閉園になってしまった。付近に住んでいる野生の猿の死亡が確認され、飼育されいる個体にも黄熱検査陽性になった為。その前に、公営の緑地公園等の閉鎖もあり(註2)、間違いなく猿類の間では黄熱が流行状態になっているぞ。野生猿類(註3)の黄熱による死亡例は去年の中頃から報告が増え続けている。騒ぎは「猿殺し」まで発展。でも猿はこの場合、何処に黄熱ウイルスが分布しているのか判明するのに重要なのだな。』

  • 2201710月に州営のHorto FlorestalParque da Cantareiraの閉鎖で始まり、20181月中旬現在、サンパウロ市だけで23箇所閉鎖。
  • 3:ブラジルには5123種の猿類が確認されおり、その内サンパウロ州では10種生息(Mico-Leão-Preto, Bugio-Preto, Muriqui-do-Sul, Mico-Leão-de-Cara-Preta, Sagui-da-Serra-Escuro, Bugio-Ruivoなどが代表的。

現在ヒトの死亡例も増加中ですが、すべて「森林型」の黄熱が原因です。都市型には移行してません。なので、我々都市部の中心地の住民は理論的にいうと予防接種不要なのですが、これほどメディア(特に当地テレビメディア)が騒ぎ立て、接種勧告されていない人達が接種に殺到し、さらに騒ぎが大きくなっている現状では、接種が可能な方は日本でしてこられたほうが良いと判断します。当地ではこの騒ぎでワクチンが不足し、少量で接種(註4)する事に至ってます。ブラジルでは1942年以降、都市型の黄熱は絶滅してます。但し今回の様に森林型に感染したヒトが都市部で繁殖している「ネッタイシマカ」に吸血されると、都市型に移行する訳ですね。従って、前からこのコラムでもうるさく言っている「各自宅で蚊の対策=繁殖させない」のが実は一番重要なのです。

  • 4::fraccionated vaccination。ワクチン基準量0.5mLのところ、0.1L使用、サンパウロ州、リオ州、バイア州で実施。黄熱の場合、基準値と同じ予防率であるが、有効期限が8年(基準の場合、生涯有効)。

『今回の黄熱騒ぎは201612月にミナス州で始まった。場所はドッセ川流域。そこからエスピリトサント州に広がった。そのため、201611月にドッセ川上流でおこった鉱滓ダム決壊事故が今回勃発の痕本にあるのではないかという一説がある。つまり、ドッセ川汚染が原因で魚が全滅、蛙類が激減したため、蚊のボウフラや成虫の天敵がいなくなったので蚊の暴発が起こったのでは?という説。筆者は一理あると思うけど。』



表示してある情報、わかりますか?

By: Kazusei Akiyama, MD


2018年01月

今月のひとりごと:『表示してある情報、わかりますか?』

謹賀新年。2018年は良い年であるようにと願いたいです。ブラジルでは不安神経症になる要因の多い新年ですね。今年はFIFAワールドカップが開催されます。10月には大統領選挙を含め、選挙があります。前半は浮かれ気味。後半は嘘八百のオンパレードで頭の中の正当軸がブレると思われます。(註0)当地では今年は3年前より進められてきた「食品表示」の変革が行われる予定です。改革を進めたい消費者団体とさほど進めたくないメーカーの戦争が開戦です(註1)。

食品表示とは名前のとおり、販売される食品に内容、原料、栄養表示など記載する事です。1962年にFAO(国連食糧農業機関)とWHO(世界保健機関)により食品規格が設立されたのが始まりです。それまでは、表示があったりなかったり、内容も各事業者が好きな事をラベルしてました。しかし、毎日の食べ物です。取引の公正、安全性の確保も重要ですし(註2)、何を食しているかを理解する事で健康の増進を図る目的が一番大事なのではないでしょうか?そのため、内容量や原料名、保存方法や調理方法等で始まった表示も近年では栄養に関する情報に重点がおかれるようになりました。表示方法は各国それぞれ規則があり、統一されてませんが、大概、名称、内容量、原材料名と賞味期限が共通してます。原材料は多く含有されるモノから順に記載されるのも共通してますが、日本の場合は「水」(註3)は表示しなくてもよいようです(註4)。

件のブラジル当局(註5)は数年前には「砂糖含有」の表示を図り、加工業界の反対で失敗している経緯があります。今回は「警告」を記載するか(註6)、含有物質(註7)の量により白緑黄赤と色による表示(註8)にするかが争われてます。いうまでもなく、前者は消費者団体案で、後者はメーカー案ですね(註9)。どうなるかは不明です。

 

現行のブラジルの食品表示には次の情報が義務化されてます:

1.原材料リスト。多いモノから順に記載。単品(例:酢)の場合は原材料名のみ。

2.生産者と消費者窓口。

3.ロットと賞味期限。

4.内容量。

5.栄養表示表。

6.栄養に関するその他の情報。グルテン含有、大豆含有、diet食品、等。

表示違反項目もあります:

a.間違った食品の代用:例:イチゴジャムは生で食べるイチゴの代用でない。

b.効能をうたう:特に医療関係の効能は禁止。

c.当たり前の特徴を得するような言い方:例:コレステロールフリーの食物油(植物油はコレステロールを含有しない。)、本当のトマトが入ったケチャップ(トマトが入らないとケチャップではない。)

栄養表示表は4種類ありますが、一番良く見るのが次のモデルです。記載項目は一盛りに対し「カロリー」「炭水化物」(註10)「タンパク質」「総脂質量」「飽和脂質」「トランス脂肪酸」「食物繊維」「ナトリウム」。

ブラジルの食品の栄養表示表(2017年現在)

「食品表示があれば、人の生活に好影響をあたえる」のだろうか?偽装事件もあるし。数字を読んで理解、判断できるのだろか?できてないでしょ。食品表示が早くから導入された米国が良い例だろう。全人口の1/3が肥満!平均寿命世界第40一体何を食べて病気になるのかがわかるリストになってませんか?』


