しっかり機能しないから機能性?

By: Kazusei Akiyama, M.D.

Big city at sunset. São Paulo. Caju©2019.


2025年12月

しっかり機能しないから機能性?

このコラムの25人の患者様は「機能性医学」て聞いた事ありますか?ポルトガル語でmedicina funcional、英語でfunctional medicineです。名称から見ると、なんか「普通」とか「一般」の「医学」よりスゴイように思えますね。辞書によると、「機能(function)」とは「体や機械、組織などの中で、あるものがその働きを十分に示す事。またはその働き。活動できる能力、作用。」と説明されてます。どうしてこんな話になっているかと言うと、先日診療所の患者さんが機能性医学を展開する皮膚科へ行ったら山のように血液検査指示が出たので、筆者の意見を求められました。恥ずかしい事ながら、「へ?」になってしまいました。今までなんとなく機能性医学という言葉は聞いた事があったのですが、注意した事が無かったのです。というのも、医科学には「機能不全(dysfunction)」という概念があり、生体の機能が正常に作動していない状態であり、体調不良や病気を引き起こす要因の一つです。医師としての筆者の頭の中では医療で生体の機能を正常にもどす事そのものを医学(狭義では医行為)であるので、わざわざ機能性と標榜する必要あるんか?がそれまでの知識でした。医療系の仕事では他に機能性栄養学とか機能性リハビリテーションといった言葉も耳に入ってはきてたけど最近何事にでもやたらと形容詞を付けるのが一層上等といった流れの内だろうと思ってました。画家<女性画家<レスビアン女性画家<オーバーサイズ・レスビアン女性画家のようにね。

そこで、これは一体どういう事なのか調査してみました。機能性医学とは、患者中心の個別化医療アプローチであり、遺伝的・環境的・ライフスタイル要因を詳細に評価し、慢性疾患の根本原因となっている生体システムの機能不全を特定し、治療することを目的とする医療行為であるそうです。

『これって、別に「正常な医療行為であるべき姿」ではないんかい。筆者の診療所での医療姿勢だけど。漢方医学をやっていると、自然にこの姿になるのだな。』

この様な医療姿勢をわざわざ提言するという事は反対に現代一般的に行われている医療行為が「そうではない」という意味であろうし、どうやら最近のトレンドになっているようなのでこの機会に少しお勉強してみました。結論から言うと、日本でもブラジルでも行われている通常の医療は現代の医療ニーズに応えられない部分が多々あるのが出現の根本的な原因だと思われます。生活習慣病、自己免疫疾患、複雑な疼痛症候群といった多因子性の慢性疾患の爆発的な増加は、単一の原因に単一の薬を処方する標準化された通常のアプローチでは不十分であるのです。複雑な慢性疾患の解明と管理が求められる場面があるわけですね。そこで、従来の医療が疾患を臓器や専門分野で区切って捉えるのに対し、身体を生体システムの複雑なネットワークとして捉え、システム間の機能不全を探る方法が提唱されました。このシステム生物学(Systems Biology)的視点は、同化・異化、防御・修復、エネルギー生成、輸送、コミュニケーション、構造統合といった身体の主要な機能をバランスの取れた状態で維持することを目指したのを機能性医学と命名されたのです。

1990年代より「非恒常的医療」が医療業界に認知されるようになってます。名称のとおり、これは十把一絡げの分類の仕方でしっかりと体系化された学問である東洋医学やインドのアユルベーダ医学のような伝統医学も「色彩療法(註1)」とか「波動療法(註2)」のような科学的とは言いがたい”治療法”も含まれます(註3)。現代のいわゆる西洋医学は科学的である、であるべき、でないとダメといった考え方が主流なので、機能性医学も科学的な包装があるようです。個人の遺伝的、環境的、およびライフスタイルの要因を詳細に評価し、慢性疾患の根本原因となっている複雑な相互作用を特定することに重点を置いた、個別化された患者中心のアプローチであり、栄養学、生化学、ゲノミクスの進歩を取り入れ、個人の生化学的特異性に基づいた、より科学的かつ個別化された治療モデルであると定義されます。

  • 註1. 色水治療や色光療法とも呼ばれる。特定の色や色光がヒトの身体的および精神的な健康に影響をあたえるという考えに基づいた”代替医療”。
  • 註2. ダウジング(dowsing)とも呼ばれる。人間が潜在的に持つ目に見えない放射線や波動の不均衡を感知し、健康状態を評価、調整する方法 。
  • 註3.例えば、虹の7色を分類する時、赤色と非赤色の2分類にするようなものです。全部ごちゃまぜ。

このアプローチは、東洋の伝統的な医療体系、特に日本の漢方医学が古くから実践してきた「人を診る医療」の哲学と、多くの共通点を持ってます。機能性医学と漢方医学は、その成立基盤こそ大きく異なりますが、患者を全体として捉えるホリスティックな哲学において深く類似しています。つまり、類似性と融合性がある”医学”と言えるのではないかと思います。

