By: Kazusei Akiyama, M.D.

September. Change of seasons. São Paulo. Caju@2020.
2025年8月
バナナ屋が「カリウム、カリウム!」って叫んでる国
どこの国かというと、もちろんブラジルです。サンパウロなど都市部ではおなじみのフェイラ、青空市場(feira livre)では「バナナ屋」というお店が必ず一軒はありますね。他の果物を扱っているお店はあるのですが、バナナだけは専門店です(註1)。店のおやじは「バナナ、バナナ」と売り込んでいるのではなく、大抵、「カリウム、カリウム」(註2)とやっているのを見ます。なぜそうなっているかと言うと、バナナはカリウムが豊富で「カリウム補給に良いぞ!」と叫んでるのです。カリウムが足りなくなると、筋肉痙攣、いわゆる「こむら返り」、脚がつる要因になりますのでブラジルでは健康番組などで「バナナを1日1本食べて、脚つるのを予防しましょう」とやる訳です。
- 註1. 街の路上で週1回催される青空市場。バナナの他、一般的な専門店はジャガイモ、鶏卵、チーズ、魚、菓子、パステウ(pastel)。
- 註2. ポル語でカリウムは「potássio」、ポタッシオ。
このコラムの25人の読者様は何故こんな話になっていると訝しがられているのだと思います。筆者が先月甲子園で開催されていた全国高校野球選手権大会を観ていたら、結構選手が脚つって治療受けていたり続行不可で交代になったりしてました。夏の甲子園に出るにはかなり練習したし体力があるであろう高校生でも頻繁に脚つるんだと感心していて、フェイラのバナナ屋を思い出したのです。高校生野球選手のこむら返りはカリウム不足では無いでしょう。しかし、こむら返りは夏の暑い時と冬の寒い時に現れやすいし、丁度日本とブラジルが該当時期なので今月はこのテーマでひとりごとしてみます。
こむら返りは、ふくらはぎなどの筋肉が痙攣、急に強く縮んで痛む状態です。主な原因は、筋肉の疲れ、脱水、電解質(ナトリウムやカリウムなど)の不足、血流の悪さなどです。夏の場合、暑さで汗をかき、水分やミネラルが失われると起こりやすいです。運動中や後に多くみられます。冬の場合は寒さで筋肉が硬くなり、血流が悪くなると発生することが多いです。特に夜寝ている時に起きやすいです。
医学的に言うと、筋痙攣は、主に筋肉の神経筋制御の異常や筋肉自体の生理的状態の変化によって引き起こされます。
- *神経筋制御の異常:筋肉を動かすための神経細胞の過剰な興奮が関与しています。神経障害(末梢神経、脊髄の障害、薬物による抑制)があると、異常な筋収縮を引き起こす場合があります。
- *電解質バランスの乱れ:筋収縮は、ナトリウム(Na⁺)、カリウム(K⁺)、カルシウム(Ca²⁺)、マグネシウム(Mg²⁺)などの電解質が重要な役割を果たします。これらの電解質のバランスが崩れると、筋肉の興奮性が変化し、痙攣が誘発されやすくなります。また、脱水(体液量の減少)により、電解質濃度が変化し、筋肉の興奮性が高まります。
- *筋肉の疲労と代謝異常:筋肉の過剰な使用や疲労は、乳酸やその他の代謝産物の蓄積で筋肉のエネルギー代謝が追いつかず、代謝産物が蓄積すると、神経筋の興奮性が高まります。
- *血流不足:筋肉への酸素供給が不足すると、筋線維が異常な収縮を起こしやすくなります。
- *外的要因として考慮しないといけないのは薬剤や疾患による痙攣で、利尿剤、スタチン(高脂血治療薬)、糖尿病、甲状腺疾患などです。
季節ごとの特徴では、夏は運動中や直後に発生する「運動関連筋痙攣(EAMC Exercise Associated Muscle Cramps)」が典型的で、冬は夜間や休息時に発生する「夜間筋痙攣(nocturnal leg cramps)」が典型的、特に高齢者に多くみられます。
『これで、高校生選手と中年以上のこむら返りは原因・要因が違うとわかりますね。』
こむら返りの薬物的治療は基本的に漢方薬である芍薬甘草湯の服用と電解質補正以外、薬物療法の有効性は限定的で、非薬物的治療が推奨されるのが医学の常識です。反対に薬物使用による筋肉痙攣を警戒する事が医療の現場では重要だと考えます。特に高脂血症の治療でスタチン剤、高血圧症の治療で利尿剤など前述の筋肉の生理を変化させる薬物の使用が増えているので注意が必要です(註3)。したがって生活習慣改善や予防が重要になってきます。季節ごとの違いを表にすると次のようになります。