  • 0:このコラムの24人の読者様、是非、冷静に騒ぎをやり過ごしてくださいね。
  • 1:現地メディアのトーンです。
  • 2:食の安全については20121のコラムもご覧ください。
  • 3:飲料水の事ではなく、食品に含有される水。
  • 4:日本の場合、関連する法律が食品衛生法、JAS法、景品表示法、計量法、健康増進法、医薬品医療機器法と6種類あり、整合性がないとの指摘がある。
  • 5ANVISA 保健省国家衛生監督局。
  • 6:ブラジルのタバコのパッケージは警告タイプですね。日本のように「危険性を高めます」のようなヌルイ表示ではなく「この製品は心臓病や心筋梗塞をおこします」や「この製品はインポの原因になります」等、短い文章とギョッとする写真が表示されてます。。
  • 7:主に「カロリー量」「砂糖」「飽和脂質」「トランス脂肪酸」「ナトリウム」「人工甘味料」の表示。
  • 8:健康に危険なほど、赤。
  • 9:但しメーカー案では「総糖体量」「総脂質量」「ナトリウム量」の簡易案。
  • 10:ここに砂糖が入る。

 

私は高血圧になったのでしょうか?

By: Kazusei Akiyama, MD


2017年12月

今月のひとりごと:『私は高血圧になったのでしょうか?』

このところ、カタい医療の話しばかりですね。このコラムの24人の読者様から面白くないとクレームをいただきそうですが、今月は身近な健康問題を取り上げますのでお許しください。表題の質問は先月(201711月)にアメリカの学会が高血圧の新基準を発表したためです(註1)。それまで血圧139mmHg/89mmHg(以下単位mmHgを省略)まで「高血圧」の診断名がつかなかったのが、119/79以上は高血圧との見解になったからです。

  • 1AHAAmerican Heart Association)とACCAmerican College of Cardiology) が主導。今月12月号のHypertension紙に記載されます。

『これによって、いわゆる高血圧と診断名が付く人口が爆発的に増大した。新基準を出した米国学会によると高血圧の有病率(註236.9%から45.6%へ上昇したのだな。昨日まで「正常範囲」だったのが朝起きたら「高血圧」になっていた!医学というものは日進月歩で色んな発見や常識の見直しがあるが、患者さん側からみたら「またか?!」といったところではないか?コレステロールや血糖値の正常値の基準変化(註3)で治療対象になった人達はいっぱいいるからな。』

  • 2prevalence 一定の人口に対してある疾病が存在する比率。
  • 3:これら基準変化についてはまたひとりごとします。

成人の約30%、4000万人高血圧の人がいるとされる日本では反面、正常範囲を上げる方向にあります。2004年の基準では129/84まで正常とあったのが、2014年に139/89(日本高血圧学会)、147/94(日本人間ドック学会)を新基準としてます。

表:高血圧の診断と分類:

『基準値を上げた根拠は「健康と判断された人達の95%が血圧147/94以内であった」からだな。医学では「普通・正常」とされるのは、「大多数に認められる」のが大定義であるので、その点は間違っていない。しかし、「殆どの人に見つかるから正常」の概念も時には困る。大多数の人が「ある病気」になれば、その定義からいくと「ある病気」が普通になるからな。』

我々は間違いなく高血圧になりやすい生活をしているのだと考えます。いわゆるメタボリックシンドロームと関係のある脂質異常症、耐糖能異常、高血圧の基準値が厳しくなるのも生活習慣を反映したものでしょう。今回の高血圧新基準の場合も一応、体重の減量、カロリーと食塩を制限した食事、カリウムの摂取を増やす、1日最低30分の運動(註4)およびアルコール摂取の抑制を治療の根幹とするとしています。

  • 4:これは例えば通勤時に歩くのでもいいのだが、この勧告がでる事はそれすらしない人が大勢いる事実を示している。

『ただ、そのような生活習慣を維持できないから高血圧になるのではないかと考える。「新基準で高血圧と診断されましたので、じゃあ、勧告通りにします」とはいかないだろう。なので、薬物投与がメインになるのではないかと思うぞ。どんな薬でも副作用があり、降圧剤も然り。手放しで喜んで良いものではない。喜ぶのは製薬会社だな。』

この様に、正常値とは絶対的なモノではありません。また、民族や生活環境により、状況やリスクが変わります。しかし、「血圧は低めが良い」のは医学界の合意です。一般成人は出来るだけ120/80以下を目指す事が重要だと考えます。降圧目標値は年齢や合併症により変わります。ケースバイケースなのでかかりつけ医に相談することが大事です。高血圧は徐々に循環器を壊していきます。普通、症状がでるのは合併症が出現した時で、手遅れの状態も多々ありますので普段からご自身の血圧を把握する事も有用です(註567)。さらに詳しく知りたい方は日本の国立循環器病研究センターのHPを参照ください

  • 5:自分で測る血圧を「家庭血圧」といいます。色んな製品が出ており、お勧めは上腕で測定する器機ですが、手首でも可です。家庭血圧で重要なのは絶対値ではなく、普段からの数値の把握で、そこから外れる事が多いと異常がおこっている事がわかります。
  • 6:家庭血圧の測定方法:血圧計は各自使用、使い回ししない。11回で十分。いつも同じ時間帯、同じ姿勢で2回測り、平均値をメモする(自動的に平均値を出す機種が便利です)。
  • 7:O社、T社、P社、C社など日本に本社がある製品がおすすめです。ブラジルの薬局でも販売されてます(モデルにより100〜250レアル)。

