By: Kazusei Akiyama, M.D.

Food series: Tsukune (kujira-bacon). Kaizuka. Caju©2025
2026年09月
当たり前って説明しないと分からないのですかね…
ブラジルバレーボール連盟(CBV)が、女子カテゴリーの出場資格としてSRY遺伝子検査を導入すると発表しました。国際オリンピック委員会(IOC)が今年3月に示した「女子カテゴリー保護政策」と、国際バレーボール連盟(FIVB)の方針に完全に合わせたものです。検査は血液や口腔粘膜の採取で行われ、結果が陰性(SRYなし)の選手が女子として出場できます。例外は極めて稀な性分化疾患で、テストステロンの影響が医学的に出ない場合に限られます(註1)。この方針はすでにFIVBの国際大会で適用されており、ブラジル国内のスーパーリーガをはじめとする主要大会でも、来シーズンから本格的に実施されます。
- 註1:性分化疾患(DSD、Disorders of Sex Development または Differences of Sex Development)の一種。この場合の例外は完全型アンドロゲン不応症(CAIS) や、テストステロンによる同化・パフォーマンス増強効果を受けない一部のDSD(完全型性腺形成不全(Swyer, 46,XY)とLH受容体不活化・17α-OH欠損・StAR欠損 等の上流合成欠損)。
『SRY遺伝子って何じゃい、という声が聞こえてきそうなので、ここでもう少し丁寧に説明します。』
SRYは人間のY染色体上にある遺伝子で、「Sex-determining Region Y」の略です。胎児が母親の胎内で6〜7週目くらいになった頃、この遺伝子が働き始めます。すると生殖腺が精巣(睾丸)に分化し、そこから男性ホルモンであるテストステロンが分泌され始めます。このホルモンの働きによって、体は男性の方向へと本格的に発達していくのです。一方、SRY遺伝子がない場合は、精巣はできず、生殖腺は卵巣に分化し、体は女性の方向へと進みます。つまり、SRY陽性=生物学的男性、陰性=生物学的女性、という大まかな線引きです。ヒトの細胞内には46本(23対)染色体がふくまれており、父親から23本、母親から23本を受け継いだものです。そのうち22対が常染色体で1対が性染色体です。X染色体が2本あると女性、X染色体1本とY染色体1本で男性というのはこのコラムの25人の読者様も学校で習ってますよね。
従って、46XYなら陽性、46XXなら陰性です。この遺伝子検査は、簡便で、結果も明確です。採血や口の中を軽くこするだけで済み、選手への負担は小さい。性自認やホルモン値ではなく、「そもそも男性として発達するスイッチが入ったかどうか」を生物学的に直接確認する検査だと言えます。
近年、diversityやinclusionの名のもとに、トランスジェンダーの選手が女子カテゴリーに参加する例が増えました。テストステロンを抑える治療を受けても、思春期に男性として発達した体の優位性は残り続けます。骨格の大きさ、筋肉量、心肺機能、骨密度、腱の強さ、重心の高さなど、いわゆる「legacy効果」と呼ばれる不可逆的な差です。これらは薬で消せるものではありません。医学的・科学的にこれは否定できない事実です。男子カテゴリーで平凡な成績だった選手が、女子に移ると突然トップクラスになる事例が実際に複数あります。これでは、生まれながらの女性選手(46XX)が不利になり、競技の公平性が損なわれます。結果として、シス女性(註2)に対する一種の差別になっている、というのが今回の方針変更の背景です。
- 註2:シスジェンダー(Cisgender): シス(cis-)はラテン語で「こちら側の」という意味を持つ接頭辞、トランスジェンダー(Transgender) trans- 「あちら側の、越えた)」の対義語。生まれたときに割り当てられた性別(身体の性)が女性で、自身の性自認(心の性)も「女性」である人のこと。つまり、世間に圧倒的多数存在する「普通の女性」。ジェンダー=社会・文化的な性別。
『丸に角はない。昼が明るいのは太陽が出ているから。男女は生物学的に体が違うから、スポーツは男女に分けている。こんな当たり前のことを、いちいち説明しなければならなくなった世の中ですな。』
スポーツのカテゴリー分けは、もともと「公平性」を守るために存在します。男性と女性では、平均的に筋力や持久力、骨格構造に明確な差があります。この差を無視して「自認」だけで同じ土俵に乗せれば、競技は成り立ちません。反対する側は「遺伝的な線引きは差別だ」と主張しますが、競技人口の圧倒的多数が納得できる代替案を提示できていません。以前から使用されている「テストステロン値を一定以下に保てばよい」という案も、すでに科学的に不十分であることが示されています。思春期以降の身体的変化は、ホルモン値を下げただけでは元に戻らないからです。
一方、米国のWNBA(全米女子プロバスケットボール協会)は、性別の自己申告だけで出場資格を得られる規約のままです。そのためトランスジェンダーの選手が出場し、シス女性選手の間に強い違和感と反感が広がっています。そこに元NBA選手のエネス・カンター・フリーダムとロイス・ホワイト(註3)が、2027年のWNBAドラフトへの参加を表明しました。二人とも「自分は女性だと自認する」と宣言したわけです。これは、WNBAの労使協定で「女性」の定義や参加資格が曖昧な点を指摘し、皮肉を込めた行動です。規約通りに運用するなら二人も出場できるはずだ、という挑発です。実際にはWNBA側は「単なる宣伝行為」として相手にしない方針で逃げたいようですが、規約の曖昧さをここまで露呈させた意義は大きいと言えるのではないでしょうか?
- 註3:Enes Kanter FreedomとRoyce White。NBA(全米プロバスケットボール協会)のプロ選手、既に引退している。
『さあ、WNBAはどう対応するのか。みもの(見物)ですな。性別を人権・インクルージョン寄りの陣営のしたいとおりにしておけば、こうした「試金石」が次々と出てくるのは当然の帰結でしょうが。いつものようにダブルスタンダードを出してくるんだろうけど。』
特にスポーツの公平性は、生物学的事実に基づくべきと筆者は思います。自認や法的性別を優先すれば、競技は崩壊します。医師として、患者さんの健康を守る立場から見ても、科学的根拠を無視した「inclusion」は結局、弱い立場の人を傷つける結果を招きます。特に女子スポーツは、女性が安心して全力を出せる場であるべきです。その場を守るために、SRY遺伝子検査という客観的で簡便な方法を導入したCBVの判断は、妥当だと考えます。感情論やスローガンではなく、事実とデータに基づいてルールを作る。それが本来の姿ではないでしょうか。
『筆者はトランスジェンダーなど性自認が一致しない人を否定や揶揄している訳ではありません。一般人口と同等に人権があり、人間として行動するのであれば人間として扱われるべきであると考えます。文句を言われる前に明示しておきます。』
このコラムの25人の読者様にとって、当たり前のことは当たり前ですか?当たり前は何であるか分からなくなってますか?当たり前は当たり前である事が当たり前でないと思いますか?当たり前でない事が当たり前ですか?さあどうする?