  • •詳細な問診と全身の観察: 機能性医学の詳細な生活習慣・環境問診は、漢方医学の問診や、診察室に入った瞬間から始まる顔色、動作、体型を観察する「望診」と同様に、患者の全体像を把握するために欠かせません。
  • •個別化: 漢方医学の「証」の決定は、機能性医学が目指す「生化学的特異性」の特定とパラレルです。同じ疾患名であっても、患者の証が異なれば処方される漢方薬が異なるように、機能性医学でも根本原因が異なれば栄養介入やサプリメントプロトコルが異なります。
  • •根治療法: 漢方医学には、表面的な症状を抑える「標治」と、体質そのものや根本原因を治す「本治」の概念がありますが、機能性医学の目標はまさにこの本治に相当します。
  • •ライフスタイルの重視: 食事、休息、運動による健康維持の知恵である漢方医学の「養生論」は、機能性医学の治療の柱である栄養医学、運動、睡眠、ストレス管理といったライフスタイルへの介入と本質的に同一です。漢方で言われる五臓や季節に合わせた食事や生活の提案は、機能性医学の食事指導において、その土地の伝統的な知恵として具体的に統合され得ます。

もちろん相違点はあります。診断方法と治療方法が大きく異なります。

  • •診断ツール: 漢方医学が五感を主とする四診と呼ばれる定性的な診断に頼るのに対し、機能性医学は定量的な最新のラボ検査に大きく依存します。機能性医学は、生化学的なデータを用いて、漢方が「気虚」「瘀血」といった概念で表現する体内の不均衡を、「ミトコンドリア機能不全」「リーキーガット(腸管透過性の亢進)」といった西洋医学的な用語で具体的に言語化・数値化しようとします。
  • •漢方薬の治療薬としての視点:複数の生薬の組み合わせである方剤が「証」に基づいて選択され、生体システムの全体的なバランスを穏やかに調整します。
  • •機能性医学的介入の治療薬: 高用量のビタミン、ミネラルなどの栄養素、ハーブエキス、プロバイオティクスなどが、特定された生化学的経路の機能不全をターゲットに個別化して使用されます。

この両アプローチは、特に慢性疾患において、漢方薬で全身の「証」を整えつつ、機能性医学的検査で特定された具体的な分子レベルの欠損や機能不全に高精度な栄養介入を行うという「統合医療(Integrative Medicine, Integrative Health Practice)」の形で非常に高い相乗効果を発揮できる潜在性があります。

症状を一時的に抑えるのではなく、腸内環境異常、ミトコンドリア機能不全、栄養素欠乏、慢性炎症のような疾患の真の根本原因を特定し、それを是正するための治療戦略を提供できます。これにより、患者は薬物療法に依存することなく、自身の自己治癒力を最大限に引き出し、より質の高い生活を送ることが可能になります。また、ライフスタイルへの集中的な介入は、患者自身が健康管理に積極的に関与するエンパワーメントを促進し、長期的な予防医学の実現に貢献します。複雑な多因子性疾患や、従来の標準治療で十分な効果が得られなかった患者にとって、新たな治療の選択肢を提供できる点が非常に大きな価値を持ちます。

一方で、機能性医学にはいくつかの課題と欠点が存在します。最も大きな欠点は、費用負担が大きいことです。最先端の機能性検査(註4)や、個別化された高用量サプリメントの多くが医療保険の適用外となるため、患者の経済的負担が高額になりがちです。また、このアプローチは、患者の食生活や生活習慣の抜本的な見直しを要求するため、治療の成功には患者側の高いコミットメント(努力と継続性)が不可欠であり、途中で離脱するケースもあります。さらに、この分野はまだ発展途上にあり、全ての介入やプロトコルについて大規模なランダム化比較試験(註5)のデータが十分とは言えないため、科学的根拠の強固さという点で、従来の標準医療と比較されることがあります。

『機能性医学は、現代医療の新たなパラダイム(註6)を提供するとまで言われている。急性期医療や救急医療における西洋医学の有効性は揺るがないが、機能性医学的アプローチは慢性疾患の予防と管理、そして健康の最適化という点で、従来の医療の盲点を補完する高い有用性を持っている可能性がある。生化学的根拠に基づく個別化と、漢方医学が長年培ってきた全身のバランスを重視する哲学を融合させることで、21世紀の医療において重要な役割を果たすと期待したい。パラダイムシフト。』

日本でも導入されてるようですが、ブラジルはこの分野の世界トップクラスで、機能性医学を専門とするクリニックや、栄養士との連携が非常に発達して機能性栄養学(Nutrição Funcional)が特に成熟している国の一つであるそうです。なので、これからも我々の生活の中で話題にあがりそうですね。2024年5月のひとりごと、「サプリ大好きな日本人へ」に機能性表示食品について展開してますのでこの機会に読み返してみていただければ幸いです。

『結局、機能性医学って「ちゃんと身体を機能させる医学」ってことだよな。名前はカッコいいけど、やるべきことは昔から変わらない。やるべきことをやらんからこんなふうになるんでしょうが。漢方やってる開業医としては、ちょっとニヤリとしてしまうトレンドでした。』

  • 註5. RCT(Randomized Clinical Trial)とは、被験者を複数のグループに無作為(ランダム)に割り付け、介入の効果を客観的に比較する研究手法。この無作為化により、年齢や性別などの個人の特性がグループ間で偏らないようにし、試験結果が介入によるものだと判断できるよう、科学的根拠レベルが最も高い研究手法の一つとされている。
  • 註6.パラダイムとは、ある時代や分野で支配的になっている「物の見方や捉え方」の枠組みのことです。科学分野の「天動説」から「地動説」への転換のように、時代と共に変化する考え方を指し、この変化は「パラダイムシフト」と呼ばれます。