世の中ピンク一色でしたね。

By: Kazusei Akiyama, MD


2017年11月

今月のひとりごと:『世の中ピンク一色でしたね。』

3ヶ月連続の乳ガンのはなしです。このコラムを始めて一番医学的な反響が大きかったテーマでした。丁度10月が乳がんに関する啓蒙の「ピンクリボン運動」(註1)の月であったのも絶妙なタイミングだったのでしょう。このコラムの24人の読者様も色んな所でピンクご覧になったでしょう(註2)。前回2回のひとりごとは技術的な事項が多く少し混乱するとの意見があったので、「乳がんとどう向き合うか」をまとめてみます。

質問:「乳がんが心配になった。どうしたら良いのか?」

回答:『とにかくかかりつけ医にご相談ください。そこでリスクの同定をし、必要であれば専門医が紹介されます。』

質問:「乳がんに関し自分で出来る事は何か?」

回答:『三つあります。①自身がハイリスクであるか同定をする(ハイリスクに関連する項目はひとりごと先月号のボックスを参照ください。ハイリスクの方は必ず専門医を受診してください)。②定期的(最低月一回)に自己検診をするように習慣つける(自分の乳房に馴染んでおくと変化があると直ぐに判る。自己検診の仕方はひとりごと9月号を参照ください。)。③乳がんの増加の原因の一つとされる食事に注意する(食の欧米化、現代食の内容など(註3))。』

質問:「どのような変化が良くないか?」

回答:『次のような変化が見つかった場合、医師に相談してください。』

1.しこり

2.皮膚が厚くなる

3.皮膚に溝が出来た

4.乳頭に外皮が出来た

5.乳頭より分泌物

6.痛み

7.乳頭の陥没

8.静脈が浮く

9.出っ張り

10.皮膚の潰瘍やびらん

11.ミカンの皮のような皮膚

12.乳房の形や大きさが変わった


註1:ピンクリボン運動:毎年10月をキャンペーン月とし、「乳がんに対する意識を深める」を啓蒙する世界的運動。2000年代より一般的に認知されるようになった。リボン運動はエイズ撲滅の赤リボンが元祖とされる。どのガンでもそうだが、早期発見が死亡を回避する一番の状況であるため、この運動も「早期発見を啓蒙する」ものである。ピンクリボン運動の成功を見て色んな疾病に関する「色運動」が出ている(他のガンや緑内障、自閉症、線維筋痛症、SLE、肝炎、脊椎側湾症、多発性硬化症、自殺、先天性梅毒、糖尿病等)が複雑化しすぎたのではないかと指摘がある。早期発見により、死亡率を下げるのも重要であるが、このキャンペーンは2つの大きな問題・弱点がある:❶発見と治療に焦点・宛先をあてた物で、「ガンにならないようにする生活」を啓蒙する訳ではない。❷キャンペーンに便乗した商品や企業が後を絶たない、つまり医療とは関係のない全くの商業主義。また運動に多大な寄付をしているから企業姿勢が正しいとは言えない(有名な件では、某大手化粧品メーカーが初期から運動に参加しているが、自社が販売している発ガン性物質入りの製品と相異なるのではないかと指摘がある。)。この運動により、乳がんになった女性は「検診しなかったから悪い」といった見解になる可能性がある。

註2:自動車レースのF1のタイヤまでピンク色だった!

註3:日本人の食が欧米化したため日本人女性に増加があるが、元来の食事をしている欧米人女性にも増えているので、やはり内容も問題があると考えられる。


 

いや、本当に増えてんのですよ。

By: Kazusei Akiyama, MD


2017年10月

今月のひとりごと:『いや、本当に増えてんのですよ。』

先月からの続きです。何が増えているかというと、乳ガンです。このテーマはやはり皆さんの日常と関係があるようで、たくさんお問い合わせやコメントがありました。一番多かったのが、「本当にこれだけ増えているのか?」でしたね。その他、「これだけ多いといっても全部が悪性な訳ではないでしょ?」や「乳房切除するしないは何処が分かれ目か?」「自分も直ぐにがん検診行った方が良いか?」なども代表的でした。前回出したグラフにある35年間で4.5倍の罹患率は解りやすい以上にインパクトがあったようです。

まず増加率を考える前に「検査率」といった概念の説明が必要です。これは乳ガン検診対象の女性がどれだけ実際に検査を受けたか?という数字です。日本での乳ガン検査率は30%強で先進諸国ではとても低いです。画像診断など検査器機の進歩による罹患率の増加は医学会ではよく知られた現象です。乳ガンの場合も同じです(註1)。日本の場合、40歳以上の女性が2年に1度マンモグラフィー検診を受ける費用を国が補助してくれます。しかし検査率そのものは30%台の前半をジリジリ推移しているだけで、受診率が圧倒的に増えたため罹患率も増えたパターンではないと考えられます(註2)(註3)。反対に仮に半分の2.2倍であれば良いのかというと、それでもとても大きな増加率だといえるのではないでしょうか?乳ガンが「かなり」増えているのは間違いのない事実なのです。

次ぎに悪性良性の話しです。例のグラフに出てくるのは残念ながら全て悪性の乳ガンです。これは乳房の「しこり」の勘違いではないかと思われます。乳ガンもしこりの一つですが、しこり全てがガンではありませんし、殆どが良性の変性です。次ぎの表に乳房のしこりの大まかな種類と特徴を示します。

切除の分かれ目は「病期」に関連します(註4)。乳ガンの組織分類では非浸潤癌と浸潤癌に大きく分けられます(註5)。乳ガンは乳管のガンが一番多いのですが、その癌細胞が乳管内に限定しているのが非浸潤癌でいわゆる「早期ガン」と呼ばれるものです。予後が大変よく、切除すると殆どが完治します。病期は浸潤の有無、腫瘍の大きさ、リンパ節への転移、遠隔組織への転移で決まります。普通手術はIIIa期までで、0期に近いほど切除範囲が少なくなります(註6)。次ぎの表に乳ガンの病期を示します。

