By: Kazusei Akiyama, M.D.

November rain picture at exibition. São Paulo. Caju©2023
2025年11月
なんでこんなに目がかすむんや
夜、お家に帰ってすぐ:「あー今日の酒はいつもより酔うなあ。なんかいつもよりふらふらするぞ。」
帰ってちょっとしてから:「ゲロゲロ。ゲロゲロ。あー気分悪い。頭痛いし。横になろう。」
次の朝:「あれ、なんかぼやけて見えるな。霧がかかったのか?そうじゃないよな。あったま痛いし。ゲロゲロゲ〜。」
もうちょとしてから:「あーしんどい。寒気する。何も見えない。起き上がれないよお。」
さらに数時間後:「…」
このコラムの25人の読者様、ここまでみるとどう思われますか?この人、大変な二日酔いになっているなあ、ですよね。確かに酷い二日酔いの症状のようですが、これは「メタノール中毒」の症状です。上出の「さらに数時間後」の「…」は昏睡が起こっているか、死亡に至っているかです。現在ブラジル、特にサンパウロではこのような状況が身近に迫っています。
2025年9月頃からブラジルで発生している酒類へのメタノール混入問題は、深刻な社会問題を引き起こしています。この事件は、主にサンパウロ州を中心に報告されており、偽造されたジン、ウォッカ、ウィスキーなど蒸留酒に工業用メタノールが意図的に混入されたことが原因です。ブラジル国保健省の報告によると、9月以降、217件の疑い例が確認され、そのうち46件がメタノール中毒として確定。死者は少なくとも9人に上る惨事になってます。当初はサンパウロ州で1人の死亡が確認されて特段ニュースにならなかったのが、急速に被害が拡大し、10月に入ってからも新たな死亡例が相次ぎました。被害者は主に低所得層で、価格の安い偽造酒を購入した人々が多かったので、中産階級以上は我知らずを決め込んでいたところ、次第にその周りにも症例が現れ、お洒落なバーやレストランでの販売も影響を受け、業界全体の売上が急落しています。
この事件の背景には、ブラジルのアルコール市場における違法流通の問題があります。メタノールは工業用として安価に入手可能で、アルコール度数を偽って高く見せるために混入されるケースが過去にも散見されましたが、2025年の規模は異例です。メディアの報道では、被害者の家族が「貪欲による殺人」といった様な表現するほど、利益優先の犯罪性が指摘されてます。当局の調査で、特定のブランドの飲料がメタノール(註0)で汚染されていることが判明し、全国的な警報が発令されました。パンデミック後の経済回復期に、規制の緩みがこうした違法行為を助長した可能性も指摘されています。また、大規模犯罪組織がマネーロンダリングのため所有しているガソリンスタンドのエタノールに水増し混入するため大量に備蓄していたところ、当局の別件の捜査で水増しが困難になり、あふれた在庫が市中に出回った説もあります。この問題は、公衆衛生の観点からだけでなく、経済や観光にも悪影響を及ぼしており、外国大使館も在ブラジル同胞に対して飲酒注意を呼びかけています。
メタノール中毒の症状は、ギ酸によるミトコンドリア(註1)の電子伝達系阻害と、代謝性アシドーシスが主な原因です。ギ酸は特に視神経や脳の酸素利用を阻害し、細胞死を引き起こします。メタノール中毒は、摂取後数時間から数日で発症する深刻な問題です。主な原因は、飲酒のように経口摂取ですが、皮膚吸収や吸入でも起こり得ます。人体では、肝臓のアルコールデヒドロゲナーゼ酵素によりホルムアルデヒドに、次いでギ酸に代謝されます。このギ酸が酸中毒(アシドーシス)を引き起こし、細胞毒性が高い。特に、視神経や脳にダメージを与え、永久的な障害を残します。
- 註1. ミトコンドリアは細胞内の小器官で、エネルギー(ATP)を生成する「細胞の動力源」。酸素を使って栄養を分解し、代謝や細胞機能を支える。膜構造を持ち、独自のDNAを有する。
症状は摂取量によりますが、初期段階と遅発段階に分かれます。初期は一般的に摂取後6から30時間くらいの時期で、頭痛、めまい、吐き気、腹痛、眠気が現れ、エタノール酔いと似るため大抵見逃されます。遅発ではぼやけ、失明 などの視力障害、呼吸困難、けいれん、昏睡が現れ、重症化すると心停止や呼吸停止に至ります。ギ酸の蓄積がミトコンドリアを阻害し、乳酸アシドーシスを悪化させます。致死量は個人差がありますが、成人で30-60ml(約15-100g)とされ、10mlでも重症化する可能性があります。子供や高齢者はより低量で危険です。治療はエタノール投与やフォメピゾールで代謝を阻害し、透析で除去できますが、初期治療が遅れると予後不良になります。ブラジルの事件では、これらの症状が多発し、失明例も報告されています。