- 註3. これらのお薬は一度処方されるとご自身で勝手に延々と服用されている方が多いですが、こむら返りのリスク要因である事はあまり理解されていないと思います。
表:こむら返りの夏季と冬季の比較、要因、予防、生活習慣
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要因 |
夏季 |
冬季 |
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主な誘因 |
脱水、電解質喪失、筋肉の過剰使用 |
低温、血流低下、運動不足、筋硬直 |
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発生タイミング |
運動中・直後 |
夜間・休息時 |
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影響する環境 |
高温多湿 |
低温乾燥 |
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主な筋群 |
ふくらはぎ、太もも |
ふくらはぎ、足の裏 |
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予防のポイント |
水分・電解質補給、適切な運動管理 |
保温、ストレッチ、適度な運動 |
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重点栄養素 |
ナトリウム、カリウム、水分 |
マグネシウム、カルシウム、オメガ3 |
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推奨食品 |
バナナ、スイカ、トマト、マンゴー、パパイヤ、麦茶、ココナッツウォーター(アグアデココ)、フルーツジュース、アサイー、ブラジルナッツ、カシューナッツ |
サツマイモ、ケール、生姜、納豆、豆腐、チーズ、青魚、温かい野菜スープ、テールやフェイジョアーダなど煮込み料理、ブラジルナッツ、カシューナッツ |
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食事の特徴 |
水分豊富、消化の良い冷たい食品 |
体を温める、血流を促す温かい食品 |
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水分摂取の注意 |
頻繁な(こまめに)水分補給(水分は1日2.5〜3.5リットル(註4))、スポーツドリンク |
意識的な水分摂取(水分は1日1.5〜2リットル(註5))、温かい飲み物 |
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環境調整 |
通気性の良い服装、日陰や扇風機、エアコンで熱中症予防、発汗後のシャワーと着替えを徹底 |
保温性の高い靴下や長袖(サンパウロは特に夜間、室内を20~22℃に保ち、必要あれば加湿器で乾燥対策、毛布、湯たんぽなどで就寝時の足元保温 |
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睡眠習慣 |
涼しい寝室、就寝前にココナッツウォーターや水1杯で脱水予防 |
夜間筋痙攣予防のため、クッションなどを使用し足を軽く上げて寝る、温かい寝具で筋肉の冷え防止 |
『血行が良くなる、筋硬直を改善するのでマッサージもお薦めです。』
最後に、糖尿病、末梢神経障害、甲状腺疾患などの疾患や利尿剤、スタチン薬剤、神経系用薬(註6)が痙攣の原因でもありうるという事を忘れないでほしいです。生活習慣改善など上記予防策をとってもこむら返りが頻繁に起こる場合は必ず医療機関を受診してください。
- 註4. 水分量には固形の食品に含まれる水分も合算、食べ物以外に2~3リットル水分を取るのではない。 スポーツドリンクは糖分が多いので注意が必要。
- 註5. 寒い時期はあまり喉が渇かないので努めて水分補給をする事。
- 註6. 向精神薬、抗うつ薬、パーキンソン症候群治療薬など。