直ぐに検診したほうが良いか?は年齢帯によります。40歳代後半から60代前半であってした事が無い場合は「直ぐに」ですが、この年齢帯の前後は「医師と相談の上」になります。特に有名人が30代で発症し、死亡までしているので30代がとても心配と関心があるように思われます。しかし、40代以下の乳ガン検診は勧められません。理由はこの世代の乳ガンは希の為、ガンが見つかるより検診のデメリットのほうが大きいからです。40代未満の乳ガン発症率は全体の6.5%前後で殆ど変化してません。ただし、罹患率でみるように発症する人口そのものが増えているため(4.5倍になっているでしょう?)、「若い人も」乳ガンが増えているのです。若い世代は乳腺濃度が濃いため、マンモグラフィー検診の有効性があまりありません。また、疑いありで精密検査になった場合、組織を採る生検をするなど身体的負担があったり、ガンの疑いであるため結果が出るまでの精神的負担が大きい。日本乳癌検診学会誌によると好発の40代の住民検診の研究の結果は1000人中実際に乳癌だった人は2.8人でした(註7)。

『色々条件やリスクがあるので、一概に「こうすべきだ」とは言えない。しかしとても多いガンなので、しっかりとかかりつけ医に相談し、検診のデザインを各自個別に作るのが重要だと思う。』

最後にハイリスクの女性はこの限りではないので、綿密なフォローが必要です。ハイリスクのチェックリストはボックスに示します。一つでも該当する場合は年齢を問わず専門医を受診しましょう。


註1:東北大でマンモグラフィーとエコー検査を組み合わせると前者のみより発見率が1.5倍に増える研究結果などはその一例であろう。

註2:このパターンは開発途上国に多い。つまり、医療機関そのものが無かったのが出来たとか、行けるようになったとかで受診率が増える。

註3:いわゆる行政が推奨する検診の検査率はあまり変化がないのだが、社会の認知度が高くなり、個別に受診したケースもあるので、単純に罹患率のみ増加したとは言えない。

註4:病期は「ステージ」とも呼ばれます。

註5:詳しくは非浸潤乳管癌、非浸潤性小葉癌と浸潤乳管癌が代表的。

註6:一番小さな切除は部分切除である「温存手術」から「全摘術」まで。場合によっては両側全摘もあるが希(遺伝型のハイリスクなどの場合)。

註7:検診を受けた1000人の内83.5人が偽陽性、その内追加の画像診断を行った人が73.4人、その内さらに生検を行った人が6.9人、最終的に本当に乳癌だった人が2.8人。つまり、検診にひっかかったが本当にガンであったのは3.4%、反対に96.6%の人が「無駄にビビった」訳ですね。


どうしてこんなに増えているのだろう?

By: Kazusei Akiyama, MD


2017年09月

今月のひとりごと:『どうしてこんなに増えているのだろう?』

何が増えているかというと、乳ガンです。今年の6月にセレブな小林麻央さんが34歳の若さで乳癌のため死去されました(註0)。これは診療所に来られる女性達にも大変なインパクトがあった様で、よく話題にあがります。乳癌はとても増えている病気のため、有名人の死亡原因だっただけではなく、皆実際周りにもよく聞くよくある癌なので心配になるのだと考えております。よい機会なので、今月は乳癌についてひとりごとしてみます。

乳腺組織にできるガンが乳癌で、皮膚癌を除き、世界中で女性に一番罹患率の多い癌です。地域により変動はありますが、女性の癌の約1/4が乳癌です。まず図1をご覧ください。これは日本の日本人女性の乳癌罹患率です(註1)。1975年のデータを2010年のとを比較すると約4.5倍にも増えている事が明白です(註2)。現在、日本では毎年約6万人が罹患してます(註3)。現時点では日本人女性の14人に1人がこの癌になると推測されており、皆の周りでもよくあるのも納得できますね。30歳台後半より増加し始め、40歳台後半でピークがあります。欧米人の場合、同じように増加し始めるのですが、70歳台くらいまで段階的に増えていきます。日本人の場合、一度減少し、60歳台前半で再度ピークがあります(図1)。増加とは言葉のとおり増えると言うことで、乳癌は20歳台から発病可能です。また、希ですが、男性にも乳癌はあります(全体の1%程度)。

どの病気もそれに罹るリスクがあります。乳癌のリスク要因として,初潮年齢が早い,閉経が遅い,出産経験がない,(註4)などとともに乳癌の家族歴が古くから指摘されてきてます。今回の癌の場合はリスクは低中高と3段階に分けられており、一番リスクが高いのはいわゆる家族性とされる、遺伝子が関係するタイプです(註5)。家族に乳癌の罹患者がいた場合,乳癌の発症リスクは増加し,その血縁者が遺伝的に近いほど,また乳癌罹患者の人数が多いほどリスクは増加します。母親または姉妹が罹患した場合、リスクは一般人口の2倍、母親姉妹ともに罹患の場合のリスクは13倍にまで上がります。日本人女性に乳癌が増えている原因は「食の欧米化」や「社会進出」が挙げられてます。初潮が早まったり閉経が遅いのは食と関係があると考えられてます(註6)。また、社会進出は晩婚化、少子化をもたらし、つまり女性が生涯生理になる回数が増えている事になります。この二つの現象は乳癌細胞を増殖させる女性ホルモンの一つ、エストロゲンに「曝される」時間が増えているのですね。(註7)。

しかし、近年の免疫学や遺伝学の進化で、昔から言われてきた女性ホルモンのみが主要な要因ではない事判明してきてます。乳房細胞を増殖させる物質にHER2(註8)と呼ばれるタンパク質があり、これが多いタイプの癌が一番悪性です。ホルモン受容体陽性または陰性、HER2も陽性または陰性によって分類されるようになりました。幸いHER2を特異的に抑制する抗HER2薬が開発されており(註9)、一番予後の悪かったHER2陽性癌が一転治療成績が良くなりました。この免疫学的分類で治療も「ホルモン療法」と「化学療法」と「抗HER2療法」の組み合わせとなり、代表的なオーダーメイド療法になりました。