メタノールは、飲用には適さないものの、工業分野で幅広く活用される有用な化合物です。その主な理由は、安価で大量生産可能であり、反応性が高く、多様な派生物を生成できる点にあります。まず、燃料として使用できます(註2)。バイオディーゼルやガソリンの添加剤として、燃焼効率を向上させます。船舶や自動車の代替燃料としても注目されており、クリーンエネルギー移行の一環でメタノール燃料電池が開発されてます。次に、化学原料として重要です。ホルムアルデヒドの原料となり、これを基に樹脂、接着剤、プラスチックが製造されます。例えば、合板や家具の接着剤に欠かせません。酢酸の生産にも用いられ、塗料、溶剤、繊維の原料となります。また、メチルエーテルやメチルアミンなどの誘導体は、農薬や医薬品の合成に不可欠です。人工甘味料の製造にも使用され、人体でそれが代謝されるとメタノールが発生します(註3)。不凍液やウインドシールドウォッシャー液としても一般的で、低温での凍結防止効果が高いのも特徴。さらに、廃水処理での脱窒素剤や、実験室での溶剤として利用されます。世界生産量は年間数億トンに及び、中国や中東が主産地です。
- 註2. 米国のインディカーシリーズの燃料は2005年まで100%メタノールを使用していた。
- 註3.トマトジュースや柑橘類のジュースなど、天然に存在する食品から摂取される量よりも少ないとされているけど…
『これらの有用性ゆえに、普段からかなりの量が流通しており、ブラジルの事件のように違法混入が発生可能になるのだな。メタノールはエタノールより安価で入手しやすく、アルコール度数を偽装するために悪用されるのだ。また、今回の事件では、偽造酒を作る時に使用される本物の瓶をメタノールで洗浄した可能性もあげられているな。』
ブラジルのこのメタノール事件、ほんとに怖いですよね。行政の対策として、保健省が10月頭に全国警報を出して、蒸留酒の摂取を控えるよう呼びかけてるけど、それだけじゃ足りないと筆者は思います。もっと抜本的に、供給網の監視を強化して、メタノールの流通を厳格に規制すべきでしょう。保健大臣が「公衆衛生緊急事態」って宣言してるんだから、迅速な通知と対応を義務づける法律改正とか、国際協力で偽造酒の撲滅を目指せばいいのにやりませんな。仕事できない。なので政治的な信頼も揺らいでます。被害が200人超えてるんだから、検査体制の拡充や、バー・レストランへの抜き打ちチェックを増やさないと、経済も打撃受けるだけです。個人レベルでは、まず信頼できる店やブランドだけ買うことでしょう。ラベルをよく見て、異常な安さや臭い、蓋と封印に注意。酒税に関する封があるのを確認するのはもちろんですが、その封自体も偽造されているケースもあるのでなんとも言えないです。新規のボトルをとるでもしないと封印なんか分からないし。「飲む前に少量テストして、異常を感じたらすぐ医療機関へ」と言いたいところですが、メタノールはエタノールに似たアルコール臭の上、混和性が高いのでまず分からないですよ。結局、予防が一番、と最近は皆思うようになっているので外食で飲酒するのが激減しているようです。命を落としますからね。筆者は海外の免税店で購入したお酒を自宅で楽しむ事にしてます。
『現時点でブラジルで飲酒して本稿で書いたような症状があれば、即座に救急外来の受診が必須です。』
註0. メタノールは、化学式CH3OHで表される有機化合物で、別名メチルアルコールや木精とも呼ばれる。分子量は32.04 g/molで、常温では無色透明の液体状を呈し、軽く揮発性が高い。沸点は64.7℃、融点は-97.6℃と低温でも液体を保つため、取り扱いが容易だ。密度は約0.792 g/cm³で、水やエタノールと完全に混和する性質を持つ。可燃性が高く、引火点は11℃と低いため、火災のリスクがある。また、エタノール(飲用アルコール)に似た甘いアルコール臭を有するが、毒性が極めて高い点で区別される。化学的には、アルコール類の最も単純な構造を持ち、一価アルコールに分類される。炭素原子が1つで、水酸基(-OH)とメチル基(-CH3)が結合した形だ。工業的には、主に天然ガスや石炭から合成され、一酸化炭素と水素を触媒下で反応させるメタノール合成法が一般的。純度は99%以上のものが市販されており、pHは中性に近いが、水溶液では弱酸性を示す。熱化学的には、燃焼熱が約726 kJ/molで、エネルギー源としても利用される。