紙面の都合で乳癌の分類や予後、治療や予防についてはまたの機会ひとりごとしますが(註10)、最後に一言:「どの癌でもそうですが、とにかく早期発見、早期治療が重要です」。「自己検診は早期発見につながる」といった明確な結果はないのですが、女性が自身の乳房に馴染んでおくのは重要です。

自己検診の方法:

1.20歳以上は月1回。

2.生理直後が一番乳房が浮腫んでないのでその時期に。

3.観る:鏡の前でリラックスした状態で両手を下げ、正面、左右斜めから乳房の形を観察し、変形(突出や陥没)や左右差を観る。次に両手を上げ、同じ観察をする。

4.触る:指の腹で旋回しながら全体を触り、しこりの有無、変化、増減を観察する。また、乳首をつまんで分泌物がないか調べる。

『一般リスクの女性は45歳から55歳までは必ず毎年医療機関で「乳がん検診」(註11)を受けるように!』


註0:ご冥福をお祈りいたします。

註1:罹患率:ある期間(普通1年間)でどれだけ(普通人口10万人に何人)新規にある疾患が現れるかをあらわす率。

註2:2014年のデータで115人/10万人。

註3:ブラジルの統計:2016年に新規約58000件。

註4:つまり繁殖可能期間が長い事。

註5:乳癌と関係がある遺伝子であると解明されているのがBRCA1とBRCA2と呼ばれる遺伝子の異変。

註6:欧米化の高脂肪高タンパク食で体格がよくなる。

註7:反対に妊娠出産はその間閉経するので回数が多いほど、乳癌リスクが減る訳ですな。

註8:ハーツーと発音。シャレじゃないよ。

註9:最近注目の、biological medicine「生物学的製剤」と呼ばれる新薬。

註10:2013年7月のひとりごと(予防的乳房切除)もご覧ください。

註11:普通、医師の問診、触診、マンモグラフィ検査、場合によっては乳房エコー検査、MRI検査。


過ぎたるは猶及ばざるが如し!

By: Kazusei Akiyama, MD


2017年08月

今月のひとりごと:『過ぎたるは猶及ばざるが如し!』

過猶不及(かゆうふきゅう)。論語に出てくる孔子の言葉です。これは多分筆者が一番日常的に使用している概念をことわざにしたものです。「いくら良いことでもやりすぎと、やり足らないのと同じようによくない」という意味ですね。考えるのは良いけど、考えすぎは良くない。スポーツは体に良いけど、やりすぎると怪我したり体調をくずしたりする。延々と例を挙げられますが、「程ほどがよろしい」と言う事ですね。筆者の職業の場合、「ほどほど」より「やりすぎ」にスポットが当たります。「医療のやりすぎ」の問題です。

このコラムの24人の読者様は「ポリファーマシー(polipharmacy)」「ポリパトロジー(polipathology)」という言葉を聞かれた事はありますか?ポリは古代ギリシャ語のpolys、「多数」という言葉で、前者の場合、「多数薬を服用」後者は「多数罹患している」意味になります。現時点での一般的な定義は次のとおりです:

ポリファーマシー:3ヶ月以上、毎日5剤以上の薬物を服用すること(註1)。

ポリパトロジー:5つ以上の直接関連のない疾患の診断があること(註2)。

これらは最近注目されている現象です。理由は幾つかあるでしょう。まず超老齢化社会、老人になるほど病気になり、投薬を受ける確率が高くなります。次に医療の高度化・複雑化。診断技術が進み、「見つかる病気が増えた」、「それに対する新薬が増えた」。また、健康の異常は薬で治すものである概念(註3)が蔓延しているのも理由のひとつでしょう。医学の進歩のため、薬物療法の選択肢が増えたため、今度はその治療、その前の診断が健康上の問題になってきているのです。

一例で考えてみましょう。前からある高血圧症のフォローのため、92歳の男性が行きつけの心臓内科に行きました。「定期検診」名目で内科は色んな検査を実施、その内前立腺ガンマーカーが高値を示しました。そこで前立腺の組織を採る生検で精密検査をしたところ、ガンの診断がつきました。この患者さんは特に泌尿器科系の症状はないし、年齢相応の衰えはあるもの、日常活動には支障ない程度で、普通に生活されてます。殆どの老人性前立腺ガンは細胞の悪化はあるもの、大きくならない、転移しないのが特徴です(で、この場合もそのタイプのガンです)。さて、この件はどの様に処置するのが一番良いのでしょうか?ガンがあるので手術をして、その後抗がん剤を服用する。何もしないでほっとく。現在の医療の主流の考え方に元つくと、もちろん治療!になりますね。それで手術をして、そのまま死亡するかもしれないし、合併症をおこし、寝たきりになるかもしれないし、手術の後遺症で排尿障害が現れるかもしれないし、抗癌剤の副作用で苦しむかもしれません。そう、「なにもしない」のも重要な選択肢の一つなのです。

世の中は高齢社会になってますが(註4)、医療の高度化・複雑化のおかげであるとみんなで錯覚しているのではないでしょうか(註5)?現行の医療の考え方は次のとおりです:

1. 新しいモノは前のモノより良い。

2. 医療処置はすべて効果があり、かつ安全である。

3. 高度医療こそ健康上の問題を克服するものである。

4. 出来るだけ処置をすることは生活の質を改善する。

5. 無症状の疾患を発見することは必ずプラスになる。

6. 病気の危険因子は薬物投与で克服する。

7. 気分や感情のコントロールは薬物を使う。

これに更に医師が根本教育される「患者を死なせない」概念が働くと、あらゆる手段を使い現代の医療では「生かせ続ける」事が出来るのです。

しかし、ある治療の副作用のため、更に薬を飲まないといけない、元の病気はよくなったけど、治療の副作用で違う場所が悪くなった、などいわゆる「医原病」が多いのも今の現象です。ポリファーマシーやポリパトロジーは老人に多々観られるのですが、老人に限った事ではありません。現代の医療を徹底的に進めると行き着く現象だといえるのではないでしょうか?そのため、色んな提言が現れてます。上述の前立腺ガンの例だと、「ガン」と呼ばずに「低悪性度病変」や「緩慢性病変」と言った名称の変更が提言されてます(註6)。

『ガンだと「治療せんといかん!」になるので、名前をガンで無いようにするやり方だな。』

世界的にみると、医療のやりすぎを考える運動(無駄な医療撲滅運動)は幾つかあり、次の3つが代表的をいえます:

Choosing Wisely:邦訳は「賢い選択」。これは米国内科専門医認定機構財団、アメリカ発の運動で、医療各会が代表的な無駄な医療行為(検査・治療)を5つリストアップしている。(註7)

Right Care:邦訳は見当たりませんが、「正当な医療」。伝統的医学誌である英国Lancet紙が力を入れている。医療にアクセスと必要な治療を考える運動。(註8)

Slow Medicine:邦訳なし、「急がない医学」。イタリアで始まった民間運動。急性期集中治療を重点とした医療現場、患者をろくに検査しない(できない)3分診察、それを補う検査の数々、即効性の薬物使用(副作用も速効)、などを考える運動・哲学(註9)。

医療のやりすぎは実際危険でもあるし、医療費の高騰にもつながります。正に過猶不及ではないでしょうか?


註1:5剤以下でも「不要な薬を服用している場合」ポリファーマシーと見なす定義もある。また、日本では「多剤服用のため有害現象がおこっている状態」との定義が多々観られるが、有害現象は必須ではない。

註2:一般的には6ヶ月以上前より診断で、慢性病が5つ以上ある状態。

註3:メディカライゼーションmedicalizationと言われ、日本語では「医療化」。何でも病気とみなし、治療対象(投薬対象)にする考え方。例えば、医者に行って血圧が高いと言われ、薬を出された。生活態度の見直しや血圧が高くなる原因は追及しない。投薬治療に依存。

註4:90歳なんて最近はザラですよね。

註5:実は違うのです、公衆衛生(上下水道の整備、予防接種政策、減塩政策など)と食糧の改善(内容や冷蔵の普及)が寿命が伸びる条件です。医療の進歩の貢献は一割程度とされてます。

註6:low risc lesionindolent lesionなどと呼ばれる。

註7:http://www.choosingwisely.org

註8:http://www.thelancet.com/series/right-care

註9:http://www.slowmedicine.com.br/conceito/ 2016年8月のひとりごとも参照ください。日本でスローメディシンを検索すると「医療の基本は自然治癒力」を提言する書籍が出てきますが、この運動は治療をしない事を薦めている訳ではありません。


Kombuchaってお茶なの?

By: Kazusei Akiyama, MD


Boca do Inferno. Cascais. Caju©2017

2017年07月

今月のひとりごと:『Kombuchaってお茶なの?』

このコラムの24人の読者様(註0)は「コンブチャ」と聞くと何を連想しますか?普通の日本人だと、「昆布茶」ですよね?それで、最近ブラジルではkombuchaなる物が大流行していて、初めてそのネーミングを聞いた時は「ああ、また和食系の流行か?」と筆者も思ったのでした(註1)。ところが読み進めると腸の善玉菌がどうのこうのとなっており、「?」になったのです。

  • 0:先月お二人帰国されましたので、本来は22人に戻るべきですが、「ウェブ版で読者を続ける」との事なので、引き続き24名様です。
  • 註1:少し前に緑茶が流行ったでしょう。

そう、このkombuchaは1970年代に日本でも流行った「紅茶キノコ」の事です。名称については諸説ありますが(註2)、今欧米社会で流行している理由は美容と健康に良いとセレブや芸能人が消費しているからです。欧米風の発音ではコンブチャまたはコンブッカです。紅茶キノコと言えば懐かしいですね。日本の全家庭であった程流行ったのでは(註3)というくらい普及してました。これはキノコ類ではなく、菌類で、紅茶のカフェインと砂糖をエサに繁殖し、発酵により白っぽい膜が出来ます。少し酸味のある飲料になり、菌がいっぱい入ったいわゆる「発酵食品」の一種です。最近は製品化されていて、開封して直ぐに飲めます(註4)。

  • 註2:キノコを昆布と勘違いしたとか、韓国語が由来だとか、コンブと言う医師が始めたとか、不明です。
  • 註3:でもその後廃れて、どうなったのですかね?簡単に繁殖する反面、悪玉菌感染しやすいという辺りで維持がむつかしいのがネックだったのかな?
  • 註4:bebida kombuchaで売ってます、結構高い!300mlくらいで15~20レアル。

でなぜ発酵食品が注目を浴びていると言うと、これは「腸管免疫」と密接しているからです。ヒトを含む動物の生活には、名前の如く善玉菌や食べ物になるような「良いもの」や病原菌や毒物などのような「悪いもの」があり、これの善悪の判断と防御をするのが「免疫」です。身体に危険なものを排除するとても上手くできたシステムです(註5)。言うまでも無く免疫力が低下すると病気になります(註6)。腸は食品として体内に入ったものをまず善悪の判断をし、それから良いものだけを吸収します。また、心身の安定と関係しているため「幸せホルモン」と呼ばれるセロトニンもほとんどが腸でつくられていますので、腸の働きを助けるものを好んで摂りましょうと言うことになるのですな。

  • 註5:病原菌に対しては抗体と呼ばれる蛋白の造成やキラーT細胞の動員、体内で発生したがん細胞などにはNK細胞の動員などがあります。
  • 註6:感染症や癌。アレルギーや自己免疫疾患。

『「腸活」という言葉まででてきてますな。』

その内、腸内菌は消化を助けたり、促進したり、免疫を活性化するので重要です。腸内菌は100%善あるいは100%悪といった構成ではないので、要はバランスの問題で、善を摂って悪を減らす方法です。栄養バランスの悪い食事、加工食品などで腸に入ってくるものの量・質・内容が悪いから腸内菌のバランスが悪くなり、免疫力が低下するのですね。

善玉菌:乳酸菌、ビフィズス菌など。

悪玉菌:大腸菌、ウェルシェ菌、バクテロイデス、ユウバクテリウムなど。

腸内免疫を活性化する善玉菌を増やす事はとても重要なので、流行はともかく、読者様の毎日の食生活に忘れずに摂取してくださいね。腸活や腸内菌の話しはほとんどは美容と関連してますが、特に女性に特化した現象ではありませんので、男女・老若全員該当します。表に腸内菌を増やす代表的な食品を示します(註7)。

  • 註7:この話しはとても面白いので、続きます。大腸の働きについて「ひとりごと」もご参照ください(2014年5月号)。

 

表1:腸内菌を増やす代表的な食品


ポルトガルは日本人にとって身近です。

By: Kazusei Akiyama, MD


2017年06月

今月のひとりごと:『ポルトガルは日本人にとって身近です。』

先日学会出張のついでにリスボンへ行ってきました。一度は行きたい場所の一つで、もちろんブラジルの宗主国であるので当地の原点を観たいのでした。このコラムの24人の読者様の中でも既にポルトガル旅行されてると思うので重複するのはお許しいただいて、少し感想させていただきます。全体はまあのんびりした所で、首都のリスボンでもヨーロッパの田舎といった感じです。この街は西ヨーロッパの一番古い都市であるので、本当に歴史を感じます。ポルトガル人はスペイン人と共に最初に大航海時代に乗り出し、ブラジルを含める大植民地を構築した訳ですが、同じように大植民地を持った英国と比べると、宗主国に残った富はそれ程でも無いように見えます。植民地支配の件ではポルトガル自体その英国に最終的に奪取された史実があるので、ブラジルから出た財宝はあまりポルトガルに残らなかったのだなと思いました。特に感激したのは2点あります。一つは料理で、魚の焼き具合が絶妙であった事です。ちゃんとしたレストランでも街の屋台でも流石と思わせてもらえました。もう一点はTorre de Belémベレンの塔です。この場所からポルトガル人は航海に出て、ブラジルや更に遠い日本まで行ったと思うと感動しました。

リスボンから長崎までは本当に遠いですよね。それを16世紀に木造の船で航路を確定した人間の根性は脱帽ものです。あまりにも遠すぎるし、当時の航海技術ではいっきにポルトガルから日本まで行けた訳ではありません。航路も1498年にインド航路を作り(註1)、ゴアを拠点に(註2)東アジアへ進出し、ようやく1543年に種子島にたどり着いた訳です。この時点ではポルトガル船ではなく、漂着した中国船にポルトガル人が乗っていたと歴史に書いてありますが、凄いのが、その7年後の1550年にはViagem do Japãoと名付けられたゴア発長崎着の航路が確定している事です(註3)。それから1639年の鎖国で南蛮人追放がおこるまで1世紀近くポルトガルと日本の交流は続き、現在まで日本に影響を残しているわけですね。表1は日本語に残るポルトガル語をまとめてみました。

ポルトガル大航海時代の生還率は約20%であったそうで、遭難、難破、襲撃、疫病(註4)、などで4/5が途中で倒れたという凄い統計です。16世紀はそのような時代なので、当時のポルトガルの平均寿命約30歳(註5)と現在では少し考えられない(註6)状況でした。現在(2014年度)の平均寿命が日本83.59歳、ポルトガル80.72歳(註7)であることを考えると、人類は本当に長寿になったと言えます(註8)。

表1:日本語になったポルトガル語

日本語

ポルトガル語

備考

コップ

copo

パン

pão

タバコ

tabaco

ボタン

botão

シャボン

sabão

日本では石けん水の玉、ポル語石鹸

ビスケット

biscoito

合羽

capa

かるた

carta

花札も西洋の輸入品目

金平糖

confeito

襦袢

gibão

如雨露

jorro

おんぶ

ombro

ポル語、肩の事

ビードロ

vidro

日本ではガラス細工、ポル語ガラス

ビロード

veludo

カステラ

castella

スペインカステーラのパンの略

ブランコ

branco

balançoバランソから転じたとの説も

南瓜

camboja

ポルトガル人がカンボジャから持ち込んだから

天ぷら

tempero

ポル語では料理の下味をつける意

木乃伊

mirra

ミイラを作成する時の薬がミイラそのものを指すようになった

 


註1:1488年にアフリカの喜望峰を通過してから10年かかってますね。

註2:ゴアは最近の1961年までポルトガルの植民地支配だった!

註3:季節風を利用するため、年に1度の航海であった。

註4:特に壊血病、新鮮な野菜や果物不足のためビタミンC不足による病気。

註5:日本の平均寿命は約33歳。

註6:現在でもアフリカでは平均寿命30歳代が存在します。

註7:ちなみにブラジル74.40歳。

註8:この飛躍には公衆衛生、食糧の改善がほとんどで、医学の進歩の貢献は10%程度と言われる。


ソーセージと言っても、色々ありますよ

By: Kazusei Akiyama, MD


2017年05月

今月のひとりごと:『ソーセージと言っても、色々ありますよ』

このコラムの24人の読者様も既にご存じの様に、先月当地で食肉不正が発生しました。ブラジル連邦警察(PF)の大がかりな捜査はすべて名称がつきます。で、今回のは「Operação Carne Fraca」直訳すると「弱い肉作戦」です(註1)。PFの操作の名称はその内容にちなんだ命名があるのですが、今回のは絶妙な名前です。「安モンの肉」という意味と聖書に出てくる「肉が弱い」(註2)つまり「欲望に勝てないため汚職に走った」を上手く掛け合わせてあります。この食肉不正は食肉加工業者がブラジル政府の検査官に賄賂を渡し、品質管理基準に満たない食肉が認可され(註3)国内外で流通していた疑いの捜査でした。日本でもブラジル産の食肉が輸入されているので、輸入保留されましたし、EU、スイス、中国、チリなどは輸入停止、全部で31カ国・地域が輸入を止めるの騒ぎにまでなりました。問題のあった加工業者は主にパラナ州を拠点にしている企業ですが、全国におよび、流石のブラジル人も肉の消費を控え、スーパーでの売り上げが軒並み減少しているようです(註4)。問題のあった製品は牛肉、豚肉、鶏肉の加工品で、ソーセージ、ハンバーガー、冷凍鶏肉などで、「水分含量が基準より多い」「蛋白含量が基準より低い」「使用基準より添加物が多い」「サルモネラ菌汚染」などの容疑があります。捜査の証言では加工の工程で消費期限切れや産地不明の肉の使用、段ボールの混合(註5)などが指摘されてます。

『ブラジル政府は「S.I.F.下で確認された単発的な法規違反、一部の公務員が犯した職業上の逸脱行為であり、ブラジルの衛生管理制度全体の機能不全を意味するわけでない」との姿勢である。元々そこらで屠殺された家畜を適当に販売していた社会に衛生基準を取り入れたS.I.F.制度自体は正しいと思うし、全世界への輸出実績を勘案すると(註6)S.I.F.がついている食品はないより安全であることはまず間違いないであろう。でもこうやって、不正が起こると、「何を食わされているのか解らん」状態になるのだな。』

今回問題があった製品の内、ソーセージが当地邦人でも消費が多いので(註7)、それ(ブラジルではsalsicha)に焦点を当てみます。なぜソーセージが不正の対象になったかというと、「かなり加工できる肉製品だから」でしょう。ソーセージの定義は「食肉+脂身+塩・香辛料を腸などに詰めた食品」です。「詰める」がミソなので、ブラジルでも「詰め物」embutidoと広義に呼ばれます。日本でもウインナーやフランクフルトと呼ばれるようにドイツ語圏の食文化ですね(註8)。ウインナー、フランクフルト、ボロニアの違いは何の腸に詰めるかで決まり、羊、豚、牛の順になります。日本のJAS規格のソーセージは特級、上級、標準と3段階の等級がありますが、ブラジルの法規では5段階あります(註9)。等級付けはどれだけ「肉のみが入る」かで決まります(表1)。

『肉のみというと、反対に肉以外のものが入ると言うことだな。』

塩と香辛料は入れないとソーセージにならないので、どれにもありますが、肉以外とは結着材料、デンプン質、砂糖、などの他、「畜肉」と呼ばれる豚の頭、鶏の首や背骨と肋骨、牛や豚の肉を分けた残骸などを「機械的処理」したモノです。物理的処理ともよばれ、残骸を機械的に濾して骨を廃除する方法です(註10)。わかりやすく言うと昔はゴミだった精肉廃棄物を「有効処理」して食用に利用しているわけです。

『安モンのソーセージのザラザラした食感は骨だったんだ~!』

表1。ブラジルのソーセージの等級。

等級

規格

1 salsicha Viena

最も肉含量が多い。牛と豚(またはどちらか)肉と脂身のみ。

2 salsicha Frankfurt

牛と豚(またはどちらか)肉と脂身にベーコンが入る。香辛料多め。

3 salsicha tipo Viena ou tipo Frankfurt

牛と豚(またはどちらか)肉と畜肉(40%まで可)と腱、皮、脂身、結着剤など。

4 salsicha de carne de ave

鳥類肉(一般的に鶏肉)肉と鶏畜肉(40%まで可)と結着剤など。

5 salsicha

牛と豚(またはどちらか)肉と畜肉(60%まで可)と内臓、腱、皮、脂身、結着剤など。

肉のみで作られたソーセージは調理すると白っぽい肉の色になります(フランクフルトは着色するので例外)。医師としてお勧めできるソーセージはブラジルでは等級1と2のみです。普通スーパーで大量に並んでいるのは5のsalsichaです。ポル語で「畜肉」は「carne separada mecanicamente」と表示さているので、是非ラベルを読んでみてください。湯煮や燻製など保存処理をしていない「生ソーセージ」(ブラジルではlinguiça frescal)が基本的肉のみで作ってますので筆者はソーセージを食する場合はfrescalの一種linguiça toscanaにしてます。


註1:1100人の捜査員の動員。194箇所で強制捜査。309通の裁判所命令。

註2:新約聖書に出てくる「肉」は「人間の欲望」の意味だそうで、「肉が弱い」とは「欲望に負ける」という事になるそうです。

註3:ブラジルの食品認可はS.I.F.Serviço de Inspeção Federal、連邦衛生検査制度による。1915年に創設された歴史ある役所。農務省(正式名:ブラジル農牧食糧供給省)の管轄。家畜、その生産物、加工品、原料;魚介類と海産品;家畜乳と乳製品;卵と卵産品;蜂蜜と蜜産品の監督・認可が業務。

註4:最近スーパーに行くと肉売り場が小さくなっている感じがします。捜査直後は10人に4人が肉の消費を減らしたとの調査結果あり。

註5:そのとおりです、紙を混ぜてカサを増やすやり方ですな。

註6:輸入する側にも検査があるので、可であるから輸入が許可されるのでしょう?

註7:なぜか日本人の朝食にはウインナーとサラダが付きもの、それを当地でも継続しているのだな。

註8:日本で「ボロニア」と呼ばれる詰め物はイタリア系、ブラジルではsalsichãoおよびmortadela。また、サラミのようなドライソーセージもありますね。

註9:正確には4+1段階。

註10:食肉処理装置という機械です。